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第860話 冒険者のやり方

 戦争真っ只中のはずの俺が、なぜか冒険者としてダンジョンに潜っている。金等級と銀等級の冒険者が落とし穴に嵌ったらしく、俺は救出隊に混ざってこのダンジョンまでやって来たのだ。万雷の回廊とか言うダンジョンで、構造が他の神の住み家に似ている。


 今は斥候部隊に混ざって先行しているが、正直なところ時間がかかりすぎていた。こんな悠長にやっていたら、遭難した奴らが全滅してしまうんじゃないかと思う。だが俺は出しゃばる事無く、斥候部隊の最後尾をついて行く。


 なぜ俺がこんなことに首を突っ込む事になったのか? それを考えると前の虹蛇の言葉が思い出された。起きる出来事は偶然じゃなく必然なのだと。俺が冒険者登録した途端に、ギルド最高冒険者のゼルニクスが遭難したのは偶然じゃないと考える事にした。


 そして、その間も俺はシャーミリアと念話を繋いでいる。


《にしても、随分悠長にやるね》


《これが人間のやり方なのでしょうか?》


《まあ、人間は弱いからね。少しのミスで全滅しそうだし》


《一気に下りた方がよろしいと思うのですが》


《俺もそう思う》


 俺達が念話でこそこそ話をしていると、最前列の斥候の男が言う。


「状態は変わっていない、いつものダンジョンだ」


 するとその後ろに居た男が俺に言った。


「おい! 鉄等級の新入り! 本隊を呼んで来い! ダンジョンに変化はないと」


「へいへい」


 俺のやる気のない返事にギロリと睨んで来るが、とりあえず俺は走り本隊に合流してギルドマスターに伝えた。


「どうも」


「状況はどうです?」


「ダンジョンに変化は感じられない」


「わかりました」


 するとギルマスは後方の冒険者達に向かって言った。


「ダンジョンに異変はないそうだ、通常の攻略に切り替えて良いだろう」


 やり方がよくわからないので俺はギルマスに聞いた。


「今、何をしてるのかな?」


「ダンジョン内部に変化が起きていないか確認させてました。スタンピードが起きていたり、ダンジョンに隠し通路が現れたりするとそれだけで危険ですから」


「なるほど。冒険者が遭難したから、異変が起きてるんじゃないかと確認をしたわけね?」


「はい。本来は銀等級ですと、五階層あたりまでは問題なく潜れますので」


「そういうことね」


「はい。今回は総動員してますから、問題なく十階層まではいけるかと」


「了解」


 何だろう? ギルドには緊急事態が起きた時のマニュアルみたいなものがあんのかな? 一気に地下まで下りて助けるって感じじゃないんだな。ひとまずシャーミリアに念話を飛ばす。


《シャーミリア、そっちは何かあった?》


《特にはございません。時折スライムや小型の魔獣が現れるようですが、難なく処理しているようです》


《それはルフラには見せたくないな》


《ご主人様、ルフラとは全くの別物です》


《そうか、じゃあ問題ないか》


 俺は本隊と一緒に斥候部隊を追いかける事になった。ミーシャが先に行っているので心配ではあるが、シャーミリアとファントムがいるので庭を散歩するのと何ら変わりないだろう。また斥候があらかた片付けているので、本隊もスムーズに下層に降りる事が出来ている。魔獣はスライムか鼠や蝙蝠のような小型の奴しかおらず、銀等級の冒険者達は慌てる事無く捌いていた。俺もファイティングナイフで鼠を殺したりしてる。


 おおお、俺も冒険してるぜ! やっぱRPGと言えばダンジョンだよなあ。エミルやグレースが羨ましがりそうだが、後でいっぱい自慢してやろう。


 地下五階層で斥候部隊が本隊を待っていた。どうやら一気に深部に向かうことはしなさそうだが、だからといってこんなにのんびりしていていいのだろうか? すでにダンジョンに潜ってから一時間くらい経過しているけど。


 するとギルドマスターがみんなに言った。


「一旦休憩をとる」


 えっ? まだ全然疲れてないっしょ? もう休憩すんの? 一時間くらいしか潜ってないのに?


