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第914話 敵冒険者を捕縛する

 周辺の木々がゴウゴウと音を立てて燃え盛るなか、俺はじっと水源地帯を見下ろせる場所で監視していた。だが敵が出現してくる様子は無く、俺達が監視しているのが分かっているのかとも思えて来る。


「ルフラ。敵は完全に逃げたんだろうか?」


「どうでしょう。でも水源を確保しに来たのだとしたら、黙って帰るでしょうか?」


「隠れているって感じかね」


「そう思います。恐らく、敵もこちらの攻撃を警戒しているのだと思います」


「ミサイルを見せてしまったからな」


「あのとき敵は射出場所を分かっていたようですね。的確に落雷を落としてきました」


「物理反射魔法なんてのもあるし、魔道具に感知する機能があったのかもしれない」


「はい」


 そして俺はガザムに念話を繋げた。


《ガザム、どうだ?》


《未だ敵に動きはありません》


《じゃあ、陽動してみっかな》


《は!》


 俺は燃え盛る森の方に下がり、ルフラに言う。


「これから攻撃ドローンを作るから、爆弾が爆発しないように囲ってくれ」


「はい」


 俺はレイセオンの40mm精密誘導ミサイル (全長約四十センチ)を召喚する。ルフラの手の先がスライムに変化し、炎から守るようにレイセオンの40mm精密誘導ミサイルを包み込む。


 そして次に、一メートルほどの偵察用ドローンを召喚した。それも火の粉がかからないように、ルフラが防いでくれている。そして俺はそのドローンにレイセオンの40mm精密誘導ミサイルを括り付けた。


「よし」


 俺は再び崖の側まで来てドローンのコントローラを置く。ミサイルを括り付けたドローンは空高く舞い上がり、一気に水源の方まで飛んで行った。画面で見ても敵が映る事は無く、俺は偵察用ドローンをあちこちに飛ばしてみた。


「まあ、出てこないか」


《シャーミリア! 気配は掴んだか?》


《未だ現れません》


《ギレザム!》


《は!》


《もしかしたらそっちに出現するかもしれん。十分注意してくれ》


《かしこまりました》


 皆に指示を出し、ドローンを空高く舞い上げて地上へと真っすぐに墜落させた。


 ズドン! と大きな爆発を起こして、草原に火柱が上がる。


「どうかな」


 だが敵が動く様子は無かった。しかしその時、シャーミリアから念話が入る。


《一瞬気配を感知しました。ご主人様が見張っている方向にいるかと》


《今は?》


《消えています》


 それでわかった。これは転移じゃなく、空間魔法の類を使っている。


《全員に告ぐ。敵は空間魔法を使用している模様、周囲を最大限警戒しろ》


《《《《《《《は!》》》》》》》


 俺の急な攻撃により、敵は俺達を捉えようと思ったのだろうか。一瞬空間魔法を解いて、爆発した場所を確認したに違いない。という事は敵はまだ敵は、あの水源をあきらめてはいないだろうし、俺達があそこに行けば、集中砲火を浴びせてくるはずだ。


「我慢比べになるかな」


「はい」


 燃え盛る山で、俺達は煙に巻かれながらも監視をし続ける。じきに太陽が沈み、燃える木々の灯りでこのあたりが照らされた。それでも俺達は動くことなく、じっとその場で監視を続けた。


