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第880話 モエニタ王都攻略はじめの一手

 今までの敵は、奇襲や待ち伏せなどの小賢しい罠を仕掛けてきたものの、基本は力押しで攻めてきていた。いつもデモンの大群に俺達を襲わせ、戦力を分散したところで強い個体をぶつけて来る戦法をとっていたのだ。だがそのことごとくを俺達は蹴散らし突破してきている。


 だが東の村で遭遇したイケメンロン毛は、冷静さと思慮深さを兼ね備えているような奴だった。むしろゼクスペルたちのように力押しで来るなら攻略方法も見えるのだが、引き際が鮮やか過ぎてむしろ不気味だ。この地に来てから敵の本拠地に爆撃を繰り返しているにも関わらず、まるで暖簾に腕押しのような状態が続いていたが、それもあのイケメンロン毛を見て納得できる部分もあった。敵はあえて反撃してこないのだ。


 俺達は運よく死神とブリッツを先に探し出したが、敵も同じことを考えついていて、やつの余裕ぶりから考えても勝算があるようなニュアンスだった。


「してどうするのじゃ?」


「そうですね…」


 モーリス先生に問われるも、これから考えられる作戦は俺達の方から侵攻するという事だけだ。だが単純に侵攻作戦を開始すれば、何か落とし穴があるような気がして決断が鈍る。


 そこでグレースが合理的な解決案を出してくる。


「ラウルさんは決定打を持っていますよね?」


「決定打?」


「あのザンド砂漠でやったような大量破壊です」


 グレースが言っているのは、ザンド砂漠から迫るデモンの大群に敢行した空母落としの事だ。


「ここでやるなら、戦術核か」


「はい」


 グレースがいきなり非人道的な事を言うので、俺とオージェとエミルがドン引きしてしまう。そこでエミルが言った。


「それをやったとして無条件降伏してくるような相手か?」


 それにオージェが答える。


「ないな。恐らくだが、人間が大量に死ぬだけで火神には損害が無いような気がする」


「なるほどです」


 そして俺が皆に言った。


「俺は民間人を極力殺したくない。あくまでも敵はデモンでありゼクスペルであり火神だ。戦闘や爆撃に巻き込まれて死傷者が出る事もあるだろうが、俺はそれらを標的にはしたくないな」


「すみません。聞き逃してください」


 全ては俺の判断次第で次の動きが決まる。全軍を率いて総攻撃をかけるにしても、さっきグレースが言ったような事と変わらず、一般市民に大量の死傷者が出るだろう。そしてあの頭のキレそうなイケメンロン毛は、絶対に何かを仕掛けて待っているはずだ。


 また兵站線を伸ばせば、敵にそこをつかれる可能性もある。それを意識しないで進もうとするならば、少数精鋭の魔人だけで行かねばならない。


「やっぱ。グレースの言う事も一理あるかな」


 いろいろ考えていたが、このままここで待っている訳にもいかなかった。そこで俺は一つの策を思いつく。


「ラウル…」


「一般市民の被害をゼロにして、敵に攻撃を仕掛ける事は無理じゃないかな」


「ラウル。まるで砂漠の嵐作戦のように、敵地を空爆するって事か?」


「いや。オージェ、もっと緻密にやって、一般市民に極力被害の出ない方法をとる」


「どういうことだ?」


「ドローン攻め」


「「「ドローン攻め?」」」


「ああ。小型ドローンを使って、ピンポイントで攻撃していくのさ。ゲリラ戦みたいになるけど、せっかく市民の損害を抑えてここまで来たんだ。地道にやってくしかないと思ってね」


「そうか。既に二つの拠点は抑えたしな、王都周辺まで侵入してドローンで攻撃って事か」


「そうだ。とにかく敵を王都の外におびき出す方法を試したい。他の継子や神様の目処がついていない以上、彼らがそれを探している間に本拠地をやる。敵が出てきたら俺達の精鋭が叩き潰す」


 俺が言うと皆が頷いた。ドローンを使えば爆撃や砲撃と違って、広範囲に被害が及ばない。それに狙撃とも違って攻撃して来た方向が確定できないから、敵が反撃して来たとしても対応しやすい。


