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第883話 新精霊ゲットだぜ!

 山頂付近に背の高い木々は無く、岩場のあちこちに高山植物のような物が点在していた。ところどころに消え残った雪があり、気温が低く平地とは環境がまるで違う。ブリッツとマリアには、この気温は厳しそうだったので、アメリカ海兵隊のポンチョを召喚して着せた。


 俺達は山の斜面に留まり、偵察ドローンから送られてくるディスプレイの映像を見ながら、周辺の様子を伺っていた。すると頂上付近に大きな窪みがあり、そこに湖が広がっている事がわかった。それを見ながらオージェが言う。


「これはカルデラ湖だな」


「なるほど。つーことは、この山は火山か」


「そのようだ」


「活火山かね?」


「さあてね。俺はそのあたりの専門家じゃないから分からない」


 魔人達に聞いても周辺には小さな魔獣の反応しかないようで、あまり生き物が生きるのに適した場所じゃないらしい。


 石ころもゴロゴロして歩きづらいし、さっさと山を越えて向こう側に下りてしまおう。


「じゃ、先に進もうか」


 俺が言うと、エミルが答える。


「ちょっといいか?」


「なんだい?」


「精霊たちが騒がしいんだ。周辺を調査して、出来ればカルデラ湖を見てみたいんだが?」


 エミルが言うのは珍しいので、俺は素直にそれに従う事にした。


「じゃあカルデラ湖に向かうぞ」


「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」


 足場の悪い石が転がる斜面を登っていく。するとドローンの映像からは分からなかったものが見えて来た。あちこちに石が積み上がっていて、それが不規則に並んでいたのだ。ドローンの映像からは気が付かなかったが、かなりの数が作られている。このあたりは魔物の気配が無く危険性は無さそうだが、いったい誰が何のためにこんなものを作ったのだろう?


「ギレザム。これは結界か何かかな?」


「恐れ入りますが、わかりかねます」


「そっか」


「いずれにせよ何らかの意味があるのではないでしょうか?」


 この石の山が何を意味するものかは分からないが、誰かが作為的に作らないと出来ない物だ。石が積み上がったゾーンを過ぎると、その先は下り勾配になっている。そこから下を見て、俺達は感嘆の声を上げる。


「凄いな…」


 真っ赤な土の地面に、美しいエメラルドグリーンの湖面が輝いていた。湖の色が外側から中に行くにつれて濃くなっており、グラデーションのようになっている。あちこちからガスのような物が噴き出しているようだが、その幻想的な光景に息をのむ。


 すると俺達の側で、エミルが一人何かを話している。


「うん。なるほど、そうか。あそこにいるんだね」


 俺がエミルに尋ねる。


「どうした?」


「精霊が言うには、あそこに仲間がいるらしいんだよ」


「えっと、カルデラ湖に?」


「そうだ」


「マジか」


 するとブリッツがエミルに聞く。


「精霊って?」


「水や空気、大地や木々に宿る命みたいなもんかな? ある種のエネルギー体みたいなものだと理解してくれればいい」


「物質のエネルギーって事か?」


「そんなところだ。エネルギーが強くなれば、精霊に意思も生まれるんだ」


「意思が?」


「そう」


「凄いね」


 ブリッツが目を輝かせてエミルの話を聞いていた。精霊の気配を感じ取れるのは、エミルとケイナだけで俺や魔人達にはその気配は分からない。おそらくエミルが言う仲間とはきっと精霊の事だろう。急勾配の崖の底にある湖からその気配を感じるようで、エミルがそこに下りてみるという。


「シャーミリア! マキーナ! エミルをあそこまで連れていけ」


「「は!」」


 エミルが二人に連れられて湖へ降りて行き、俺達は上からそれを見ている。すると更に幻想的な事が起き始めた。エミルが湖に近づくほどに、湖の色が変わってきたのだ。エメラルドグリーンから真っ青なブルーへと変わっていき、湖面の波が無くなって鏡面のようになった。


