第877話 魔王子VSゼクスペル三人衆
ゼクスペルの三人は、俺達の攻撃が飛竜に当たらないように回避行動をとりながらも火炎をまき散らす。俺達も火炎に当たらないようにしながら、銃弾をばら撒いているがどちらも次の一手が出せないでいた。俺達のはるか後方にチヌークヘリが居るのだが、それに気づかれたら守りようがない。相手の気を俺達に集中させる為、出来るだけ派手にヒットアンドアウェイを繰り返していた。
だが俺達の想いとは裏腹に、アナミスから連絡が入る。
《ブリッツが村に行きたいと言っております》
《今はダメだ。ゼクスペルが上空を支配して近づけないでいる》
《援護に向かいましょうか?》
《いや。ヘリも危険だ! 近づくな》
《しかしゼクスペルが三体も居るのでは…》
《膠着状態が続いているが、空中戦ではこちらに分があるらしい。飛竜の動きではシャーミリアを捉えられないしな》
《では私達は何を?》
《グレースに伝えてほしい。ロケットランチャーを装備したゴーレム五体を地上に降下させて、こちらに向かわせるように伝えてくれ》
《はい》
《それと同時にファントムを降ろせ》
《は!》
《ファントム!》
《ハイ》
《地上を走ってこっちに来い。ヘリに備え付けのM134ミニガンを携帯しろ》
《ハイ》
そして俺はそのまま目の前のゼクスペルに集中しつつ、シャーミリアと二人で周りをぐるぐると回りながら攻撃を繰り返した。ゼクスペルがかわせないと判断した時に炎壁を発生させているが、徐々に飛竜が弱っているのが分かる。時間の問題で墜落するはずだ。
しかし地上戦はアイツらに分がある。今までの戦いから学んだことは、奴らが吐き出す火炎よりも守る炎壁が脅威なのだ。あれを貫通させる武器がかなり少ないし、油断を誘って命中させるしかない。
バックパックの弾丸が切れたシャーミリアを呼び寄せ、俺はすぐに新しい武器を召喚して換装させる。その隙を狙ってゼクスペルの飛竜が近寄って来たが、俺のバレットM82で牽制した。敵は飛ぶ為に飛竜の力がいるが火炎が途切れる事は無く、こちらは自力で飛び続けられるが銃弾が切れる。どちらも痛しかゆしの所があり、攻略の糸口が見えてこない。
《一体の飛竜の高度が落ちてまいりました》
《そのようだ。あの一体に集中砲火を浴びせよう、他の二体は牽制程度で良い》
《は!》
旋回しつつ、高度を保てなくなりつつある一体に攻撃を仕掛けると、それに気づいた他の二体が高度を落とし攻撃を防いだ。敵も馬鹿じゃないらしい。
《ゼクスぺルって、全部で六人だよな?》
《そう伺っております》
《今まで三人殺ったから、あれで全部って事かね?》
《確かにその可能性は高いです》
《じゃ、挑発しようっと》
俺はM82バレットを背中のアタッチメントに装着し、すぐにLRAD-X 長距離音響発生装置を召喚した。
「おい! そこの火をまき散らすしか能がない馬鹿ども! わざわざ殺されに来たか!」
すると途端に相手の攻撃が止んだ。
《シャーミリアは俺の後ろに控えろ》
《は!》
すると相手の一人がバカでかい音波のような声を発し答えて来る。
「貴様らが北からやって来た軍隊か?」
「そうだ。お前達は一体なぜ俺達の行く手を阻む!」
すると三人は顔を見合わせて言った。
「通りたければ通れ。だがここで捕まえた継子を引き渡してもらおう」
「知らんなあ。一体誰の事を言っているんだか」
「美しい女達がやってきて、連れ去って行ったと聞いた。お前の後ろにいるような美しい女がな」
あ。護衛の為に彼女らを連れて行ったのが仇となった。確かにシャーミリア達のような美しい女は目立つし、それを揃えて行ったら魔人が来たってバレるか。まあ隠そうともしてなかったけど。
「なぜ村を焼いた?」
「素直に差し出さなかったからな。無駄な抵抗をしたからだ」
「元から継子なんて居なかったんじゃないのか?」
「お前達が連れ去ったのだろうが!」
「だから何の事を言ってるんだってーの」
話している奴が後ろを振り向いて言う。
「どうするフォイアー? 殺してしまおうか?」
「焦るなイーグニス」
「しかし」
だが、もう一人が俺に対して突然火炎を放って来た。いま一番偉そうな奴が焦るなって言ったばかりなのに。アホじゃね?
