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第913話 脅威レベルを一気に引き上げる

 俺がこの世界に来てから、何度も不思議な光景を目撃してきたが、これは一番ファンタジーっぽい雰囲気な感じがする。空いっぱいに広がる黒い雲が魔法によるもので、それが雷を落とし俺の兵器を破壊したらしい。更にその雲はどんどん広がってきて、この森を覆うほどの大きさに成長した。


 俺達がその状況をじっくりと観察していると、後方に置いてあるM113装甲兵員輸送車に待機していたモーリス先生が飛び出して来た。


「危険じゃぞ!」


「あれはなんです?」


「火と水を合わせた極大魔法じゃ」


「雲が広がってきています」


「わしも似たような事は出来るが、これほど大きなものは見たことがない」


「えっ? 先生でも見たことないんですか!」


「極大魔法にしても大きすぎるじゃろ。ちと術者をみれるか?」


「はい」


 そう言われ俺はモーリス先生に双眼鏡を渡した。するとモーリス先生がある一点を見つめて言う。


「あれはなんじゃ?」


「えっ?」


「後方の離れた場所にいる魔法使いらしき女じゃ。あれは何を持っている?」


 俺ももう一つ双眼鏡を召喚して見ると、後方に待機している女が、三脚の真ん中にパイルバンカー的な物をぶっさしたような機械のそばに立っている。そしてそのパイルバンカーの上側から、何かが空に向かって黙々と立ち上っているのだ。


「近代的な物のようですが」


「ふむふむなるほど。なんとなくわかって来たのじゃ」


「なんです?」


「おそらくじゃが、あの機械は大地の魔力を吸い上げておるのじゃ」


「えっ? 大地に魔力ってあるんですか?」


「もちろん微量ではあるがな、あちこちに魔力は漂っておるよ」


「それを…集めている?」


「恐らくはそうじゃ。でなければ、単体でこのような巨大な魔法の発動は説明できん」


 マジか…。てっことはあの機械は、魔力の温泉掘削機みたいなもんか? 


「…どうすれば」


 そんな悠長な事を言っていると、モーリス先生が大声を張り上げた。


「イカン!」


 ピカ! ピカ! ズドンドドン!


 森の中に雷が落ちて来る。それは制御されたものではなく、森を全て焼き払うかの如くあちこちに落ちてきた。俺は部隊員全員に叫ぶ。


「全員! 兵員装甲車の中へ!」


「うむ」


 俺とモーリス先生とマリアが走り装甲車に向かうと、シャーミリアがドアを開けて待ちかまえている。


「お早く!」


 俺達が乗り込み、他の車両にも仲間の神たちと魔人たちが乗り込んでいく。


《森の反対側に下れ!》


《《《《《《は!》》》》》》


 俺達のM113装甲兵員輸送車はキャタピラを唸らせて、小さな木々を倒しながら進んでいく。とにかく森の中から離脱し、あの黒い雲の範囲から出なければならない。M113装甲兵員輸送車は凄まじい落雷の中を、猛スピードで下って行くのだった。すると正面の木々が落雷によってはじけ倒れて来る。


「アクセルを踏め」


 何とか倒木の直撃を避けながらも、森を抜けて俺達のM113装甲兵員輸送車隊は草原へと現れ出た。天井ハッチをあけて後ろを見ると、森のあちこちで煙が上がり火災が発生し始めている。俺達は完全に炙り出された状態になってしまった。


「これは…山火事になるぞ…」


 そこに無線が繋がる。


「ラウル! どうするよ!」


 オージェだった。俺は少し考えて次の作戦を伝える。


「ドローンで定点観測をし砲撃を行う」


「わかった!」


 すると森の上の黒い雲が少しずつ小さくなっていった。それを見てモーリス先生が言う。


「恐らく。地場の魔力が枯渇したんじゃろ」


「反撃します!」


「かなり恐ろしい相手じゃ。心してかからんといかん」


「わかりました」 


 俺はすぐにMQ-9 リーパー無人偵察機を召喚し、ファントムがそれを持ち上げて放り投げる。プロペラが回ってMQ-9 リーパーは空高く舞い上がって行った。燃え上がる森林地帯を飛び越えて、その山の向こう側をディスプレイに映し出し始める。


 だが…敵の姿はどこにも無かった。


 それと同時にガザムから連絡が入る。


《敵が消えました》


《えっ?》


 MQ-9 リーパーが映し出す山の向こうには、敵の姿が無くなっていた。だがガザムが見失うとなると、足で逃げた訳ではなさそうだ。


「どうしたのじゃ?」


「敵が消えました」


「なんじゃと? 転移じゃろか?」


「わかりません。ですがガザムが見失ったという事は、特殊な方法で姿を消したと思われます」


「危険じゃな」


「ですね」


 あのような能力を使えるやつが消えたとなると、デモン並み…それ以上に危険だ。俺は以前に討伐したバティンというデモンを思い出していた。アイツの様に狡猾な方が滅茶苦茶ヤバいのだ。


 俺は集まって来た仲間達に言う。


「警戒をもう一段階引き上げる必要がある。敵の冒険者パーティーが消えた。ガザムが見ている目の前で消えた事を考えても、転移か別空間に逃げ込んだ可能性が高い。これで容易に現場に近づく事が出来なくなった」


