第863話 ファントムの恐怖
ドラゴンスケルトンから出た大きな魔石を見て、だんだんと欲が出てきた。再びドアが五つある部屋に戻ったが、せっかくなら素材が取れそうな所を探そうと考える。
なぜならば以前バルギウス帝国で、大量デモンやカースドラゴンと戦った時の事を思い出したのだ。あの時は経験値的なものは入ったものの、かなり手こずった割に素材を入手できなかった。だがこんなに大きな魔石を労せずに手に入れられるのなら、転移魔法陣や魔導エンジンの製造を考えた場合、基地製造コストを大幅に下げられると考えたのだ。
俺は出来るだけこのダンジョンの状態を把握し、後で魔人達を連れてこようと画策し始める。そこで俺はまずギルドマスターに話をする。
「ゼルニクスを助けるために、一旦戻って強い冒険者に依頼を出そうと思ってたんだよね?」
「はい」
「て言う事は、少しの時間は稼げると踏んだんだ?」
「その通りです。ゼルニクスならば生存の確率は高いですし、今の所アークライトの死体も見つかっていない。恐らくは安全領域を見つけて避難しているであろうと思うのです」
「おっけ」
じゃあ、もう少しちゃんと内部を見てっても良いかな。ドラゴンスケルトンはカースドラゴンくらいヤバいと思ったけど、物凄く脆くてあっさりと片がついた。あんな美味しいモンスターは他にいないし、他にもっと美味しい狩場があるかもしれない。
あともう一つ気になっていることがあった。どことなくだが、虹蛇のスルベキア迷宮神殿に似ている気がする。ギルドマスターはさっき、ダンジョンは生きているようで数日で内部の様子が変わると言っていた。ならば、その大元がどうなっているのか気になる。
「シャーミリア。とにかく気配を感じた場所から教えてくれ」
「では一番真ん中かと」
「じゃ、そこいこう」
するとギルドマスターがまたあっけにとられて言った。
「恐らくそこもハズレかと思いますが?」
「悪いけど全部潰していくから」
「は、はあ…」
俺が次の扉を開くと通路は奥まで続いていた。罠はシャーミリアとファントムがどうにかするので、俺がスイスイと奥に進むともう一つ扉があった。そこを開くと奥が深い縦長の部屋に出る。そして、その最奥に十体くらいの石像が置いてあった。
「お、なんか数体置いてある!」
「石像でしょうか? ですが気配はあれから感じます」
するとギルドマスターが説明してくれた。
「あれは! ガーゴイルでございます! 十体はいる! ドラゴンスケルトンよりも厄介かもしれません」
「でも動かないよ?」
「近づけば動くと思います」
「なるほど、じゃあ近づかなければいいんだ」
「まあ、それはそうですが。この距離では魔法の威力も弱まりますし矢も届きません…いやラウル様のお力なら…」
ギルマスもようやく気が付いてきたようだ。俺はバレットM82 セミオート狙撃銃でガーゴイルに狙いをつけた。
ズドンズドンズドン!
約三発くらいで一体が粉々になる。攻撃したら他も動くかと思ったが動く気配はない。
「楽勝じゃん」
俺は十体全てを遠距離狙撃で粉々にした。するとシャーミリアが言う。
「気配が無くなりました」
「素材見にいこっと」
俺達が崩れたガーゴイルの後を見ると、握りこぶしくらいの魔石が見つかった。
「あー、すいません。ギルマス、向こうを向いててもらえますか?」
「は、はい」
ギルドマスターが反対側を向いた。
「ファントム! 魔石を全部飲め」
《ハイ》
ファントムは巨大魔石を一旦置いて、ガーゴイルから出た握りこぶし大の魔石を飲みこんでいく。 十個の魔石を飲みこみ終えたので俺はギルドマスターに言った。
「じゃ、次の部屋を見に行こう」
「わかりました…」
再びドアが五つの部屋に出る。すぐにシャーミリアが気配を感じ取った部屋に入ると、ガーゴイルの時と全く同じ構造になっていた。奥の部屋に入ると三メートルくらいの、デカいグールとスケルトンの間みたいな奴がいた。
「ギルマス、あれは?」
「デスウォーリアー。スケルトンナイトの上位モンスターです。金級冒険者数パーティーでも手こずるモンスターで、滅多にお目にかかる事はございません」
