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第864話 ダンジョンマスターにクレーム

 ダンジョンに潜って半日が経つが、正直なところ…俺は飽きていた。


 下層に潜れば潜るほどモンスターが強くなってきたものの、素材が魔石しか取れないのだ。ほぼアンデッド系モンスターとゴーレム系モンスターしかいないってのもつまらん。序盤にはスライムなんかもいたと思ったし、弱いながらも何かの魔物っぽいのは居た。


 いや…ひょっとすると、あれもアンデッドかゴーレムだったのかもしれない。


 以前アグラニ迷宮を攻略した時は、天然の魔獣がいっぱいいて素材も大量に取れた。それにもまして、シャーミリアですら手こずったりしてなかなかに楽しかった。天然のドラゴンやめっちゃ危険な甲虫がたくさんいて、クリアした時の喜びもひとしお達成感すら感じたものだ。今思えば、あれはもしかしたらアトム神の嗜好も含まれていたのかもしれない。


 今ごろアグラニ迷宮は、アスモデウスが楽しい遊園地にしてくれてるに違いない。本来ならアスモデウスも戦力になるのだが、魔人たちとの相性が激悪なのでアグラニ迷宮管理に置いて来たのだ。冒険者が楽しめるダンジョンにして、リュート王国に客を呼び戻そうという試みだ。


 だが…なんだこのダンジョンは、人を楽しませようという配慮に欠けている。


 ちょっと思うのだが、ダンジョンは自然発生的に出来た物じゃない気がしている。まあ元々ダンジョン自体が人を楽しませるために作られているかもわからんが、それにしても工夫が無さすぎる。


 それに俺自身が頑張ってる感が皆無で、アンデッドを使役するシャーミリアとチート打撃のファントムがいれば攻略出来てしまいそうだ。勝ちが確定しているゲームほどつまらないものはない。


「帰ろうかな」


 俺が言うと逆にギルマスが驚いて聞いてた。


「えっ? きっとこのまま四人でダンジョン攻略が出来ると思われますが」


「いや。だから、帰ろうかなって」


「いやいや。ダンジョン完全攻略は名誉なことですし、オリハルコン級冒険者ですら未踏のダンジョンでございますよ?」


「いや。近いうちに、うちのみんなで素材回収にくるから、その時ついでにダンジョン完全攻略でもしたらいいんじゃない?」


「ついでに? ついでにダンジョン完全攻略を? ついでにですか?」


「そうそう。ちょっと俺、夜は用があるんだよね」


「用事ですか?」


「そうそう」


 いやほんとにシャーミリアと王都に定時爆撃に行かなきゃならないんだよね。嫌がらせって徹底的にやらないと効果が薄れそうだし、こんなダンジョン完全攻略とかの為に休むわけにはいかない。