 すると今度はカララから念話が入った。


《ラウル様》


《なんだ》


《恩師様がおっしゃるには、空間魔法では無く認識阻害と結界の組み合わせの可能性もあるとの事です》


《シャーミリアの気配感知から逃れるのか?》


《それも魔道具によるものではないかと》


《なるほど…それは大いにあるな》


《炙り出してみたらどうだとおっしゃってます》


《なるほど。わかった!》


「ルフラ。ここで監視を続けてくれ」


「はい」


「ファントムはルフラの護衛でここに残れ」


《ハイ》


 俺は再び燃え盛る森の中を突破して、みんなの所に戻って来た。


「モーリス先生」


「戻ったようじゃな」


「はい。結界と認識阻害で隠れる事が出来るんですか?」


「もちろんじゃ。じゃがシャーミリア嬢の気配感知から逃れるとなると、間違いなく魔道具の使用によるものじゃと思う」


「どうしてそう思われました」


「一度の爆撃で空間から出る事はないじゃろ。恐らくは結界が揺らいだのじゃ」


「なるほど。炙り出しとは?」


 するとモーリス先生は髭に手を当てながら考える。


「そうじゃな…例のナパームはどうじゃ?」


「ナパーム。うーん、それよりいい案があります」


「ほう」


 そして俺はグレースに言う。


「反射魔法は無い事が確認できている。俺が直接攻撃に出るから、バーニアを装着してくれ」


「わかりました」


 グレースが保管庫から出したバーニアが、自動で飛び俺の背中に装着される。バルムスとミーシャが開発した魔法による自動制御だ。


「ご主人様。私奴もご一緒させてください」


「いや。シャーミリアはそのまま気配感知で敵の位置を探ってくれ」


「か、かしこまりました」


 ドシュッ。俺は、陽が暮れて星が煌めく夜空へと一気に舞い上がる。敵に位置を察知されるのを警戒して、どんどん高度を上げ、俺達の陣地、燃える山、敵が潜む草原が見渡せる高さまで飛んだ。


「よし」


 そして俺は一旦ガザムに念話を繋げた。


《広範囲に焼き尽くす。急速離脱して山の向こうへ廻れ》


《は!》


 俺はガザムが逃げる時間を待つ。


「さてと」


 草原の真上に到達した瞬間、大量のクラスター焼夷ロケット弾9M22Sを召喚する。これはモーリス先生が言っていたようなナパームなどではない。敵を焼き尽くすならと思って白リン弾を使用しようと思ったが、更に強い燃焼力を持つクラスター焼夷ロケット弾9M22Sにしたのだった。これはマグネシウム-テルミット系の焼夷弾で、なんと燃焼温度は摂氏2000~3000度に及ぶ。凶悪で非人道的と言われる白リン弾ですら、燃焼温度は摂氏800~1000度なので、ザッとその二倍から三倍の温度で燃焼するのだ。


 夜空にパアッ! と白い流れ星がすだれの様に落ちていく。まるで昼間の様に明るくなり、空いっぱいに粉雪が舞うようにマグネシウム-テルミット系の焼夷弾が落ちていく。ゆっくりと落ちていくマグネシウム-テルミット系の焼夷弾は、とても美しく幻想的な光景をそこに出現させた。


「もっかい」


 再び大量のクラスター焼夷ロケット弾9M22Sを召喚してばら撒いた。夜空を美しく覆う白い流れ星が、ひとつまたひとつと草原に落ち始める。すると2000~3000度の高温があたりの草を燃やし始めるのだった。あっという間に草原が真っ白に焼けて行き、マグネシウム-テルミット系の焼夷弾は風に乗って広範囲に広がって行った。


 あちこちが白く燃え始める中で、シャーミリアから念話が入る。


《敵を捉えました!》


《先生の想定した通りか》


 流石は大賢者。冒険者の事なら経験で分かるらしい。


《逃げています》


《さすがにそのまま燃えてはくれないか》


《いかがなさいましょう》


《全軍追撃開始》


《《《《《《《《《《は!》》》》》》》》》》


《シャーミリア。どっちに逃げた?》


《南へ向かっています》


《了解》


 俺は南に移動し、またクラスター焼夷ロケット弾9M22Sを大量召喚してばら撒いた。


《西へ》


《了解》


 俺は西に周りクラスター焼夷ロケット弾9M22Sをばら撒いて行く。敵は攻撃の対応をする暇がないらしく、ただひたすら逃げ惑っているようだ。とにかく逃がすわけにはいかない。


 ドシュッ!


