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第884話 ゴッド・ゲート

 前の神々が集った事もあるという山頂の神殿は、思っていたよりもかなりの広さがあるように見える。虹蛇のスルベキア迷宮神殿でも思ったが、外部から見たスケール感と中に入ってからのスケール感が全く違っていた。それは、ニカルス大森林のエルフの里にも精通するものがあった。


 快適そうではあるものの、生活感もないし白い部屋が延々と続いてるだけ。まあ神の集会場のような場所だから食事を用意する必要もないだろうけど、なんでわざわざこんな山奥に作ったんだろう? もっと利便性の高い場所じゃないと、集まるのしんどくないかな? 


 ここはエミル曰く精霊が住むには凄く清らかでいい場所らしいが、精霊は蛍みたいに清い水のある場所を好むのかもしれない。


「精霊に維持させるには、この環境がベストだったんじゃないかな?」


「なるほどねぇ。でも集まるとなると大変じゃね?」


「確かに」


 するとそれを聞いたウンディーネがエミルに何かを話している。エミルが驚いた顔をして言った。


「マジ?」


「どうした?」


「とにかく見てみないとわからん」


 ウンディーネが手招きするような仕草をして、エミルが後をついて行き俺達もそれに続いた。ウンディーネはどんどん奥に進んでいき、突き当りの階段を下り、その最奥に一つの扉が見えて来た。その扉にウンディーネが触れると、枠に刻まれた紋様が青く輝く。すると扉は開かずスッと消えてしまう。しかし向こう側に部屋は見えず、まるで黒い壁がそこにあるように真っ黒だ。


「入っていいらしいが、覗くだけにした方が良いそうだ」」


「入る? 黒い壁みたいにみえるけど入れるのか? 向こうの空間が暗くて全く見えないけど?」


「確かに不安はあるな。悪いがちょっと手を繋いでいてくれるか?」


「ああ」


 俺が手を握ると、エミルがその真っ暗な壁に顔を突っ込む。そしてすぐに出て来た。


「どうだった?」


「洞窟」


「えっ?」


「ただの洞窟だった」


「マジ?」


「ちょっとまって」


 エミルがウンディーネに尋ねる。


「これはどういう事?」


 ウンディーネは何かエミルに耳打ちするようにした。


「うん、うん。なるほどね、そう言う事か。わかった」


 そして俺達に振り向く。


「ここは神々の玄関で、自分にゆかりの深い場所に行く事が出来るらしい」


「って事は、いまエミルが行って来たのは?」


「恐らくナブルト洞窟だな」


 それを聞いたオージェが前に出て来て言った。


「俺が覗いてみてもいいか?」


「良いよ」


 オージェが黒い壁にスッと顔を入れる。しばらく体半分がこちらに見えたままだが、スッと戻って来た。


「間違いないな。おそらく海底神殿に繋がっていた」


「えっ! じゃあ僕も行ってみます」


 グレースが言うが、ウンディーネはフルフルと首を振った。エミルが通訳をする。


「ダメだって」


「なんでです?」


「あちらは瘴気の渦で、入ったら体が崩壊するって」


「あっ…」


 そう言ってグレース達が俺をチラリと見た。どうやらウンディーネにはそんなことまで分かるらしい。俺が空母落としをして砂漠を破壊したために、グレースは行けなくなってしまったのだ。


「ちょ、じゃあ! 俺も見てみる」


 そして俺が首を突っ込む。すると目の前に洞窟が広がっていて、暗くジメジメした場所だった。


 こりゃ、どこだ? 


 俺は次第にうすぼんやりと思い出して来た。ここは魔導鎧ヴァルキリーがあった魔人の洞窟の最下層だ。俺はそのまま元に戻って皆に言う。


「魔人国の洞窟だ。この扉は神々のゲートになってるんだ」


「なるほどな。こんな不便な所にあるのもうなずけるな」


 俺達の話を聞いていて、ブリッツが身を乗り出して言った。


「じゃあ、僕が入れば神の所へ行けるんじゃないのか?」


 するとウンディーネがエミルに耳打ちをした。エミルが頷いて残念そうな顔でブリッツに言う。


「人はダメだそうだ」


「あっ…」


 ブリッツはまだ受体していない。ブリッツがショボンとしているが人間のままなので、このゲートをくぐる事は出来ないようだ。一気にブリッツの正体が分かると思っていたので、俺もがっかりした。