「ついでとは…」


「だから、いったんゼルニクスとアークライトを助けて帰ろうかなって」


「そんな簡単に」


「つーことで、みんな! 戻るぞ」


 するとミーシャがニッコリ笑って言った。


「戻りましょう。素材が魔石しかないなんて、本当に無駄な時間だと思います」


 そう言うと思った。


「じゃ」


「いやいや。たった今かなり強い主級モンスターを狩ったばかりですが? 祭壇とか調べなくてもいいですか?」


「いい」


 俺が身をひるがえして部屋の出口に歩き始める。ミーシャを乗せたファントムとシャーミリアもついて来たので、ギルドマスターも遅れないように慌ててついて来た。


 するとその時だった。館内放送でもなるみたいに声がした。


「まてい!」


 俺が振り向いてギルドマスターを見るが、ギルドマスターは手を振って自分じゃないアピールをしている。


「声したよね?」


「はい」


 どこから声が聞こえたか分からないが、俺は大声で声の主に語りかけてみる。


「おーい! どっから声出したか分かんないけど、つまんなさすぎるから帰るぞ!」


「まてまてまて、つまらないとはどういうことだ?」


 返事が返って来た。どこから音が鳴っているか分からないが、俺の声は聞こえているらしい。


「いや、単調」


「た、単調? ダンジョンがか?」


「そ」


「いや、そっ。って、そんなちっさい声で」


「ダンジョン主かなんだかわからないけど、もっと御伽噺とか読んだ方がよくない?」


「御伽噺?」


「ドラマティックにいろんな展開があるから面白いの。こんなただ強くなっていくだけの単調なダンジョンじゃあ、盛り上がりもへったくれもないわな」


「まてまて! なんと不敬な事を言う奴だ。冒険者ならダンジョンマスターを崇め奉れ」


 どうやら声をかけて来たのは、このダンジョンをコントロールしているダンジョンマスターらしい。実際の所、俺はこの声が聞こえた段階でどっちらけだ。アグラニ迷宮のようにドラマ性があって魔獣のバリエーションも富んでいて、それでいて自然感を出していたアトム神は才能があったのだろう。ここはまるで、茶番劇だった虹蛇のスルベキア迷宮神殿と同等のつまらなさがある。


 あの時もせっかくゴールしたのに、ルールを破ったとかなんとか難癖をつけて来た。今回はそんなに悪質じゃないが、こんな糞つまらんダンジョンを作るなんてありえない。


「いや。とにかくちょっと用事があるんだよ。だからまた今度」


「そんな…飲み会を断るみたいに! ダンジョンだぞ! 万雷の回廊の攻略一歩手前だぞ! 前人未到の功績だぞ!」


「別に」


「……」


 俺がめっちゃつまらなさそうに言ったら、ダンジョンマスターも堪えたようで黙ってしまった。ギルマスだけが横でアタフタしている。


 何も言う事がないなら俺は帰ろう。


「じゃ」


 そう言って振り返ると、またダンジョンマスターが声をかけて来た。


「だから待てっていってるだろ!」


「なに?」


「ふっふっふっふっ! お前はただで帰れると思っているのか? 万雷の回廊から…。クックックッ!」


「ああ、そんじゃね」


「まてまてまてい!」


「だからなに!」


 ちょっとムカついて来た。なんだってこんな糞ダンジョンのくせに偉そうに言って来るんだ?


「これからだ! これから面白くなるんだ!」


「とか言って、既に設定しているボスを少し強くしたり、迷路性を強めて勝手に変化させるとかそう言うのだろ?」


「むぐぐ!」


「ほら」


「なんだ! まるで迷宮をいくつも攻略して知り尽くしたような事を言う」


「してきたしてきた。ここは、そん中では中の下って感じ」


「ちゅ、ちゅうのげ?」


「あ、じゃあ。下の上」


「げのじょう?」


「だから行くわ」


「まて!」


 どうあっても俺を引き留めたいみたいだ。もしかしたらダンジョンを攻略してほしいんだろうか? それともクソと言われた事がよっぽど腹に据えたのか。


 俺が立ち止まると謎の声が言って来た。


「そもそも、お前達ズルじゃないか!?」


 あーでたでた。前の虹蛇と同じことを言いだした。


「なにが?」


「アンデッドの使役を奪い取るなど、反則も良い所だぞ」


「はあ? 全部奪い取らないで、要所要所ではちゃんと戦ってやっただろ?」


「なんだ! 上から目線で戦ってやった? 戦わさせてもらっただろ?」


「クソダンジョンを作って言う事か」


「クソ言うな!」


 子供の喧嘩みたいになってきて、ミーシャが微妙な目で俺を見つめている。シャーミリアはうんうんと頷いているが、他の仲間がいたら呆れられているかもしれない。


「わかった! ちょっと話を聞いてくれ!」


 俺が言うとダンジョンマスターが答えて来た。


「なんだ?」


「本当に用事があるから一旦帰るが、また来る。そん時までにめっちゃ面白くしてくれたら、真面目に攻略しようかなって思う」


「ん? それは本当か?」


「本当。とにかく一旦帰る、途中で冒険者が引き返すなんて普通の事だろ?」


「それはまあ、確かに」


「じゃあそう言う訳なんで、よろしく頼むよ」


「……わ、分かった。また来るのか?」


「約束する」


「なら帰っていい」


 とりあえずダンジョンマスターのお許しが出たので、俺達は元来た道を登っていくのだった。シャーミリアがアンデッドを止め、俺達が過ぎた階からアンデッド使役を解除していく。


