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第911話 天才魔法使いの過去

 カトリーヌとモーリス先生を囲んで、俺達はフェアラートの情報を聞く事にした。どうやら二人とも奴とは面識があり、その人となりを知っているようなのだ。


 凄いバリエーション豊かな神々に囲まれながら、一番神っぽい見た目のモーリス先生が話し出す。


「ふむ。あれは…わしがまだ現役で教鞭を振るっていた頃じゃ。確か…友好国であるファートリア神聖国からの、集団留学生の一人がフェアラートじゃったな。その頃のユークリット王国はまだ各国から生徒の受け入れをしておってな、奴はその他大勢の中の一人だったはずじゃ」


「留学生ですか。元々ユークリットの人間じゃないんですね?」


「うむ。じゃが奴は大勢いる生徒の中で最初から群を抜いておった。それはおろか、既に教員も顔負けの使い手じゃったな」


「それなのに学びに来たんですか?」


 モーリス先生は思い出すように髭を撫でつけて言う。


「わしが目当てだったらしい」


「そうか。賢者の力を盗みに来たわけですね?」


「結果そうなったのか、元よりそれを狙って来たのかは分からんがの」


 そして、それからモーリス先生は過去の回想をしながら話してくれた。


 フェアラートは最初から自分の力を隠すことは無かったそうだが、とりわけ力を誇示する事も無かったらしい。ただひたすら魔法を探求する事にすべてを費やす、言って見ればモーリス先生のような魔法バカだったようだ。周りのレベルが低すぎて自分の成長が止まってしまった事を憂いて、わざわざ隣国の賢者であるモーリス先生の所に学びに来たらしい。


「それでどうなりました?」


「奴は熱心じゃったよ。とにかくわしが知っておる魔法の全てをどん欲に学び取ろうとし、ほぼすべての属性をマスターしたんじゃなかろうか」


「凄い奴だったんですね?」


「凄い奴じゃった。じゃが…惜しかった」


「惜しい?」


「フェアラートの奴は、それぞれの極大魔法を覚えると、すぐに新しいものに飛びついて行くのじゃ。新しいもの好きというやつじゃな」


「それが惜しい?」


 するとモーリス先生は俺の方を向いて言う。


「そうじゃなあ…ラウルには分らんかもしれん。お主の召喚魔法は、従来の魔法とは全く別もののようじゃからのう。魔法を突き詰めようなんてさらさら思っておらんじゃろ?」


「はあ…」


「例えば、わしなどは本来に平凡な魔法使いじゃった」


「えっ? 先生が平凡な魔法使い? そんなわけないです」


「いやいや。もともとの才能で言えば、フェアラートの方がはるかにあったじゃろうて。あ奴が最後までわしに及ばんかったのは、逆に言えば有り余る才能によるところが大きいのじゃ」


 なんとなくわからんでもない。別に俺も魔法をもっとうまく使えるようになんて思ってなかった。俺はただ武器を召喚しまくって、使い捨てして来ただけだし。フェアラートが凄い才能だったのだとしたら、極大魔法を習得し満足してしまったというのは分からんでもない。


「才能が成長を邪魔をしたという事ですか?」


「じゃな。わしの持論ではあるが、結局魔法と言うのは研鑽によるものが大きいと思う。小さな魔法をコツコツ、最高の精度を持って行使できるかどうかか鍵だと思うのじゃ。それが大きな魔法ともあればより一層調整が難しくなるからのう」


 すると突然、雷神と死神が言う。


「あかん、耳が痛い」

「吾輩もですな」


 そう言われてみればこの二人のダンジョンは、おおざっぱな作りだったかもしれない。きっと最初は頑張っていたのだろうけど、長い年月の間に研鑽を忘れてしまったのだろう。


「いやいや。神様にそのような事を言われてしまうと、何とも心苦しいですじゃ」


「いやあ…、わしらの命は長いやろ? そのうちやれるやろって思ってまうねん。やけどそのうちっていうのが良くない。そのせいでだんだんとおざなりになってしまうんや」


「分かる。うんうん」


 なるほどそう言う事か。時間がいっぱいあると思えば、いつでもできると思ってしまう。だけどモーリス先生の様に命に限りがあると思えば、出来る限りの事はやっておこうと思うって事だ。フェアラートは魔法も魔力の才能もあるがゆえに、その努力を違う方向に向かわせてしまったんだな。


「じゃが…ある時から、奴は学びの心よりも、わしに対しての妬みのようなものが大きくなってしもた」


「たぶん、うまくいかなくなっちゃったんですね」


「細かい事からコツコツやっていれば出来たであろうことが、一気に極大魔法ばかりに目がいった事で見失ってしまったのじゃな」


 よくある話だ。才能が有り余っている奴が、突き詰めた努力をしている奴に勝てないっていう話。結局は少しの才能プラス、コツコツ努力していく人間が強い。俺も戦いで、一気に攻めずに根回しをするようになったのは、モーリス先生の教えがあったからだと思う。でなければ俺はこの戦いのどこかで敗れていただろう。


「それでどうなったんです?」


「まあ、それからは突然自分の力を誇示するようになったのう。その才能が故に教師まで登りつめたが、わしが校長を退くまで派手にやっていたかもしれん。仕方なく奴に従った人もおったようじゃ」


「とはいえモーリス先生を超えれなかったのですよね?」


「残念じゃがそうじゃの。じゃが奴は奴で新しいもの好きという利点を生かして、魔法だけでは無く魔道具に力を入れ始めたんじゃ。当時あまり日の目を見た物は無かったが、それについては失敗を繰り返してもコツコツ続けておった」