「まてファゴール!」
「こんな奴ら、さっさと燃やしてしまえばいいぜ! フォイアー! それから探しても遅くはないぜ」
「居場所を聞きだすのだ!」
そして、それを聞いた俺が火炎をかわしつつ言った。
「フォイアーさんの言うとおりかもしれねえぜ。もし俺達がさらったとしたら、継子の所在が分からなくなるかもしれねえぜ」
わざとファゴールとやらの口調を真似て挑発してみる。ファゴールは俺を見て眉間に血管を浮かばせているが、攻撃するのはやめたようだ。するとフォイアーが俺に聞いて来る。
「継子はお前達が連れて行ったのだろう?」
「何回も同じこと聞くねえ。じゃあ、俺の問いに答えたら答えてやる 。お前達はなぜ継子を探す? 探し出してどうするつもりだ?」
「……」
「言わないなら俺も言わないけど」
「それは上が決める事だ。我々の任務は継子を連れて行く事のみ」
「どうやって継子が、ここに居るって知った?」
「それも指示で来た」
なるほどね。こいつらは実行部隊で何をするかは上が決めるって事らしい。まあ本当かどうかは分からないけど。
「なら俺達も答えてやる。俺達は継子をさらってはいない」
だって本人の意思を確認して、本人が来るって決めたんだから俺はさらってなどいない。
「だが連れて行ったのだろう? 村人は吐いたぞ」
「自分の意思でついて来たんだ。強要してはいない」
「なら引き渡してもらおうか! どこにいる?」
「彼の大切な人が住む村を焼いておいてか? 彼がそんな奴らに従うと思う?」
「そ奴の意思など関係ない。連れて行くだけだ」
そして俺は思いっきり馬鹿にするように高笑いした。
「はーっはっはっっはっは! 連れて行けるもんなら連れてってみろ! 前に殺した三人と同じ目に合わせてやる! バーカ!」
そう言った瞬間、前の三人からとんでもない威圧感が放出された。瞬時にシャーミリアが俺の前に出て、そいつらの威圧から守ろうとする。
「そうか…貴様が…」
「許すまじ」
「すぐに殺すべきだぜ」
おうおう! めっちゃやる気じゃん。
俺とシャーミリアが身構えた瞬間、真下からフォイアーとファゴールとイーグニスに銃撃が浴びせられた。三人は咄嗟に回避行動を取ろうとしたが間に合わず、炎壁を全方位に張り巡らした。
「ナイスタイミング! ファントム!」
《ハイ》
ゼクスペルの真下にはM134ミニガンを構えたファントムと、AT4ロケットランチャーを撃ち放ったゴーレムたちが立っている。炎壁を全方位に張った影響で、飛竜の羽が焼けてしまいどんどん高度を落として行った。
「シャーミリア追い打ちをかけるぞ」
俺は12.7㎜重機関銃を召喚して、シャーミリアに渡した。更にヴァルキリーの肩にM134ミニガンを二基召喚し、一斉射撃に移る。下と上から挟むように銃撃を喰らい、炎壁を途切れさせる事が出来なくなったゼクスペルたちは、なすすべなく墜落していった。
「やはり通常弾は貫通しない。あの炎壁は厄介だな」
「そのようです」
地上に落ちたゼクスペルたちは、飛竜を捨ててファントムとゴーレムの部隊に襲い掛かった。ゴーレムたちはすぐには破壊されないが、それでも三人のゼクスペル相手ではそれほど持たないだろう。
《ファントムは急速離脱しろ。ヘリとは反対の方向に走れよ》
《ハイ》
ボッ! とファントムが消えるように居なくなった。一気に南に向けて走り出したが、ゼクスペルたちは殴って来るゴーレムを破壊するのに少し時間を取られ、ファントムを追う事は出来なかった。
その隙に俺はMk.82 通常爆弾を十発ほど召喚して落下させる。Mk.82 通常爆弾は後部をパラソルのように十字に開いて、回転しつつ円筒の部分を下に向けて落下していく。
すまんゴーレム君たち。だが…無駄死にではないぞ!
