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第867話 回収部隊

 初めて会った時の豊穣神デメールはめっちゃ小さかったはずだが、オウルベア達が力をつけるたびに背が伸びるようだ。今では、小学校五年生くらいの大きさになったのではないだろうか? 俺がオウルベア達を保護し権力を与えたらこうなった。


 そのデメールがテーブルの上に気持ち悪いバケモノの絵を描いて、それが俺だと言い張る。こんな気味の悪い化物が俺だなんて失礼すぎる。泣けてくるしちょっとコワイ!


 ただ、そのテーブルの絵はとても写実的で、砂でこんな絵が描けるのも神様の力なんだろうか? そもそもどこから砂が出て来たんだろう? 変なの。


「ウチの力じゃ」


「あ、俺の心を読んでました?」


「そんなことはどうでもいい」


「そうですね」


 俺はまたテーブルの上のバケモノをまじまじと見た。どう見てもファントムよりおっかない。


「で、これが俺ってどういう事?」


「お主が内に飼っている獣じゃよ」


「いや、別に飼ってないかも」


「いるの! とにかく!」


 まあ本物の神様が言うんだから、きっとそうなんだろう。


「で、これが俺の覚醒の邪魔してくれちゃってると?」


「そういうこと」


 なるほどなるほど、そう言われたところで俺にはどうする事も出来ん。


「どうすればいいのか分からないですよ」


「取り除くしかない」


「どうやって?」


「実際のところは、とにかくいろんな事を好き勝手やって見ろとしか言いようがない。『それ』は欲望に根差してどんどん成長しているように思えるのじゃ。それならば成長させきった方がいい、その上で解き放てば変化が起こるじゃろうて」


 そうなの? 邪魔してるんなら成長させちゃだめなんじゃないの? でもデメールが言うなら。


「そうなんだ。いままでは好き勝手やってきたつもりだけど?」


「何かを我慢しておらぬか? それか何かに抵抗しておるのではないか?」


 抵抗か…。


 抵抗と言うならしているかもしれない。本当の気持ちを言ってしまうと俺は神になどなりたくないし、神になっちゃったら自分が自分で無くなる気がする。なんとなくだけど、俺とオージェとエミルとグレースの中では俺が一番抵抗してるかも。まあ次にオージェがそうかもしれないけど。


 俺は純粋な疑問をデメールにぶつける。


「あの、神になると何が良いんですか?」


「えっ…」


 デメールが言葉を詰まらせた。穴が開くほど俺の顔を見てポカーンと口を開けている。


「神になっていいコトありました?」


「それは…」


 デメールはずっと逃げて引きこもっていた。そんなデメールに答えられるのだろうか? そもそも俺が出会ってきた神は、なんか飽き飽きしていた気がする。虹蛇は車に乗せただけでひゃっほう! とか言ってたし、龍神はとにかく大食い自慢に命かけてた。精霊神だけはよくわからないが、アトム神なんてちょっとダメ神になりかけてたし。


 それに俺は俺のままで戦って皆と勝利を勝ちとりたい。神を受体したのが転生者ばかりだからか、神になる事を心から望んでも喜んでもいない。神を崇拝するこの世界の人間なら喜ばしい事なのだろうが、俺らは純粋に力をつけられるんじゃないかという打算で受け入れている。


「なら覚醒しなくても良くないっすか?」


「しかし。敵の神は既に覚醒しているかもしれん。未覚醒のまま戦うのは不利じゃ」


「今の所こっちは六神、あっちが一神でしょ。あと三神をこっちの味方につければ何とかなるんじゃないかな?」


「いやいや。ウチは戦力に含められないよ。世代交代もしておらんのだし、恐らくウチはこのまま消滅してしまうじゃろ」


「「えっ!」」


 俺とイオナは声を合わせて驚いた。


「なんだ?」


「消滅するんですか!」


「次の代が見つからなければな。古代には沢山いた神もどんどん減って来た…ぽい」


「ぽいっ?」


「ウチの引継ぎの時にそう聞いた気がした」


 マジか。つー事は、このまま放っておけば豊穣神は消えちゃうんだ。せっかくオウルベアが戻ってきて背も伸びたのに? 何とかしてやりたいが次の代の奴が見つからない事には無理だ。


