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第906話 新たな神との交渉

 溶岩が流れる洞窟の中心にあった家に入ると、ちっさなぷっくりしたおばさんがいた。外は溶岩でとても暑かったが、ここは非常に快適でいい感じの住居になっている。そして俺はその小柄でぷっくりしたおばさんに言った。


「ごめんください」


「なんや?」


「あの」


「ん?」


「ずっとその口調なんですか?」


「ちゃうで」


「いつからなんです?」


「つい最近やな」


「つい最近?」


「そや」


 謎だ。とりあえずそれは置いておこう。置いておいちゃいけない気もするが、今はそれより優先すべき事がある。


「で、ここに神様はいます?」


「わしや」


「えっ?」


「なんや? わしが神やったら問題でもあんのかい?」


「ないです」


 そして神だと言う腕組みしたぷっくりおばさんは、俺たちをジロジロと見始めた。


「なんや、けったいな雰囲気やな」


「そうですか?」


「前から魔神はけったいな仲間をつれよった。だから珍しくもないけどやな……」


 どっちやねん!


 沈黙したと思ったら唐突に俺の顔面に顔を寄せて来た。だが身長が足りないので思いっきり背伸びをしている。眉間にしわを寄せて俺の顔すれすれに顔を持ってきたのだ。


「しっかし! ようやってくれおったなあ! わしのダンジョンめちゃくちゃやで! どない落とし前つけてくれんねん! 屋根ひっぺがしよって! アホが!」


「すいません。つい」


「はあ? 新しい魔神はなにかい? 『つい』で人のダンジョンをめちゃくちゃにしよんのかい!」


「えっと、いいわけになっちゃうみたいなんですけど、外にすっごいのが居たんですよ」


「そりゃそうや。あのビッグちゃんがダンジョン入りを阻止してるんやで」


「だからそのビッグちゃんを壊したら、一緒にダンジョンも壊れちゃって」


 するとぷっくりおばさんはおっきくため息をついた。


「はあ…」


 えっ? めっちゃ馬鹿じゃないの? って顔で横目で見られてる。どうしよう。


「なんか俺、やらかしちゃったみたいっすね?」


「やらかしたなんてもんじゃない。普通はルールっちゅーもんがあんねん」


「ルールですか?」


「そやで。あのビッグちゃんはぶっ壊すもんやないで」


「壊しちゃダメだったんですか?」


「わからんのかい! 素でわかるやろふつう! あんなもん壊すアホどこにおんねん!」


 いや。ここに。


「でも、壊さなきゃダンジョンに入れませんよね?」


「はあ。だから嫌やねん魔神は。前任者もたいがいアホやったが、輪をかけてひどなっとるやないかい」


「どうすればよかったんです?」


「きちんと謎を解いてやな、ちゃーんと神石の扉を開けて入って来るんが常識ちゃうんかい!」


「謎を解く? 謎を解くとどうなるんです?」


「ビッグちゃんが止まんねん」


「えっ? あれ止まったんすか?」


「当たり前やろがい! あんなん倒す方がどうかしてんねん!」


「すみませんでした。ちょっと勉強不足で。神になりたてなのもありますし、神になったのもどうやら赤子の時だったものですから」


「なんや、きっちり引き継ぎしとらんのかい?」


「他の神は物心ついてから引き継いでるんですけどね。なぜか僕だけ赤子だったんです」


「はあ。やっぱり魔神はアホやな。つーかなんでそないな引継ぎやったんやろ?」


「さあ」


 目の前の神はしばらく考え込むような仕草をしたが、気を取り直したように言った。


「まあええがな。屋根を壊した賠償の件については後ほどゆっくり話すとしてやな、入り方はどうあれ深部までたどり着いたって事やんか?」


「はい」


「おめでとう。ダンジョン攻略や」


「ありがとうございます」


「ハンコ押したるがな」


「ハンコ?」


「なんや? 攻略の標しやがな」


「どうするんです?」


「なんや? バッジもっとらんのかい?」


「あ、えっとこれですか?」