 それを聞いたオージェが言った。


「やってみよう」


「ああ。なので、南東にある直属の魔人が駐留する都市に、一般兵の魔人を運ぶ事にする。あそこの警備体制を整え次第作戦決行だ」


「「「了解」」」

「わかったのじゃ」


 俺達が会議室を出ると、前の通路にブリッツが待っていた。そして俺を見つけると走ってやってくる。


「ラウル君!」


「なに?」


「僕も連れて行ってくれ」


「危ないから基地で待っててくれていいけど」


「もしかすると、僕が継ぐかもしれない神がいるんだろう? それなら僕が行った方がいい。ベニーの命の恩人である君たちが命をはっているのに、僕がただ待っているわけにはいかないさ」


 確かにブリッツが継ぐべき神がいるかもしれない。俺は隣に立っているベニーに聞く。


「ベニーさんはそれでいいですか?」


「是非もない。元よりブリッツはそのさだめを背負って生まれておる」


「わかりました。じゃあベニーさんは基地に残ってください」


 するとベニーが何かを言い辛そうにしている。


「ふむ。あの…その…」


「なんです?」


「わしをバルムス殿の弟子にしてもらえんじゃろうか?」


「バルムスの?」


「あの方は天才じゃ!! わしはまだまだひよっこであるとわかった。ここで修業をさせてくれ」


「別にいいですけど、ブリッツはそれでいい?」


「ベニーが良いなら」


「じゃ決まりです。バルムスには俺から言っておきます」


「ありがとう! ラウル君! 心から感謝する」


 本気で喜んでいる。バルムスの所で修業をすれば、とんでもないスキルアップになるだろう。これまでの生活を壊してしまったのだから、それぐらいはお安い御用だ。そうしてベニーの再就職先が決まり、俺達はチヌークヘリで魔人の一般兵を輸送する作戦を始めるのだった。


 するとモーリス先生が俺に言って来た。


「わしも行く。既にこの基地ではやる事がない、南東の都市の視察もかねて連れて行っておくれ」


「わかりましたなら、護衛のラーズも連れて行きます」


「うむ」


 するとそれを聞きつけたミーシャも言う。


「ラウル様! 魔導鎧の整備士が必要です。私も連れて行ってください」


「危険だけど?」


「承知の上です」


「わかった」


 そしてミゼッタも行きたそうな顔をしたが、俺はミゼッタに言う。


「ごめんねミゼッタ。この基地の魔導エンジンの管理には強い魔力が必要な時があるんだ。あと個人的な事で申し訳ないが、アウロラの事をよろしく頼むよ」


「はい。あの! ゴーグに頑張るように伝えてください!」


「わかってるよ」


 そうして俺達は魔人の一般兵を八十名ほど連れて、南東の基地へと飛び立つのだった。チヌークヘリが浮上すると、天幕のように張ってある結界が解かれる。俺達のヘリが飛び去ると再び基地は結界に守られるように包まれた。


 ゼクスペルの出現により、警戒レベルを高めてシャーミリアとマキーナだけでなく、ヴァルキリーを着た俺も空中で警護するように飛んだ。


 俺達の編隊が南東の都市に着いたのはその二時間後、ゼクスペルやデモンと接触する事も無く無事にたどり着く。俺達のヘリが着陸し、魔人の一般兵が武器を取って後部ハッチから外に出た。すぐにそこに整列をして俺の言葉を待つ。


「魔人のみんな! ここは基地から遠いから、援軍が来るまでは時間がかかる。もし万が一敵が来た場合、ここに住む市民を守る事を最優先にしてもらいたい。撃退は考えずに、すぐに本部に連絡を入れるんだ」


