第89話 逆襲の魔人
魔法使いは5人だった。
距離は90メートル程度、暗視スコープで十分見える。
「こちら側から見えるのは3人だ。よし!ルピアこれを装備して反対側に飛んでくれるか?くれぐれも魔法使いの攻撃に気をつけるんだぞ。」
「わかりました。」
ルピアにはM240中機関銃1丁そして弾倉バックパックを召喚して背負わせる。
「行け!」
ルピアは夜の闇の中に飛び立っていった。迷彩戦闘服をきて羽を生やしたハルピュイアが、ENVG-B暗視スコープとヘルメットを着けて暗闇の中を飛んでいく。斬新な光景だ。俺にはENVG-B暗視スコープでハッキリと見えているが、人間には全く見えないだろう。
すると迎賓館の中から、共有が切れたシャーミリアにかわりマリアが無線で連絡してくる。
「ラウル様、シャーミリアとマキーナの様子がおかしいです。平気そうな立ち回りをしていますが明らかに苦しそうな表情を浮かべています。」
「原因は分かっている。まもなくその原因を解消する。」
「そして騎士たちが私たちの周りを囲み始めました。」
「そうか、シャーミリアとの共有が切れて中の様子がわからないんだ。マリアが状況を報告してくれ。」
「はい。まだ誰も攻撃などはされておりません。ルフラは私の前におります。」
なるほど、俺に化けたルフラが前にいるのか。音声は聞こえているから通信は大丈夫なようだ。誰に向かって話しかけてているのかが分からないが、とにかく話をしてみよう。
俺に化けたルフラが話し出す。
「これは・・どういうことですか?」
「はぁ?なんのことかわからんなあ!」
バルギウスのバウムの声だ。先ほどの紳士的な対応とは全く違う。いきなり豹変した。
「なにをした!?バウム殿、我が迎賓館で勝手はゆるしませんぞ!」
ポール王の声だな。どうやらポール王も全くの想定外の事態にパニックを起こしている。
「皆様、いったん外に出たほうがよろしいのでは?」
デイブの声だ。デイブが俺の仲間を外に出そうとしているらしい。
「はぁ?勝手に出てもらったら困るんだよ!せっかくの魔王の息子とやらがノコノコと現れたんだ!こんなチャンス無駄にするわけねーだろーがよ!」
バウムが声高らかに叫ぶ。
「そんな・・船に乗った魔人様の仲間たちが黙ってはおりませんぞ!」
「ふははは、すでに船には我がバルギウスの兵が向かっておるわ!」
バウムが勝ち誇ったように言う。そしてファートリアのラーテウスが合わせて言う。
「この屋敷も我が魔法師団が結界をはっているのだ!誰も逃げられんぞ!」
「そのような!ぐぁ」
ポールの叫びが聞こえた。
・・・マリアどうなった?・・・
「はい、ポール王がバウムに殴られて気を失いました。」
「そうか・・かわいそうに・・」
「どうしましょう。」
「騎士たちはどうなっている?」
「剣を抜きました。私たちに突き付けています。」
先に手を出してくれたようだな。ポールは俺達の味方だ!味方に暴力をふるわれたら、申し訳ないけど暴力で返すしかないな。そう思った時だった。
ガガッ
通信が入ったようだ。
「ラウル様!よろしいですか?」
「なんだ?」
船にいたガザムから通信が入った。
「船が敵に囲まれております。相手が火矢を構えております。魔法使いもいるようで炎を手の間に出現させています。船に火をかけるようです。」
「わかった。敵が攻撃を開始したら反撃していいぞ。」
「はい」
分かりやすい敵でよかった。もし友好的に来られたら火種をおこしにくいと思っていたんだが、あっちから来てくれた。自衛行動だし何をしても恨みっこなしだよな。
「いいか?全員で攻撃のタイミングを合わせる。」
「はい」
「はい」
「はい」
「はい」
マリア、ギレザム、ガザム、ルピアが返事を返してくる。
俺は戦いが始まる前に出来るだけ、俺に化けたルフラを通じてバウムとラーテウスから情報を聞き出そうとしていた。舌戦を繰り広げながら遠隔から話をしていると、マリアが俺に通信してくる。
「ルフラを通じてラウル様と会話をしていたバウムが剣をとりました。」
マリアが叫ぶ!
「火矢を放ってきました!」
ガザムが叫ぶ!
「敵兵が迎賓館に入っていきます!」
ギレザムが叫ぶ!
