第912話 手練れの冒険者達
ガザム達がキャッチしたという冒険者らしき集団を、俺達は先回りして待っていた。離れた小高い崖の上から双眼鏡で監視していると、ようやくその集団が遠い街道を歩いているのが見えて来る。おそらく、グレース達が堰き止めた川の上流に向かっているのだろう。確かに、ガザムが言うように兵士では無く冒険者っぽかった。
それにしても随分バラエティに富んだパーティーで、デカいのから小さいのまでいる。男も女も混ざっており、騎士団とは全く様相が違っているようだ。
俺の隣りでシャーミリアがポツリと囁く。
「人間にしては…ですか」
「どういうこと?」
「勝手な評価をいたしますが、これまでに遭遇した冒険者と呼ばれる人間とは質が違うようです」
「上に? 下に?」
「上にでございます」
「強いって事か」
「左様でございます。ただ先ほども申しましたが、人間にしてはという前置きが入ります」
なるほどね。シャーミリアの気配感知ではそう反応している訳だ。
だがガザムが言っていたように、その集団の異様さもさることながら、持っている物の方が気になった。大きな鉄のレールのようなものが二本突き出たものを持っていたり、明らかに剣じゃない棒状の何かを持っていたりする。一番気になるのが、めちゃくちゃデカい男がひいている鉄のリヤカー的な奴だ。一体何に使うのか見当がつかない。
それを見たグレースが言った。
「魔道具ですよね。でもどうやって使うのかが全く分からない」
「一般の騎士達でも俺達の攻撃に耐える鎧を着ていたからなあ。あの冒険者達がどのくらいやるかわからないが、もしかすると専用兵器の可能性もあるよな」
「じゃないですか?」
それを聞いてオージェが言う。
「先制攻撃を仕掛けてみるか?」
「うーん。あの魔道具が何か分からないとなあ。バックについてるのは、間違いなくフェアラートと火神だし、絶対に俺達対策はして来てると思う」
「なら現地に僕のゴーレムがまだ置いてあるんで、きっとその時に何かが分かるんじゃないですかね」
「なら。堰き止めた場所に移動するか」
その時だった。不意に、その冒険者パーティーが立ち止まった。
エミルが言う。
「あれ、こっち見てないか?」
「念のため隠れろ」
俺が腹ばいになり、草むらから双眼鏡で覗くと、相手も双眼鏡っぽいものでこちらを覗いていた。
マジか…。
俺は周りにハンドサインを送って、後ろの森に潜むように指示をした。
「もしかすると双眼鏡のようなものを装備してたかもしれない」
するとエミルが答える。
「まあ、なくはないだろ。前世の技術を持ち込んでいるんだし、双眼鏡はそう難しくないぞ」
「確かに」
そしてオージェが言った。
「というよりも、この距離で気配に気が付いたんじゃないか? そっちの方が怖いぞ」
「かもしれん。もしくは他の物に気を取られたか? だが一筋縄ではいかないのは確かだ」
「どうする?」
「んじゃ」
俺はシャーミリアとマキーナを呼びつける。
「二人。先回りして、地雷を仕掛けて来い」
「「かしこまりました」」
俺は旧ドイツ軍が使っていたSマインを二十個と、M18 クレイモア地雷を二十個召喚した。M18クレイモア地雷はワイヤーに引っかかると爆発し、細かい鉄球をまき散らす対人用の地雷だ。Sマインも踏むと上空に飛び上がって爆発し、鉄球をまき散らすタイプの物だが俺はあえて二種類を召喚したのだった。
「クレイモアは草むらに隠して設置しろ。それが見つかった場合の二段階の罠として、Sマインをその周辺に埋めるんだ」
「「は!」」
「いけ」
シャーミリアとマキーナは地雷を持って飛んで行った。
「俺達も行くぞ。川を堰き止めた場所を見渡せるところに、武器を設置する」
