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第893話 人知れず魔法使いを守る方法

 俺達はギルドエントランスに入り、冒険者達に紛れてギルドの様子を伺っていた。


 アナミスが言うには、ギルド員たちが魅了にかかっているようだが、ここから見る限りでは通常業務を淡々とこなしているように見える。冒険者もギルド員も、ちらちらシャーミリアとアナミス両名を見ていた。ヴァルキリーも目立つと思うが、二人のおかげで霞んで見える。


《俺達は目立つな》


《いかがなさいましょう》


《なんで、ギルド員に魅了かかってんだと思う?》


《申し訳ございませんご主人様。わかりかねます》


《下手に魅了を解くと、敵にバレるよなあ》


《はい、ラウル様。そうだと思われます》


 とりあえずシャーミリアもアナミスもギルド員たちの異常には気が付いているが、どうするかは俺次第というところだ。


《冒険者に魅了は?》


《今の所はおりません》


 見る限り、今ギルド内に居るのは等級の低そうな冒険者ばかりだ。


《とりあえず。仲間になった冒険者を探す?》


 だが噂をすれば影、入り口に冒険者のサンがやってきた。その後ろから仲間達がぞろぞろと入って来る。俺達を見つけて、そいつらが手を上げた。


 俺の方から声をかける


「サン、疲れは取れたかい?」


「バッチリさ。昨日は英気を養ったからね」


「ちょっと話があるんだがいいかな?」


「わかった」


「場所を移したい」


「ああ」


 俺達は冒険者を連れて外に出た。空地のような場所があり、大きな石がゴロゴロしていたので俺はその一つに座る。冒険者達もそこらへんに座った。


「どうした?」


「魔法使いが消えているのは知ってるよな」


「ああ」


「それをギルドには言ったか?」


「もちろんだ。調べてみるとは言っていたが、その後は特に何もない」


 だろうね。


「実は、この村でとんでもないことが起きている」


「とんでもないこと?」


 俺は冒険者をおいでおいでして集めた。頭をつきあわせてぼそりという。


「魔法使いは失踪してるんじゃない。どこかに連れ去られているんだ」


「なんだって!」


「しっ! どこで誰が聞いているか分からない、大きな声を出してもらっちゃ困る」


「わ、わかった…」


 サンは声を小さくした。そして俺が言う。


「君らの前の仲間も恐らくは連れ去られたと思う。そしてもしかしたら、ギルドが何かを知っている可能性があるんだ」


「本当か?」


「消えたのをこの目で見た」


 すると新人魔法使いの女、フレイがちょっと驚いた顔で言った。


「あの! 実は私も噂を聞いたことあります」


「噂?」


「人が突然光って消えたとか。でも頭がおかしいなって思ってたんです。人が消えるわけないから」


 そう言う事か。転移魔法陣が無いこの世界では、人が忽然と消えるなどあり得ないのだ。そう言われたところで、それが本当だとは思えないだろう。


「誰から聞いた?」


「近所の武器屋の主人から」


 おお! 武器屋! なら嘘はつかない!


「案内してくれるか?」


「はい」


 俺達はフレイに連れられて、さびれた武器屋に来た。フレイが入って行くと、主人が声をかけて来る。


「おっ! フレイじゃないか。やっと武器を買いに来たか?」


「あの、ごめんなさい。ちょっとこの前の話を馬鹿にしちゃったから」


「ああ、あの話か」


 武器屋は苦笑いした。


「うん。もう一度仲間に聞かせてもらいたいんだ」


「いいが、どうせ信じねえだろ?」


「ううん。同じことを言っている人を連れて来たから」


 フレイが言うと、冒険者や俺達を主人が見た。そこで俺が手を上げて言った。


「俺も見た」


「あんたもか…」


「突然消えた」


「そうか。俺もそれをみたんだ」


「どんな状況だった?」


「あれは俺が飲んで遅くなった日の夜だった。まあ下品な話だけどよ、路地裏の陰に入って立小便をしてたんだよ。すると話し声がするじゃねえか、女の声だったから立ちションなんてしてる俺が出たら、騒がれそうだろ? だから用足しが終わってもじっとしていたんだよ。ところが女達は俺が見ている前で、光に包まれて消えちまったんだ」


