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第887話 ピンチの冒険者を救うふり

 新たな脅威の出現に、俺達は新たな作戦を立案する必要があった。もちろん全く手が無いわけではなく、俺の兵器を使用した物量攻撃ならば敵は防ぎきれないはずだ。ましてや戦術核をぶっ放せば、一発で戦いが終わるかもしれない。だがそうしてしまえば、モエニタ王都程度の都市は消滅してしまう。俺が倒したいのは火神やその取り巻きであって、一般市民を殺したいわけではない。


 もちろん前世でも核をぶっ放してしまえば終わりと言う戦いはいくらでもあったが、世界の国々はそれを選ばなかった。唯一日本だけが核攻撃を受けた国で、第二次世界大戦以降は核の使用は確認されていない。


 しかし皆が前世の戦争を元に作戦を考えてみるも、どれも泥沼になりそうだ。ベトナム戦争しかり湾岸戦争しかり、相手にもこちらにも市民にも被害が出そうなものばかりだ。


「ここにきて対話による解決とか?」


 グレースが言い、俺はそれに答えた。


「俺は北大陸で、国の人々を皆殺しにしたやつらを始末できればいい。その計画を立案した奴や容認した奴をどうにかしないと、いずれどこかで同じことをする可能性がある。そいつらの身柄の引き渡しをしてくれれば、対話という解決策もあるとは思う」


 するとオージェが言う。


「って事は無理って事だ。敵も俺達と同じ神だが、あちらさんは人間に対して危害を加えない奴らではない。俺達が攻めれば、人的被害を考えずに徹底抗戦してくるだろうよ」


 それを聞いたエミルが頷いた。


「前世の戦いと何ら変わりないな」


「確かに僕の居たアメリカと局地の戦争の関係に似ているね。空爆をしようが市街戦をしようが、一般市民が住む場所に攻め入る事に変わりはない。もしかすると、市民が兵士に変わって徹底抗戦してこないとも限らない」


 ブリッツの言うとおりだった。とにかく北大陸のように滅ぼされた国々での戦闘とは違い、人の生活がある都市での戦闘では一般市民の被害は避けては通れない。


「じゃあやはり暗殺が妥当なところか?」


「いやラウル。それは厳しいと思うぞ。火神の力が未知数すぎるし、接近戦でゼクスペル三体を相手するのは俺でも厳しいかもしれん」


「ゼクスペルだけなら、ここに居る戦力で撃破出来る。だけど、火神とあの魔導士の力量がどんなもんか分からんか」


「そもそも簡単に潜入させてもらえるとは思えないですよ」


 やはり市民の被害を考えずに、一気にかたをつけるべきだろうか? いや…そんな事をしたら、やっている事は敵と同じだ。この世界の市民に罪は無く、俺にそれを巻き込む権利は無い。実際にこれまでの戦いで多少の一般市民に被害が出たとは思うが、だからと言って大量虐殺を良しとすることは出来ない。


「敵を引っ張り出す事は出来ないだろうか?」


 俺が言うとブリッツが答えた。


「敵はあえて、王都内に留まっているように思う。今までのラウル君達の戦いを見て、きっと一般市民には手を出さないと読まれてるよ」


「脅しをかけてもダメだろうか? 例えば近隣を砲撃して、市民が逃げるように仕向けるとか」


「どうかな。例えば中東での局地戦では、市民はギリギリまで逃げなかった。実際に逃げざるを得ない状況にならないと逃げないんじゃないかな?」


「そうか」


 やはり攻めようがない。むしろここに押しとどめておけば、他に攻め入る事は無いと分かった。だが俺達がここでずっと監視している訳にもいかない。


 するとアナミスが言った。


「普通の人間なら出入り出来るのでしょうか?」


「どういうことだ?」


「商人は出入りしているように思います。モエニタから出た人間を変えて、王都内を探らせるというのはいかがでしょう?」


「地道ではあるがな」


 今度はシャーミリアが言う。


「大勢の人間を屍人に変えて潜伏させてはいかがでしょう?」


「却下」


 なかなかにいいアイデアは浮かばない。ゼクスペルと敵魔導士がブリッツの村に出た時が、最大のチャンスだったのかもしれない。だがあの時はブリッツと村を守る事を優先させて、戦う事を避けた。


