第876話 シンクロニシティ
俺達の話だけでブリッツが全て信じるのも無理があり、実際にその状況に合わねば半信半疑だろう。だが俺達はそれを証明している時間など無く、まずは他の転生者を探さねばならないと考えていた。
神の継子の可能性が高いブリッツを発見したことで、この世界に転生者が存在する事が確実となり、俺達の仮説もほぼ確信に変わる。そこでやるべき事は、敵より先に継子に接触しなければならないという事だ。というのも敵は神を探しデメールを襲撃していたが、継子に白羽の矢を立てないとも限らないからだ。敵が継子を探し出して連れ去ったり殺したりすれば、この世界のバランスが狂ってしまうんじゃないかと思う。
そのため俺達は継続して捜索を続ける事にしたのだった。
そしてブリッツが言う。
「神には会えないのかい?」
「すまない。まだほかにも神の継子がどこかにいるはずなんだ。少なくともあと三人はどこかにいると思う。神に会うのはその後になるかも」
「なるほど。このまま探し続けるという事か」
「そう言う事だ」
チヌークヘリは更に北上し、オージェが以前回った村に向かっていた。オージェ曰く村はもう一カ所あり、そこから北に向かえばウルブス領に入るらしい。俺達が確認すべきはもう一つの村となる。
「村だ」
エミルの無線が聞こえ、俺達が外を見ると村が見えて来た。ブリッツが居た村より小さく、魔獣の被害も少ないのか村の外柵も簡素なものだ。そのまま村の上空にヘリコプターを飛ばし、数週ほど回ってから着陸する。
「これから村に入ってみるけど、ブリッツはどうする?」
「行くよ。転生者が他にいるなら見てみたい」
「わかった」
俺とオージェは、シャーミリア、アナミス、セイラを連れて村に入る。ブリッツがついてきて俺達に言って来た。
「ここは隣の村だからね。俺も知り合いがいるよ」
「そうか」
俺達が村に入るとすぐに人が出て来た。オージェとブリッツを見て おばさんと男が声をかけてくる。
「あら? オージェさんじゃない?」
「こんにちは」
「それと…隣村の、えーっと」
「ブリッツです」
そんなに面識はないようだが、ブリッツの事は知っているようだ。まあ肌の色も変わっているし、目立つっちゃ目立つ。村人が覚えていてもおかしくはない。
「そうそう。あんた鍛冶師のとこの坊やだったよな」
「そうです」
「ていうかよ! あんたら! 何か巨大な龍のような物が飛んてたんだ! 見なかったか?」
それを聞いたオージェが村人に言う。
「実は、ああいう乗り物を見たことがある人はいないかと探しているんだよ」
「なんだって? あれが乗り物? 空飛ぶ乗り物なんて聞いた事がないよ!」
「まあ。神様の乗り物のようなもんだからね、ちょっと村人達に聞いてみてくれないか?」
「オージェさんの頼みなら良いよ」
そう言って村人達が村に散らばっていった。しばらく待っていると、次々に村人がやってきて見たこと伝えて来る。みんなが来るまでにオージェが村人と話をしていた。
「生活するのに困ったことはないか?」
「最近は無いねえ。変わった事と言えば、湖での漁がしやすくなったって聞いたね。おかげでウルブスから魚が豊富に入ってくるようになったよ」
それは魔人軍基地がウルブス領の近くに出来て、湖の魔獣を監視しているからだと思う。漁師たちが安全に漁を出来るように、警護の仕事を受け持っているはずだ。
なるほど魔人軍基地ウルブス支部は役に立っているようだな、アリスト辺境伯も上手くやってくれているのだろう。それが周辺地域に恩恵をもたらしていると思うと俺も鼻が高いや。
「それは良かった」
俺が村人に聞いてみる。
「不足している物資とかはありますかね?」
