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第915話 冒険者のアーティファクトを鹵獲

 魔人達が押さえつけている冒険者達は、まるで信じられないといった顔をしている。魔人たちとの力量差に驚いているようだが、俺からしたらそんなに驚くような事ではない。いくら強いと言っても進化した魔人達から見れば、たかが人間。全くの脅威にはならないからだ。


「でさ、聞きたいんだけど」


「な、なんだ」


「あんたらは冒険者だよね?」


「そうだ」


「これは依頼?」


「ああ」


「ギルドから?」


「そうだ」


 なるほどね。じゃあ俺が登録したギルドの冒険者の事は知ってるかな?


「ゼルニクスっていう冒険者知ってる?」


「もちろんだ」


「どういう関係?」


「奴に冒険者の心得を教えたのは俺だ」


 えーっと、ゼルニクスは確か白金だったっけ。てことはこいつらはそれより上と言う事になる。俺は自分の服の下から、ミスリル等級のバッジを出して見せた。


「俺も冒険者なんだよね」


「ミスリル?」


「ああ」


「それならば俺達と同じだ! 俺達もミスリル級だ」


「ミスリル級にしては強いね」


 まあ、がっちり押さえつけている奴の仲間からは、言われたくはないだろうけど。


「本来以上の力を得ているんだ」


「あの機械?」


 リヤカーみたいな奴を指さして言う。


「そうだ」


「あれ、なに?」


「アーティファクトというらしい。ギルドに依頼を受けた時に、貸与されたものだ」


 じゃあ依頼者はおおよそ察しがつく。俺達対策の為に、このアーティファクトとやらを授けてどうにかしようと思ったんだ。


「なるほど。じゃあそれは預っておこう」


「か、借り受けたものなんだ」


「えーっと」


 俺はポリポリと頭をかいて言う。


「命とどっちが大事?」


 するとパーティーで一番のデカ物が言う。


「ジュバリ。降参しようぜ、こんなの無理だ」

「そうだわ」

「俺も、ケルベドに賛成だ」


 すると俺が尋問していた奴が言う。


「わかった。アーティファクトは渡そう」


 それを聞いて俺が言う。


「あのリヤカーの中にいる奴もか?」


「…」


 ガパン! とファントムがリヤカーみたいな鉄板を剥がすと、中に小さい少年が座っていた。するとジュバリと言われた剣士が言う。


「ビトーは、技師らしいんだ。これを貸与されるときにつけられたんだ」


 ほう。俺はビトーに向かって聞く。


「お前さあ、その中に隠れていれば逃げおおせると思ってた?」


「違います。怖くて」


 ガチガチに震えているので、嘘ではないだろう。とりあえずファントムがひょいっとそいつをつまみ上げて、ポイっと仲間達のもとへと放り投げる。


「えーっと、その服の下に着こんだ鎧も貰う」


「好きにしてくれ」


 魔人達がポイポイと鎧を引きはがし始め、集めて積み上げられる。女の魔導士には申し訳ないが、全員が下着姿になってしまった。


 そこで俺は魔人達に言う。


「放してやれ」


 俺の指示で魔人達が冒険者達を開放する。


「いてて」


 それぞれが押さえられていた首や足をさすっていた。


「下手な真似をすると大変なことになるよ」


「わかっているさ。俺達もそこそこ強いと思っていたが、上には上がいると知った」


 上には上か。


「えーと、ちょっと聞きたいんだけどさ、オリハルコン級の冒険者って知ってる」


「もちろんだ」


「それって王都にいるの?」


「いや、なかなか姿を見たことはない。もしかしたらどこかのダンジョンに潜っているのかも」


 お! ひょっとしたら破壊神のダンジョンか?


「どこの?」


「最南端のどこかにあるはずだが、噂程度にしか聞いた事がない」


「そうか」


 で、ここでこいつらを開放するとどうなるんだ?


「降参したのは分かったんだけど、ここであんたらを解放したら俺達を攻撃して来るんじゃない」


「あんたらをか?」


「ああ」


「ないない。これだけの力の差を見せられて、更に戦う意思はないさ」


 俺はじーっとジュバリってやつを見つめる。


「ほ、本当だ」


 でもなあ。ここで会った事を話されても問題あるしな。


 俺はビトーという、アーティファクトに入っていた少年に顔を近づけて聞く。


「君は王都に待ってる家族は?」


「僕は孤児なのでいません」


「アーティファクトの使い方を誰に聞いた?」


「王宮で学びました」


 コイツは必要だ。


 すぐにアナミスに念話を繋げた。


《アナミス。催眠だ》


《はい》


 アナミスがするりとやってきて、あっという間に赤紫の靄を漂わせる。すると冒険者達があっという間に目を虚ろにして空を見つめ始めた。そして俺達は冒険者達に言う。


「任務は失敗だ。アーティファクトが暴走して、技師が一人死亡した」


「はいー」


「誰にも遭遇しておらず、水源には危険な魔獣が潜んでいた。ミスリルのお前達でも討伐する事が出来ず、アーティファクトを置いて逃げて来た」


「はいー」


「ギルドにはそう伝えるんだ」


「はいー」


 よし。インプットした。


「こいつらに目隠しをしろ」


「は!」


 魔人達が目隠しをしたので、俺は冒険者達に言った。


「俺達が去って、五分したら目隠しを外して帰れ。いいな」


「はいー」


「あと念のため言っておくと、あの草原を燃やしている光は危ないから近づくな」


「はいー」


 そして俺はビトーに言う。


「お前は俺と来い」


「はいー」


 催眠にかかっているので気のない返事だが、深層意識には入り込んでいる。


 そして俺はすぐにラインメタル・マン・ミリタリー・ヴィークル(通称RMMV)、ドイツ製の8WDのハイパワー軍用トラックを呼び出す。


「アーティファクトを積みこめ! すべて回収する」


「「「「「「「は!」」」」」」」


 皆が散らばったアーティファクトをかき集めて、RMMVに積み込んでいく。全て載せ終えたので、俺達は撤収するのだった。


 ビトーは体が小さく、アーティファクトに入るには丁度よかったのだろう。完全にすっぽり隠れていたが、隣の座席に座らせてみるとだいぶ小柄だった。こげ茶色のおかっぱ頭で目が半分ほど隠れている。


