第910話 火神のプロファイリングと気になる存在
俺は魔人の念話を通じて急遽オージェとグレースに召集をかけ、エミルのヘリで魔人基地からデメールと死神とアウロラを連れて来た。
アウロラを連れてくるという事になると、どうしてもイオナがついてきてしまう。イオナがついてきてしまうという事は、カトリーヌもセットでついて来る。カトリーヌがついて来るとなると、友達になった聖女リシェルもついて来る。聖女リシェルがついて来るとなれば、護衛のカーライルもついて来る。そうなればミゼッタだけが残るわけも無くセットでついてくる。もちろんデメールにくっついてアンジュもついて来た。
おかげで前線基地の人口が増え、精霊神殿の顔面偏差値と女子率が一気に高まった。
「なんや、ずいぶん華やかになりよったな」
「まあ雷神様に先に紹介しますけど、母と従妹も混ざってます」
「おお、人間が魔人のおぬしを生んだのに生きとったんかい!」
「いえ。こちらは育ての親です」
イオナがこれ以上ないくらい美しいカーテシーで挨拶をする。
「雷神様。お初にお目にかかります。ラウルの母親のイオナ・フォレストと申します」
「おおきに。あんたがアトム神の継子を産んだんやな」
「はい。何の因果でしょうか? そのようになりましたわ」
「アトム神やが、前のちんちくりんとはうって変わって、めちゃくちゃ美人やないけ」
「そんなことはございません。まあ我が子がかわいいのは認めますが」
我が子に関しては謙遜しないんだ。
「ええなあ…。わしの継子もこういう美人やったらええのになあ」
イオナやアウロラがなんとも言えない表情をしている。するとデメールが言った。
「雷神よ。それは高望みと言うもの。ウチもそれが望みだけど」
「なんや時代と共に神の雰囲気も変わっていくものなんやな。わしらみたいなチンチクリンは一人もおらんやんけ」
すると今度は死神が言う。
「高望みしても仕方ないこと、吾輩とて次は容姿の良い継子が良いと思ってるけど、そうは問屋がおろさないかも」
「破壊神の継子も、なんやら可愛らしい坊主やで?」
「そうなれば、ウチらも期待が膨らむというもの」
「それはそうそう」
何やら神々が、容姿について同じこ野望を抱いているらしい。とりあえずとりとめのない話しになっているので、俺はもう一度雷神に聞いた。
「えっと。この精霊神殿は本当に魔人軍基地より安全なんですね?」
「そやで。精霊神が許可しない限りは難攻不落や。そもそもが山の中にあって山の中に無いようなもんや」
するとデメールが言う。
「こればかりは精霊神の得意とするところ。ウチらではまねできない」
「ですなあ」
とりあえず神々の感想は分かった。俺達はまず今後の事について話さなければならない。その為にバルムスから円卓を急造してもらい、俺達はその円卓を囲んで話をすることにしたのだ。とりあえず俺が神々に聞く。
「えっと。人払いしますか?」
「せやな」
「いずれ話は伝わる」
「だね」
雷神と豊穣神と死神の意見がそろった。俺は魔人たちやイオナに席を外すように言う。この円卓に残ったのは、俺とオージェ、エミル、グレース、アウロラ、デメール、死神、雷神だ。一応、継子のブリッツも席に座っている。
そして俺が話し出す。一応仲間も混ざっているので敬語を止める。
「では。急遽集まってもらったのは他でもない。既にこちらには八人の神がそろってる。本来は神々が争うという事はあり得ないらしいが、火神はなぜか他の神々をどうにかしようとしている。その目的について俺が推測したのは、もしかすると火神は世界を滅ぼそうとしているのじゃないかという事だ」
オージェが聞く。
「どうしてそう考えた?」
「十神の誰かが、継子にひき告げなければその神は消える。火神は神々を引き継がせないようにしているとしか思えないからだ。俺の命が狙われ、精霊神の継子のエミルもアトム神も狙われた。南では豊穣神が狙われていたし、ブリッツの居場所も突き止められていた。恐らくは神々を引き継がせないようにして、その神を滅ぼそうとしているんじゃないかと思うんだ」
そこでデメールが言う。
「本当にそうかな? 継子を殺したところで、百年もすればまた新しい継子が生まれる。その時に無事に継ぐ事が出来れば、神は消滅する事がない」
「神は一万年生きるんですよね?」
「せやな。まあ継いだ時期からすると、そろそろという事しか分かっとらんが、わしらはまだ寿命やないはずやで」
「ウチも力は弱っているけど、まだ寿命ではないはず」
「吾輩も」
そこで俺が言う。
「ずっと潰し続けて寿命が来たら?」
「その時は滅びるやろな」
するとブリッツが手をあげた。
「なに?」
「僕のプロファイリングなんだけど、火神はそこまで知らないと思う。今の継子を殺せば、それですべてが終わると思っているのではないかと、単純にそう考えてこれをやっている可能性があると考えられるよ」
「知らないでやっていると?」
「この情報は神々に聞かねば分からない事だし、ラウルさん達も知らなかったんだよね? 前の神がそこまで説明して無かった可能性はあるよ」
確かに…俺なんか、赤ん坊の時に神を宿したらしいから知る由もない。もしかしたら火神も同じ環境だったという可能性もある。
グレースが言った。
「でも、ブリッツさんの言うとおりだとしてもですよ? なんで他の神を滅ぼそうなんて思ったんでしょう? 我々にはそんな発想は無かった」
ブリッツが頷いて言う。
「これもプロファイリングだけどいい?」