「それを誰かに言ったかい?」


「もちろんだ。事件だと思った俺はギルドに報告したんだ。アイツらは処理しておくなんて言っていたが、その後はどうなったか分からない。そのあと話したのはフレイだけだ」


「おそらくそれが賢明だ。ギルドも関係しているようだ」


「やっぱりそうか…変だと思ったんだよな」


 その話を聞いていた冒険者達が、ざわざわとしているが俺はかまわず話を進めた。


「ギルドと主人はどんな関係が?」


「ああ。武器を引き取ったり、壊れた武器の修理を依頼されたりだな。店頭だけでは商売にならないからな、あとはダンジョンで見つけた武器や魔獣から入手した武器の手入れとかな」


「そりゃ大切な仕事だ」


「だろ?」


「ギルドにはいつ行く?」


「毎日、夕方には行くぜ。なにせ冒険者が武器を壊して修理に出したり、武器を回収してくるのは夕方だからな」


「ちょっと大事な話がある」


 そう言って俺は、この村で起きている失踪事件の事と、ギルドが関与しているかもしれない事実をもう一度話し、更にこのまま放置しておくと新たに次の犠牲者が出る事も伝える。


「そいつはいただけねえな」


「だろ?」


「ああ」


「なのでギルド職員のルーティンを教えてくれ。彼らはいつ仕事を終えて、家に帰るのはいつごろとか、ギルドマスターの事とか」


「わかった」


 俺は武器屋からギルドの内情を聞き出す。俺達が強制的に魅了を解いたりすると敵に感づかれるかもしれないから、とにかくギルド職員には触らずに、冒険者達にここの真実を知ってもらいたい。冒険者達が突然騒げばそれも敵に感づかれる可能性があるから、うまく運ばねばならないのだ。


 その話を一緒に聞いた冒険者達にも言う。


「仲間達の危機だ。俺達でなんとかする必要がある。恐らく標的になっているのは銀等級以上の魔法使い。君らもそうだが、他のパーティーにも協力してもらわねばならない」


「わかった」


 やる事は簡単で、ギルド職員が手薄になっている間に冒険者達に事実を教える事だ。だが冒険者も容易には信じないだろう。ならばやる事は一つ、ギルド員が魅了にかけられているなら、俺達は冒険者を洗脳してしまう事だ。危機感を植え付けて心から信用するように仕向ける。


 俺は武器屋の主に言う。


「悪かったね。場所を借りてしまった。何か武器を買わせてもらうよ」


「いいって。この村の冒険者の為に一肌脱ごうって言うんだろ? 俺の話が役に立ったのならそれでいいさ。しかしそこの人の鎧は凄い物だな」


 武器屋はヴァルキリーを見て言う。中は空っぽなのだが、話しかけているので俺が代わりに答える。


「彼は無口でね。立派な鎧だろ?」


「ああ。初めて見た。俺にはそのすごさが分かる」


「そうかい?」


「ああ。そりゃとてつもないもんだ。まあ詮索はしないけどな」


 やっぱり武器屋ってのは良い人だ。でもそれでは俺の気がすまん。


「シャーミリア。好きな剣を選べ」


「は!」


 シャーミリアは店にかかっている、鋭そうな剣を指さした。それを見た武器屋の主人が言う。


「ほう…その剣を選ぶかい? 見る目は良いが、その剣は使い手を選ぶぜ」


 見た感じは何の変哲もない剣だが、俺がそれを手に取ってみる。それは思ったより重くて片手で振るには厳しそうだった。


「重いな」


「そこの華奢なおねえちゃんには重すぎるんじゃねえかな?」


 俺がそれをシャーミリアに渡すと、膝をついて俺から受け取った。


「シャーミリア。剣を振って見ろ」


「は!」

 

