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第888話 偽りの仲間

「ありがとう鎧の人! そして、そちらの美人さん達!」


 冒険者のリーダーが俺達に礼を言う。


「みんな無事でよかったね」


 俺が手を差し伸べると、リーダーが握手をしてきた。そしてリーダーはぽつりとつぶやく。


「でも、おかしいな…」


 完全に活動を止めたスカルウォーリアーを見て、冒険者達も首をかしげている。とにかく死んだんだからいいじゃねえか、と思って何が疑問なのかを聞いてみた。


「何かおかしかったか?」


「いや。なぜ核を破壊していないのに活動を止めたんだろう? あれはアンデッドだ」


 あ、マズい。


「シャミコ! 核が壊れてないか確認してくれ」


《シャーミリア! たぶん壊れてないから、ぶっ壊して引き抜いて来い》


《は!》


 シャーミリアがスカルウォーリアーによじ登り、ズボっと胸のあたりに腕を突っ込んで砕けた魔石を取り出す。それを見ていた冒険者が唖然とした。


「ま、まてまて! いまスカルウォーリアーの外骨格を腕で貫いて無かったか?」

「確かにそう見えたな」


 えっ? これ、そんな硬いの? 死神ダンジョンのアンデッドの方が硬かったと思うけど。


《シャーミリア。あらかじめ穴が開いていたと言え》


《は!》


「どうやら攻撃で胸に穴が空いていたようですわ。おかげで簡単につかみ取る事ができましたの、きっと誰かの攻撃が命中したのでしょう」


 ちょっとシャーミリアの言葉遣いが微妙だが、冒険者達は頷いた。


「だよなあ。まさか素手でスカルウォーリアーの外骨格を貫けるわけがないよなあ」

「たぶんここからじゃよく見えなかったんだろ」


 冒険者達は都合よく解釈してくれたようだ。だが魔石を砕いてしまったのはもったいなかったかも。持って帰れば何かの足しにはなったかもしれない。まあ砕いたんだからいらないけどね。


 俺の思念を読み取って、シャーミリアが砕けた魔石をポイッ! とぶん投げた。


「なっ、捨てるのか?」


「ええ」


「魔石がいらないのなら、スカルウォーリアーの素材を持っていってくれ。あんたらのおかげで倒せたんだからな」


 え、いらないんだけど。なんにも使い物にならないだろ。


「不要だ」


「不要?」


「俺達はたまたま通りかかって助けただけだ。元はと言えばあんたらの得物だろ」


「そうはいかない。スカルウォーリアーの武具はそこそこ貴重なものだ」


「本当に要らん。みんなで分けたらいい。それより皆が怪我をしているようだが、見てやらなくていいのか?」


「後衛の魔術師がやられたんだ。回復する方法がない」


 そりゃ大変だ。


「アナ! 怪我人に回復薬をかけてやってくれ」


「はい」


 アナミスが数本のデイジー&ミーシャ製のポーションを取り出した。そして、怪我人にポーションをふりまいて行く。すると瞬く間に傷が消えて怪我が回復していくのだった。


「なに? 回復したぞ!」

「かなり高級なポーションじゃないのか!」

「こんなところで使っていいのか?」


「いい!いい! 困ったときはお互い様!」


「しかし」


「良いって!」


 すると奥の怪我人を見ている奴が言った。


「コイツはもうダメかもしれん」


 冒険者が言う。俺がそこに行くと、手と足がちぎれかけ腸がはみ出している奴がいた。まもなく死にそうなので、俺は急ぎエリクサーを取り出してどぼどぼとふりかける。すると見る見るうちに欠損した部位が戻り、あっという間に怪我が治っていく。流石はデイジー&ミーシャ製のエリクサーだ。


