第901話 各地を訪れる悪魔
俺達はハンヴィーを乗り捨てて、徒歩で西の村へと入った。この村の西の先にもう一つの村があり、その先に大きめの都市がある。その先はまだ未確認だが、山脈付近までは調べてみようと思う。魔人を駐留させて流通を差し止めるなら、ここかもう一つ先の村となるだろう。その為の状況視察なのだが、やはり俺達一行は目立つ。まあ既に敵にバレているから、バレようがバレまいが問題はない。問題はないのだが、この状況では調査など意味がなかった。
「人っ子一人、いなくなったな」
「そのようです」
ただ俺達はこそこそとはしていなかった。むしろ堂々と村に入り込んだのだが、俺達を最初に見かけた村人が言った。
「悪魔が来た!」
それからはあっという間だった。蜘蛛の子を散らすように村人が逃げ、家の中に入り込んでしまったのだ。ゴーストタウンと化した村を、俺達が進んでいくが物音ひとつしない。
「なんか感じ悪い」
「ご主人様に、なんという無礼」
「まあ、俺が偉い訳じゃないから無礼って事もないけどさ」
アナミスが言う。
「ラウル様。催眠で全ての人間をおびき出しましょうか?」
「いやいや。別に村人と敵対している訳じゃないから」
するとシャーミリアが、いきなりファントムをビンタした。
バシン!
「お前が恐ろしい顔をしているからだ! ウスノロ!」
「やめろってシャーミリア。ファントムは悪くないだろ」
「しかし!」
「まあいいって、でもよく俺達の顔が分かったよな」
「確かに、そうでございますね」
とにかく村をウロウロしていると、村の中心あたりの十字路に看板が立っている。
「これは…」
その看板にシャーミリアが手をかけようとしたので、俺がそれを制した。
「いい。このままにしとく」
「いえ。私奴どもはともかく、ご主人様はもっと美しいです」
「そう? こんな感じだとは思うけど?」
「断じてそのような事はございません」
看板には、俺とシャーミリア、モーリス先生、ラーズ、ミーシャ、オンジの手配書みたいなものが張り出されていたのだ。その似顔絵はかなり精工で、まるで写真と見紛う程。
「こりゃ、あの東の村付近の戦闘で、フェアラートたちと接触したメンバーだな」
「顔を覚えられて、このようなくだらないものを作ったのでございましょう」
「くだらなくもないよ。こんなに精工に書けるなんて才能がある」
「いかがなさいましょう?」
「いい感じだよ。相手がそう来るなら、俺達はうんと悪者になっておこうと思う」
「かしこまりました。理由をお伺いしても?」
「決まってる。将来この周辺の人間をアウロラの信者にする為だ」
「そのために必要なのでございますか?」
「俺達が悪魔の組織として、このあたりをがっちり牛耳るのさ。だけどそこに救世主として颯爽とアウロラが現れたらどうなると思う?」
「さすがでございます。そこまでお考えだとは」
「なんかね、敵が長い目で見て戦ってるでしょ? じゃあ俺もそうしようと思ってさ」
「素晴らしい」
シャーミリアとアナミスが尊敬の眼差しで見ているが、そんな大したことを言ったわけじゃない。
「だってさ。ユークリット王国もファートリア神聖国もほとんどの人間が殺されただろ。人間がガッツリ減らされたから、どっかで補充しないとゆっくりしか増えてかないじゃん。取られたものは取り返すってだけだよ」
「は!」
とりあえず、これ以上情報は取れそうにない。そう思いながら、村をぶらぶらしていると唐突に子供が通りに出てきた。悪魔が来ているってのに、大した勇気のある子どもだ。
「おっ?」
すると子供は思いっきり俺達に何か水のような物を振りまいた。シャーミリアがサッと交わしたが、俺はそのまま避けずにいるとズボンに水がかかる。
「これは聖水です」
「なるほど」
すると子供が言う。
「悪魔はでていけ!」
俺はしゃがみ込んで子供に言った。
「俺達がお前達を支配してやろう! お前達はただ神が助けに来るのを待ち続けるしかないのだ! 人の神アトム神こそが、我々の天敵となる。お前達はただアトム神に救いを求め、拝み続けるしかないのだ! 我々が恐ろしいのはアトム神のみ、それ以外の何物も恐れぬ!」
するとそこに母親っぽい人がきて、子供をバッと抱いて言う。
「お許しください! 子供のした事です! どうか命だけはお助け下さい」
「ふん! 貴様らの命など、何の足しにもならんわ! ただのゴミクズが気安く話しかけるな!」
「は、ははっ!」
母親と子供が地面に額を擦りつけて土下座した。
「ふむ。だが子供よ。お前は勇気があり、なかなか見どころがある。その勇気に免じて、この村の人間を殺す事はやめにする事にしよう」
「はっ、はは!」
「……」
俺達は颯爽とその場を去り、黙って村を出ていくのだった。
「素晴らしい名演技でございました! ご主人様!」
「いやあ…女子供相手にあんなこと言うの初めてだ。出来るだけ俺達が酷い存在だと意識づけしておいた方が、アウロラが救いに来た時ギャップがおっきいだろ? それだけ信仰心も強くなるかなと思って」
「そのとおりでございます!」
「素敵なお考えです」
村を離れたところで、ハンヴィーを召喚して乗り込む。それから先、俺はめんどくさくなりハンヴィーで直接次の村に行くが、そこでも全く同じような出来事が起きる。俺達が村に入った途端に、村人が家に隠れてしまったのだ。仕方がないので、村を適当に見て回るが特に何もない。
「むしろ好都合だ」
「「はい!」」
俺達はそのまま村を通過し、その先の都市に向かった。すると道の先に市壁が見えて来る。
「このまま行こう」
俺達はハンヴィーに乗ったまま、都市の正門へと近づいて行く。都市の門の前には行列が出来ており、俺達のハンヴィーが近づくと驚いて人々が道のわきへと飛びのいた。そしてそれらに構わずに門に近づいて行くと、門の前にずらりと衛兵が立ち並ぶ。
「止まれ!」
俺達はハンヴィーを止めた。すると衛兵たちが集まってきて、ハンヴィーを取り囲む。
「降りろ!」
「へいへい」
俺達がハンヴィーを降りると、一気に周りがざわついた。
「あ、悪魔!」
「でた!」
市民達が一斉に逃げ出し、衛兵が大声で叫ぶ。
「であえ! 悪魔が出た!」
門の中からぞろぞろと騎士が現れて来て、あっという間に俺達と対峙した。
さて、どうするか。
すると敵の隊長的存在が俺達に言う。
「馬鹿めが! 無防備にやって来るとは!」
「あー、俺達が何かしたっけか?」
すると騎士の一人が、バッと紙を広げてこちらに見せて来る。
「これが証拠!」
さっきの村々で見た手配書と同じものだった。どうやら何枚も刷ってばら撒かれているらしい。それはそれでなかなかの技術だし、北の国々とは比べ物にならないくらい発展している。
「あー、なるほど。で、どうするつもりだ?」
「大人しく捕らえられれば良し、抵抗すれば殺す。見ればただのガキじゃないか、貴族のような恰好などしおって! 悪魔風情が人間様の真似などおこがましいわ!」
ビキッ!