「ビトー。君は何歳だ?」


「十歳」


「子供じゃないか」


「はい」


「君のような子供は他にもいるのか」


「います。アーティファクトの工場に大勢いました」


「どうして子供なんだ」


「アーティファクトに組み込みやすいからです」


「組み込みやすい? マジか…」


 すると、モーリス先生が言った。


「あえてというやつかの?」


「そうなんでしょうか?」


 するとマリアがビトーに聞いた。


「みんな孤児?」


「そう」


 なんで孤児である必要があるんだ?


 するとモーリス先生が言った。


「戻ったら、アーティファクトとやらを調べる必要があるのう」


「そうですね」


 相手の攻撃で山火事になった山と、焼夷弾で燃え盛る草原。大規模戦闘があった証拠は残っている。ギルドに戻った冒険者らが魔獣と遭遇したと報告するだろうが、どんな魔獣ならこんな風になるだろう。そこはまるで、火の一族ゼクスペルと戦ったようになっていた。


「先生。こんなに燃やし尽くす魔獣っていますかね」


「おらんこともないが、絶滅したと言われておる」


「そうなんですね?」


「大炎龍という龍がいたんじゃがな、その昔に最後の一匹が目撃されてそれきりじゃ」


「それを知っている人っていますかね?」


「おらんじゃろうなあ…」


 と言っていたら、オージェがポツリという。


「あー」


「なに?」


「多分だけど…」


「ああ」


「それ、おじさんだ」


「へっ?」

「は?」

「なっ?」


 俺とエミルとグレースがあっけにとられる。


「なんだよ」


「お・じ・さ・ん? 親戚って事」


「あー、母さんの兄だな」


「メリュージュさんの…」


「ああ」


 するとモーリス先生が笑い出す。


「くっくっくっ! ふぉっ! ふぉっ! ふぉっ!」


 するとつられてマリアも笑い出す。


「ふふふふ」


 すると魔人達も笑い出した。伝説の炎龍がオージェのおじさんとかって…。


「神々と旅をしておるのじゃ、そんな事くらいあるじゃろ」


「まあ、確かに」


「ラウルよ。お主も麻痺してしまったかもしれんがの、魔人達もたいがい伝説級の者ばかりじゃよ。ミスリル級冒険者などでは相手にならんかったじゃろ」


「はい」


「天候まで操るような、極大魔法を使われて全員無傷などあり得ん事じゃ」


 そう言われてみればそうだった。


「危険は危険でした」


「むしろ、ラウルが草原を焼いたあれはなんじゃ? ナパームとも違ったようじゃが」


「ナパームより遥かに高温の炎がまとわりついて焼き尽くします」


「あんなものを、人間が暮らす都市に撒いたら大変なことになるわい」


 モーリス先生は珍しく、深刻な顔で言う。


「分かってます。あれは前世でも、非人道的な兵器とされていました。あれを一般人がいる都市へばら撒く事はしません」


「あの冒険者らは幸運じゃったということじゃな」


「ですね。アーティファクトとやらが有効に作動したようです」


「より改良を加えて来る事は容易に想像できる」


「そうですね」


 かなり北上して来たので、俺は皆に言う。


「車両を放棄して、ヘリで帰るぞ。全員車両を降りて破壊しろ」


「「「「「「「「「は!」」」」」」」」


 俺はすぐに二機のチヌークヘリを召喚し、魔人達がアーティファクトを詰みこんだのを確認する。エミルが一機、マリアが一機を操縦して、俺達は精霊神殿に向かうのだった。


 するとヘリコプターの中で、魔人達がアーティファクトを見て俺に伝えて来る。ギレザムが言った。


「ラウル様」


「ん?」


「この魔道具…」


「どうした?」


「なんと申したらよいのでしょう? これらは生物に近いかもしれません」


「えっ!」


 するとシャーミリアも言う。


「正確には生きてはいないのだと思うのですが、確かに生き物…いえ、明らかに人間の気配がします」


 他の魔人たちもそれから生体反応を感じているような事を言う。


 俺がビトーに聞こうと思いそちらを見ると、ビトーが小刻みに震えている。


「どうした?」


「呼んでる…呼んでる…」


 ガクガクと大きく震え出したので、俺はアナミスに言った。


「眠らせろ」


「はい」


 赤紫の靄がビトーを包み込み、気を失うようにして眠らせた。


 するとギレザムが言う。


「アーティファクトもおさまりました」


 俺達が一連の不思議な状態をみているとモーリス先生が言う。


「これは…」


「なんです?」


「禁術かもしれん」


「転移魔法の様に?」


「うむ。良く調べてみなければわからんがの」


 不気味に黒く光るアーティファクトを見ながら、モーリス先生の表情は更に険しいものになる。俺達はそれが何なのかもわからず、なにか不気味な物を感じ取るのだった。

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