 シャーミリアが左手でその剣を持った瞬間だった。ピュンッ!ピュンッ!ピュンッ!と目にもとならぬ早業で振り回す。まるでレイピアを振り回してるかのようだ。


 それを見た武器屋があっけにとられる。


「ほへ?」


「これをもらうよ」


「は、はは…いったいどうなってんだい」


 そして俺は主人に金貨を五枚渡した。


「いやいや。こんなに貰えねえよ! せいぜい金貨一枚だ」


「取っておいてくれ。情報量だ」


「大した事は教えてねえけどな。まあありがたく頂戴しておくよ」


「世話になった」


 そう言って俺達は武器屋を後にした。俺は仲間達に言う。


「派手に動くとおかしいと思われる。ギルドが手薄になった時に、職員の目を盗んで他の冒険者に声をかけてくれ。とにかく一人でも多くの冒険者を外に引っ張り出してほしい」


「わかった」


「冒険者はこの空き地に連れてきてくれ」


「了解だ」


 そして俺達は空き地で待つことにした。仲間達がギルドに向かい、しばらくすると冒険者を連れてくる。見た感じは新人冒険者のようだ。


「新人?」


「はい」


「ちょっと聞いて欲しい話があるんだ」


「わかりました」


 アナミスがすぐに洗脳をして、転移魔法陣の存在を信じ込ませる。十分注意するようにと他の魔法使いにもそこはかとなく伝えてほしいと言った。そいつらを信じ込ませ、しばらく待っているとまた新しく冒険者がやって来る。俺はサンに聞いた。


「ギルド員には怪しまれていないかい?」


「交代の時間とか、依頼の受付などをやっている時を狙っている」


「よし。引き続きお願いする」


「ああ」


 俺とアナミスは連れて来てもらった冒険者を再び洗脳した。もっと大々的にやった方が速いが、俺達は三人しかいない以上、あまり派手に動くのは得策じゃない。それから夕方まで何度も冒険者を連れて来てもらっては、洗脳を続けかなりの人数に転移魔法陣の事を吹き込んだ。ここまでやれば洗脳されて無い奴らの耳にも、否が応でも入って行くだろう。


「これで少しは敵の妨害が出来たかね?」


「ご主人様の思った結果がもたらされる事と思われます」


「まあ十分とは言えないけどな。あとは自分達で何とかしてもらうしかないだろうね」


「はい」


 俺達はサンたちにも、銀等級の魔法使いを保護するような動きを取るように伝え、別れてアジトに戻る事にした。どうやって気を付ければいいかという問題もあるが、なるべく銀等級の魔法使いから目を話さない事が大事だ。


 アジトに戻って一夜を過ごし、俺達は商人と合流する。商人は昨日一日で急ぎ仕入れを行ったらしく準備は出来ていた。そしてすぐに商人達の洗脳に移る。モエニタ王都に危機が訪れているという事を流布し、王都の人間を少しでも減らすために。


 おれが商人に手を振って言う。


「じゃあ、王都まで気を付けて!」


「ええ。いろいろとありがとうございました」


 ありがとうか…。むしろ俺が物をもらっただけだけど。


「よろしく頼むよ!」


「はい」


 商人達を見送って、俺はシャーミリアとアナミスに言った。


「同じことが近隣の村でも起きているかもしれんな」


「どうなさいます?」


「一度、皆の所に帰ろう。俺達だけでは人手不足だ」


「「は!」」


 そして俺達は、仮初の仲間になった冒険者達に分かれも告げずに村を出た。村から離れたところで、ヴァルキリーを着こみ飛行ユニットを呼び出す。飛行ユニットを換装した俺は、一路オージェ達が待っている駐屯地へと飛ぶのだった。

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