 俺がミスリルのバッジを出すと、ぷっくりおばさんがそれを見て言う。


「そや。そこにしるしたる」


「はあ」


「まあ、あんなずるい方法で攻略したら、そりゃそういう気分になるわな」


「すいません」


「かまへん」


 そして俺はシャーミリアとファントムにもバッジを出させる。するとぷっくりおばさんは、それを手に取ってじっくりと見て言う。


「なんや、死神ダンジョンも攻略しとるやんけ」


「えっ? そんなのが分かるんですか?」


「そや。死神はなんか言っておらんかったんか?」


「もっと面白いダンジョン作りましょうよって言ったら、それに賛成してついてきてくれました」


「ほう…」


 突然ぷっくりおばさんの目の色が変わった。


「どうしました?」


「ゆっくり話きこか」


「あ、はい」


 ぷっくりおばさんが、その家の通路を奥に行って扉を開く。すると外観からは考えられないような広さの部屋が広がっていた。どうやらこの神も空間魔法が使えるらしい。そこは洞窟の深部にあるとは思えないほど、上品で美しい装飾がなされた白とブルーを基調にしたおしゃれな部屋だった。


「綺麗な部屋ですね」


「おっ。今度の魔神はそう言う所にも気が付くんやねえ。前の魔神はがさつでアカンかったが見どころはありそうやね」


「それはありがとうございます」


 なんだろ? ちょっと前の虹蛇に似ている感じかと思っていたが、全然ものわかりがいい神っぽい。


 すると突然何も無かった真っ白な部屋に、白いテーブルと椅子が浮かび上がってきた。


「適当に座りや」


「はい」


 俺達は言われたままにそこに座る。すると突然テーブルの上に、コップと水差しのようなものが浮かび上がる。ぷっくりしたおばさんが水差しを持って、俺達のコップに何かを注いだ。


「ありがとうございます」


「なんや! お礼もきっちり言えんのかい! 前の魔神とは全く違うやんか!」


「前の魔神はどうだったんです?」


「大抵は、つまらんものだすな。とか、毒でも飲ませる気だろう。とか気難しい顔で言いおったで。ほんまに毒でも入れてやろうかと思たけど、わしも大人やしそんな無駄な事はやらん」


《本当かな?》


《はい。毒は感知できません》


《そっか》


 どうやら今までの神が変過ぎて、俺は色眼鏡で見ていたのかもしれない。目の前のおばさんは一万年は生きていると思うが、近所の気のいいおばさんくらいの神だった。


 そしてそのコップの液体を飲む。


「ね、ネクターですか」


「ほう。飲んだことあるんやな」


「エルフの里で」


「なるほどやね」


 そしてぷっくりおばさんはまじまじと俺を見て言った。


「ほな、聞かせてもらおか」


「何をです?」


「死神に提案した、第二のライフスタイルに決まっとるやろ」


「ああそれですか。なんか死神の悪口を言う訳じゃないんですけどね、死神のダンジョンは単純すぎたんです」


「ほう」


「それでもこだわりがあるようだったので、出来れば魔獣なども豊富にいる場所で面白ダンジョンの運営をしたらどうですか? って提案したんですよ」


「魔獣が豊富なダンジョンやて?」


「そうです。やはり時代が変わったと言いますか、冒険者の質も変わって来たのだと思うんです」


「質が変わった?」


「確かに命のやり取りは必要でしょうけど、もう少し楽に稼げる場所があっても良いと思うんです」


「稼げる? 頑張れば稼げるがな!」


「いやー、世界も便利になりつつありましてね、そんな人生かけてまでダンジョンに潜る人間も少なくなってきてると思いますよ」


「それが神のダンジョンというものやろ」


「それもわかります。わかりますけど、もっと楽しみながらダンジョンを攻略させないとダメっス」


「楽しみながら?」


「はい。もっと冒険者を楽しませようとしてこなかったから、単調なダンジョンになっちゃうんすよ」


「単調やて?」


「はい。正直単調っす。まあこのダンジョンは今までの中で、トップクラスにバランスもとれていて楽しいダンジョンだとは思いました。ゴーレムあり罠あり迷路ありの、良いダンジョンだと思いますよ」