「結界を無効化出来ればやりようはありそうだが」


 するとマリアが言う。


「城の至近距離まで行けばモーリス先生なら、魔法の解除は出来るでしょう。ですが潜伏する方法がありません」


「先生にそんなことはさせられない」


「はい」


「結局、グレースの案が一番可能性があるって事か…」


 対話してくれる相手かどうかは分からないが、何らかの形で接触を図れば可能性も見えてくるかもしれない。危険なので直接会いに行く訳にはいかないが、アナミスの言うように商人などを捕まえて書き換えをすれば手紙ぐらいは送れる。


「で、そうするとしたらどうします?」


 グレースに言われ、俺の考えを皆に伝えた。戦時ではあるが、敵に接触を図るのは無いわけではない。俺はそこを突破口にして、敵を引きずり出す事を考えていた。譲歩案を示しつつ、敵を誘導して王都の外に出す事が出来ればやりようはある。


「…とまあそんなところだ。どうだろう?」


「やってみる価値はあるんじゃないか?」


「だと、商人をとっ捕まえないとな」


「更に南か西に通ずる道で捕まえるしかないでしょうね」


「やってみるか」


 俺達はまず敵に接触を図る道を選んだ。恐らく乗って来る可能性は限りなく低いが、いま考えられる施策はそれしかなかった。


 そして俺は皆に言う。


「俺とシャーミリア、そしてアナミスの三人が先行する。皆はここで待機、三日の後に俺達が帰らなければ一時撤退も検討する必要がある。その時は火山の神殿にでも逃げ込んで待っていてくれ。もしかすると敵がのこのこと、ここに向かって来るかもしれない。まあそんな馬鹿じゃないと思うけど、その時はここで迎撃すれば良い」


 するとギレザムが言った。


「ラウル様が帰られない? それで撤退などあり得ません」


「いやギレザム。死ぬとかじゃないよ、帰れなくなる理由はいろいろあるんだ。万が一敵の包囲網に捕まった場合は、別のルートから逃げるつもりだよ。俺達は飛行しているから海を通り抜けて戻る事もできるしさ」


「かしこまりました。無理だけはしないでいただきたい」


「もちろんだ」


 俺達はすぐに動く事にした。グレースからヴァルキリーをだしてもらい、飛行ユニットを装着する。飛行ユニットは着脱式で、呼べば飛んでくる仕組みになっている。俺は冒険者に化けて商人に接触するつもりだった。ミスリル級のバッヂも持っているし、誰も怪しまないだろうと思う。


 その間にグレースが、敵に対しての書簡をしたためてくれていた。俺達が準備を終えると、俺達が話した内容が記された書簡を渡してくれる。


「まあ、一日で戻って来るつもりだ。それほど心配しなくてもいい」


「かしこまりました」


「ラウル、気を付けろよ」

「いざとなったら作戦変更だからな」

「ここは敵地なんで、それを忘れないでくださいね」

「成功を祈っているよ」


 俺とシャーミリアとアナミスが、山を越えて森を迂回し南へと飛んだ。俺達の飛翔はヘリやドローンと違って全く音がしない。更にだいぶ小さいので敵に感づかれる事は無いだろう。


 森の向こう側に細い街道が見えて来た。まだ王都から近いため、その街道を右手に見ながら更に南進していく。しばらく飛んでいくと、一つの都市が見えて来た。かなりの人の流れがあるようで、俺達の対象とする商人が見つかる可能性は高かった。