「よし!全面攻撃開始だ!」
「「「「はい!」」」」
まってました!とばかりに全員が応答した!
船に火矢が飛んできた。
ガザム、ゴーグ、ダラムバがすべてを斬って落とす。
マズルは待機中だ。マズルには特別に武器を与えているが、ドワーフ形態のスプリガンでは持てないからだ。
接岸した側の船の甲板に現れたのは、5門のM61バルカン砲だ。操船してくれたダークエルフたちが1門につき2人ずつ付いている。全員が戦闘迷彩服とヘルメットとENVG-B暗視スコープをつけている。どこからどう見ても海兵隊員だ。
キュィイィイイイ
M61バルカンが回りだし、暴力的な銃の掃射が岸壁に向けて発射される。
「グアッ」
「ぎゃあああ」
「ごぼぉ」
「ぎゃぅ」
20x102mmの超高速に降り注ぐ弾丸に、魔法使いの結界や土壁など全く意味をなさず、人間の騎士は粉々に飛び散っていくのだった。バルカンの掃射に人など原型をとどめる事ができなかった。魔法使いも反撃の魔法を放つ余裕などなく、細切れにちぎれて水風船のように四散してしまう。
ガザム、ゴーグ、ダラムバが一斉にM32 リボルバー式グレネードランチャーを対岸に掃射していく。
バス
ドゴン
バス
ドゴン
バス
ドゴン
「撃ち方やめ!」
ガザムが言うと皆が銃を止める。相手になんの抵抗も許さない悪魔のごとき暴力が息をひそめる。
対岸には騎士の肉片もほとんど残っていなかった。そしてガザムは次の作戦に移る。
「ダークエルフ隊はそのまま船を守り続けろ。ラウル様の指示通り次の作戦にはいる!俺、ゴーグ、ダラムバ、マズルは船を降りて洞窟に向かう。街中で遭遇した敵兵は全て掃討していいとラウル様より許可が出ている。十分注意して進め!」
「「「おう!」」」
マズルが甲板の上で巨人化していく。
「グぅおおおお」
あっというまに、8メートルはあろうかという巨人になった。裸だが腰から下は猿のように毛むくじゃらで大事なところは見えない。
マズルが両手に持つのは、M134機関銃(通称ミニガンだ)毎分4000発の7.62x51mmをはきだすバケモノ機関銃だ。それを1門ずつ両腕に抱えている。重量は1門100㎏を超えるが軽々と振り回して甲板から岸にジャンプして降りた。それに続いてガザム、ゴーグ、ダラムバがFN SCAR FN スカー自動小銃を構えてジャンプして降りていく。 FN スカー自動小銃は7.62x51mmを装填してある。迷彩戦闘服に暗視ゴーグル、ヘルメットに FN スカー自動小銃・・完全にアメリカ特殊部隊だ。
4人は洞窟の方角に向かって走っていった。
ルピアは初めての人間との戦闘だった。暗闇を飛んで暗視ゴーグルで地表を見ているが、電気で浮かび上がる魔法使いや敵の騎士にビックリしていた。
「こんなに・・ハッキリ・・」
ENVG-B暗視スコープのおかげで、電気的に人間の輪郭が浮かび上がって見えているのだった。そして、下にいる魔法使いにM240中機関銃を向けた。アルガルド様が訓練で私にはこの銃を使ってもらうと言っていた。ただ的に向けて撃てばいいのだといっていた。空からなら問題なく当てることが出来るということだった。戦闘はほとんどした事が無い・・もともと魔人の中では戦闘要員ではなかった。傷を吸い込むことのできる能力で軽いけがを癒す力が取り柄だった。
しかしラウル様はこう言っていた。
「おそらく、俺の武器を使って一番有効な作戦を実行出来るのがルピアたち、ハルピュイアだよ。」
正直言っている事が良く分からなかった。とにかく作戦は始まったのだラウル様を信じて、言われたとおりにやるだけだ。
ガガガガガガガガガガガ
バックパックから弾丸を流し込み、M240中機関銃は弾丸を大量に吐き出していく。
「ぎゃぁぁぁ」
「ぐわぁぁああ」
「うわ」
魔法使いや、騎士たちが面白いように倒れていった。
「怖い・・でも!」
ラウル様に喜んでもらいたい一心で、ただただ機関銃を撃っていく。地面にいる騎士たちを舐めるようにまんべんなく弾を降り注いでいくのだった。
「があああ」
「なんだ?どこからだ?」
「死・・死んだぞ!」
「逃げろ!」
「どこにだ?」
「結界を!」
「魔法使いが死んだ!」
原因が分からずパニックになりながら死んでいく騎士と魔法使い達だった。結界など全く意味をなさない、極悪な暴力の嵐が吹き荒れる。
「これで・・ラウル様に喜んでもらえる♡」
ルピアは薄ら笑いを浮かべつつ騎士を掃討していくのだった。
ガガガガガガガガ
ダダダダダダダ
あちこちから銃声が聞こえてきた。
ギレザムとティラ、タピは三位一体となって陰から陰へと進んでいく。迎賓館迄もうすぐだった・・集まった騎士たちが迎賓館内に入っていくのがみえる。ギレザムが手に持っているのは、船舶からこちらに向かう隊と同じFN スカー自動小銃だった。ティラとタピは二人でH&K VP9サブコンパクトのハンドガンを持っている。二人には自動小銃は大きかったため、ハンドガンでの戦いとなる。しかし彼らにはマリアが、あの武術とハンドガンの組み合わせの戦い方を教えていた。
ズドン!ズドン!ズドン!