するとおばさんが答えて来る。
「そうだねえ。最近は南からの物資が途絶えて、塩が不足しているねえ」
「塩か。ふむふむ」
「あとは乾燥果物とかも入らなくなったかしら」
「なるほど。他には?」
「そんなところだねえ」
分かった。すぐに魔人基地経由で流通させることにしよう。
そんな話をしていると全ての村人がやってきて、誰もヘリコプターを見たことがないとの事だった。先の二つの村と同様に、転生者はこの村にはいないらしい。
「わかった。ありがとう!」
オージェが手を伸ばすと、代表の男と握手を交わす。そこで俺はおばさんに言った。
「そのうち塩と果物関係が入ってくると思います。ご協力ありがとうございました」
「おや? せっかく来たのに立ち寄らないのかい? 」
それにオージェが言う。
「すまんが急ぎの用があってな。またいつか立ち寄らせてもらうよ」
「いつでもおいでよ」
「ああ」
そして俺達は村の門をくぐり、チヌークヘリに乗り込んで飛び立った。村人は驚いているようだが、俺達はそれにかまう事無く堂々と飛び去って行く。
グレースが声をかけて来た。
「どうでした?」
「いなかった。まあそうそう簡単に見つかるとは思ってないけど」
「まあそうですね」
するとブリッツが俺に聞いて来る。
「今まではどうやって?」
「導かれたと言ったのが正解かも。俺が動く先々に必ず神や継子がいたような感じ? 南に来て豊穣神にも会えたし、死神にも会えた。その上にブリッツとも知り合えたからね」
「誰と戦っているんだっけ?」
「目下、敵だと分かっているのは、火神とデモンと言う悪魔の類だよ」
「神と悪魔が手を組む?」
「訳が分からないけどその通りだ」
そう言われてみればそうだ。なぜ悪魔が神に与するのか疑問ではある。まあ俺の軍門に下ったアスモデウスと言う例外もあるが、俺達の周りにデモンの存在はない。
デモンは捨て駒のようにぶつけられ、そのことごとくが俺達に消滅させられた。最近ではベルゼバブとか言う厄介なデモンが襲ってきたが、それ以来はデモンが襲ってくる事が減った気がする。
「デモン召喚の魔法ってのがあるらしくてね、目の前で発動したのを見たことがある。大量の贄を用意して人間の命と引き換えにデモンが呼ばれるんだ。それで北の国々は壊滅させられたんだよ」
「それは敵の神がやったと?」
「たぶん…ね。その敵を追って南方に来たんだけど、敵に火の一族ゼクスペルとか言う奴らが居て、どうやらそいつらは火神についているようなんだよ」
するとブリッツは少し考え込むような仕草をした。前世FBI捜査官なので、もしかしたら何か推理めいた事を考えているのかも。俺達はブリッツが口を開くのを待つ。
「南ではそんなにデモンに遭遇してないと?」
「そう」
「多分だけど…」
「なに?」
「敵は一枚岩では無いかもしれないね。何かそこに違和感を感じる。南の都市を制圧してもデモンが攻め込んでこないんだよね?」
「そうなんだ。こちらが挑発行動をとっているのに、一切反撃してくる様子がない」
「なるほどね」
「何か分かる?」
「いや。プロファイリングしてるんだけど、もっと情報が欲しい」
「そうか」
俺達のチヌークヘリは元来た東部ラインを戻り、魔人達が待つ都市へ急ぐ。
だがその時は唐突に来た。
《突如、巨大な気配が現れました!》
魔獣を警戒していたシャーミリアが外から念話を繋げて来た。
《どっちだ?》
《南方向にございます》
俺は急いで操縦席に走りエミルに伝える。
「エミル! 敵が出現したようだ!」
「了解」
エミルが飛行高度を上げる。
「グレース! 魔導鎧を」
「はい」
俺はグレースにヴァルキリーを出してもらう。突如出現したヴァルキリーを見たブリッツが言った。