「このゲートは神しか通れない?」


 俺が聞くとエミルがウンディーネに聞いてくれた。するとウンディーネが頷いているので、エミルが俺に言う前になんとなくわかった。


「そうだって。神の集まる神殿に入れるのは神だけらしい」


 そりゃそうか。


「待ってくれ。ていうことは、他の神々も自分の住み家からここに来れるって事か?」


 エミルが通訳する。


「そうらしい」


「まだ見つかっていない神々の住み家に繋がっていると?」


「どうやらそうらしいぞ」


 と言う事は、俺達が神を探す手間が省けるかもしれない?


「他の神の所に行ける?」


「それは無理だって。その神がいなければゲートは開かないらしいぞ」


「そっか」


 そうそう都合よくはいかないか。


「えっと、向こう側に行ってもこちら側には問題なく戻って来れる?」


 エミルがウンディーネに尋ね俺達に答える。


「分体がいないと戻って来れないって。俺はジンを連れて行けば戻って来れるし、ラウルはヴァルキリーを連れて行けば戻って来れる。グレースは分体そのものだから戻っては来れるが、向こうが瘴気の渦なので行ってはダメ、オージェは分体がここに無いから戻って来れないらしい」


「だからウンディーネは覗くだけにしろって言ったのか?」


「だな」


 そしてウンディーネはエミルの裾を掴んだ。エミルが聞いてみると、ここに置いて行かないでと言っているらしい。


「連れて行ってもいいけど、この場所はどうなるのかな?」


 ウンディーネがエミルに耳打ちする。


「えっ? そうなの?」


「なんて言ってる?」


「ウンディーネがここを離れると、この神殿は崩壊してしまうらしい」


「「「うっそ!」」」


 それはもったいない。他の受体を終えていない他の神がここに来る可能性もある。しかも、もし来るとすれば単体でだ。火神なんかが何かの間違いで、単独で乗り込んで来れば一般市民を巻き込まずとも戦える。


「火神とかここに来るんじゃね?」


 するとウンディーネが首を振った。そしてエミルが答える。


「既に受体していて、この場所を知らんそうだ。まあ不幸中の幸いかもしれない」


「そうか? むしろ引き入れてフクロに出来ると思ったんだがな」


 俺の気持ちとすれば、ウンディーネにはここに居てもらい神殿を維持してもらいたいが、それは魔神である俺が言うわけにはいかない。


 しばらくエミルとウンディーネが話し込むが、どうやら何やら合意がいったらしい。


「この神殿を壊さずに済む方法がある」


「「「なになに?」」」


「管理する精霊を入れ替える必要がありそうだ」


 それならばなおの事、俺達が決められる内容ではない。


「じゃあ、仕方ないか」


 俺が言うとエミルが首を振る。


「ちょっと協議してみる」


 エミルが俺達から離れた所に行くと、ジンと竜巻のようなものと火の人間が出て来る。そこにウンディーネも集まった。どうやら神殿を守るかどうか会議を始めたようだ。俺達はすることが無いので、しばらくそのまま待つことにした。しばらくすると精霊たちをそこに置いてエミルが俺達のもとに来る。


「ここは有用性が高い。だから精霊たちと相談して、役割を変える事にした」


「どうなった?」


「ジンは俺の分体だから離れるわけにはいかないし、シルフはヘリを操縦するのに必要だ。本当はウンディーネに引き続きここを見て欲しいが、彼女は可愛そうなので最後の一人に管理してもらう事になった」


「イフリート?」


「ああ、彼がここを管理する。そして戦争が終わり次第、ここから解放しこの拠点を潰す」


「イフリートはそれで良いって?」


「まあそもそもが、精霊たちにそれほど自我があるわけじゃない。それに消去法で考えたんだよ。火力ならラウルが突出しているだろ? イフリートの火よりも強い火力がある。逆に言えば水属性のウンディーネはこの先、役に立つ事があると考えたんだ。精霊たちは精霊神が生き延びる事を最優先と考えるから、どうやらウンディーネとイフリートの間でもそんな意思疎通があったらしい」


