第862話 ドラゴンスケルトン
二十六階層はスライムスケルトンとリッチとレイスが複合して出て来た。サーモバリック弾と銃撃で難なく片付ける事が出来るし、他に危険性の高いモンスターは出てこない。まあ上層階で銀等級たちの戦い方を見たが、彼らの力量ではこの階層は限界だろうことは分かる。
そしてここの通路と部屋の壁は平らに加工されており、龍神が居た海底神殿にも似ていると思っていた。あの時は旅の途中だったため深くまでは潜らなかったが、奥にもっと強いゴーレムとかいたのかもしれない。それよりもここで厄介なのは罠の存在で、唐突に矢とか鉄球が飛んで来るのだ。ファントムとシャーミリアがいるからミーシャも怪我をしていないが、これが冒険者達だけだったとしたら戦闘中に喰らってしまうかもしれない。
まあそれもいい。それよりも俺は騙された感でいっぱいだ。もっと特殊な魔獣の素材が取れるとばかり思っていたが、素材なんて骨ばっかりで使えるものがなさそうだ。魔石も小さくどこにでもある物で、爆破すると粉々になってしまう。もっと弱い力で倒せば採れるらしいが面倒臭い。
俺が面白くなさそうにギルドマスターに言う。
「落とし穴どこかな? 早く見つけたいんだけど」
とっとと、終わらせたいし。
「さらに奥かもしれません」
「そっか、じゃ進むしかないか」
適当に魔物を殺しながら奥に進むと、階段があり他よりも大きな扉で閉ざされている場所に出た。どうやら他とは様子が違うので、ここは何か特殊な部屋なのかもしれない。おのずと期待値が上がって来る。
「ここは特別っぽいね?」
俺が聞くとギルマスが言う。
「さすがにこの階層は良く知ってはおりませんが、もしかしたら階層主のような物がいるやもしれませんのでお気を付けください」
「えっ? 階層主! 中ボス的なやつか?」
「ちゅっ、中ボスですか?」
なるほどそう言う言い方はしないのね? それより!
「落とし穴は後回しにしてあの扉の中に入ろう! シャーミリア! ファントム! 行くぞ!」
「は!」
《ハイ》
俺とシャーミリアとファントムそして肩に乗ったミーシャが階段を上り、ギルドマスターが俺達について来た。
「この扉どうやって開けるのかな?」
「かなり大きいですからな、仕掛けがあるのやもしれません」
「力づくでやってみっかね。ファントム殴れ!」
ファントムが大きく振りかぶって、扉に拳を叩き付けた瞬間。フッと景色が変わった。
「あれ?」
俺とシャーミリアとファントムそして肩に乗ってるミーシャが、きょろきょろとあたりを見回す。その風景が今の今まで見ていた風景とは全く違うのだ。さっきまでのデカい扉も無くなったし、階段も無くなり階段の下に待機しているはずの銀等級冒険者も居なくなった。ギルドマスターが俺達の隣りで慌てて言う。
「罠を踏みました!」
「罠?」
「恐らくあの扉に触れると、違う場所に飛ばされる落とし穴です」
「落とし穴? これが?」
「はい。これは…大変です」
「いやいや。手間が省けたというか、落とし穴に落ちようと思って探してたんだから成功でしょ」
ギルマスが信じられないと言った顔で俺を見た。
「落ちようと思ってたって…わざと落ちたのですか?」
「わざとじゃないよ、偶然落ちたんだけど。なんていうか最短距離を辿って遭難者を探そうと思ったら、同じ罠にかかるのが手っ取り早いっしょ?」
「その罠と、同じものかどうか分かりませんよ?」
「あっ…」
確かに。この落とし穴罠と、アークライトって冒険者が掛かった罠が一緒だとは限らないか。だけどあんな扉見たら、誰でも引っかかるんじゃないかなと思うけど。
「ここが何階層のどこなのかも分かりません」
いや、それは別にどうでもいいや。どうあっても遭難者を見つければミッションクリアなんだし。
「じゃ、行こうか」
「いやいや。不用意に動くべきではありません! どんな魔物が出るか分からないのです」
「いや、動かないと抜けれないし」
「それはそうですが…」
「じゃ、行こ」
「はあ…」
確かにさっきまでの階層とは全く違うようで、壁に不自然な青い光の幾何学的な線が浮かび上がっている。大理石かと覆うような、なんていうか神殿のような雰囲気にも似ている。太い柱が通路の脇に整然と立ち並び、その廊下の先にまた扉が見える。