「ガーゴイルと比べてどう?」
「飛ばない分、仕留めやすいとは思います」
「アンデッドかあ…、あんま美味しくなさそう」
「おいしいとは?」
「魔石はどうかなって」
「ガーゴイルと似たようなものかと」
ギルマスは俺が余裕なのを知ってか、さっきまでの焦った様子はなかった。
「シャーミリア、あれ使役して同士討ちさせちゃって。撃つと魔石が壊れそうだ」
「は!」
シャーミリアはデスウォーリアーを使役し同士討ちをさせ始める。それを見たギルドマスターはあっけに取られて言った。
「ラウル様。一体どうなっているのです?」
「シャーミリアは魔法使いだから」
「あ、あの? デスウォーリアーを使役する魔法など聞いた事無いのですが?」
「北大陸にはあるの」
もちろん適当だ。
「さ、左様でございましたか、勉強不足ですみませんでした」
デスウォーリアーたちが首を飛ばし合って転がってくれたので、俺達が残骸から魔石を取るととガーゴイルのより小さかった。
「ちっさ。ハズレじゃん」
「ハズレ…ですか?」
「じゃ、次の部屋に行こう」
俺達が再び五つのドアの部屋に戻りもう一つに部屋に入ってみると、ここもガーゴイルやデスウォーリアーの居た部屋と構造は一緒だった。
「なんだ、代わり映えしないな」
するとシャーミリアが伝えて来る。
「先ほどより気配は弱いようです」
「ハズレじゃん」
するとギルマスが言った。
「むしろ、あたり…だと思うのですが」
「まあいいや」
俺達がその部屋に入ると、骨の馬に乗った骨の騎士が居た。見るからにおいしくない。俺はAT4ロケットランチャーを召喚して撃つ。
ズドン! ドゴーン!
そしてすぐに振り向いて部屋を出ようとすると、ギルマスが聞いて来た。
「素材は持ち帰らないので?」
「ゴミはいらないかな」
「そうですか」
再び戻って最後の通路を開けると、左右に廊下が続いているのが見えた。どうやらここから先に進めるらしく、普通に考えたらここが当たりの通路なのだろう。
「じゃ、行こう」
俺達が進んでいくと、いくつかの分かれ道があったりして迷路になっていた。時折騎士のようなスケルトンやリッチがいるが無視して先に進む。アイツらを壊しても大して美味しい素材は出さない。邪魔をする前にシャーミリアが使役して道を開けさせた。
そしてようやく階段を見つける。
「上の階段か…」
俺がポツリと言うと、ギルドマスターが俺に言った。
「ゼルニクス達が生きているとすれば、脱出ルートである上の階段を上ると思います。ここから登ればきっと彼らに会えるかもしれません」
「じゃ行かない」
「は?」
「下の階段を探そう。もっと下があるかもしれないし、この魔石一つじゃ面白くもなんともない」
「面白い…でございますか?」
「もしここが最深部なら損した気分になるし、もっと奥があるのなら潜ってみたい。ゼルニクス達はたぶんまだ大丈夫なんだろ?」
「恐らくは」
「シャーミリア。俺達ここで待ってるからさ、適当に階段探して来てよ」
「は!」
シュッ! シャーミリアが消えてギルドマスターがそれに驚いていると、シャーミリアがすぐに現れた。
「発見いたしました」
「よし! 良かった! 下あるんだ! こんなチンケなダンジョンだったらがっかりだった」
するとギルドマスターが呆れたように言う。
「チンケですと? 白金でも容易ではない階層ですよ。先ほどのような部屋があちこちにあるのです。この上階にも似たような場所があり、それらを攻略せねば戻れない場所です」
「この階層くらいなら問題ないよ。とにかく先に進もう」
「はあ…」
シャーミリアについて行くと、下に続く階段に出た。
「行こう」
「かしこまりました」
「はい」
《ハイ》
俺達は無造作にその階段を降り始める。仕方なくギルドマスターも後ろをついて来るが、内心穏やかではなさそうだった。まあ本来は遭難した冒険者を救出するのが優先だと思うが、正直な所それより大事なことがある。
下の階に行くとデスウォーリアーが雑魚キャラとして出て来た。だがその事如くをシャーミリアが操り、自分で首をもぎ取らせる。その光景にギルドマスターも慣れ始め、結局その階層にはボス部屋のような所は無かった。下の階に続く階段を見つけて俺達はそれを下っていく。
