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第873話 神の継子を探そう

  やっぱりオージェは凄いと思う。その地に住んでいる人々の先の暮らしを考え、人道的手段を用いて自立できるように仕向けている。俺達の動きが察知されたが故に兵士を引き上げられてしまった都市は、魔獣などの外敵にさらされてしまった。それを補う為に人材を育成して、自警できるレベルまで持って行くなんて俺には出来ない。


「さすがは元自衛官だよな」


「いや。俺はラウルのように自由に動かせる兵を持っていないからな。それが出来るなら俺もそんな手間はかけないし、そもそも俺達は侵略者。一般市民に罪はないし、やれることはやっておかないとなって感じだよ。まあ本来市民を守るべき兵士達を、根こそぎ連れていく敵が一番悪いとは思うがな」


「頭が下がるわ」


「ま、後はラウルが何とかしてくれるんだろ?」


 たしか前世でも、人の国でやるだけやっていきなり兵士を撤退させる国があった。そのせいで治安が悪くなって、たくさんの死人が出る事など関係ないと言わんばかりに。逆に自衛隊は海外に派遣されると、その国の人達から慕われる事が多い。きっとオージェはそれを地でやってるんだろう。


「まもなく魔人が大量に送られてくる。そしたらここにも駐屯させる予定だけど、それまでの間はオージェの仕込んだ私兵に守ってもらう事になりそうだ」


「了解だ」


 今は神仲間だけでミーティングをしており、魔人達は周辺の偵察に出ていた。俺はオージェとエミルとグレースに問いかける。


「で、どうすっかな。神の継子なんてどうやって探したらいいんだよ」


 実際の所、いままでは偶然に見つけ、それがたまたま元の世界で一緒にやっていたサバゲの仲間だった。俺の問いにグレースが答える。


「ラウルさん、いいですか?」


「ああ」


「僕ら四人は地球からやってきましたよね?」


「それを言ったらアウロラもだ」


「あ、そうです。と言う事はですよ、神を継ぐ者は地球から転生して来る人の可能性が高いですよね」


「火神はどうなんだろうな?」


「僕の予想ですが、恐らく転生人だと思います」


 それにはオージェもエミルも同意し、もちろん俺もそうじゃないかと感じている。ここまで条件がそろうと、必然的に向こうの世界から呼ばれているような気がしてならない。


 俺はセイラが出してくれたテーブルの上のコップを持って口をつけた。その飲み物は冷たく、とろりとしていて酸味がある果実ジュースだった。


「うま! これ美味い!」


「それはこのあたりで取れる果実のジュースだよ。マジでうまいだろ?」


「果物なんだよな? クリーミーつうかなんていうか舌触りがいい」


「このあたりはとにかく果物が豊富だ。本来は海の幸が出回っていたんだが、商人の行き来が途絶えて入らなくなってしまった」


「マジか。きっと南側で流通を止めてんだろうな」


「そうだと思う」


「ひとまず食料の流通はこっちでやる。北と転移魔法陣で繋がったからな」


「そうした方が良いだろう」


 俺達はしばらくお茶を楽しみながら、どうすべきかを雑談レベルで話し合った。前世からずっとそうだが、そうしたほうがかなりいいアイデアが出るのだ。ここは兵舎の二階にある部屋だが、外からは賑やかな市民の会話が聞こえる。流通が止まっても活気があり、自立してやっていけているのだろう。


 そしてエミルが何かを思いついたように言う。


「そういえば。俺が何故転生者に気が付いたか…すなわちラウルに気が付いたかを思いだした」


「なんだっけ?」


 エミルとはサナリアで出会ったが、どんな出会いをしたか忘れていた。


「ラウルの兵器だよ。車両やヘリを見て俺が気が付いたんだ」


 するとグレースも言う。


「あ! それ僕もです! 近代兵器を見てピンときたんでした!」


 更にオージェも頷いた。


「俺もだ」


「確かに。と言う事は、近代兵器を見せびらかした方が良いって事?」


 三人が大きく頷いた。確かに俺達の方から探しに行くよりも、近代兵器を見せびらかした方がいい。敵対していない限りは俺達に近づいて来るかもしれない。


 目からウロコだった。そう考えてみると、今までの道中で近代兵器を見せびらかして来たが神の継子は現れなかった。ということは、ここから先にいる可能性が高い。


「まあ一つ不安があるとすれば、神を継ぐ者は本当に全員が転生者かどうかと言う事だ」


「今の所、十神の内の五神がそうだからな、確率はかなり高いと思うぞ」


「なるほどね。やる事は決まったな」


 俺が言うと三人が頷いた。


「見せびらかすのは何がベストだ?」


 するとエミルが即答する。


「やっぱヘリだろ。空ならどっからでも見えるからな」


「異議なし」

「僕も異議はないです」


「何を召喚すればいい?」


 するとエミルが言う。


「あんまりデカいのは墜落とかしたら被害が出るし、ちっさいのは目立たないからな。まあ前の世界で一番使われている軍用ヘリが良いんじゃないか?」


「世界で一番って言うと、ブラックホークか?」


「ああ」


 UH-60 ブラックホーク。世界中で使われる汎用性の高い軍用ヘリだ。それを低空で飛ばす事により、地上から見つけてもらう作戦だ。


「まずこの都市から行くか」


「わかった。すぐやろう」


 そして俺達は会議室を出て一階に降りる。するとケイナとオンジとトライトンがお茶をしていた。久しぶりに会って和気あいあいとしている。そしてすぐにシャーミリアとファントムもついて来た。


