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第895話 想像を超えた魔道具の数々

 俺達は周辺地域の村々を周り、王都の魔道具が金になると商人達に吹き込んでいく。だが東部や北部から仕入れに来たと言えば売ってもらえない為、必ず西か南から来たように偽装するよう仕向けた。


 これまで門前払いを受けていた商人達は、喜んで俺達の企みに乗って来る。王都で顔が割れている者には、使用人や代行業者を雇い入れてやるように伝え、俺達が用意した冒険者達を護衛につける事で、使用人や代行業者が不正を働かないようにしてやる。


 王都に行った時には自分らの商品を自由に売っても良く、買い付けてきた魔道具は購入時の倍の値段で買い取ってやると伝えた。余った物は自分らの町に持ち帰ってもいいし、さらに珍しい魔道具はもっと高値で買い取ると吹き込む。その事で、より高度な魔道具を探させるモチベーションを高めるようにしたのだ。


 また洗脳を受けた冒険者には、北方から軍隊が来ていてじきに攻めて来ると噂を流させ、じわりじわりと浸透させて、軍事作戦開始に向けての下地を作っていくようにした。


 数日経つと第一弾の商人達が戻って来たので、買い付けて来た魔道具を買い取る。どれもが日常生活で役に立つものばかり。とりあえず全部を買い取ってやったが、まあまあの値段になる事が分かった。そして、その魔道具を駐屯地に持って来て並べる。


「こりゃ間違いないな、オージェ」


「だな。火神は間違いなく転生者だ」


 そこに並ぶ魔道具は、前世で見た事のあるようなものが並んでいる。


「だけど見慣れないものもある。特殊な機器かな?」


「こりゃなんだ?」


 オージェが魔道具を手に持つと、ブリッツがそれを見て言った。


「恐らく予想だけど、それはエアフライアーだな」


「エアフライアーってなんだっけ?」


「フライドポテトやフライドチキンを作るものだよ」


「そうなんだ。これはなんだ?」


「スタンドミキサーだろうね」


 そしてグレースが手に取って言う。


「これはコーヒーメーカーですね。まさかこの地方にはコーヒーがあるんでしょうか?」


「ふむ」


 それらの魔道具を見てブリッツが腕組みして考え始める。そして答えはすぐに出たようだ。


「君らが違和感があって、僕に違和感がない。恐らく転生者はボクと同じ国から来たと推測されるよ」


「アメリカ?」


「ああ。アメリカの家庭には大抵置いてある家電だからね」


「エアフライアーにスタンドミキサー、コーヒーメーカーなら日本人でも使っている人はいたよ」


「僕が注目したのはこれさ」


 そう言って、ブリッツがデカめのボトルのような物を持ち上げる。


「なにそれ」


「ディスポーザーだよ」


「ディスポーザー?」


「台所で生ごみを粉砕して捨てるものさ」


「「「ええっ?」」」


 俺とオージェとエミルが驚く。だがグレースだけはさほど驚いておらず言った。


「留学の経験があるから分かるけど、結構な家庭にこれはあるよ」


「そうなんだ」


「かなりの高確率でアメリカ人だね」


 ブリッツが言うには、どうやら火神はアメリカ人転生者の可能性が高いようだ。だが俺はもう少し突っ込んで聞く。


「でも決定打が無いと思う。確実にそうと言い切れるものはあるかい?」


「あるよ。火神は自国の民を大事にしているようだけど、逆に北では大量虐殺などを行ったよね」


「だからって」


「いや、もちろん僕の年代ではないし、君ら年代でも覚えていないだろうけど、日本人ならわかるよね? 第二次世界大戦を思い出してみて」


 そう言われてオージェが言った。


「本土決戦」


「そう。東京の絨毯爆撃や、それよりも恐ろしいヒロシマがあるだろ?」


「確かに」


「更に現代で言えば中東や他国を空爆した。だけど自国はテロくらいでしか攻撃されていないだろ?」


 俺達は黙った。平和な日本に住んでいて全く経験した事のない事だ。むしろテロとかはFBI捜査官だったブリッツの方が身近なものだったろう。


 するとブリッツが続ける。


「おそらく火神は間違った考えを持つアメリカ人の可能性が高い。そしてもしかすると我々の年代とは違うかもしれないが、僕のプロファイルでは火神は戦争経験者だ。そしてアメリカ至上主義の考えを持つ者か、もしくは現代の弱腰外交のアメリカに不満を持っていた者だろう。恐らくは後者、狂信的なアメリカの人間である確率が極めて高いよ」


