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第897話 狙われたモーリス先生

 満を持しての炙り出し作戦は完全な失敗に終わった。俺達が撃ったジャベリンは確実に王都の市壁に着弾したものの、たった数発では都市に何の影響ももたらさない。その後、王都から距離を取りつつ、野に魔人を潜ませて状況を確認させていたが、敵に動きは無く一層警戒させてしまっただけのようだ。


「潜り込ませた兵士たちはどうなる?」


 どう? と言われても、連絡の取りようがなくなってしまったのでどうしようもない。モエニタ王都に入った途端に音信不通となってしまったし、緊急時の連絡手段は伝えたものの、後は適当に王都中に噂をばら撒けとしか言ってない。恐らく奴らは死ぬまで噂をして回るだろう。


「どうにもならないよブリッツ。彼らが自力で出てくる事は無いと思う」


「そうか」


「魔人たちに監視させているが変化はない。モエニタ王都は沈黙を続けている」


「なるほどね」


 ブリッツはそれ以上何も言わなかった。


「で、あの攻撃は何だったんですかね?」


 グレースが皆に向かって問うが、皆は首を横に振った。


「マリアが言った、中級魔法のバーストフレイムかも? くらいしか情報がないんだ。だがバーストフレイムって遠距離を飛ぶような魔法じゃないらしいし、飛んできた形跡もないんだ。何をされたのかすらも分からないよね?」


「ラウル様、よろしいですか?」


「なんだいマリア?」


「一旦、ここにモーリス先生を連れて来てはいかがでしょうか?」


「先生か…。先生に解析してもらうしかないかな?」


「そのように思います」


「他に方法はないかな?」


「ないんじゃないか?」


 皆が首を縦に振った。離れた所にいるにも関わらず、突然炎が爆発するような攻撃。まずはこれの原理を調査せねばならなかった。これではヘリや車両で接近する事も出来ないからだ。魔法の事はモーリス先生に聞くしかないと言う訳だ。


「モーリス先生を連れて来る。同じ都市にいるオンジさんとミーシャ、ラーズとルフラも一緒にな」


 そしてオージェが言う。


「了解だ。誰が迎えに行くんだ?」


「ヘリが必要だからエミルとケイナはマスト。ヘリの外を飛ぶ護衛として俺とシャーミリア、ヘリに乗っての護衛はファントムとカララ、ヘリを降りてからの運搬役はゴーグだな。面子を見てもらったら分かるが、スピード重視で最速で行くぞ」


「「「は!」」」

《ハイ》


「モエニタ王都周辺の哨戒には、ガザムとマキーナを置いて行く。そして万が一の防衛はギレザムとオージェにお願いしたい」


「「「は!」」」

「了解だ」


「マリアとブリッツとグレースの警護は、ルピアとアナミスがやってくれ」


「「はい」」


「わいもおります」


「いや、トライトンとセイラは王都周辺の河川で敵を監視してほしい」


「わかったです」

「はい」


「マリアは常にスナイパーライフルを携帯、遠距離の敵を常にマークしろ」


「はい」


 するとグレースが言う。


「じゃあ僕は、適当にゴーレムを森林地帯に忍ばせておきますね」


「よろしく頼むよ」


 そして俺はすぐに、めいっぱいの武装を召喚し皆に渡して行く。いつ敵が出て来てもおかしくない状態なので、のんびりはしていられないだろう。


「グレース、ヴァルキリーとバーニアを出してくれ」


「わかりました!」


 出てきたヴァルキリーを装着して俺が皆に告げた。


「じゃあ行って来る」


「気をつけてな」


「ああ、オージェ。頼む」


「任せろ」


「ゴーグは、エミルとケイナを背中に乗せてくれ」


「はい」


 ゴーグが一気にオオカミ形態になり、伏せの状態になるとエミルとケイナが乗った。


「よし! ダッシュで行くぞ」


「「「は!」」」

《ハイ》


 そして俺は走りながら、東の都市で待機しているラーズに念話を繋いだ。


《ラーズ。悪いが作業中断だ。こちらで人員が不足した。既に俺達が迎えに行くから、モーリス先生を含め、全員を連れて西へ向かえ。荒野を走れば湿地帯に出るはずだ》


《は!》


 俺達は猛スピードで、山を駆け降り元来た方角へと走り出す。面子が面子なので、あっという間に山を下る事が出来た。空を見れば、ヴァルキリーの飛翔ユニットが空を飛んでついて来ている。森林地帯の木々を抜けて走り続けると、すぐに湿地帯が見えてきた。