「いかがなさいましょう?」


「まだ王都に近すぎるな。更に南に進んでみるか」


「「かしこまりました」」


 俺達が更に南に進むと、その先に小さな村が見えて来た。俺が二人に言う。


「あの辺りがいいかもしれない」


「「かしこまりました」」


「飛んでいったらバレるから、森の中を進んで行こう」


「「は!」」


 俺とシャーミリアとアナミスは、そのまま降下し森に入る。するとシャーミリアが俺に言って来た。


「人間の気配があります」


「なに?」


「いかがなさいましょう?」


 こんなところに人がいるとすれば、その人種は限られてくる。盗賊か冒険者だ。


「…接触しよう」


 俺は飛行ユニットを外して、森の奥深くに隠した。森の中を進んでいくと、俺にも気配が感知で来るようになる。唐突に声が聞こえて来た。


「そっちいったぞ!」

「後衛は何をしている!」

「タンクがもう持たないぞ!」

「くそ! 見習いなんか連れてくるからだ!」


 どうやら冒険者パーティーが、魔獣と戦っているようだ。俺達が銃で戦えば敵に話が繋がってしまうかもしれないので、シャーミリアとアナミスに召喚したコンバットナイフを渡した。


「これでやる。冒険者は苦戦しているようだ。上手く援護してやろう」


「「は!」」


 俺達が駆けつけると、めちゃくちゃラッキーな光景が目に飛び込んで来た。どうやら冒険者達が戦っているのは、鎧を着たデカいアンデッドだった。剣も持っているし盾も持っている。それを見たシャーミリアが言う。


「ハイグールの劣化版…いや、足元にも及ばぬ粗悪な屍人です」


「だが、いきなり殺したら目立つ。戦ったふりして、次第に弱らせ死んだという事にしよう」


「は!」


「アナミスは後衛と言う事で」


「わかりました」


 冒険者達が戦っているところに、俺達が踊り出た。そして近くの冒険者に語り掛ける。


「どうした!?」


「スカルウォーリアーが出たんだ! 君らは冒険者か?」


「ああ! 助太刀するぞ!」


「助かる!」


 すでに数人が怪我をしており、もう少しで全滅するところだったらしい。俺とシャーミリアがヒットアンドアウェイ戦法で、アンデッドの体力を削るふりをする。だがシャーミリアの最高に手加減したナイフが、アンデッドの腕に当たった瞬間、ボゴオ! と腕が吹き飛んでしまった。


 ぶっ!


 そこで紛らわすために俺が叫ぶ。


「土魔法!」


 もちろん魔法なんか使えないが、魔法で吹き飛ばしたように見えただろう。たぶん。


 するとアンデッドは反対の盾を持った腕で、俺達を振り払うようにした。とりあえず俺達は距離を取り、そいつとにらみ合う。俺は白々しく冒険者に言った。


「かなり強いですね?」


「えっ、あ。なんか腕が取れたような感じだが」


「たまったま土魔法がクリーンヒットしました」


「そうか! だがこれで勝機は見えて来た!」


 そう言って残りの冒険者達が走り寄っていくが、アンデッドが反対側に持った盾を大きく振り回した。それが近寄った冒険者達をまとめて吹き飛ばし、木に激突したりしている。


《シャーミリア。俺が適当に叫ぶから、屍人を停止させてくれ》


《は!》


「エクソシストマジック! ストップアンデッドぉ!」


 魔法なんかまったく知らないので適当に言ってみた。たぶんそんな魔法はない。それを聞いたシャーミリアがアンデッドを停止させる。するとアンデッドがぴたりと止まった。


「さあ! みんな今です!」


 冒険者がふらふらになりながら、アンデッドに切り付けていく。そんなんで倒せるわけがないが、俺はシャーミリアに言った。


《滅ぼしてしまえ》


《は!》


 ズッズゥーン! アンデッドが倒れて動かなくなった。それを見た冒険者達はその場にへたり込んで、しばらく呆然とするのだった。

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