「嘘だろ…」

「そんな高額な薬…」

「伝説の薬じゃないのか…」


 ヤベえ。俺達が普通に使う薬は、普通の冒険者からしたらかなりチートだったらしい。普通の冒険者に合わせるって言うのが、めっちゃ大変だという事を理解する。


「あー、この人死にそうだったからね。これは、その昔ダンジョンを攻略した時に拾ったんだ」


「そんな貴重な薬を、こんなところで使って良いのか?」


「死んだら元も子もない」


「す、すまん」


 なんとなく怪しまれているような気もするが、嘘で通し尽くそう。冒険者全員が回復して俺達の所に集まって来る。


「えーと。みんなは冒険者で良いんだよね?」


「そうだ」


「じゃあ村まで連れて行ってもらえないかな? スカルウォーリアーの素材は全部持ってってくれていいから」


「お安い御用だが、本当にそれでいいのか?」


「問題ない」


 冒険者達がスカルウォーリアーの武器や盾、兜や肩あてなどを剝ぎ取っていく。一連の処理が終わったところで、冒険者はスカルウォーリアーに油をかけて火をつけた。勢いよく燃え始めるアンデッドを眺め、燃えきるのを確認したところで冒険者が言った。


「帰るのでついて来ると良い」


「助かる」


 そして俺達は森の中を歩きだした。すると冒険者の一人が聞いて来る。


「詮索するわけじゃないが、何処から来た? このあたりじゃ見ない顔だが」


「ああ。王都の北向こう側の町から来た。俺達もこのあたりで魔獣でも狩ろうと思ったら、戦う声がしたのでやって来たんだ」


「助かった。それにしてもあんたの鎧は凄いな」


 ヴァルキリーは確かに普通の鎧とは違う。咄嗟だったので隠すのを忘れていた。


「これもダンジョン攻略で手に入れたんだよ。おかげでだいぶ重宝している」


「そうか」


《シャーミリア。俺がテントシートを召喚するから、丁度良い大きさに引き裂いてこい》


《は!》


 皆が見ていないところで、スッと軍用テントシートを召喚しシャーミリアに渡す。米軍のレインポンチョでもいいのだが目立ちそうな気がするので、いい感じにボロボロに引き裂いてもらおう。すぐにシャーミリアが戻ってきて俺にボロ布を渡してくる。それをマントにしてヴァルキリーを隠した。


 しばらく歩いて森を出ると草原が広がった。俺が冒険者に聞く。


「ここから村までどのくらいだ?」


「約一日ほど歩く事になる。明日のこの時間にはついているだろう」


 そんなに遠かった? たぶん飛翔なら、あっと言うまだったように見えるけど。ていうか確かに冒険者の歩みは、俺達の歩行速度よりもはるかに遅かった。これでは一日かかるのもうなずける。


「結構あるんだな」


「この森は銀等級以上じゃないと来ないからな。今回は鉄等級が数人混ざっているんだ。それほど速くは動けないのさ」


 そう言って冒険者が苦笑いする。言われた鉄等級のやつらが俯いた。自分らのせいで死にかけたことを重々承知しているのだろう。


「訳があるようだね」


「まあ…そうだな。実はしばらく前に仲間がいなくなっちまったんだ。何の前触れもなく、突然俺達の前から姿を消したんだよ。前の日までは一緒に飲んでたんだがな」


「突然? 冒険者家業に嫌気でもさしたか?」


「いや。次の日には一緒に冒険に出るはずだった。いなくなる気配なんてみじんも感じなかった。一人ならまだしも三人が一気にいなくなったんだ」


「そうなんだ…」


 俺はこの世界の冒険者の事情が分からない。まあこんな危険な仕事をやっているのだから、いきなり辞めたくなってもおかしくはない。だが三人まとめてとなると、ちょっとした違和感はある。


 すると女の冒険者が言った。後衛で魔法をかけていた人だ。


「だからあたしが言ってるじゃない。あの飲み屋にいた奴らの仕業なんじゃないの? 」


「わからん」


「飲み屋にいた奴らって?」


「怪しいのが二人いたんだよ。何というか薄気味悪い二人組がね。そいつらに俺達の仲間がムカついてちょっかい出したんだよ。そしたらその二人組は尻尾を撒いて逃げ出した」


「なら関係ないんじゃない?」


「俺もそう思うが、コイツはそいつらが何かやったって思ってる」


「そいつらはどこに?」


「次の日には村から消えていた、確かに不気味な奴らだったが関係してるとは思えない」


 すると女が言う。


「でも三人が消えるなんてありえないんだよね。私達が先に宿に帰って、仲間はまだ飲んでいくって言ってた。あの感じからしても、蒸発するようには思えなくてさあ」


「なるほど」


 なんか物騒な話だ。でもそいつらが関係しているかどうかは分からないし、まがりなりにも銀等級の冒険者なら後れを取る事は無いような気がする。きっと嫌になっていなくなったんだろう。