バグン! バグン! バグン!
次々に爆発していくMk.82 通常爆弾に、ゴーレムたちが破壊されていく。本来は超大型爆弾を落としたかったが、村が近くて被害が出そうだったので止めた。爆炎が広がったため、ゼクスペルたちの様子がうかがい知れない。
だが次の瞬間シャーミリアが俺を掴んで飛んだ。俺がいた場所に集中して下から火柱が上がり、俺は危うく直撃を喰らうところだった。
「サンキュ、シャーミリア。アイツらは?」
「残念ながら三体とも生きております」
「やっぱ一筋縄ではいかないな」
爆炎が流れて行くと、炎の中に三人のゼクスペルが立って俺達を見上げていた。
「怒ってるねぇ!」
「そのようです」
「とりあえず高度を取っていれば奴らの攻撃は余裕で避けられる。一方的に打ち込んでやろう」
「は!」
俺とシャーミリアが雨あられのように、上空から銃弾を注ぐがそのことごとくが炎壁に弾かれている。すると俺達の攻撃などお構いなしに村の方に歩き始めた。
「腹いせに村を焼くんじゃね?」
「その可能性はございます」
「止めるか…」
「かしこまりました」
《ファントムも戻れ!》
《ハイ!》
俺達は燃える村の前に降り立った。すぐにM1 エイブラムス戦車を召喚し、車内に乗り込んで劣化ウラン弾を装填した。劣化ウラン弾はゼクスペルを貫通できる数少ない兵器のうちの一つだ。
ジッと待ちかまえていると正面の爆炎の中から、三体のゼクスベルがゆっくりと現れた。
「余裕ぶちかましやがって」
ズドン!
俺の砲撃はファゴールに向かって飛んでいく。だがファゴールは不適な笑いを浮かべてそれを受け止めようとしていた。
「ファゴール! 避けろ!」
フォイアーが言うとファゴールは条件反射のように劣化ウラン弾を避けた。弾は通過し後方に着弾する。どうやらフォイアーはこの武器の性質を勘で見抜いたようだった。攻撃を読んだゼクスペルがまたじりじりと迫って来る。
「ヤベ!」
戦車に乗ったままだと戦車ごと丸焦げにされそうなので、俺は慌てて外に出てシャーミリアに言う。
「外れた!」
「攻撃の性質が分かっているようです」
「あのフォイアーってやつが厄介だ。攻撃の種類を読んで避けさせた」
「曲者でございます」
「あの自信満々のゼクスペルが避けたからな…」
「いかがなさいましょう?」
「ちょっとまって」
3、2、1
バシュン!
俺達が見ている前でイーグニスが膝をついた。
「よし!」
「あれは?」
「狙撃だよ。うちの狙撃の女神が撃ったのが直撃した。意識外からの攻撃に弱いのは知っているからな」
三人のゼクスペルは歩みを止めて、イーグニスを抱えるようにして立たせる。
《アナミス! あとマリアには攻撃させるな。次は恐らく位置がバレる》
《は!》
俺はアナミスに念話で伝えて、ゼクスペルたちの様子を見る。するとフォイアーが叫んだ。
「おかしな術を使う…どこから攻撃した?」
「悪いが企業秘密だ。次はその空っぽ頭をやるぜ」
「……」
ゼクスペルは完全に足を止めた。どうするかを考えているらしいが、俺達三人ではこいつらの相手は荷が重い。一旦逃げるべきか? もう一つの策を試すべきかを迷っている。
そんな時、ゼクスペルの近くの空間が薄っすらと輝きだしたのだった。