「あれ、大丈夫かな?」


 俺が言うとオージェが答える。


「問題ないだろ。シャーミリアとマキーナがついてるんだ」


「まあそうだけど」


 エミルが湖面に近づいて、湖の畔にしゃがみ込んだ。そして手を伸ばし湖面に触れた瞬間だった。


 フッ! とエミルが消えた。


「エミル!」


 俺が慌てて坂道を走り下りると、魔人達もついて来る。ゴーグの背に乗ったマリアとブリッツ、グレースとケイナが必死に毛皮にしがみついいた。俺が咄嗟に動いたので、ゴーグも必死について来ようとして背中に彼らが乗っているのを忘れたらしい。


 シャーミリアとマキーナが立っている中を走り抜けて、俺は立ち止まる事無く湖に飛び込みをする。だが湖面の直前で俺の体が止まって浮いていた。気づけばシャーミリアが俺を受け止めており、湖に飛び込むのを阻止している。


「ご主人様! 危険です」


「でもエミルが!」


「ですが!」


 俺達が言い争っていると、鏡面のような青色の湖面から何かが顔を出した。それは美しい女性の姿をしており、羽衣のようなものをまとっているが服を着ていないようにも見える。全身が水色で生物だとは思えない。


 それを視認した魔人達が、一斉に銃口をその女に向けた。だがその後に湖面から馬の顔が現れて、その体が湖面の上に立つと背中にはエミルが乗っていた。その馬は不思議な体をしており、前面は馬だが下半身が人魚のようになっている。


「ラウル? お前なにやってんだ?」


「なにって…大丈夫なのか?」


「俺の意思で入ったんだ。問題は無い」


 なんか憎たらしい。


「とにかくすごいぞ! みんなも入ってみると良い!」


「えっ?」


 大丈夫なの? と思いつつエミルをじっと見るが、微笑みを崩していないので安全なのだろう。するとケイナがゴーグから降りて皆に言った。


「たぶん大丈夫。この子達は精霊だもの」


「そうなんだ」


 エミルが重ねて言う。


「この子がウンディーネで、俺が乗っている馬がケルピーだ。とにかく問題ないから入ってみてくれ」


 俺がシャーミリアに言う。


「降ろせ」


「かしこまりました」


 シャーミリアが俺をスッと湖面に降ろすと、湖には沈まずに水の上に立った。三歩ほど歩いてみるが、ガラスのような素材になっており沈むことは無かった。


 するとエミルがウンディーネに向かって言った。


「彼らは仲間だ。危険はないから入れてあげて」


 ウンディーネがコクリと頷くと、俺の体がスッと湖面に沈んだ。


「ご主人様!」

「「「「「ラウル様!」」」」」


 シャーミリアと魔人たちが次々に追いかけて飛び込んで来る。ゴーグもマリアやブリッツたちを乗せてそのまま飛び込んで来た。


 次の瞬間俺達は目を疑った。


「あれ?」


 皆がきょろきょろしている。なんとそこは湖の中ではなくて空間が広がっていたのだった。


「これは…」


 するとエミルが言う。


「エルフの里と同じ作りだな。だが住人の意思で入れる者と入れない者を振り分けられるようだ」


 俺達は神殿のような白い建物の中にいたのだった。上を見ると高い天井があり、明らかに異空間である事が分かる。


 するとウンディーネが俺達の周りを泳ぐようにして、クルクルと回り始めた。


「これは何をしてるの?」


「歓迎しているらしい」


 こんな天空の湖に、異空間があるだなんて想像もしていなかった。エミルが気づき近づいた事で、ウンディーネが扉を開いたらしい。


 ウンディーネはセイラの周りをまわった。するとエミルがそれを見て笑う。


「セイラさんの事を気に入ったみたいだね」


 セイラがそれに答える。


「とても居心地がいいですわ。どうやら私と相性が良いようです」


「そのようだ」


 まるで神殿のような真っ白な空間で、この子はいったい何をしていたんだろう? そしてこの空間の事を調べた方が良い気がするが。


「エミル。この中を案内してもらえるだろうか?」


 エミルがウンディーネに問うと、ウンディーネはニッコリ笑って頷いた。ウンディーネに連れられて、そのホールのような場所を進んでいくと大きな扉が見えて来る。ウンディーネがそこに手をかざすと、大きな扉が音もなく開いた。