《ラーズ。今どのあたりだ》


《恩師様の準備が終わり、都市を出た所です》


《急いでくれ》


《は!》


 確かに急すぎる要請で、身辺整理だけでも手間どったのだろう。湿地帯を抜けると足場が多少良くなったために速度が上がる。このまま行けばかなり早い段階で遭遇する事になるだろう。


「エミル! 振り落とされるなよ!」


「必死だよ!」


 エミルとケイナが、物凄い形相でゴーグの毛皮にしがみついていた。風圧で飛ばされそうになっているが、それでも俺達は速度を緩めなかった。


 だが唐突にラーズの方から慌てた声で念話が入る。


《ラウル様! 敵襲です!》


《なに!》


《ゼクスペルと思しき者と、鎧を来た連中です!》


 くっそ。もしかしたら、ラーズ達が都市を出るのを待っていたのか? むしろ迎えに出ていてよかったかもしれん。


「聞いた通りだ! 俺とシャーミリアが先行する!」


 すると念話が聞こえないエミルが聞いて来る。


「どうした?」


「ラーズ達が襲撃を受けている!」


「そっちが狙われたのか?」


「そのようだ。ファントムとカララとゴーグは、このままエミルとケイナを守れ」


「「は!」」

《ハイ》


 俺は飛んでついてきていたバーニアを背中に装着し、シャーミリアと共に高速飛翔で東に飛ぶ。出来得る限りの最高速を出すが、シャーミリアの方がまだ早い。


《シャーミリア! 先行しろ!》


《は!》


《先生を守れ!》


 ドン! とシャーミリアが目の前から消えた。俺も最高速度を維持しつつ東へ向かう。


《ご主人様。敵と接触しました! 装備を換装なさってください!》


《了解だ》


《私奴が先に敵を倒します!》


《ダメだ! 先生の護衛に専念しろ!》


《は!》


 そして俺の視線に、荒野で戦う集団が見えてきた。煙が上がっており、地表が燃えているようだ。すると今度はルフラから念話が繋がる。


《恩師様より通達。爆撃の雨を降り注げ! との事!》


《そんなことをしたら、先生やミーシャが!》


《結界を最大限にはるとのこと》


 先生は俺を信じて指示を出してくれている。恐らく武器のチョイスも含めての指示だ。


 俺は武器データベースから、特殊貫通弾 バンカーバスターを選別して召喚した。ここでは大量に殺傷するような、サーモバリックは使えない。それを使えば先生たちも巻き添えにしてしまうからだ。バンカーバスターとは装甲や地表を貫通して潜り、地中で爆発する爆弾だ。


 バシュッ! バシュッ! バシュッ!


 バンカーバスターはロケットブースターを噴射させて、一気に敵の居る方へと落ちていく。


《シャーミリア! ラーズ! ルフラ! 先生とミーシャとオンジを全力で守れ!》


《《《は!》》》


 敵の間をすり抜けて、地中に刺さり込んだバンカーバースターは地面を盛り上げつつ爆発していく。これならば先生たちが爆風にさらされても、魔人達がどうにかするはずだ。地表に派手に巻き上がる土煙をゼクスペルは自らよけ、鎧を着た者達はその勢いのままに吹き飛ばされた。