 オージェが言う。


「マジかよ。やっぱフェアラートとか言う奴の関係者なのかね?」


「その可能性は高いと思うんだよな」


「僕のゴーレムもすぐに壊されましたしね」


「あれ、レールガンの原理を魔力で再現してるよな」


「でしたね」


 そしてエミルも言う。


「というかあの落雷攻撃が魔法? 天候を操るなんて聞いた事無いぞ」


「ふむ。あれほどの極大魔法は初めて見るのう。恐らくはラウルと確認した、へんてこな魔道具のおかげじゃとは思う」


「そんな魔道具を?」


 だが俺はレールガンから、魔力収集機までを見て気が付いた事があった。恐らく俺の想像は間違っていないはずだ。


「あの魔道具なんだが」


「なんだ?」


「たぶんあれは可変式だ。リアカーにも積んであったし各自も手に持っていたが、形状からすると合わせて使っているように見えた。最初のレールガンと魔力削岩機の一部は同一部品だった」


 するとモーリス先生が言う。


「ラウルはそんなところまで見えたのかの?」


 それを聞いたオージェが言う。


「先生。ラウルは武器の事なら先生の魔法並に万能なんですよ。一回見ると大抵の事は覚えてしまうんです」


「そうじゃったな…」


 そう。俺は一回見た武器は脳内のデータベースに入ってしまうのだ。その形状が似ていれば、使用箇所が違っていても同じものだと分かってしまう。前世の武器にも、そう言う物はたたあった。


「やっかいですね」


 するとマリアがモーリス先生に聞いた。


「冒険者とはあのように強いのですか?」


「恐らくは高ランクじゃろうて。南方の土地では金等級だのミスリル級だのいう階級があるらしいがの、その中で言えば白金かミスリルかもしれんのじゃ。もしくはそれ以上の可能性もある」


 そして俺が言う。


「オリハルコン級というのが最上位らしいです。今までは遭遇していませんが、もしかすると対象がその可能性は高いですね。何といってもミサイルの着弾地点を予測しましたから」


「じゃの。いずれにせよ、次の出方を考えんといかんじゃろ」


「とにかく敵の目的は水源の確保だと思うんですよ。いつかは必ず姿を現すはずです」


「ならそこに標準を合わせるとしようかの」


「はい」


 そして俺はガザムに念話を飛ばした。


《ガザム。敵はいずれ水源に現れるはずだ。周囲の警戒を続けてくれ》


《は!》


 そして一気に危険レベルが上昇したのは事実。ここにはモーリス先生とマリア、グレース、ケイナもいる。あんな恐ろしい攻撃が立て続けにあったら、守りきれるかどうかわからない。だがそれにも増して、次の出現場所を予測しなければならなくなった。


 敵に先制攻撃のチャンスを与えてしまうと、魔人とはいえタダでは済まないような気がする。緊急で警戒態勢を上げて、防御の陣形を取らねばならなかった。


「シャーミリア!」


「は!」


「気配感知を最大限に使ってくれ。護衛はギレザム達がやるから、気配感知だけに集中して良いぞ」


「は!」


「ギレザム、マキーナ、カララはシャーミリアの護衛につけ」


「「「はい!」」」


「グレース。ヴァルキリーを出してくれ」


「はい」


 グレースが虹蛇の格納庫からヴァルキリーを出した。空間から突然出てくるように見えるが、グレースには倉庫という手ごたえがあるらしい。俺はすぐにヴァルキリーを着こみ言った。


「俺、ファントム、ルフラも偵察に出よう。敵がいつどこに出てくるか分からない以上は、偵察の人数を増やして警戒するしかない」


《ハイ》

「はい!」


「エミル、グレースはここでドローンの操作を頼む」


「「了解」」


「先生はアドバイスをお願いします」


「わかったのじゃ」


「オージェはここの全てを護衛してくれ」


「了解」


「ルピアとアナミスは上空を警戒」


「「はい」」


「他のメンバーは周囲を最大警戒。虫の子一匹近づかせるな」


「「「「「は!」」」」」


 一度本部を後退させて、俺とファントムとルフラでガザムのサポートに入る事にした。なぜこの三人にしたのかは理由があった。それは敵が俺達の行動をどう推測するかを予想して決めたメンツだ。


 かなりの勢いで燃え盛っている山を見上げて言う。


「あそこを行くぞ」


「はい」

《ハイ》


 山火事はとても危険だ。大規模な山火事になるほど、消防隊員ですら死亡事故が起きる事はざらにある。それは燃える山が灼熱地獄になるからである。最高温度は六百度にも上るから、普通の人間ではあっという間に焼死してしまうのだ。車両などもすぐに燃えてしまい動けなくなってしまう。


 だが、この三人ならばどうにかなる。俺はヴァルキリーを着ている限り最適な温度に保たれるし、ファントムは超速再生がある、ルフラはスライムなので火傷をする心配はない。最悪は俺のヴァルキリーの内部に潜り込ませようと思っている。


 恐らく敵は、あの燃え盛る山に生きている人がいるとは思っていないだろう。恐らくは山を迂回して来るか、火災から逃げて出てくると思っているはずだ。俺はその裏をかく事にしたのだ。


 俺達が山火事の現場に入ると、ファントムとルフラの衣服のあちこちがチリチリと燃えていた。


「燃えてるな。ルフラは問題あるか?」


「いえ。服が燃えたら、服ごと形成いたします」


「いざとなったら俺の中に入ってこい」


「ありがとうございます」


 ごうごうと燃え盛る山を登っていくと、更に火の手が強くなってきた。視界も炎で塞がれ煙で視界が悪くなる。


「好都合だ」


「このような火の中にいるとは思わないでしょうね」


「そのとおりだ。さっきとは違う見渡しの良い場所を探すぞ」


「はい」

《ハイ》


 そうして俺達が燃え盛る森を抜けると、ようやく開けた場所に出た。木から離れると火の手も弱まり、視界も良好になって来る。


「このあたりで監視しよう」


「はい」

《ハイ》


 俺達は燃え盛る山の中で、再び敵の監視を始めるのだった。

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