「武器? 榴弾砲か?」
「いや反射魔法を警戒して、遠隔操作する兵器にする」
「念入りだな」
「それだけ、やつらの得たいが知れないんだよ」
「だな」
そして俺達は先回りするべく予定の地に走った。俺達が到着すると同時に、シャーミリア達が戻ってきて地雷の設置が終了したことを告げて来る。
《全員配置につけ。敵が来ているが、得体のしれない魔道具を持っているようだ。不用意に攻撃をせずに、敵の出方を見るぞ》
《《《《《《《《は!》》》》》》》》》
魔人達もフル装備で周辺に散らばっており、既に待ち伏せの準備は出来ていた。だが敵の状況を見て、俺は大型兵器を設置し遠隔で操作する事にしたのだ。
遠隔攻撃で相手がどう出るかによって、こちらの出方が変わる。物理反射を使って来るようであれば、白兵戦に持ち込まないといけなくなるからだ。
俺は離れた場所に、自律型ミサイル発射車両「AML」を召喚して設置する。遠隔操作でミサイルを発射する事が出来る車両で、もし物理反射されたとしても人的被害は出ないだろう。
「あとはドローンを使ってみる」
「徹底してるな」
「あの冒険者達が持っている魔道具が、どう言う物か分からんしな。物理反射だと、マリアの長距離狙撃が使えない」
するとマリアが言う。
「万が一は、銃格闘に持ち込みます」
「そうならんように祈る」
それを聞いていたオージェが笑いながら言った。
「マリアさんにそんなことはさせないよ。俺が先行して奴らを黙らせるさ」
「その時は。俺もヴァルキリーを装備していく。あとはうちの魔人達との総力戦だ」
「おいおい。俺の出番がなくなるぜ」
「いつゼクスペルやデモンが出てくるか分からんからな。その時はオージェに思う存分暴れてもらうさ」
「わかった」
そしてグレースが言う。
「地雷原を抜けたら、僕のゴーレムで足止めをします。そこに無人のミサイル車の掃射を」
「おっけー」
《ガザムです》
冒険者達を追跡するガザムだった。
《おう》
《冒険者が、まもなく現地に入ります。警戒を》
《了解》
「おいでなすった」
「よっしゃ」
俺達が見ていると、どうやら斥候が一人で先行してやってきた。
俺がシャーミリアに聞く。
「地雷原は、あのあたりか?」
「はい。まもなく斥候が地雷原に到達します」
どうか…。
斥候は当たりを警戒しながら進んで、地雷原に突入する寸前で止まった。周りをきょろきょろと見渡して、四つん這いになってあたりを探り始めた。
「申し訳ございません。恐らく見つかってしまうかと」
「そのための二段構えだ」
やはり斥候はクレイモア地雷を見つけてしまったようだった。だが仕掛けたのはもちろん一つじゃない。しばらくすると本隊がやって来たが、斥候がピィィィィィと口笛を吹いて止めた。
「くっそ完全にバレたか?」
どうやら斥候はクレイモア地雷の解除方法までは分からないようで、地雷原を迂回するように指示を出したようだ。斥候が地雷原を調べつつ迂回し、本部隊はそれに従って道を逸れていく。流石に草陰に隠れているとはいえ、クレイモア地雷は地上に出ている。一旦仕掛けが分かれば、あとは見つけるのは容易い。
それを見たオージェが言う。
「騎士なら引っかかってたかもしれんがな」
「あの冒険者は侮れないな」
「だな」
見事に地雷原を迂回していくが、クレイモア地雷を抜けたところで斥候が地雷を踏んだ。
「やった」
ボン!と破裂音が聞こえて来て、斥候が倒れる。埋まっていたSマインを踏んづけてくれたようだ。
「さすがはご主人様。読み通りに二段構えが功を奏したようです」
俺はその光景を見ながら言う。
「ほれ! 仲間達、助けに来い!」
と思っていたが、倒れた斥候が瀕死の状態で手を振って仲間が来るのを止めた。