「ブリッツ。火神が敵対国の人間だった可能性は?」


「その可能性も考えていたが、この魔道具を見て確信したよ。敵は僕と同じアメリカ人だ」


 離れた場所にいながら、遠い他国でドローン爆撃をする。もちろんその理由に正当性をつけてはいるものの、違う国から見れば全く正当性が見当たらなかったりする。だが狂信的にそれらを全て正しい事だと信じるアメリカ人がいてもおかしくはない。


 ブリッツに言われて思い起こしてみると、ユークリット王国は第二次世界大戦で言うところの日本。グラドラムはさしずめ中東あたりか、ヨーロッパで代理戦争を行う国と考えられなくもない。


「なるほどね。もしかすると国を世界一強くするために、敵がいないうちに覇権を広げようとしたのかもしれないな」


「そうだね。この世界の文明が、中世あたりのレベルしかないうちに勢力を拡大しようとした。そんなところだと思うよ」


「結構、クソな転生者って事だ」


「まあ。そうなるね、だが珍しくもないさ」


 おれがエアフライアーを持ってじっと見る。いずれにせよこれらは魔人国には無い物ばかりだ。


「市販レベルまで来るのに、一朝一夕ではいかないよな」


「ラウル君の言うとおり。恐らく火神は僕らよりだいぶ早く転生してきていると思うよ」


 まあそうだろう。俺達が転生ポヤポヤの赤子の時に、北大陸に軍勢を集めて攻めてきているんだから、俺達と同じタイミングで転生して来たとは思えない。しかもファートリア神聖国やバルギウス帝国を使って、代理戦争を仕掛けてきている。俺達が生まれた頃には、国家レベルで政治的な接触をしてきているという事だ。


 言われてみれば、まさにって感じか。むしろ今まで気が付かなかった俺達の方がどんくさかったか? 思い起こしてみれば、俺達が生まれた頃からそうだったって事だ。この世界に来て三歳の俺には気が付きようがなかった。


「めっちゃ厄介」


「ラウルの言うとおりだ」


「迷惑な奴だ」


「そうですよ。わざわざ異世界に来てまで戦争します? 人魔大戦から二千年かけて、せっかく平和な世界になってと言うのに、わざわざ火種を起こすなんて」


 俺達の言葉を聞いてブリッツが言う。


「しかも各神の存在を既に知っていて、ラウルさんやグレースさんに手を伸ばして来た。様々な神を見つけて手中に収めようとしてきたが、そのことごとくをラウルさんに奪われた」


「そう言う事だろうな」


「武器召喚がチート過ぎて、あっという間にそれを塗り返してしまったという事でしょう」


 なるほどね。流石はブリッツだ、全ての説明に辻褄が合っている。


「でもどうして、俺達は召喚されたんだろうか?」


「それは僕でも分からないよ。ただ何者かの意思が介在している気はするよね?」


「何者かの意思?」


「いや、こればっかりはプロファイルは関係ないよ。ただの僕の推測だと思って聞き流してほしい」


「言って見てよ」


「まああくまでも推測だけど、何らかの理由で火神が転生して来た。それでこの世界のバランスが崩れそうになった。その均衡を保つために、同じ向こうの世界から僕たちが呼ばれた。とか?」


 めっちゃ説得力ある。本当にそうなのかもしれないと思ってしまうが、あくまでも推測と言っていたので信憑性はない。俺達が静かに考えていると、ティラから念話が繋がる。


《ラウル様~! 商人が戻りましたよ》


《了解。すぐ行く》


 俺は皆に向かって言う。


「ティラが潜伏している村に商人が戻って来た。ちょっと行って来る」


「おう。行ってこい」


 俺はヴァルキリーを着て、シャーミリアと一緒に飛んだ。既に各村に魔人を潜伏させており、今回はティラとカララが潜伏している村に商人が帰って来たらしい。俺とシャーミリアは、高速飛翔であっという間に現地に到着する。村に到着した俺はバーニアを外し、冒険者として村に潜入した。