「どうにかなんないっすか?」


「次世代の器を見つけるしかないが、もう他の神のように力がない」


 デメールにはデメールで切実な事情があった。するとイオナが俺に言う。


「ラウルが動けばいいんじゃない? 何とかデメール様を助けられないかしら?」


「俺が?」


「今いる神が受体したのは、あなたが動いた結果でしょ」


 確かにそうだ。俺は父のグラムとサナリアの仲間達の復讐の為に旅をしてきたつもりだが、動けば動くほど次世代の神を見つけて来た。神たちが前世のサバゲチームの生まれ変わりと言うのも、確実になんらかの意図があって呼ばれていると思う。


 って、言う事はデメールの次のやつを見つけなきゃいけないって事か。俺が俺のままで戦う為には、神々を集めなきゃいけないって事だ。


「探さなくちゃいけないか…」


「そうじゃない? さっきの話では、あなたがあなたのままで居たいのならそうするしかなさそうだけど?」


 なるほど。そう言うことなら、俺はデメールに聞きたいことがあったんだ。


「デメール様が全盛期に住んでいた山脈の住み家なんですが、あそこはダンジョンのようになってましたよね? あれはどうしてです?」


「ん? ダンジョンだからだけど?」


「やっぱりダンジョンだったんだ。デメール様が出て、加工されたただの洞窟になったってことだ」


「ウチが管理していた時まではダンジョンとして機能しておった」


 なるほどね。


「実は俺は昨日、冒険者としてダンジョンに潜って来たんです」


「ほう、どうじゃった?」


「ダンジョンは深くて、人間にとっては危険な場所でした」


「詳しく聞かせておくれ」


「はい」


 そして俺は万雷の回廊の事を事細かくデメールに説明した。モンスターが、ほとんどアンデッド系だった事と定期的に内部が変わるって事を。そしてダンジョンマスターにつまらん! クレームを言ってまた来る約束をしたとも伝える。


 するとデメールがニッコリ笑っている。


「間違いない」


「何がです?」


「そこに三神のうちの誰ががいる。作りは定番ダンジョンじゃが、魔獣の種類が単調でアンデッド系がほとんどね」


「まったくつまらない作りをしていました。なんていうか、ただアンデッドの強さを上げていけばいいみたいな感じで」


「ふむ。なんとなくどの神か想像がつかんでもないが、それは行ってからのお楽しみじゃな」


「教えてはもらえない?」


「ウチ知らんもん。昔気質のダンジョンを作って延々と運営してるなんて、本当につまらない性格のやつじゃと思うし。良く逃げ出さないでやってられるもんじゃ」


 まあシダーシェン(十大神)の誰かがいるかもしれないと分かっただけでも、十分な情報をもらえたと言える。俺の睨んだ通りで、あのダンジョンの最下層には神がいる確率が高い。


 とりあえず冒険者になって良かった。前の虹蛇が言ったように、俺のやる事は必然性が高いらしい。全く関係のない事のようにも思えたが、やりたいことを突き詰めたらたどり着いてしまった。


 充分、欲望に対して素直に動いている気がするんだけどなあ?


「デメール様。その神様を引っ張って来るにはどうすればいいですかね?」


「分体か次の世代を連れていければ間違いない。じゃが今はあてがないのだろう?」


「ないっすね」


「なら相手に、一緒に行ってもいいかな? と思わせるしかなかろう」


「ムズ!」


「ガンバ!」


 あれ? デメールってこんな性格だっけ? 身長が伸びてから少し性格も変わった気がする。


「わかりました。聞きたいことは以上です」


「うむ。ウチはイオナと子孫繁栄の話をするからの」


 なんかまた良からぬ相談をしそうだけど、俺の意識はシダーシェンの一神の事で頭がいっぱいだ。

俺はすぐに念話でギレザムに伝える。


《ギレザム! これから俺が潜ったダンジョンに行って、魔石の回収及びシダーシェンの一神との接触を試みる! ダンジョンに潜る人員と都市の護衛に残る人員をふり分けてくれ》