「クッソ」
「武器の性質を一発で見抜いたな」
「やはり普通の冒険者じゃないって事だ」
「だが、これで一人削れましたよね?」
見立て通りただものではないらしい。だが斥候が倒れたことで本隊の動きが鈍る。前進する事を止めて倒れた斥候がいる方向を眺めていた。
「どう出る? 放っておいたら斥候は死ぬぞ」
すると斥候に向けて、本隊の男が何かを投げた。瀕死の斥候の頭の先にそれが落ちて、斥候はそれを拾い体にかけている。
「ポーションのようです」
「即死はしなかったからな。ある程度は戻るか」
俺達が見ていると、斥候が這いつくばりながらも仲間達のもとへと戻っていく。すると魔導士のようなローブの女が、魔法の杖をかざして斥候に治癒魔法をかけているようだった。
「治ったな…」
斥候はすくっと立って、本隊の奴らに何かを説明しているようだった。すると一番後ろにいたリアカーをひいていた大男が、リアカーから大きな盾を持ち上げる。それを前面にだして、もう一つの手には何本もの鉄の鎖が握られていた。
「マジか…」
その大男は盾に隠れながら、重そうな太い鎖の鞭を地面にたたきつけて進み始めたのだ。それがSマインにあたると、地表に飛び出して破裂していく。
「Sマインの仕掛けに気づいたんだ…」
「侮れないぞ」
タンク役っぽいデカブツがあっという間に地雷原を抜け、本隊が後について行った。
「申し訳ございません。ご主人様」
「シャーミリアは悪くないよ。アイツらが俺の考えの一つ上を行っていただけだ」
そしてグレースが言う。
「ゴーレムで足止めします」
「了解」
俺はミサイル発射のコントローラーを持って、その時を待った。だが俺達が見ている先で、冒険者達はグレースのゴーレムを遠くから眺めていた。
「動かないですね」
「どうするつもりだ?」
すると今度は一人の男が、リヤカーに持っていたレールをさし込み始める。
「あれって…」
魔法使いが何かをした次の瞬間だった。二本のレールから何かが射出されて、一体のゴーレムを破壊したのだった。
「うっそ」
「レールガンじゃないか?」
「まじで?」
そのリヤカーから次々に何かが射出され、立っているゴーレムたちを次々に破壊していくのだった。
「確実に前世の技術が注がれてるな」
「そのようだ」
俺は慌てて離れた場所に設置してある、自律型ミサイル発射車両「AML」をコントローラーで動かしてミサイルを発射した。もちろん出し惜しみすることなく、全弾。
バシュバシュバシュ! と射出された音に、冒険者が気が付いた。
「ほれ! 陣形を整えろ!」
俺はてっきりそいつらは固まって警戒するもんだと思っていた。しかし、俺の想像とは全く違う動きをした。一目散にその場所を離れて、草むらの奥へと逃げていったのだ。ミサイルは冒険者達が居なくなった場所に落ちて爆発していく。
「ミサイルって分かってんのか?」
俺が呆けて言うと、オージェが答える。
「違うと思うぜ。あれは…勘だ」
「勘?」
「ミサイルだと分かってるからってあんな動きは出来ない。恐らく戦いの勘がすこぶる冴えた奴らだ」
おっかねえ。今までのアホなデモンとはわけが違う。
「だが物理反射は無かったな」
そんな事を言った時だった。自律型ミサイル発射車両「AML」が停めてある真上の空に、黒々とした雲が出現して来たのだった。
「なんだあれ?」
そして次の瞬間。
ピカ! バリバリバリバリ!
自律型ミサイル発射車両「AML」のあった場所あたりに、強烈な落雷が落ちたのだった。それを見たマリアが言う。
「雷魔法です! しかも極大魔法!」
マリアの叫びの後に、あたり一帯の空に黒い雲が黙々と広がっていくのだった。