 そこには、どこまでも続くような長い廊下があり、たくさんの部屋がある。そして数々の部屋のドアを貫通し光る玉のようなものが行き来しており、エミルはそれは下級の精霊だと言った。


 グレースがきょろきょろしながら言う。


「随分広いですね。というか誰かが住んでいたのでしょうか?」


 それにはエミルが答えた。


「ウンディーネが言うには、元の精霊神の別荘のようなものらしい。神々が南方に集まる際にここを使っていたらしいよ。もちろん俺の記憶にはないけど」


「元の神々は、ここに集まる事もあったんだな」


「そうらしい」


「もっと詳しい事を知れる?」


 エミルがウンディーネに聞く。だがそれ以上の事はあまり知らないようで、一万年の間に数回ここに滞在する事があるだけだったようだ。それだけの為にこれだけ豪華な施設を作るとは、やはり神々のやる事は桁が違う。


 そしてウンディーネはエミルに何かを話していた。俺達には一方的にエミルの声しか聞こえない。


「うん。うん、ごめんね。そうだよね、うん、ごめん。そうだね、それはそうだ。ごめん」


 めっちゃ謝ってる。しばらく話を続けてから、エミルが俺達に言った。


「怒られちゃった」


「なんで?」


「ずっと待ってたのになかなか来ないから、もうこんなところ出たいってさ。誰も来ないし、暇な時に外に出て石を積み上げるくらいしかする事無かったって。退屈で仕方がなかったらしい」


 そりゃつまらんだろうね。前の精霊神はブラック体質だったのだろうか? たしか精霊のジンもヤカンに詰め込まれて放っておかれていたような気がする。ジンからもクレームが出ていたんじゃないか?


「で、どうすんだ?」


「連れてくよ。俺は前の精霊神とは違うからね」


 するとオージェがエミルに聞いた。


「エミルよ。これで、強い精霊は何体目だ?」


「シルフ、イフリート、ジン、そしてウンディーネだから四体目かな」


 そんな話をしていると、ブリッツが身を乗り出して聞いて来る。


「その話! 詳しく聞かせて!」


「あ、ああ」


 エミルがこれまでの経緯と、所有している精霊の事を説明した。ブリッツの目がうるうると輝き、めっちゃ興味あるように聞き入っている。


「凄いじゃないか! エミル君!」


「いや、そんなに驚くとは思わなかった」


「僕はね! 前世では日本のアニメやゲームが好きでね! 特にポケッ〇モ〇〇ターが大好きなんだよ! あのトレーディングカードも集めていてね! モンスターを集めていくってのは最高だよね! ロマンだよね! なんかそれに近いものがあるなと思ってね!」


 ブリッツは悪い人じゃなさそうだ。日本の超有名ゲームでアニメにもなったキャラクターが好きらしい。精霊はそれとは違うと思うが、似ているために興味がいったんだろう。


 そういうものにも精通しているグレースが言った。


「火の属性とは水の属性とか風の属性とかですよね?」


「そうそう! すっごいなあ。そんなものが存在するなんて、この世界は本当に面白いよねえ!」


 めっちゃ興奮している。俺は前世でサバゲに命を懸けて武器を調べ尽くして来たが、ブリッツはどうやら日本のアニメやゲームに詳しいFBI捜査官だったらしい。俺達は急にブリッツに親近感が沸いたのだった。

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