《は!》


 それから俺のもとに集まった魔人は、ギレザムとゴーグ、カララとマキーナとアナミスだった。他は都市防衛のために地上に残り、プラスして俺とシャーミリアとファントムが行く。今回はギルド案件じゃないので、ミーシャは連れていかない。


 ギレザムが俺に言う。


「ラウル様! あとは魔石の回収の為、基地設営の魔人もいくつか借りてまいりましょう!」


「わかった。じゃあバルムスに相談して人を割いてもらうか」


「は!」


「あと基地にエミルがいるから、ダンジョンまで送ってもらうわ。それと巨大魔石を保管してもらうのにグレースも」


「は!」


 外に停めてあ、陸自の96式装輪装甲車に乗り込もうとした時、マリアが追いかけるようにふらりと出て来た。そして俺を物欲しそうな眼差しで見ている。


「マリアも来い!」


「はい!」


 イオナの言うとおりだった。ミーシャとダンジョンに潜ったのを羨ましく思っていたらしい。戦闘訓練以降はずーっとメイドの仕事をしてたし、そろそろ腕がなっているのだろう。


 俺は天井のハッチを開けて体を外に出すと、都市部を進む96式装輪装甲車を市民が珍しそうに見ている。時折天井にいる俺に気づいた市民がいるので手を振ってやった。


 基地についてバルムスに言い、十人ほどの魔人を貸し出してもらう。ライカンを中心にそろえてもらったのは、魔石の運搬の為だった。


「エミル! グレース!」


「お! 俺の出番か?」

「なんでしょう?」


「送迎と物資搬送をお願いしたい」


「了解」

「わかりました」


 エミルとケイナ、グレースとオンジがそろったので、俺はチヌークヘリを召喚し全員でヘリに乗り込んだ。


「エミルはシャーミリアについて行ってくれ!」


 そしてシャーミリアがヘリの前方を飛び、万雷の回廊に向かって飛ぶ。エミルは遅れる事無くヘリで追跡した。


 すぐ着いた。


「空だと早いな!」


「だけどラウル! 着陸するところが無いぞ!」


「高度を降ろしてくれ、グレースとオンジさんはヘリで待機。後にライカン達が地上に魔石を運ぶから、グレースはどんどん保管庫に放り込んでくれるとありがたい」


「わかりました」


 後部ハッチが開いたので、俺が魔人達に号令をかける。


「総員! 降下せよ!」


「「「「「「「「は!」」」」」」」」


 結構な高度があり、自衛隊か軍隊ならロープ降下するところだが魔人達には必要なかった。パラシュートもつけずに、次々に後部ハッチから飛び降りていく。そして俺が最後になりエミルに伝える。


「とりあえず少し時間がかかる。地上に出たら照明弾をあげるから、どこかで待機していてくれ」


「了解」


 そう言って俺は最後に飛びおりた。地上まで真っすぐに落下していくが、三十メートルくらいの高さなのでどうという事はない。着地すると俺の前に魔人達が整列した。


「よし! ライカングループは俺達の後をついてこい! ダンジョン内にはアンデッドが多数いるが、この前ダンジョンマスターとシャーミリアが使役返ししない事を約束している。破壊したアンデッドから盗れた魔石は全部俺達のものだ。細かいの回収せずニ十センチ以上の魔石のみを回収する」


「「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」」


「潜入!」


 俺が言うと、俺の兵器を携帯した魔人達が次々にダンジョンの入り口から入って行った。俺とファントムとシャーミリア、ライカンたちは後からついて行く。きっとダンジョンマスターが楽しくしてくれているはずだから、俺は期待しながらダンジョンに潜っていくのだった。

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