「お待たせいたしました!」


 俺の側にシャーミリアが現れる。


「敵はどっちに逃げた?」


「こちらです!」


 シャーミリアが飛ぶ方向に、再びクラスター焼夷ロケット弾9M22Sをばら撒いた。


「とてもお美しい、輝きにございます」


「めっちゃ熱っついから触っちゃだめだぞ」


「は!」


 それからは冒険者を囲むように草原を燃やして行った。まるで地上絵の様に、草原が光り輝き幻想的な風景を醸し出し始める。


 するとM113装甲兵員輸送車隊がこちらに走ってくるのが見えた。


「来たな。やるか」


 俺達は装甲車部隊とは真逆の方向に降りる。するとそこにルフラとファントムも現れる。


「来たか」


「はい」

《ハイ》


 俺はすぐに、M2 ブラッドレー歩兵戦闘車を二台召喚してバリケードを築く。すぐさま車の陰にM242 87口径25mm機関砲を召喚して、敵が来るのを待ち構えた。


「来ます」


「よし」


「気配はしますが視認できないようです」


「位置を」


「は!」


 シャーミリアが俺に敵の位置を教えてくるので、それを全魔人に共有する。すると俺の耳に声が聞こえて来た。


「なんだ! こっちに何かいるぞ」

「くそ! 先回りされたか!」

「強行突破だ!」


 すると次の瞬間、ガン! と音がして、M2 ブラッドレー歩兵戦闘車の一台に穴が空いた。バリケードを用意していて正解だった。恐らくはあのレールガンもどきを使ったんだ。


「魔力レベル2」


 俺達はM2 ブラッドレー歩兵戦闘車の陰から、M242 87口径25mm機関砲を掃射した。


 ド・ド・ド・ド・ド・ド


 メキメキ! と言う音と共に、敵の結界が破られ中の奴らが姿を現した。


「結界が!」


 俺の魔力が、たっぷりのったM242 87口径25mm機関砲が、結界を破壊し中の人間を襲った。


「ぐあああ!」

「うおおおおお!」

「きゃあああああ!」

「うわあああああ!」


 だが…死ななかった。どうやらこいつらは、あの騎士達が来ていた魔導鎧を着ていたのだ。M242 87口径25mm機関砲の威力が勝り、数人の手足を吹き飛ばしてしまったらしい。


 俺が撃つのを止めると、冒険者達の後方からM113装甲兵員輸送車団が追い付いて来た。魔人達が冒険者を仕留めてしまうと情報が取れなくなるので、俺はそれを止めるように言う。


《殺すなよ! 捕らえろ!》


《《《《《《《《は!》》》》》》》》


 俺のそばから、シャーミリアとファントムとルフラも飛び出して行く。ボロボロになった冒険者達は、一気に魔人達に取り押さえられてしまうのだった。


 そこに俺が現れる。


「くっ、あ、悪魔…」


 そう言った男の体をシャーミリアが踏みつける。そのままでは体を踏み抜いてしまうだろう。


「踏み潰すな!」


「は!」


 そして俺は抑え込まれている冒険者の顔を見た。なかなか精悍な顔つきの男と、デカい迫力のある男、すばしこそうな男と、魔法使い風のローブを着た女もいた。どいつもこいつも、破れた服の下に魔導鎧っぽいのを着ているようだった。俺が声をかける。


「こんにちは」


「……」


「あんたらは冒険者かい?」


「……」


 するとシャーミリアがグイっと髪の毛を引っ張った。


「偉大なご主人様がお尋ねになっている。答えよ」


「お…おまえらが、水を…止めたのか」


「聞いている事に答えよ!」


「ああ、いいいい。ちょっと話をしよう」


「は!」


「俺達が水を止めたとしたらどうする?」


「…なぜ、そんな事をする?」


 何故って。あんたらの国を牛耳ってるやつと戦うには、そうするしかなかったからだけど。


「戦争だからね」


「戦争? 戦争なんかしていない」


「それがしてるんだな。あんたらの所の王様…もしくは神様と俺達はね」


 すると話している奴が突然血を吐いた。


「ゴフッ!」


 こりゃ…死ぬかも。


「おい、エリクサーだ」


 だがギレザムが言う。


「敵を助けるのですか?」


「問題ない。しっかり押さえていろよ」


「「「「「は!」」」」」


 そしてティラやルフラが、冒険者にエリクサーをかけて回ると銃撃で欠損した手足が生えて来た。魔導鎧が消し飛んだので、そこだけ素肌がさらけ出されている。


「な、治った…」

「嘘だろ…」

「どういうこと?」


 冒険者達はエリクサーを知らないらしい。とりあえず体を回復させてやったので、俺は尋問を続けるのだった。

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