第870話 完全攻略
この部屋は、まるで今までの総決算のようだった。最奥に見えている立派な服装のリッチだけは投影のようだが、その前に控えている魔物たちは全て本物だ。きっとここにも攻略の法則があるのだろうが、まずは戦って紐解いていくしかない。
俺達が銃を構え進むと、スケルトンやゴーレムたちも迫って来る。
「ギレザムとゴーグ、シャーミリアとマキーナで大物をひきつけてくれ」
「「「は!」」」
「アナミスは上空から、魔物たちの動きを確認」
「はい」
「カララはとにかく部屋中に糸を張り巡らせて」
「かしこまりました」
「ライカンは魔石を置いて、小物を相手しろ」
「「「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」」
魔人達は一斉に部屋中に散っていった。
「さてと」
俺はファントムの前に立ち、戦いの様子を眺めつつ攻略の方法を探る。俺の後にはファントムがしゃがみ、マリアがファントムの肩にTAC50スナイパーライフルを構えていた。スケルトンやガーゴイルがライカン部隊の攻撃を受けて次々に崩壊するが、その瞬間に最奥にいる法衣を着たリッチが魔法を放った。するとガラガラと崩れたはずのスケルトンやガーゴイルたちが、みるみるうちに復活する。
「回復役か。だけど実態が無いのに魔法を放てるのか?」
ギレザムとゴーグ、シャーミリアとマキーナは大物の魔物を圧倒しているが、大物の魔物もすぐに回復してしまうようだ。小物を全て破壊しようにも、奥の法衣リッチがすぐさま修復する。
更にキマイラのゾンビがやたら強かったので、シャーミリアを投入しておいて正解だった。
「とりあえず、あの法衣リッチを調べるか」
俺は数機のブラックホーネットを召喚し、魔人が戦闘している横をすり抜けて最奥まで飛ばしてやる。法衣リッチを四方から撮影するが、きちんと映っているし透けている様子もない。揺らぎも無いので実態があるように見える。
スケルトンやガーゴイルが倒されるたびに、手の先から何かを発して修復しているようだ。
「あれをどうにかしないと、小物が瞬時に修復されるな」
「どうします?」
「マリアは法衣リッチを撃ってみてくれ」
マリアが狙撃をすると、遠目で見ていたのとは違う現象がディスプレイに映し出された。
「一瞬消えたぞ」
「どういう事でしょう?」
「まさか狙撃に合わせて、一瞬消えているのか?」
「では」
ズドン! ズドン! ズドン!
とマリアが連続で狙撃すると、その都度一瞬だけ消えて現れているのが分かる。
「嘘だろ…マリアのスナイプを避けて消えてるのか。なんつー反射速度だ」
「どうします?」
「ちょっと撃ち続けててくれる?」
「はい」
マリアが狙撃を繰り返していると、アナミスが何かに気が付いたようで俺に念話を繋げて来た。
《ラウル様。小物の修復速度が鈍ってきました》
《なるほど。ボスを狙撃しているから、その間は修復できないんだ》
《私があの敵を抑えましょうか?》
《うーん。やめておこう、あれがどんな存在か分からないから近寄りたくない》
《はい》
そして俺はカララに聞く。
「あの法衣リッチの所に糸は?」
「届いておりますが、周囲まで到達すると糸の感触が消えます。もしかすると断ち切られているかと」
カララの糸を切る奴がいるんだ。まるで火の一族ゼクスペルのようだ。
「なるほど、ある程度の所までは接近出来ていると」
「はい」
と言う事はあの法衣リッチの修復を止めた状態で、小物たちを全て仕留める可能性があるって事だ。それから大物に取り掛からないと攻略は出来ないって事か。
俺は全員に念話を繋いだ。
《みんな。俺が小物の修復を止めている間に一斉に小物を破壊しろ》
《《《《《《《《《《《《は!》》》》》》》》》》》》》
俺はカララの体に触れ、法衣リッチの周りにウージーサブマシンガンを大量に出現させた。
「よし、カララ。撃て! 弾倉が切れたら次々に新しいのを出すから捨ててくれ」
「はい」
タタタタタタタタタタタタタタ!
法衣リッチはウージーの集中砲火を浴びて、体を出せなくなった。
《今だ! ライカンは小物たちをやれ》
《《《《《《《《《《《は!》》》》》》》》》》
「マリアは、ライカンが漏らした小物を狙撃で破壊!」
「はい!」
ズドン! ズドン!
すると法衣リッチの回復が飛ばなくなり、小物たちが修復できずに崩壊していく。
「ギレザム! ゴーグ! シャーミリア! マキーナ! 俺の所に来い!」
俺は五基のM777榴弾砲を召喚した。
「一斉砲撃だ!」
ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン!
「休ませるな!」
俺はすぐに榴弾を召喚し次々に大物の魔物に打ち込んだ。
次々に榴弾砲の直撃を喰らい、大物の魔物たちは次々に崩壊していく。その間も俺はカララの糸の先にある、ウージ―サブマシンガンを入れ替え法衣リッチに修復の隙を与えない。相当量の武器を次々に召喚し、修復されないうちにすべてを破壊した。
するとギレザムが言う。
「キマイラゾンビがすばしこいですね。榴弾砲では仕留められません」
「よっしゃ」
ドスン! 俺はM61バルカン砲を召喚しファントムに伝える。
「ファントム! 至近距離からアイツをやってこい!」
《ハイ》
ファントムはM61バルカンのドラム缶を担いで、キマイラゾンビにダッシュした。すぐ目の前に現れて、至近距離からM61バルカンの集中砲火を浴びせていく。キマイラゾンビがぐずぐずに崩れるが、少しタイムラグがあった為かドラゴンスケルトンや巨大ゴーレムが治り始めた。
「大物を休ませるな!」
次々に榴弾砲を召喚し魔人達が大物に撃つ。室内は銃弾の雨あられで、あちこちに薬きょうの山を積み上げていった。ファントムが被弾しているが、超回復でたちまち体を治しながら攻撃を続けた。
そして…
「撃ち方止め!」
皆が撃ち方を止める。
シュウシュウと音をたててファントムが修復しているが、魔物たちは復活する事は無さそうだった。ウージ―サブマシンガンを撃つことを止めたので、奥の法衣リッチが現れた。
すると、空中に文字が浮かび上がってくる。
よくぞ我が軍を打ち破り、ダンジョンを完全攻略した! お前達は真の勇者! 何か一つ褒美を取らせよう。我の側に寄るがいい!