だがその下もデスウォーリアーとリッチの複合部隊が出てくるくらいで、めぼしいモンスターは出てこない。
俺がミーシャに言った。
「なんかさ。さっきのドラゴンスケルトンの階層だけ違ったよね」
「はい」
「多分さ、キリの良い階層なんだと思う。三十階層とか五十階層とかそんな感じ、三十階そこそこがいままでの最高到達地点だとしたら普通の冒険者にはキツイかもね」
「そうなのですね」
するとギルドマスターが俺に言う。
「この人数で、このような深部にいる事自体が既に自殺行為なのです」
「そうだろうね。明らかにモンスターの数も増えているし、シャーミリアが居なければこんなに順調に進めない」
「はい…」
「ま、俺達はいけるところまで行って見るか」
「正気! …ですよね」
「ああ」
そこからギルドマスターは異論を唱える事は無くなった。俺達が更に八階ほど潜っていくと、明らかに今までの雰囲気とは違う階層に出る。
「なるほどなるほど、あとは十階ごとにボス部屋ぽい場所が用意されてる感じだ」
ギルドマスターが部屋を見て言う。
「ここも扉が五つあるようです」
「どうやらそのようだ」
「と言う事は…ラウル様は?」
「大きい気配を感じる部屋に入る」
「ですよね」
シャーミリアが気配感知を発動させ、一番大きな気配がある部屋を俺に教える。その部屋の扉を開いて中に入ると、ドラゴンスケルトンの部屋と同じように自動で扉が閉まる。
「なるほど、このパターンね」
俺達が見つめる奥に、バカでかいスケルトンが二体座っている。だが俺は既にドラゴンスケルトンで学習した。このまま兵器を使って破壊すれば魔石に傷がついてしまう。
「確認したしこのまま出ようか?」
するとギルドマスターが言う。
「いえ。恐らく先ほどのドラゴンスケルトン部屋のルールを考えますと、討伐せねばこの扉は開きません」
「うっそ。でも魔石を壊したくないんだよなあ…」
そう言いながらも俺は扉に手をかけて思いっきり押してみる。なるほどびくともしないし、このドアの厚さは三メートルほどあった。破るにはかなりの爆薬が必要だし、この狭い空間ではその爆発で俺達がやられてしまう。あと扉を壊せば後で何が起きるか分からない。
俺は陸上自衛隊の10式戦車を召喚した。
「ファントム! これであのデカ物を殴ってこい。魔石を傷つけないようにな」
《はい》
ファントムは魔石を置き、四十四トンもある10式戦車を担いで巨大なスケルトンに向かっていく。巨大スケルトンが動き出すも、あとは一方的な破壊行為だった。一分もしないうちにデカいスケルトンの残骸が散らばる。
俺達がそこにいくと巨大な魔石が二個あった。
「偉いぞファントム! よく無傷で魔石を取り出したな」
《ハイ》
ゴゴゴゴゴ! と入り口の扉が開き始める。
俺がギルマスに声をかけると、ギルマスはガタガタと震えていた。
「どうした?」
「あ、あう。その人…その御方はいったいなんなのです? ジャイアントスケルトンを殴って倒した? そんな…そんな馬鹿な。そんなことが出来る人間など…」
するとシャーミリアがギルドマスターを見下ろして言った。
「人間。いつだれが人間だと言った?」
「へ?」
「これは私が作った物だ」
「どういう事でしょう?」
「言葉通りだ」
だがギルドマスターは理解が出来ないようだ。
「今はいい。とりあえず先に進もう」
「はい、ご主人様」
俺はギルドマスターに優しい笑顔を浮かべて手を差し伸べる。
「大丈夫だよ。彼は俺の忠実な僕だから、何も怖い事はない」
だがギルドマスターは恐ろしいものを見るような目で俺を見ている。ここにアナミスがいれば、すぐに催眠をかければ大丈夫だろう。だが魂核を書き換えているのにも関わらず、本能が恐怖しているのだ。
だからさっきファントムが魔石を飲むところを見せなかったのに、魔石を無傷で回収したいあまりに見せちゃってた。てへぺろ。
「行こう」
震えながら俺の手を取るギルマスを立たせ、俺達はその部屋を出るのだった。