「ティラ! カララ!」


「ラウル様」

「お待ちしておりました」


「商人は?」


「それでは参りましょう」


 なぜかここに商人はおらず、俺達は別な場所に連れていかれる。俺達が通された先には小屋があり、俺達はその中に通された。


「ここに何があるの?」


「ぜひ見てみてください」


 俺の目の前には鉄の箱のようなものがあり、隣で商人がニコニコと笑っていた。確かにもっと凄い魔道具を持ってきたら高値で買うと言っていたので、買ってもらえると思っているのだろう。


「これはこれは! ぜひ見てください!」


 てか見なくても分かる。だが俺は一応その鉄の箱を開いた。


「なるほど」


 冷蔵庫だ。


 まあ買い取ると言った手前、値段をつけてやらねばならない。ここまで運んで来るだけでも大変だったろうしな。ただ一つ言うと、これは物凄く便利だ。電気が無くても冷え続けるというのは前世でもあり得ない機能だ。


「三倍で買い取る」


「ありがとうございます!」


 俺は料金を商人に渡して、質問をした。


「これはどうやって手に入れた?」


「はい。王城から流れてきたようで、中古品との事ですが機能としては問題ないとの事でした」


「王室御用達ってわけか」


「はい」


「これを欲しがる金持ちもいるだろうに」


 すると商人が少し困ったような顔をする。


「どうした?」


「いやあ…。実は余った魔道具を村で売ろうとしたのですが、なかなかに買い手がつきません」


「なんで?」


「得たいがしれないと申しますか、必要じゃないというのです」


「どこで売ろうとした?」


「辺境の田舎の村です。大きな都市では買い手もつくようですが、なかなか田舎者には価値がわからないようでございます」


「なるほどね」


「はい」


 まあ末端まで普及するのはまだまだ時間がかかりそうだ。


「じゃあこれをもらって行く」


「どうぞどうぞ」


 三倍の金をもらった商人はホクホク顔で言う。


「シャーミリア。運び出してくれ」


「は!」


 そしてシャーミリアは軽々と冷蔵庫を担ぎ上げた。それを見た商人は目を点にして唖然としている。かまう事無く、俺についてシャーミリアとカララとティラが小屋を出てくるのだった。


 外に出るとティラが聞いて来る。


「ラウル様が探しているのはこう言う物ですか?」


「違う。これは軍事的なものでもないし、一般家庭で使う物だ。だがこの冷却の魔法陣と箱の構造は使えるぞ。持ち帰ってバルムスに調査させよう」


「役に立つ?」


「もちろんだ」


「やったあ!」


 ティラが屈託のない笑みを浮かべて喜んでいる。俺がティラの頭をポンポンと撫でてやると、ゴロゴロと俺にまとわりついて来た。それを見たシャーミリアが、ティラに言う。


「ティラ。不敬ですよ」


「いいじゃないかシャーミリア。頑張ったんだから、褒めるのは当然だぞ」


「は! 失礼いたしました」


 だがここまでの魔道具が完成しているとなると、恐らく軍事転用した魔道具や車両が作られている可能性だってある。


 郊外に出て来た俺は、ティラとカララに言う。


「じゃ一旦帰ろう。ヘリコプターを召喚するよ、ティラが操縦を頼む」


「はい」

「かしこまりました」


 俺がUH-60 ブラックホーク 戦闘ヘリを召喚した。その後部にシャーミリアが買った冷蔵庫を積み込み、ティラとカララがブラックホークに乗り込んだ。


「俺達が護衛する。モエニタ王都に近づかないように、東回りで行くんだ」


「はい!」


 そして俺達は魔導冷蔵庫を積み込み、駐屯地へ向けて出発するのだった。

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