皆が頷く。そもそも神たちはプロファイリングという言葉を知っているのだろうか? だが話の腰を折らないように静かに聞いていた。流石は年の功、一万年近く生きてはいない。
「前世に問題があるんじゃないかと思う。何の因果かこの世界に生まれ落ちたけど、自分に神という地位が勝手におりて来た。その神の力に振り回されているか、もしくは溺れて自分の力を誇示したくなった。だが同等の力を持つかもしれない、神という存在があと九体いると知り、純粋にそれが邪魔になって消そうと思ったとも考えられるんだ」
「そう言えば、以前日本人転移者がこの世界に来てしまった時、自分の力に振り回されてしまった奴らがいたな。ブリッツが言うとおり、そいつらと同じようになってるのかもしれない」
「だがあくまでも、ここまでの行動からのプロファイリングだ。もっと違う考えがあるかもしれない」
それを聞いていたデメールが言う。
「心が荒んでいるねえ、そんなにそっちの世界は殺伐としていたのかい?」
それに俺達が答える前に、雷神がデメールに言った。
「豊穣神よ。それは容易に想像できてまうねんな。魔神の力を見たやろ? あれは前の世界の兵器と呼ばれる物らしい。あんなもんがごろごろある世界で、殺伐としてない訳ないやろ?」
「まあ…確かに」
死神も頷いた。
「そう。少人数でダンジョンを攻略できるような力だね。あれほど強大な力がある世界は、確かに殺伐としているかもしれない。心の豊かさがどんどん削られるような気がしてならないよ」
俺達は納得せざるを得なかった。前世では世界中の人々が平等だと錯覚していたかもしれないが、核をを持つ軍事力の高い国が強い発言力を持ち、持たざる国はその国々の機嫌を取らねばならなかった。それが平等だと言えるかと言ったら違う気がする。この世界の人間よりも人間達の心は豊かでは無かった可能性がある。
エミルが言った。
「確かにね。この世界は貴族がいる縦社会だが、不平等のようで心は豊かもしれない。火神が戦争を吹っかけてくるまでは、人々は普通に平和に生きていたし。それに俺達が応えてしまい、一気に前世のような戦いが始まってしまった」
豊穣神が苦笑して言う。
「人間達の小競り合いならいくらでもあった。だけど二千年前の人魔大戦だって神が関わる事は無かった。神が自ら戦い始めるなんて言うのも、ラウル達のいた世界の世界観がそうさせているのかもしれないねえ」
なるほどね。ただ戦えばいいってもんじゃない感じは分かった。だけど吹っかけられた喧嘩を途中でやめる訳にも行かず、そもそも火神の本心を突き止める必要がある。それには何とか接触して聞き出さねばならない。
そこでブリッツが言う。
「なんとなくだけど」
「なに?」
「ラウル君達が接触した、モーリス先生の弟子」
「フェアラート?」
「そう。そのフェアラートが曲者のような気がするんだよね」
「というと?」
「これはFBI捜査官だった僕の勘さ。だからなんとも言えない」
「なるほど」
勘と言われればなんとも言いようがない。だけどブリッツに言われるまでも無く、俺もなんとなくそんな感じはしていた。二度接触して思ったのが、どうも含みがある感じがしたのだ。俺達に直接攻撃してくるわけでもなく、火神を引っ張り出してくるわけでもない。
まてよ…。
「この戦い…火神の意思なのかね?」
俺が言うと皆が俺を見た。
「どういう事やねん?」
「分からないですよ? でも、もし俺の様に赤子の頃に受体して、小さなころからおかしなことを吹き込まれたらどうなるでしょう?」
「まあ…せやな…」
それを聞いたブリッツが言う。
「可能性はあるでしょうね。でも今は確かめるすべがない」
いや…。
「えっとモーリス先生を呼んでいいですか?」
すると神々が頷いた。
《シャーミリア。モーリス先生を連れて来い》
《かしこまりました》
ほどなくして、シャーミリアがモーリス先生を連れて来た。
「すみません先生、作業中に」
「かまわん。何かあったかの?」
「ちょっと会議の中で、ある人物が浮かび上がってきたんですよ」
するとモーリス先生は髭をふさっと撫でて頷いた。
「フェアラートの事じゃな?」
流石は大賢者。俺達の話はお見通しだったらしい。
「はい」
「うむ」
そして俺はモーリス先生に椅子を差し出し、モーリス先生がそれに腰かけて少し考えるような素振りをした。すると思い出したようにぽつりと話し始める。
「あやつに初めて会ったのは、魔法学校じゃった」
「はい」
「わしが教師で、あヤツは生徒。じゃがあヤツが入学した時には、既に他の生徒など比べ物にならんほどの才覚に恵まれておったのじゃ」
するとモーリス先生がポン! と手を叩く。
「そうじゃ! カトリーヌも知っておるぞ。わしが先生を退いた後で、フェアラートは魔法学校の先生をやっておったからのう」
「そうなんですね? ではカトリーヌも呼びます」
「ふむ。神々はそれでよろしいかの?」
「意義はないで」
「ウチも」
「私も」
そしてシャーミリアに頼み、今度はカトリーヌも連れて来てもらった。カトリーヌは緊張気味にカーテシーで挨拶をして席に座る。
「ごめんねカティ。ちょっと聞きたいことがあってね」
「はい」
「フェアラートという男を知っているよね?」
「はい。魔法学校の先生の一人です」
「どういう人だったかとか、エピソードを聞きたいんだ」
「わかりました。知っている範囲でお話します」
そしてフェアラートの師匠だったモーリス先生と、生徒だったカトリーヌから事情聴取をしていくのだった。