 するとぷっくりおばさんはにんまりして身を乗り出してくる。


「そんなに良かったやろか?」


「ええ。ただちょっと、出オチって言うか、入り口にラスボス級の奴がいるっていうのが、正直言うとバランス悪すぎです」


「実は止めるのは案外簡単やねんけどな」


「そうなんですか?」


「そやねん」


「どうやったら止まったんです?」


「聞いたら終いや。次にダンジョン作った時の参考にされたらかなわん」


「なるほど」


 そして今度はテーブルに上手そうなお菓子が現れた。なんかふんわりとクリームが乗った高級そうなお菓子だった。


「いただきます」


「ちょいまち」


「はい?」


「それよりあんた、次世代のダンジョンを頼む相手間違っとるんとちゃうか?」


「どういうことです?」


「わしのダンジョンと死神のダンジョン、どっちがハイセンスだったかちゅう話や」


「それはこっちの方が断然レベルが高かったです」


「そうやろ? あんたなあ…組む相手まちごうたら、またつまらんもん出来上がるで?」


「おっ! なるほど。ちなみにあなたと組めば、もっと面白いダンジョンが出来ると言う事ですか?」


「当然やろ」


 確かにこの面白いダンジョンをキープしてた実績はある。何千年もの間にバランス感覚がバグって、あんなラスボスを入り口に置いてしまったんだろうが、それはより一層ダンジョンを盛り上げるためだ。死神の杓子定規な、奥に行くほど魔物が強くなるだけって言うのとは違う。


「えっとなんとお呼びしたらいいでしょう?」


「わしゃ雷神や」


 えっ? こんなぽっちゃりしたおばちゃんが雷神? うそだろ。


「なんや? わしが雷神やったら、なにかおかしいんかい?」


「いえいえ。良かったです、お知り合いになれて」


「しかし何千年ぶりやろな? かれこれ二千年にもなるかの?」


「人魔大戦の頃ですか?」


「そやわ! あんときに集まったきりやな。しかし、あれからやな。神同士の交流がおかしなってしもうたんわ。他の奴らは元気やろか」


「えっと、それはこれからゆっくりと説明したいと思います。それより、例のダンジョンの話ですけど、雷神様はどうします?」


「当然、面白ダンジョンちゅーたら、わしやろ?」


「では一緒に行きます? このダンジョンも壊してしまって申し訳なかったですし、僕とならもっと面白いダンジョンが作れると思いますよ」


「ほんまか?」


「ええ。やっぱりトレンドをもっと取り入れていかないと。あと、そろそろ世代交代の時期ですよ。早めにしておかないと消えると聞いております」


「その通りやな。わし最後におもろいダンジョンをこさえて、それを次世代に引き継ぎしたいねん」


「なら行きましょう。僕は継子を探すのも得意なんです」


 すると雷神はコクリと頷いた。


「ほな、行こか」


 随分あっさりしている。


「じゃあすみません。一旦ギルドに報告に行かねばなりません。その後で向かいましょう」


「ええで」


 雷神が何かを唱えると、次の瞬間いきなり山の表層に居た。


「あれ?」


「なんや、転移魔法がそないに珍しいんかい?」


「使えるんですか?」


「わしを誰やとおもてんねん」


「おみそれしました」


 そして壊れたダンジョンを見て、雷神が何かを受け入れるかのように両手を上げ大の字に立つ。小さなおばさんなので迫力はないが、次の瞬間ひゅおおおおおお!っとダンジョンの罠やゴーレムの魔石やなにやらが、雷神のお腹のポケットに吸い込まれていった。


 俺は前世のアニメで見た、青っぽい丸いロボを連想するのだった。

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