やっべえ。シャーミリアが瞬間でキレた。
シュッ!
次の瞬間、隊長格の男の背後に立ち首を斬り落とそうとしていた。
「止まれ!」
首に一センチくらい入ったところで止まった。プシュッと血が噴き出して来て、その男はその場に崩れ落ちてしまった。それを見た騎士達が一斉に剣や槍を構えた。
俺がその隊長の所に行って、デイジー&ミーシャ製のポーションをかける。するとすぐに傷は塞がり、そいつは這いつくばって後方に逃げた。そこに騎士達がやってきて、隊長を庇うように下がっていく。
「ご主人様への無礼。死をもって償うべきところだ! ご主人様の恩情に感謝する事だな」
「いったい…何をした」
ただ高速で近づいて爪を立てただけだ。だがこの場にいるどの人間にも見えなかった事だろう。
そこで俺は声高らかに言った。
「我は悪魔の王なり! 人間どもよ! 大人しく我の傘下に入るならばその命救ってやろう! もし抗うというのならば容赦はしない! 我が恐れるのはアトム神ただ一人! アトム神を信仰せぬ人間など恐れるに足らん!」
「アトム神?」
「人の神よ」
「ざ、戯言を! 束になってかかれ! 相手は四人だ!」
「アナミス」
「はい」
アナミスからスゥっと赤紫の靄が出て来て、あたりを包み込んでいく。すると騎士達はトロンとした眼差しになり、虚ろな顔でその場に立ち尽くした。
「笑止! 人間どもよ。我々はいずれこの地を手に入れる。お前らのようなゴミはアトム神にでも祈りを捧げて、救いを求めるしかないのだよ!」
そう言いつつも…。これくらいじゃ、まだ脅威にはならないな。
《ファントム。12.7㎜で旗を撃て》
《ハイ》
俺が12.7㎜M2重機関銃を召喚すると、ファントムは門の上に何本も立っている国旗めがけて乱射する。
ガガガガガガガガガガガ。
国旗が次々に落ち、人々はその轟音にその場にふせてしまった。
「次はお前達を殺す」
すると騎士達はじりじりと後ずさった。
「だが…今日の所は気分がいい。見逃してやろうではないか! 次は無いと思え! ふははははは!」
そう吐き捨てて、俺達はハンヴィーに乗り込み踵を返すように都市を離れるのだった。これで完全に悪と認識されたに違いない。敵がそう来るなら、俺達はそれに便乗するのみだ。
「上手くいった。長い目で見るとめっちゃやりやすくなった」
「そのようです」
「さすがです」
火神の差し金か、あのフェアラートの差し金かはしらんが、俺達を悪者として周知してくれていた。むしろ俺はそれに便乗する形で、敵の作戦を利用する事にしたのだった。
「むしろ敵は分かりやすく俺達を悪としてくれている。これはむしろアウロラにとって好都合だよ」
「アウロラ様も驚かれる事でしょう」
「まさか敵がお膳立てしてくれてるとはね、ありがたいばかりだよ」
「「はい」」
俺達はそれから西の地域のあちこちを周って、悪名を轟かせてきたのだった。もちろんアトム神の名前もさりげなく伝え、下地を作る事に専念する。
いやあ…だんだんとヒール役が快感になってきたんだけど。なんつうか、俺の芯を食ってるって言う感じがする。今まではそんな事考えもつかなかったが、ヒール役やってるとワクワクするんだけど。
「ご主人様。とても楽しそうでなによりでございます」
「えっ?」
「笑っておられました」
シャーミリアに言われ、俺はアナミスに確認を取る。
「そう?」
「はい。さきほどは鼻歌を歌っておられました」
気が付かなかった。どうやら俺はヒール役を本当に楽しんでいるらしい。だが確かに、嫌じゃなかった。アウロラの為という事もあるが、何故か人に恐怖を植え付ける事が楽しい気がする。
「ご主人様。痣が…」
「ん?」
俺は気が付かなかったが、俺の体に薄っすらと痣が浮かび上がっていた。こんな事は北の大陸で、バルギウス兵を大量虐殺した時以来だ。なぜそんなことが起きているか分からないが、何故か気分だけが高揚してくるのだった。