「わかった。精霊たちがそれでいいのなら」


「ああ」


 どうやら管理者を変えてこの神殿は維持されることになった。そこで俺は言った。


「じゃあ、進軍を再開しよう」


 するとエミルやオージェが俺に言う。


「せっかく、魔人国の洞窟につながったんだ。親に会いに行ったらいいんじゃないか?」


「親に?」


「ヴァルキリーを着れば戻って来れるんだろ? 顔を見せに行って安心させたらどうだ?」


 確かにしばらく会ってはいないが…ここでわざわざ会いに行く事も無いかな。


「さっさと戦いを終わらせてからゆっくり会いに行くさ」


「このゲートを使えばすぐだろう? 俺達が行ったところで誰もいない神殿だ。だがお前の所の洞窟は魔王城と直結しているし、決戦前に顔を出すのは悪い事じゃない」


 すると神々とマリア、魔人達とブリッツまでが言い出した。


「こういう時は遠慮するもんじゃない」

「そうだぞラウル君。行けよ」

「そうですよ、ラウルさん。会いに行ける人が居るなら行った方が良い」

「ラウル様。何卒ルゼミア様にご報告を」


 ただ一人シャーミリアだけが、ぐずっている。どうやら俺と離れるのが嫌らしい。


「じゃあ、一瞬だけ。すぐに帰って来るから」


「ご主人様。私奴もご同行いたしたいのですが?」


「無理っぽい。でもすぐ帰って来るからさ、待っててよ」


「かしこまりました」


 俺がそう言うとグレースがヴァルキリーを保管庫から出した。俺がヴァルキリーを着て神のゲートをくぐと、その先は魔人国の洞窟で間違いなかった。


《我が主。懐かしいですね》


《そうだな。父さんと一緒に来た場所だ》


《はい》


《じゃあ元の持ち主に会いに行こうか?》


《かしこまりました》


 そして俺とヴァルキリーは一気に魔人軍の洞窟を駆け上がる。あっという間に駆け上がり、魔王城に入るが誰もいない。俺が魔人達を連れ出したため、少数の魔人と両親しかいないはずだ。


 そのまま魔王城内を走り、いたるところを探すがルゼミアもガルドジンもいなかった。


「えっと、夜だし寝室にでもいるのか?」


《そのように推測されます》


「よし」


 俺は一目散にルゼミアの寝室に向かって走っていく。


《驚かせたいから、気配を遮断してくれるか?》


《分かりました。我が主》


 そうして俺は、暗闇の魔人城を気配を消して進んでいく。階層を上がり、そっとルゼミアの部屋へと近づいて行くと、扉が薄っすらと開いており光が漏れていた。


《いた》


《そのようです》


 俺がそっとその扉に近づいて、隙間から中を覗くと…


 わっ


 俺は咄嗟に顔を引っ込める。見てはいけないものを見てしまった。すると部屋の中からルゼミアとガルドジンの声がする。


「誰じゃ? アルか?」


「何? アルガルドが?」


 俺は咄嗟にその場を立ち去った。風のように魔王城を過ぎ去り、魔人軍の洞窟を急速におりていく。ヴァルキリーが知っているゲートに向かい、黒い壁にそのまま飛び込んだ。


「おわ!」

「随分早かったな!」

「もう戻って来たんですか!」

「お、お帰りなさいませ! ご主人様!」


 皆が驚いていた。俺はバクバクする心臓を落ち着かせるために深呼吸をする。そしてヴァルキリーを脱いだ。するとマリアが言って来る。


「大丈夫でございますか! 顔が真っ赤でございます!」


「い、いや…あの」


「何があったのです!」


「何も…」


 だが周りの女魔人達が舌なめずりをして俺を見ている。俺が何かに反応しているのを察知しているらしい。


 俺が見た光景は…裸の母親ルゼミアと裸の父親ガルドジンが、裸でくんずほぐれつしている光景だ。まさか…この年になって、母親の喘ぎ声を聞く事になるとは思わなかった。思いっきりの気まずさに、俺は咄嗟に逃げてしまったが、挨拶くらいしても良かったかもしれない。


 だが親のチョメチョメを見る事ほど気まずいものは無く、俺は仲間の前で苦笑いを浮かべるしかないのだった。

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