「「「「「「「「は!」」」」」」」」


 直属の魔人が一般兵に指示を出して、都市の護衛に関しての説明をしていく。銃火器を持った魔人達は、五人ずつの小隊に分かれて周辺に散っていった。


 オージェは龍神会に挨拶をして、トライトンを連れて来る。オージェ直接の稽古はしばらくお休みになると伝え、黒帯の師範代たちに指導をするようにと伝えた。


 するとその時オンジが声を上げる。


「ちょっとよろしいですかな?」


「なんです?」


「私は足手纏いとなるでしょうな」


 確かにそうだ。神と魔人で構成された部隊で進軍するが、オンジは強いとは言え人間だ。ゼクスペルなんかの攻撃をくらったらひとたまりもない。


 オンジが言う。


「この龍神会の門下生に稽古をつけるのは私に任せてください」


 なるほど。オンジは剣の達人だしうってつけかも。


「オンジさん。いいのですか?」


「役に立ちたいのです」


「わかりました。それじゃあグレース、そう言う事でいいかな?」


「任せます」


 するとそこにモーリス先生もやってきて言った。


「オンジ殿。わしもここに残りますのじゃ、いずれここにも基地を設置しなければなりませんのでな」


「わかりました」


 そして俺はモエニタ王都に進軍するチームを告げた。


「シャーミリア、マキーナ、ファントム、ギレザム、ガザム、ゴーグ、カララ、アナミス、ティラ。そしてマリアだ」


「「「「「「「「は!」」」」」」」」」

「はい」


「ラーズはモーリス先生の警護を、ルフラはオンジさんの警護を頼む。ルピアは周辺の警戒にあたり、最悪の時は二人を連れ出して逃げてくれ」


「「「はい」」」


 そして俺達の精鋭部隊は王都に向かう事になった。モエニタ王都の周辺を調査し、攻略方法を探りつつドローン攻撃を始めるつもりだ。またヘリコプターで王都に近づけば、敵に感づかれる可能性が高いため陸路で進む事にする。


 召喚したのは96式装輪装甲車で、二台に乗り分けて出発した。96式装輪装甲車が走り出すと、乾いた土ぼこりが舞い上がり荒野に散っていく。道の状態は悪くないが、土で出来ているので雨などが降ればぬかるむだろう。もちろん俺達が乗る96式装輪装甲車なら問題は無い。直列6気筒ディーゼルターボのパワーで難なく乗り切るだろう。


 96式装輪装甲車を召喚した俺を見てブリッツが唖然として言って来る。


「ちょっ! ちょっ! ちょっ!それはどこから出て来たんだ? 魔人軍の兵器なんじゃないのか?」


 あれ? 俺は隠すことなく召喚してしまってたな。慣れって怖いよね。


「あー、そうか。まあ正直に言うとこれは俺が召喚してるんだ」


「召喚? 現代兵器を?」


「そうだ。俺にはその力がある」


「マジかよ…」


 だがブリッツはそれ以上は突っ込まなかった。


「ブリッツに何か力は無いのか?」


「あるにはあるが、それは人間の範疇を越えていない」


「なに?」


「プロファイリングだよ」


「おお! FBI捜査官だもんな! それは凄い」


「いやいや。武器召喚の方がずっとすごいだろ」


「まあ使いこなしでなんぼだけどね」


 そんな話をしながら、俺達が進んでいくと遠く前方に小さな村が見えて来る。


「街道を迂回しよう。村から離れたところを進め、村に敵兵が潜んでいるかもしれん」


 俺の指示で二台の96式装輪装甲車が道を逸れ、荒野を走っていくのだった。しばらく進んでいくとポツリポツリと雨が降り出して来る。だが俺達の車は止まることなく進んでいった。


 荒野を進むうちにどんどん雨足が強くなり、その先で俺達は足止めを食う事になる。そこには茶色い濁流がごうごうと流れる川があったのだ。


 そして俺は指示を出す。


「雨が小降りになったら車両を放棄する」


 するとブリッツが驚く。


「車両を捨てるのか?」


「ああ」


「これからどうやって進むんだ?」


「先に人だけが川を渡ったら、向こう岸でまた武器召喚する。ちなみにこの二台は破壊して放棄する」


「なんてこったい。空恐ろしい能力だな」


「まあね。でも武器が効かない敵もいるんだよ。なかなか厄介な世界だ」


「俺は改めて思うよ。なんて世界に来ちまったんだ! てな」


「平和な世界を作り上げる事が出来たら、これは必要ない力だと思うよ。戦争が終わったら…」


「おい、やめとけ。戦争が終わったら…は死亡フラグだ」


「ブリッツにその概念があるのか?」


「あるよ。映画じゃ定番だ」


 思わず前の世界の話を出されて、俺は懐かしくなってしまった。改めてブリッツがアメリカ人だったと気づかされる。雨が小降りになって来たので、俺達は96式装輪装甲車を降りて川を飛び越え始めた。ブリッツがファントムに抱かれてジャンプした時、ひやぁぁぁぁぁ! と叫んでいたが、俺達は一切聞かなかったことにするのだった。

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