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第866話 大切にしたい気持ち

 暖かくて気持ちがいいのは確かだが…全くゆったりできない。なぜなら俺の側には薄い布一枚のマリアがいるだけで、浴室には他に誰もいない。


 密室でマリアから欲望がどーのこーのと言われテンパっていた。そしてなぜかスキンシップが必要以上に濃厚な気がする。


 いったいマリアはデメールに何を吹き込まれたんだ?


 マリアがポツリと言う。


「イオナ様も、ラウル様はまだなのか? とおっしゃっておりまして」


「母さんが? 一体何を?」


「このところ、ずっとデメール様とイオナ様は話をしておりました。そしてラウル様はそろそろ一人前になるべきだ、などとおっしゃっているのです。そして先ほどイオナ様からも、このようにするようにと言われました」


 なるほど良く分かった。これはデメールとイオナが画策した事らしい。とりあえず俺は沈黙して顔を半分お湯に潜らせた。俺の腕を絡めとり体を寄せて来るマリアに、俺は理性のタガが外れそうになっている。


 うむむ…、いいのか? 俺! 本当に良いのか?


 だが俺はある事がずっと気になっていた。それを正直にマリアに話す事にする。


「あのねマリア」


「懐かしい話し方ですね」


「うん。俺すっごく気になってる事あるんだよ」


「…」


 するとマリアが少し沈黙して言う。


「本当のお母様の事でしょうか?」


 やはりマリアは分かっていた。分かっていた上でこういう事をやっているのだ。


「そうなんだ。俺と人間の交わりで人間は死ぬかもしれないんだ」


「存じ上げております」


「俺はマリアが大事なんだ」


「…それも以前、言っていただきました」


「失いたくないんだ。俺はマリアを絶対に失いたくない。ずっとぞばにいて欲しいんだ。何があっても生き延びて、ずっとこのまま一緒に居たい」


「はい」


「だから、俺は出来ないんだ」


 するとマリアが俺の前に周って、うるんだ目で俺の瞳をジッと覗き込んでくる。そしてマリアが俺に言う。


「かまいません」


「えっ?」


「もしラウル様に抱かれて私が死んでしまっても構いません。それで能力が開放されるのであれば私は本望なのです。それでラウル様が生き延びる事が出来るのならば、私が生きた証となります。私の命がラウル様のお役に立つなら、私はうれしいのです」


 グッと俺にしがみついて来る。温かい風呂の中で震えているようにも感じる。


 マリアの気持ちを聞いて、俺が感動のあまり泣きそうになっている。ここまで俺の事を思っていてくれたなんて、もちろん気持ちがあるのは分かっていたが、命をかけようとしているとは。


「ゴメン今の言葉を聞いて余計にじっくり考えたい。そしてもし俺とマリアがそういう事になっても、マリアが死なない方法を調べてからにしたい。俺はマリアが大事だから、その気持ちにこたえたいんだ。幸いにも俺の周りには強い味方も、大賢者のモーリス先生や薬学に精通したデイジーもいる。彼らがきっとその問題を解決してくれると思ってるんだ。生んでくれた母さんのようになってほしくないんだ!」


 俺が長々と言っていると、マリアが涙目になりながらクスリと笑った。


「もういいです」


 えっ? 怒らせちゃった? マリアがせっかくその気になったのに、俺が肩透かしを食らわせたから? どうしよう? 俺がマリアを大事に思っているのは本当なのに。


「あ、あの」


「泣かないで下さい。ラウル様を泣かせたのが私なんてダメです」


「えっ?」


 気が付かなかった。俺はどうやら涙を流して訴えかけていたらしい。めっちゃ恥ずかしい。まあ本気の本気だから仕方ないけど、こんなところで涙を流すなんて。


「わかりました。待ちます」


「うん」


 するとマリアが俺をグッと抱きしめて、俺の頭はマリアの豊かな双丘にうずめられた。とっても柔らかくて張りがあり、まだまだ現役として活躍するであろう逸品である。


「でも本当に死なないでください」


「もちろんだ」


「火の一族とそれの後ろにいる火神は、どれほどの強さなのかわかりません」


「マリアは強大な敵に立ち向かう前に、俺の力を開放させようとしてくれたわけだ」


「はい」


「でも、それで力が開放するかもわからないし、何か条件があるかもしれない」


「私もはっきりと分かってやっているわけではないのです」


「まずはデメールに聞いてみるか」


「その方がよろしいかと」


 かなり茹って来たので、俺はマリアに行った。


「もう限界だ。上がろう」


「温まりすぎましたね」


 俺達は浴室を出た。あんまり暑くてすぐに服を着る気にならず裸のまま座る。するとマリアがタオルで俺の体を拭き始めた。だが俺は脱衣所の外に気配を感じて声をかける。


「みんな、いるんだろ? 入ってこい」


 カチャ


 すると入り口からぞろぞろと配下が入って来る。シャーミリアとマキーナ、カララ、アナミス、ルフラ、ルピアがいた。


「盗み聞きか?」


 俺が言うとシャーミリアとマキーナがジャンピング土下座をかまして来た。カララとアナミス、ルフラとルピアも膝をついて頭を下げる。


「申し訳ございません! ご主人様!」


「いや。いいけど、そんなに俺が心配か?」


「滅相もございません! この失態、我が存在をもって…」


「ダメ。シャーミリアは、その申し訳ないって気持ちでずっと生き続けて」


「ああ…ハアハア。ありがとうございます」


 するとマリアが俺に綿のガウンを羽織らせながら言う。


「そうか!」


「なに?」


「ルゼミア様もイオナ様も、最初の女性は人間でと心遣いをされているようですが、別に私やカトリーヌ様が最初じゃなくてもよろしいわけですね?」


 えっ?