俺がどうしていいか分からないでいるとギレザムが言う。
「褒美だそうですよ、ラウル様」
「褒美もらえるんだ…なんでもいいのかな?」
「じゃないですか?」
俺達はぞろぞろと法衣リッチの側に寄った。するとガイコツだった顔に薄っすらと人間の顔が浮かび上がってくる。まあ普通の渋いおっさんだが、想像していたより整っている気がする。
「あのー」
「なんじゃ?」
「あなた神様ですか?」
「む。いかにも…」
そう言ってその渋いおっさんがまじまじと俺を見つめた。しばらく黙り込んで口を開く。
「なんじゃ! お主! 魔神のなりそこないではないか!」
「あ、すんません」
「どうりでこんな簡単に攻略すると思った。人間には到底不可能な設定にしてやったが、こんなにもやすやすとクリアしおって! 魔神じゃとわかっとったら、もっと無理ゲーにしとくんじゃったよ!」
「なんか、最初に自己紹介しておけばよかったですかね?」
「うむ…そう言われてみるとその機会は無かったの…」
法衣を着た渋いおっさんが胡坐をかいて座ってしまった。そして頬杖をついてもう一度俺達に言って来る。
「まあ負けは負けじゃ。褒美は何が良い?」
「なんでも?」
「我が叶えられる範囲ならなんでもええ」
「じゃあ、俺達と一緒に来てくれませんか?」
「な!」
「なんでもいいと言いましたよね?」
「もしかして、次の代の神を連れて来たのか?」
「いえ。それがまだ見つかってなくて」
「なら無理」
やっぱりそうなるか。でも何でもいいって言ったじゃん。
「なんでもは良くないと?」
「だって、ダンジョン構築できなくなるじゃないかい! 我はこれだけが楽しみでおったのじゃ」
「最初つまらなかったですよ」
「むぐぐ! それは、しばらく地上に出ておらんでな、最近流行のダンジョンがどんなもんか分からんかったのじゃ」
「まず魔物のバリエーションが悪すぎですよ。これじゃあまり冒険者も寄り付かないし、腕試し程度にしかならなくなる」
「そうはいっても、わしの魔石で作れるのはスケルトンやゴーレムしかない」
「面白いダンジョンを運営したいんですか?」
「うむ!」
なるほどね。この神は完全なダンジョンオタクらしい、だが引きこもっていたから最近のダンジョントレンドを把握していなかったという事だ。だが俺は思う。
こんな逸材は他にいない!
「あの、次の引き継ぐ人を一緒に探すと言ったらどうです?」
「魔神よ。お前の手を借りるという事か?」
「そうです。ただ、ここでお願いがあるんですよ」
「なんじゃ?」
「北のリュート王国に天然でめっちゃ面白いダンジョンがあるんです。とにかく魔物が湧きだして、そのバリエーションが豊富! それに手下の管理職員もつけます。引継ぎ先の体を見つけるまでに、その運営のノウハウを生かす事は出来ませんかね?」
すると法衣を着た渋いおっさんが腕組みをして目をつぶり考え始める。俺達は静かにその答えを待った。
「そこ、そんなに面白いの?」
「マジっす」
「ふーん。次の体も見つけてくれると?」
「はい。実は俺は虹蛇も精霊神も龍神もアトム神も、見つけて世代替わりさせてきたんですよ」
「ほう。あ奴らは世代替わりしたのか、すると魔神はその役割なのかもな」
「ええ。ただ豊穣神様だけが次の体が見つかっていません」
「豊穣のやつはまだか…」
「なので、一人探すも二人探すも一緒では?」
すると法衣を着た渋いおっさんが、俺の顔にじっと自分の顔を近づけて来る。俺の目を覗き込み言った。
「嘘は言っておらんようじゃな」
「言ってません」
「うむ……」
考え込んでしまう。俺はもっとダメ押しで言った。
「北のダンジョンはアグラニ迷宮と言うのですがね、元は龍の巣だったらしく百階層迄あるんですよ」
「ほう」
「天然で、気づけば新しい魔獣が発生する特殊な場所なんです」
「おもろいな」
「そこで俺達を負かしてみたくありませんか? きっと楽しいですよ」
しばらく考えたおっさんは顔を上げて俺に言った。
「連れて行け。久々に豊穣神にも会って見たくなってきたわい」
「わかりました。それで、討伐した魔石はもらっても?」
「ああ、当然の権利じゃ。素材はダンジョン攻略の醍醐味じゃろ?」
「わかりました」
そして俺は部下達に目配せをした。シャーミリアとファントム、カララとマリアを残して全員が魔石取りに走って行く。ダンジョンマスターと一緒なので、帰りは一匹も魔物と遭遇する事はないようだ。
俺達は無事にシダーシェンのもう一人を連れて、自分らの拠点に戻るのだった。