「今、何処から出て来た?」
それにグレースが答える。
「なんと言うか、僕はアイテムボックスみたいな能力を持ってるんです」
「アメイジング!」
俺がエミルに言う。
「後部ハッチを開けてくれ!」
「了解」
ゆっくりと後部ハッチが開いて行く。そして俺はグレースに言った。
「飛行ユニットを放出してくれ!」
「了解!」
グレースが後部ハッチに言って保管庫から飛行ユニットを放出した。俺はその飛行ユニットをそのまま外に押し出して、続いて飛び降りる。自由落下を始める俺のもとに飛行ユニットが飛んで来た。
《緊急ドッキングだ!》
《はい。我が主》
ガッシャンとヴァルキリーの背中に飛行ユニットが装着され、俺はそのままシャーミリアの所に飛ぶ。
「シャーミリア! 敵に向かって飛べ!」
「は!」
シャーミリアが高速飛行に入り、俺はその後ろをついて飛んだ。すると前方の地上で火の手が上がっており、その上空に飛竜が飛んでいるのが見える。飛竜の背中には何かが乗っており、空から地上に向けて炎をまき散らしていたのだった。
高速飛翔中なので、シャーミリアが念話で言って来る。
《あれは、ゼクスペルかと》
《マジ? こんなところに?》
《危険です。お下がりください、私奴がどうにかしてみます》
《まて! シャーミリア! 敵は一人じゃないようだぞ!》
俺達が見ている先の地上から、もう二匹の飛竜が飛び上がって来たのだった。
《いきなり三人かよ》
《そのようです》
俺はすぐさまマキーナに念話を繋げる。
《マキーナ! チヌークヘリを近づけさせるな!》
《は!》
このまま飛んで来たら、ゼクスペルに撃墜される恐れがある。とりあえず俺達二人であれをどうにかするしかないだろう。
するとシャーミリアが言う。
《ご主人様。あの飛竜にまたがっている間は、恐らく炎の防壁を使う事は出来ないかと思われます。もし炎の防壁を使えば、飛竜はたちまち燃え尽きますでしょう》
《ナイスな所に気が付いたな》
俺はすぐにバレット M82 を召喚して構える。もちろんゼクスペルを相手にする為、徹甲弾を装填していた。ゼクスペルはこちらを睨んで飛竜で飛んでいるが、俺はそのうちの一人に向かってバレット M82 狙撃銃を撃ち込む。
ズドン!
だが俺が攻撃したのを見計ったように、そいつが火の防壁を張った。するとシャーミリアが想定した通り、飛竜が大やけどをしてバタバタと苦しそうにもがいている。ゼクスペルの一人はそれを抑えるのに必死だ。
アホみたいに、飛竜の上で防壁をはるからだ。
だが次の瞬間、俺達に向かって何本もの火線が伸びて来た。
「ばーか。あたるかそんなもん」
俺とシャーミリアはそれをひらひらと交わす。地上とは違い縦横無尽に逃げ場所があるだけに、空での戦いはこちらに優位だった。俺は動き回りながらもバレット M82を構え、ゼクスペルに打ち込むが狙いが定まらない。むしろシャーミリアのM240中機関銃の方が有効なようだが、距離がある為なかなか致命傷を与える事が出来ないでいる。相手の攻撃も当たらないが、こちらも致命傷を与える事が出来ない。
くっそー。ちょこまかと動きやがって、って相手も思ってるかな? 相手も不用意に近づいてこないように、距離を取っているようだしな。てか、何でこんなところにゼクスペルがいるんだ? もしかしたら敵も継子の存在に気が付いたか? 変な所でシンクロしやがって…。
俺達が先に継子の存在に気が付いた分、優位だと思っていたが、どうやらその優位性はなくなった。 そもそも、今はそれどころじゃない。目の前のこいつらをどうするか? 銃撃を繰り返しながらも、攻略の糸口を探し始めるのだった。