 気づけば、オレンジ色の夕日に照らされた草原を風が渡って行く。空にはいくつか星が瞬き始め、間もなく陽が落ちて夜になるだろう。そこから数時間歩いたところで、冒険者達は今日はここで野営すると言った。俺はヴァルキリーが勝手に歩いているので全然疲れていないけど、普通の人間にはこのあたりが限界なのかもしれない。


 皆が薪を集めて火を起こし始めた。


「見張りは交代で行いたい」


「もちろんだ」


「二人ずつ交代で見張りに立つという事で良いか? このあたりにはグレイウルフも出るんだ」


「そうさせてもらおう」


 グレイウルフ? 北大陸で言うところのシルバーウルフみたいなもんかな? 


「まずは飯にするが、一緒にどうだ? 大したものは無いがな」


 本来なら戦闘糧食Ⅱ型でも召喚したいところだが、こんなところで召喚魔法なんか使ったら大騒ぎになる。


「ありがたい。だが俺達はそれほど量を必要としてない、君らの分が無くなってしまう」


「いや。今回はいきなりのスカルウォーリアー遭遇で、俺達は一旦帰る事にしたんだ。この状態での森の探索は自殺行為だと分かったからな。だから食料は十分にある」


「わかった。それが懸命だな、だが俺達は本当に必要ないんだ。君らだけで食べてくれ、食事の間は俺達が見張る事にしよう」


 だってシャーミリアは食べないし、俺はヴァルキリーを脱がなきゃいけなくなる。アナミスも食べる事は出来るが、本来のアナミスの食事はそれじゃない。


「わかった。それじゃあ遠慮なくそうさせてもらう」


 冒険者達が食べているのは、うっすい干し肉と硬そうで小さいパンとお湯みたいなスープだ。どう考えても美味そうではない。


《アナミス。彼らが食べ終わったら催眠で眠らせてくれ》


《かしこまりました》


 時折焚火が爆ぜてぱちりと音がした。焚火に顔を照らされながら冒険者が聞いて来る。


「あんたらは三人のパーティーなのかい?」


「そうだ」


「そちらの女性達は随分軽装だな。一人は後衛のようだったが、そっちの人は前衛で戦っていたように見える。そんな軽装で前衛とは、せめて皮の鎧くらい着ないと危なくないかい?」


 なるほど。彼らからすれば異常な訳だ。仕方がないので俺はシャーミリアに言う。


「シャミコ。バッジを見せてやってくれ」


「はい」

 

 シャーミリアが、空いた胸元にもぞもぞと手を突っ込んだ。めちゃくちゃの美人が、いきなりたわわな胸に手を突っ込んだので冒険者達がゴクリとつばを飲み込んだ。俺はすぐさま念話でシャーミリアに言う。


《シャーミリア。押さえろよ》


《も、もちろんです! それぐらいで殺してしまっては、ご主人様の目的が達成できません》


《そうだぞ》


 そしてシャーミリアがバッジを取り出して、冒険者達にチラリと見せた。途端に冒険者達が騒めく。


「あ! 大変失礼した。ミスリル級とは知らずに申し訳ない!」


「いえ」


「どおりでスカルウォーリアーが倒せるわけだ!」


「いや、まあ…」


 歯切れの悪い俺に、何かを感じたのかリーダーが言う。


「…訳ありのようだ。詮索はしないでおこう」


「助かる」


《アナミス。あとで記憶消さないとね》


《かしこまりました》


 俺達が念話でこそこそ話をしている間に、冒険者達は飯を食い終わったようだった。それを見計って俺がアナミスに言う。


《アナミス。じゃあ全員眠らせて》


《はい》


 アナミスから赤紫の靄が流れ出し、冒険者達はあっという間に眠りこけてしまうのだった。


 そして俺はシャーミリアとアナミスに向かってにっこりと笑って言う。


「ラッキーだったよ。こんなところで駒が拾えるなんて」


「さすがでございます。ご主人様」


「じゃあアナミス。やろうかね」


「はい」


「まあ魂核は変えないでおこう。とりあえず嘘の記憶を受け付けるところからだね」


 それから俺とアナミスが冒険者達に術をかけ、全く違う記憶をインプットしていく。更には俺達を新しい仲間と紹介してもらうように仕向ける。これで村への潜入はグッと楽になったのだった。

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