 ギルマスが話しかけて来た。


「だ、ダンジョンマスターって本当にいるんですね?」


「まあ少しびっくりしたけど、大抵いるんだよ」


「ダンジョンを攻略したことがあるんですか?」


「ああ」


「どんなところです?」


「えっと、スルベキア迷宮神殿とアグラニ迷宮とナブルト洞窟かな」


「なんと…。世界に名だたる迷宮の数々を…」


「あ、そうなの?」


「ギルドや冒険者でそれを知らぬ者はいません」


「そういうものなんだ」


「はい。しかし…それらを攻略して来たなんて、その方に鉄等級のバッジを与えていたなんて」


「だってルールだし、しかたないっしょ」


「帰ったらすぐに訂正させていただきましょう」


「わかった」


 俺達は順調に階層を登っていく。かなり上ったあたりでシャーミリアが言う。


「人間の気配が致します」


「そこに連れてって」


 シャーミリアが先行し俺達がついて行く。ダンジョンにいるアンデッドはシャーミリアが抑えるので、いちいち戦わなくてもすむためビルの階段を上っているような感覚だ。入り組んだ道を迷いなくシャーミリアが進んでいくと、ある部屋の前に出た。


「ここ?」


「はい」


「ファントム。開けろ」


《ハイ》


 そしてファントムが部屋のドアを開けると、中から火の玉が飛んで来た。ファントムに直撃するがびくともしない。すると中にいた冒険者達が騒いでいる。


「やはりだめだ! もう俺達の魔法はこの階層では通用しない!」


「アークライトの皆は逃げろ。ここは俺が食い止める!」


「だめだ! ゼルニクスを置いて行く訳にはいかない」


「ふっ。もし生きて地上に出られたら、ある人に俺の事を伝えてくれ」


「誰だ?」


「シャーミリアさんと言う絶世の美女さ」


 ビキビキビキビキ! 


 やべえ、シャーミリアの地雷がいた。とにかくここにゼルニクスとアークライトの連中は隠れていたらしい。俺とギルマスが普通に入って行った。


「ゼルニクス!」


「へ? ギルマス?」


「助けに来たぞ!」


「ま、マジか…」


 そしてシャーミリアがファントムの後ろから出ると、ゼルニクスは鼻の下を伸ばしてだらしなく笑う。


「しゃ、シャーミリアさんも助けに来てくださったんですか?」


「死にたくなければ黙れ」


「は、はい」


 ゼルニクスが完全に乙女になっているのは無視して、俺がアークライトの面々に言う。


「ここからは俺達が先導する。地上に帰ろう二十六階層には仲間も待っているはずだ」


「あんたは…例の…」


 アークライトの連中は俺を面白く思っていなくて、功績をあげようと万雷の回廊に潜ったって言ってた。さぞ俺の事は嫌いだろう。


「迎えに来た」


 するとアークライトの屈強の男が笑う。


「はははは。完全に負けだ。俺達はあんたの鼻を明かそうと思って潜ったんだよ。その人に救われたなんて本末転倒だ」


 それを聞いたギルマスが言う。


「みんなは頑張ったと思う。だが張り合う相手が悪かった。ラウル様は地下八十階層まで難なく潜られた」


「は、八十階層! このダンジョンそんな深さがあるのか!」


「まだ先があったが、用事があるので一旦帰るらしい」


「用事って…」


「と言うわけで帰ろう」


「八十…ここは何階層なんだ?」


「恐らくは四十八階層くらいだ。ラウル様がいなければ人類最高到達地点だったろう」


「いったい…このダンジョンは何階層まであるんだ…」


「それはわからん」


 そして俺が言う。


「ま、募る話はあるだろうけど、俺ホントに用事あるんだよ。だから一旦地上に上がってから話したらいいよ」


「わ、わかった」


 これにて遭難した冒険者の救出劇は終わった。ゼルニクスもアークライトの面々も軽いけがをしているが、身体の欠損などもなくどうにか生き延びていたらしい。俺達が先導し、ゼルニクスとアークライトの連中は動きを止めたアンデッドを不思議そうに見ている。


 結局のところ思った。ダンジョン最奥のボスみたいなシャーミリアやファントムが、ダンジョン攻略したらこんなことになるんだと。もともと直下の配下達は、皆が皆ラスボスや中ボスみたいな奴らなんだからダンジョン攻略自体に無理があるのかもしれない。


 少しのつまらなさを感じながら、ダンジョンを登っていくのだった。

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