 敵の攻撃がやんだところで、俺はモーリス先生の結界の前に降りた。


「先生! お待たせしました!》


「ラウルよ! よく来てくれたのう!」


「まさかこちらが狙われるとは思ってもみませんでした」


「おかしな敵じゃ、気を付けた方がよいぞ!」


 するとラーズが俺に告げる。


「鎧の連中は銃が効きません!」


 彼らが今皆が使っているのは、パラベラム弾を装填した銃だった。すぐに新しい武器を召喚する。


「ラーズ! シャーミリア! これを使え!」


 俺は徹甲弾を装填した、ブローニングM2重機関銃をラーズとシャーミリアに渡す。


 ミーシャが俺に言う。


「あの鎧は、相当分厚いです。それなのに、なぜあんな機動力があるのか分かりません」


「恐らく、魔道具だ」


「魔道具?」


 すると敵兵がバンカーバスターで地面に空いたクレーターを避けつつ、こちらに向かってきた。


「しかも火を吐きます!」


 ミーシャが言っているそばから、鎧の兵士達の手からゴウゴウと火炎が射出された。先生の結界でどうにか守られたが、いつまでもは持ちそうにない。


「シャーミリア! ラーズ! 撃て!」


 俺とラーズとシャーミリアが構え、12.7㎜ブローニングM2重機関銃が火を噴いた。


 ズドドドドドドド!


「うお!」

「さ、散開!」

「いや! 防御陣形を!」


 鎧の連中が徹甲弾を装填した機関銃に貫かれ、慌てて防御態勢を固め始める。するとその後ろからゼクスペルの三人が現れた。


「魔神! また性懲りもなく出たか!」

「今、ここで死ね!」

「燃やし尽くしてやる!」


 するとミーシャが俺に言った。


「ラウル様。RPGをご召喚下さい!」


 俺がすぐRPGを召喚すると、ミーシャが俺に弾頭を手渡してくる。


「これを火の連中に撃ってください!」


「わかった!」


 ボシュ―! とRPGから弾頭が射出されて、真っすぐにゼクスペルの一人に飛んでいく。


「こんなもの!」


 そいつが飛んできた弾に向けて、バッと火を放つとその弾頭が青色に輝いて破裂した。ブシャー! と何かがあふれて、スプリンクラーの様にゼクスペルに降り注いでいく。するとゼクスペルが慌てた声を出す。


「な、なんだこれは!」


 一人のゼクスペルが見る間に凍り出したのだ。


「もう一発!」


 俺が言うとミーシャが答える。


「ラウル様。手持ちはもう一発で終わりです」


「わかった!」


 俺は撃たれて足止めを食っている鎧兵を横目に見ながらも、ゼクスペルの位置を確認する。


「いた」


《シャーミリア。外したくない、上空からゼクスペルにスタングレネードを降り注げ》


《は!》


 シャーミリアが瞬間的に飛翔し投下したスタングレードが、ゼクスペルの周辺で炸裂し眩しく光る。それと同時に俺はRPGを撃った。弾頭が真っすぐに飛んでいき、焦ったゼクスペルの一人がそれを撃ち落とす。バシュー! と一気に液体が広がって、ゼクスペルが凍り始めた。


「よし!」


 すると次の瞬間。凍り付きそうなゼクスペルの隣りに突然人が現れた。


「まったく…好機だと思えば、魔神の奴はまた邪魔をしてくれるものですね」


 それはブリッツの村で見た、グレーのロン毛イケメンだった。一瞬、女の様に見えるが、声は低いので男だと思う。


 だがそれを見て意外な所から声が出た。


「なっ! なんじゃと!」


「おやおや。先生、お久しぶりです」


「ふぇ、フェアラート!」


「弟子の名を覚えておいででしたか」


「なんじゃ! なぜお主がこのような所に!」


「まったく。あなたはこんな齢になっても、まだこんなことをなさっているのですか?」


 えっ! なに! ロン毛とモーリス先生が知り合い! 嘘だろ!


 周辺では火炎と銃弾が飛び交う中、モーリス先生とフェアラートと呼ばれたグレーのロン毛がにらみ合うのだった。

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