 俺が思わず配下達を見てしまう。すると皆が頬を赤く染めて、その美しい顔をほころばせていた。皆の唇が濡れており、何人かは舌なめずりをしているように見えた。


 何かマズい気がしてならない。


「よし! じゃ、そろそろ休むとしよう」


 するとカララが言った。


「では、私共もご一緒させていただきます」


 やっぱりそう来たか。さっきマリアと感動的な会話で閉めたのが台無しだ。


「とにかく部屋に」


 俺が自室に向かうと、皆がぞろぞろと付いて来る。


 ああ…まただ…俺はまた知らないうちに眠らせられるんだ…


 そして部屋にたどり着くや否や、俺はフッと気を失ってしまうのであった。



 日が昇り俺が目を覚ますと普通にベッドに寝ていた。魔人の配下達が俺の周りに跪いている。


「おはよ!」


 俺が魔人達に言うと皆が明るく返事をしてくれた。


「「「「「「おはようございます!」」」」」」」


「みんな元気だね! なんだか俺もスッキリだよ!」


 するとそこにマリアが来て俺に下着を渡してくる。気づけば俺は全裸で眠っていたらしい。


「あれ? 俺ガウンを着てた気がするけど」


「どうぞこちらを」


 俺が下着をつけて起きると、マリアが服を着付けてくれた。いつのも格好になり、ふと鏡を見ると俺はスッキリとした顔をしている。


「ご主人様。魔王子様のお努めありがとうございました」


 うん。いっつもだけど記憶ないんだよね。とりあえず知らないうちに、何かなってたならそれはそれでいいや。


「朝食をとったらデメールの所に行くよ」


「かしこまりました」


 俺は食堂に向かって部屋を出て行く。すると食堂ではイオナとアウロラとカトリーヌとミゼッタが朝食をとっていた。食事はまだ途中で俺より少し早く食べ始めたくらいらしい。


「あらラウル。起きたのね」


「ああ、母さん。いろいろと心配をかけたみたいで」


 するとイオナはチラリとマリアを見る。だがマリアは笑いながら目を細めて首を振った。イオナはそれを見てため息をつく。カトリーヌとミゼッタが不思議そうにその光景を見ているが、この二人はその事実を知らないらしい。


「はあ」


「どうしたの母さん」


「なんでもないわ」


「ちょっと俺、今日はデメールに聞きたいことがあってね」


「あら。それなら今日、私とも話をすることになっているわ」


「なら一緒に」


 席に着くと、マリアとミゼッタが朝食を並べてくれた。俺はそれに手を付けながらイオナに言う。


「最近デメールと仲がいいらしいね」


「ええ。デメール様はとても心配されているわ」


 いやいや。デメールは世代替わりしてないんだから、心配するなら自分の心配してろって感じだ。


「ま、話しをしたいな」


「そうね」


 朝食が終わって、俺とイオナはデメールの居る部屋へと向かう。俺達が部屋の前に立つと、アンジュが中からドアを開けた。どうやら俺が来ることが分かっていたらしい。


「入れ」


 アンジュがぶっきらぼうに言う。


「おはようございます」


「来る頃だと思った」


「ちょっといろいろと聞きたいことがあって」


「ふむ。まあ座りなさい」


「はい」


 そして俺はデメールの前に座る。するとデメールは、自らお茶を注いで俺とイオナに勧めて来た。


「飲んで」


「ありがとうございます」


 俺とイオナがお茶を飲んで一息つくと、デメールが目を細めて俺に言った。


「ウチに何を聞きたいのかえ?」


「聞いたんですけど、何やら欲望が覚醒の鍵になっているようで」


「なんだそのことか」


「いったいなんです? それ」


 すると豊穣神デメールは、テーブルの上を片付けた。黒い木のテーブルの上の物を全てどけて、グーを握った手をテーブルの上にかざす。するとデメールの手から真っ白い砂がこぼれ落ち始め、それがさらさらとテーブルの上に落ちた。


 デメールが右に左に、上に下に、円を描くように砂を走らせていくとそこに絵が浮かび上がってくる。さらさらと描き進めて行くうちに、奇妙な動物が出来上がって来た。


「ま、こんなもんかの」


「なんです? これは?」


「分からんか?」


 その動物は禍々しい魔物だった。蝙蝠か何かの羽に物凄いグロテスクな牙の生えた口、尻尾の先にも顎があり目が何処にあるか分からない。たてがみが長すぎて正体が良く分からないのだ。


「キマイラっすか?」


「違う」


「こんな魔獣を見たことない」


「魔獣ではない」


「じゃあ、いったいなんです?」


 するとデメールが何かを含んだように、にんまりと笑って俺を見る。


「お主じゃ」


「おぬし? 俺?」


「まあ言ってみれば、これはお主の欲望の全てと言ったところじゃろうか? 稀に見る大きく欲深い奴よのう、こんな欲望を飼っているなんて恐ろしい限りじゃ」


 何を言っているのかさっぱりわからない。こんなおっかねえバケモンが俺? 欲深いとか自分では思ってないけど、どういう事だ?


「言ってる意味が良く分かりませんけど?」


「これはどんどん、成長しておる」


 デメールにはこれが何かはっきりと分かっているらしい。だが俺には何の事やらさっぱりだ。いずれにせよこれから説明してくれるんだろうから、俺はじっくりとそれを聞く事にするのだった。

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