「どうしてもモーリス先生に勝ちたかったんでしょうね」


「そう言う事じゃろう。そしてわしが校長を退いてからは、カトリーヌに聞いた方がええじゃろ」


「なるほど。そこからはカトリーヌが知っているという事ですね?」


「じゃな」


 俺達がカトリーヌを見ると、彼女はコクリと頷いて話を始めた。


「はい。私は学校時代、モーリス先生の弟子でした。ですがモーリス先生が校長をおやめになった後、突然フェアラート先生が私に声をかけられたのです」


「どんな?」


「まあ、あまり気分の良いものではございません」


「言ってみて」


「まず私がナスタリア家の子供だと知って声をかけて来たのです」


「ナスタリアは凄い家柄だからね」


「その当時はそうですね。そこで最初に言われたのは、なぜ名門ナスタリアの子が、あんな才のない魔法使いの弟子をやっていたんだと言われました」


 ムカつく。モーリス先生を才のない魔法使い呼ばわりしやがったのか。


「なんて奴だ」


「はい。長年モーリス先生に教えを乞うておきながら、その師を才が無いだなどと言うなんてひどいと思いました」


 だがそこでモーリス先生が口を挟む。


「いやいや、わしの才が無い事は確かじゃて」


「「そんなことありません!」」


「わしの孫らにそう言われるのは嬉しいがの、奴は本当に才があったのじゃから仕方ない」


「「間違っています!」」


 俺とカトリーヌの言葉が二回連続で重なってしまった。だってマジで違うから。


「ふぉっふぉっふぉっ、嬉しいのう」


「だって、フェアラートが間違ってますから!」


 そしてカトリーヌはイラつきを隠しもせずに話し出す。


「そして幼い私に、自分の弟子になって魔道具の研究をしようと誘われました」


「で、どうしたの?」


「すぐ断りました」


「だよね」


「はい。でもそれで王宮魔導士の夢は絶たれました。フェアラート先生はその時一番力のある教師でしたからね、彼の一声で私ははじかれてしまったのです。けど、私はそれで本望でした。師を馬鹿にした人の弟子になどなるものですか」


「わかる」


「それからは事あるごとに、私やナスタリア家の事で阻害するようになりました」


 どうやら少しずつねじ曲がったいったらしい。最初は純粋に魔法を学ぼうと思っていたのが、才能が有り余っているがゆえに少しずつ見失っていった感がハンパない。


「酷いもんだ」


「フェアラート先生は、モーリス先生が辞めた後にどんどん変わって行きました。魔法の第一人者というのもあり、その影響力を使って王室や周辺国家にまで繋がっていったようです」


「力を持っていったわけか」


「そのようでした。ですが、その力がどんどん大きくなってきたある時、フェアラート先生は周辺国家に外交で出かける事になったのです」


「更に影響力をつけようと思ったって事かな?」


「わかりません。ですが、その外遊に出かけるのを見たのが最後でした。それから学校はおろかユークリット王国からも消えてしまったのです」


「突然か…」


 なんかめっちゃきな臭い。ユークリット王国ではそれなりの地位もあり知名度もあったはずだ。それなのに戻ってくる事は無く、こんな南の国へと出向いていたとは。


 それを聞いた俺が言う。


「絶対なんらかに関係しているね」


「そのようじゃな」

「だな」

「せやな」

「ですな」


 皆が満場一致でその結果になった。そしてカトリーヌが言う。


「いなくなってほどなくしてから、バルギウス帝国が攻めてきました」


「確定ですよね?」


「うむ」


 フェアラートがユークリット王国を出て、何かに巻き込まれたか、誰かと接触した可能性がある。先のバルギウス侵攻自体が、フェアラートのせいだったかどうかは定かではないが、なんらかに一枚噛んでいるのは容易に想像がつく。


「やけど、そないな奴が、一人でそんな大それた事が出来るやろか? 聞くからに緻密さがない奴っぽいやんか? 一人では絶対にでけへんで」


「確かに」


 するとブリッツが言う。


「ここまでで見たモエニタの魔道具の数々だけど、どう見ても前世の物だよね。フェアラートが転生者とくっついたというのは間違いないと思う」


「それが火神だったとか?」


「そう考えるのが妥当でしょうね」


 つうことは火神に出会った事で何かが変わった? 影響を受けたのはフェアラートの方? ユークリット王国では奴のプライドは満たされず、火神に出会った事で何かを見出したか?


「もしかして火神が北大陸にいたって事かな?」


「じゃないですか? ユークリット周辺の国家で火神に出会った。もしくは火神を継ぐ前の、継子に会ったという事も考えられるね」


「確かに」


 そんな会議をしている俺に突如ガザムから念話が入った。


《ガザムです》


《どうした?》


《敵国に動き》


《ようやく動いたか?》


《はい。どうやら水源を止めた事で、水を確保する為の調査隊が出されたようです》


《どんな奴らだ?》


《恐らくは冒険者の類だと思いますが、珍しい武具を持っているように見えますね》


《魔道具かもしれないな》


《いかがなさいましょう?》


《ちょっとまて》


 そして俺はそこにいるメンバーに言う。


「ようやく敵に動きが出た。俺達が止めた水源に向かって調査隊が出されたらしい」


 そしてオージェが言う。


「ようやくおでましか! 痺れを切らしたぜ!」


 グレースも肩をもみながら言う。


「水源を止める工事大変だったんですよ! 動いてもらわないと!」


「いまガザム達が監視している」


「で、どうするんだ?」


「直接行って見てみるさ」


 会議を打ち切り、俺は小隊を作るために魔人達に召集をかけるのだった。

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