「罠は無いね」
するとギルドマスターが言った。
「このような場所に来た事のある冒険者は、白金以上だけでしょう。大変危険です」
ギルマスのネガティブな物言いにイライラしていたシャーミリアがぎろりと睨む。
「わめくな人間」
「すみません…」
先にある白い扉を開くと、更にその先に部屋が広がり、いくつもの出口が用意されていた。
「うっわ。迷路系? めっちゃめんどくさそう」
「ご主人様。それでは、大きな気配のある部屋に入るのはいかがでしょう?」
「あ、気配感知で何か引っかかってる?」
「はい。五つの扉が見えますが、先が通路になっているところや細かいアンデッドがいる場所ばかりです。ですが一カ所だけ大きな反応があります」
「じゃ、そこいこう」
するとギルマスが青い顔をしていった。
「お、恐れ入ります! 発言をお許しください! 通常のダンジョン攻略で言えばその部屋は外れです。もし気配を感じ取れるなら、一番安全な道をお選びいただくのが王道!」
俺はそれを聞いて首を振る。
「あのね、ギルマス。ここまでろくな素材が取れなかったんだよね、骨とか小さな魔石ばっかでさ。それじゃあうちのミーシャが怒っちゃうよ」
俺が言うと、ミーシャがファントムの肩の上で慌てて首を振る。
「ら、ラウル様! 私は怒ったりなんかしません」
「そりゃ分かってるけど、このままじゃ帰れないよ。時間と労力かけて手ぶらで帰ったらみんなに笑われちゃう」
「皆さんも笑ったりしないと思いますけど」
するとシャーミリアが、うんと優しい表情を浮かべてミーシャに言う。
「ミーシャ。デイジーもバルムスもまっていますよ、きっとあなたが素晴らしい素材を持ってくるのを楽しみにしています。せっかく鉄等級冒険者になったのだから、ご主人様に甘えて良いのです」
「シャーミリアさん…。分かりました! じゃあそこに行きましょう!」
ミーシャの目がギラギラして来た。
「それがいいわ」
話がまとまって、ギルマスだけが更に青くなっている。だが決まったからには、さっさとデカい気配がある部屋に行くとしよう。俺達がシャーミリアについて、気配を感じるという部屋の扉を開けた。ギルマスもどうしようもなく俺達について来る。
俺達が次の部屋に移ると、そこは広い空間になっていて真っ暗だった。俺とシャーミリアとファントムだけは見えているだろう。更に部屋の中に進んでいくと、後ろの扉が音をたてて自動でしまる。
おお! いい感じ! これぞ中ボス部屋って感じじゃね?
ポウッと一か所に火が灯り、その火が瞬く間に周りの壁に灯っていく。室内は大理石のような白い壁に囲まれており、かなりの広さを持っていることが分かった。
するとその最深部の祭壇のような所に、大きな龍の彫刻のような物が見えた。
「ご主人様、あれにございます」
「おお! すげえ! 白いドラゴン? 何だあれ! 気配があるってことは生きてんだ?」
するとギルドマスターがガタガタ震えて言った。
「あ、あれは…恐らく、ドラゴンスケルトンにございます」
「えー、綺麗だからいいかと思ったら、あれもスケルトンなんか?」
「ドラゴンの骨に何らかの魔力供給炉があるのだと思います。外側も骨に囲われており、かなり強力な打撃じゃ無いと倒せないかと思われます。それよりも早く逃げましょう! 白金でも到底敵わぬ相手です!」
「マジか」
俺は自分のバレット M82 を構え、唐突にそいつに向かって撃ちこんでみる。
ズドン! ガキィ!
「ホントだ」
するとギルマスが慌てて言った。
「い、いきなり魔法を撃ち込むなど! 今ならまだ目覚めていないようですので!」
ズドンズドンズドンズドン! 何発も撃ちこんでみると、ドラゴンスケルトンの目が赤く光った。
「おおお、起きた!」
「目が光った。次は目を狙ってみっか」
ズドン! するとドラゴンスケルトンは羽で自分の顔を防御しやがった。じゃ赤く光る目が弱点なんじゃね?
ゴゴゴゴゴゴ! と音をたてて動き出すスケルトンドラゴン。俺達を見据えているので、きっと怒っているのかもしれない。まあ対物ライフルでいきなり撃たれたら怒るか。
「我の眠りを邪魔する無礼者はお前か」
うわ。かっこいい! ゲームみたいな台詞を吐いたぞ!