ズドン!ズドン!ズドン!
屋根の上からラウルが魔法使いを片付けて、騎士たちを減らすように撃っていく。ギレザムはラウルに絶大な信頼を置いていた。
「あの方は絶対に狙いを外さない。味方に当てる事はない。お前たちも思う存分暴れていいぞ」
「「はい」」
ティラとタピも早く自分の技をふるってみたくてうずうずしていた。
迎賓館の前には複数人の騎士がまだ中に入らずにいた。銃声が聞こえる状況で警戒しているのだろう。
タラララララララ
ギレザムが、数名の騎士をFNスカー自動小銃で片づける。そしてM26手榴弾を投げつけて建物の陰に入る。
ドゴン!
爆発して、チラリと壁からのぞくと数名がうずくまっているようだった。
「よし!いくぞ!」
「「はい!」」
ティラとタピを連れて迎賓館の玄関前に到着し、まだ生きていた騎士たちにとどめを刺した。玄関の両サイドに別れギレザムがティラとタピに合図を送る。
「3,2,1」
ガチャ
玄関を開けて中に入ると、ティラが室内のランプを撃つ。一瞬にして室内が暗闇となった。
「なんだ!」
「灯りが消えたぞ!」
「はやくつけろ!」
しかし時すでに遅かった。暗視ゴーグルをつけたギレザムの狙撃。ティラ、タピの格闘銃術で、部屋と階段にいた敵を全て黙らせる事が出来た。
「奥にシャーミリア達がいる。マリアは人間だ!どのくらいもつかわからん!急ぐぞ!」
「「はい」」
ギレザムとティラ、タピは屋敷の奥に潜入していくのだった。
全員の攻撃が始まり、俺の狙撃も魔法使いを殺し始めた。
「やはりだ・・体に模様が浮かび始めた。」
俺の体中に刺青のような模様が光り始めたのだ。間違いなく3年前の戦闘の時と同じ現象だった。
「俺の武器が血を吸い始めたんだ。力がみなぎってくる。」
ファントムは黙って俺のそばに立っているだけだった。俺はルフラを通じたバウムとラーテウスとの舌戦をしながら、ファントムに指示を出す。
「よし、俺達も行くぞ。お前にも武器を持ってもらう。」
ルフラを通じて俺を演じている時と、実際の動きで俺の判断が少し鈍くなってるな。動きながら奴らと話をするとするか・・
俺がファントムに召喚したのはM61バルカンだった。ファントムは給弾装置を含め200キロをゆうに超えるであろう物を軽々と持ち上げた。通常なら船舶に搭載したり戦闘機に搭載する兵器だった、こんな超重量兵器を軽々と振り回す。
「ここから、迎賓館の屋根まで屋根伝いに飛んで行くからついてこい!」
バッ!
俺が隣の家の屋根に飛び移ると、200キロ以上のバルカン砲を担いでファントムもジャンプしてついてきた。
《こいつは・・チートすぎる・・》
そういえばファントムにもご褒美あげないといけなかったな。
これから大量に出るであろう人間の死体を食ってもらわねばならなかった。
「証拠も消せるし、パワーも確保できて一石二鳥だな。」
俺と巨大なモンスターの影が月に浮かび上がるのだった。