「ケイナ。ヘリを飛ばすぞ」


「わかった」


 エミルがケイナに言うとスッと立ち上がって準備をし始める。そしてオージェがトライトンに言った。


「道場を頼んだぞ」


「分かりました」


 俺達は、トライトンとセイラにその場を任せて外に出て行く。兵舎の外に出て、俺は人目もはばからずにブラックホーク軍用ヘリを召喚した。突然現れた大きなヘリコプターに、町人たちが足を止めてガン見している。だが俺達がこれからやろうとしている事からすれば大歓迎だ。


  俺がシャーミリアに言う。


「神の継子がいないかを調べる。シャーミリアはヘリを警護してくれ、魔獣だと思って魔法で攻撃されるかもしれんがそれを防いでくれるだけでいい。くれぐれも冒険者を殺す事の無いように」


 そう言って俺はシャーミリアに、M240中機関銃とバックパックを召喚して渡した。エミルとケイナが操縦席に座り、俺とファントムとグレースとオンジ、オージェが乗り込む。ゆっくりと空中に浮かび上がるブラックホーク軍用ヘリと共に、シャーミリアもゆっくりと浮かんだ。


 ブラックホークは低空を飛び始め、都市の建物のすぐ真上を往復し始めた。低空で飛んでいるため、建物の中にいても絶対に分かるだろう。俺達は三十分ほど、都市を行ったり来たりし始める。すると案の定、ギルドから冒険者達がぞろぞろと出て来て弓や杖を構え始めた。


「エミル。一旦飛び去ろうか。恐らく火の弾とか氷とか飛んでくっぞ」


「了解」


 エミルは一気に高度を上げた。そして俺はヘリコプターに備え付けてある、拡声器のマイクを持ってスイッチを入れる。


「あー、テステス! チェック! あー、もしこの機体を見て気が付いたなら兵舎まで尋ねて欲しい。地球から来たと自分で分かっている人がいたら、悪い様にはしない。ラブアンドピースですよ」


 そして俺からマイクを奪ったグレースが言う。


「コカ〇ーラ、ポップコーン、すき焼き、寿司、カレーライス、チンジャオロース、北京ダッグ」


 確かにこの世界には無い食べ物だ。あえてそう言う単語を並べる事で、気付いてもらおうと思ったらしい。すると今度は世界的にも有名なビー〇ルズの歌を歌い始める。その歌声に、ケイナもオンジもうっとりと聞き惚れていた。


 そう、グレースは歌がめっちゃ上手いのだ。俺も負けてないとは思うが、グレースは平和な曲を歌う事で、あえて敵対心が無い事を訴えかけているのだろう。


 だが更に冒険者が集まって来てしまったので、俺達は一旦飛び去る事にした。郊外に出て荒野にヘリコプターを隠し、再び都市に戻って来たのである。


「誰か来てると思います?」


「わからん。だが用があれば兵舎に来るようにってのは伝わったはずだぞ」


「ですよね」


 俺達が都市に戻ると、市民が俺達を出迎えてくれた。シャーミリアが携帯しているM240中機関銃にじっと注目しているが、もちろんそれが何だかわからないので何も言わない。


 俺達が街中を歩いて行くと、どうやら兵舎の方角が騒がしい。急いで兵舎に行くと物凄い人だかりができていた。


「えっ? あんなにいっぱい?」


 確かに俺は兵舎に来るように言ったが、何か絶対関係ない人達も集まっている気がする。入り口では黒帯が必死に人達を止めていた。


「黒帯が困ってんぞ」


「本当だ」


 何を思ったか、兵舎の前で人々がワイワイと騒いでいる。


「なにかここに来るように言っていたぞ!」

「神の声のような気がした!」

「とにかく偉い人を出してくれ!」


 黒帯たちが、市民に言った。


「ちょっと待ってください! ただいま総帥が外出中でして!」


 それを見たオージェが大きく息を吸い込んだ。俺とグレースとオンジ、エミルとケイナが慌てて耳を塞ぐ。


「こんにちわ!!!!!」


 ビリビリビリビリビリ! 市民が耳を塞いでしゃがみ込んだ。爆音のようなオージェの声に、思わずビビッて体を丸めてしまったのだ。


「総帥をさせていただいております! オージェです! 龍神会へのご入門でございましょうか!」


 怯えるような目で、市民達がオージェを見た。だが一人の男が立ち上がって言う。


「あ、あの。なんか空から声が降ってきて、兵舎に集まるようにって。きっと神の声か何かだと思って、みんなで来たんだが」


「ああ、そうでしたか!」


 するとオージェは日本語に切り替える。


「こんにちは日本人はいますか! ハローアメリカンズ! ボンジュールフランセ! チュングォレンミンハオ!」


 それを聞いた市民達は頭にハテナマークを浮かべた。どうやら今集まっている人らには、前の世界の人間はいないようだ。


 オージェの和製外国語でも、前世から来たら絶対に通じるはず。皆がポカンとしているのでオージェが市民に言う。


「ここにはいらっしゃらないようです。お集まりいただきありがとうございました! もしよければ龍神会にご入会をお願いします!」


 市民はあっけにとられながら顔を見合わせていたが、一人、また一人と帰って行ってしまった。


「やっぱ一発では難しいかも」


 するとオージェが言った。


「ならば俺達が進んで来た、東のラインを調べてもいいかもな」


 確かに、オージェ達は東の山脈の麓を南下してきた。ヘリコプターならば一日か二日で回りきれるだろう。


 ここは敵の襲撃を受けたとしても魔人の精鋭部隊がいるし、前線基地は大量の魔石のおかげで防御力が高まっている。俺が到着するまでは持ちこたえられるはずだ。


「わかった。部隊を再編して行こう」


 そして俺は魔人たちに念話を繋げて、全員に召集をかけるのだった。

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