「そうそう! 俺俺! 俺だよ! どうするの? それならどうする?」
スケルトンドラゴンは立ち上がってこちらに歩いて来た。するとドラゴンの表面がとげとげになり、次の瞬間そのとげが槍のようにこっちに飛んだ。ファントムが俺とミーシャとギルドマスターを庇うようにし、シャーミリアがそのことごとくを迎撃した。
「どうだ!」
なんかドラゴンスケルトンがどや顔をしているっぽい。俺はファントムの陰から出て言う。
「バーカ! こっちは無傷だっちゅうの!」
「なにぃ! ぐぬぅぅ!」
すると唐突にドラゴンの口から火がこぼれ、こちらに向かって火炎を吐き出して来た。俺はすぐさま目の前に、M113装甲輸送車を召喚してその炎から全員を守った。
俺攻略してるぅぅぅ! ただいまダンジョン中ボス攻略中ぅぅぅぅ! 面白れぇぇぇぇ!
俺はわっくわくしながらシャーミリアに指示を飛ばした。
「シャーミリア! 飛び回ってアイツに弾を撃ち込んで気をひけ」
「は!」
シュッと飛びあがったシャーミリアが、M240中機関銃であちこちからスケルトンドラゴンを撃った。まるでハエにでもたかられるように、羽をふるってシャーミリアを追い払おうとする。
「よっ!」
俺はM113兵員輸送車の陰に、FH70 155mm榴弾砲を召喚した。突然出て来た車や榴弾砲に、ギルマスが目を白黒させているがそんなことはどうでもいい。召喚時に砲弾は装填済みだ。
「ファントム! それ邪魔だからどけて」
《ハイ》
ファントムが12トンあるM113兵員輸送車を、ボンと押してスケルトンドラゴンとFH70 155mm榴弾砲の射線を繋いでくれた。俺は榴弾砲のトリガーであるワイヤーをひく。
ドゴン! バグゥ! ボガーン!
「どうかなぁ?」
爆風でしばらく見えなかったが、煙が収まると薄っすらとスケルトンドラゴンが見えて来た。次第にはっきりして来て、ギルドマスターが驚愕している。
「穴が…大穴が空いてます」
ドラゴンスケルトンには、ぽっかりと穴が開いていた。
「だね! 次の反撃は何がくるだろう?」
「そんな悠長な、とどめを刺さねば」
「いやいや、めちゃくちゃぶっ壊したとして素材は取れそう?」
「素材? 素材を気にしておられるのですか?」
「だって大爆発したから、粉々になったんちゃないかとひやひやで」
ガラン! ガラガラガラ! とスケルトンドラゴンが崩れ落ちて来る。あっという間にバラバラになって残骸がその辺りに広がった。俺達が残骸の跡に駆けつけると、骨の山が築き上げられている。
「うっそ? 一発で終わり? 弱すぎん?」
するとギルドマスターが震えながら言う。
「あ、あの。ラウル様たちがお強すぎるのです」
「ファントム! 骨をどけてくれ!」
《ハイ》
ファントムが片っ端から骨をどけていくと、巨大な魔石が見えて来る。ちょっと砲撃で壊れてしまったようだが、これで何百個分になるかな?
なんかの気配を感じて俺が隣を見ると、マッドサイエンティストの眼差しをしたミーシャが舌なめずりをしているのだった。これは間違いなくバルムスも喜ぶだろう。
「やっと素材らしい素材が獲れたね!」
俺が言うと、ギルマスが言った。
「素材でございますか? こ、国宝級のお宝だと思いますが?」
「でも傷物だよ?」
「多少割れていても、これほどの大きさの魔石は見たことが御座いません」
「俺のでいいよね?」
「も、もちろんでございます! 権利は全てラウル様にあるかと!」
「じゃ、ミーシャ! これミーシャにあげるからね!」
「ありがとうございます!」
俺達は冒険者救出の事など忘れたかのようにはしゃいでしまう。だが俺がそのうちに思い出した。
「じゃ、遭難した人を探しに行こう」
「は、はい」
そして俺は魔石を見て言う。
「これはどうしよう?」
「あとから皆で来て回収するのが定石です」
「んー、面倒だ。ファントム持って来て」
するとファントムは自分の体と同じくらいの大きさの魔石を持ち上げた。ようやくダンジョン攻略らしいことをしたので俺は満足だ。探せばいろいろありそうだし、救出が終わったら俺達だけでまた来ればいい。
そう思いながら俺達はその部屋を後にするのだった。