 俺が呆れていると、ギルドマスターが俺に近づいて来て言った。


「ラウル様。どうです? 初めてのダンジョンは疲れるでしょう?」


「あー、いや。全く」


「きっと気を張っているからです。知らず知らずのうちに疲れが蓄積されていく、それがダンジョンの恐ろしい所なのです」


 いやマジで疲れてねえし、むしろのんびりやっているので軽い散歩をしているような感覚だ。だが俺は気になる事がありギルマスに聞いた。ここはお勉強タイムでもある。


「ダンジョン内が仄かに明るいんだけど、なんで? 奥に来たら暗くなると思ってた」


「ああ、ご存じありませんか。壁に秘密があるのです」


「壁に?」


「壁自体が薄っすらと発光しているのです。それで真っ暗闇にならないのですよ」


「地下一階はランプをつけていたけど?」


「あの部分は人間が作った場所です。天然ではないのですよ」


 そう言う事か。俺の予想ではあるが、神の住み家跡に人間が勝手に入り口をつけたって感じかな。アトム神の神殿とアグラニ迷宮をくっつけた感じと言ったら分かりやすいかもしれん。光っている地下空間といえば、虹蛇がいた砂漠のスルベキア迷宮神殿にも精通するものがある。


 いや、まてよ。


「最初に斥候が潜ったけど、本来はそんなのいらないんじゃないの?」


「いえ。ダンジョンは定期的に変化します」


 マジか…、って事はマジでスルベキア迷宮神殿そのものじゃないか。あんときは俺達が壊して、虹蛇がせっせと迷宮をこさえていた。 


「ダンジョン自体が生きてる?」


「面白い言い方をしますな。ですが、それに近いものはあるかもしれません」


「なるほどね」


 俺は一旦、シャーミリア達の所へ行く。するとミーシャがナイフで壁を削っていた。


「なにしてんの?」


「苔を剥がしてます。何か普通じゃない気がするので」


「そっか」


 そしてシャーミリアに俺が推測した内容を伝えた。


「俺がトラメル達とザンド砂漠の神殿をさまよった時、虹蛇に遊ばれたって言ったよな」


「覚えております」


「今は不確定だが、ここもスルベキア迷宮神殿のような要素があるかもしれん」


「左様でございますか。ならば新しい情報が取れるやもしれませんし、心してかかりましょう」


「よろしく頼む」


 休憩が終わって更に階層を下るにあたり、ギルドマスターが全体に言う。


「ここからは魔獣のレベルが上がっていくぞ! 皆、気を引き締めろ!」


 俺は手を上げてギルドマスターに聞いた。


「どんな魔獣がいるのです?」


「そろそろアンデッド系モンスターが出てきますよ。スケルトンや屍人が出現するでしょう」


 やっぱりそうだ。アグラニ迷宮ではそういう人工的な魔獣はいなかった。ドラゴンか虫系か鼠や蝙蝠などの進化系がほとんどで、ゾンビやスケルトンはいなかったように思う。だが虹蛇のスルベキア迷宮神殿には、スケルトンやゾンビが出現した。自然の空洞に巣くった魔獣だらけのアグラニ迷宮とは毛色が違うようだ。


 そして俺はシャーミリアに言う。


《アンデッド系だってさ。何とかなる?》


《全て兵隊にして下層に向かわせましょうか?》


《そうして》


《は!》


 皆が見ていないところでシャーミリアがシュッと消える。下層に下って少し経った頃に、俺の脇にシャーミリアが突然戻って来た。


「完了いたしました」


「ご苦労さん」


 しばらく階層を周っているうちに冒険者達が首をひねる。


「おかしいぞ! モンスターがいない」


「確かにな。スケルトンや屍人が一体も出現しないなんてことあるか?」


 するとギルドマスターが皆に行った。


「全体止まれ!」


 一人の冒険者がギルドマスターに忠告する。


「ギルマス! スタンピードの前兆では?」


「その可能性は捨てきれない」


 いや、捨てて良いよ。シャーミリアが使役して全部下に下らせただけだから。出来るだけ早めに降りた方が仲間も死なずに済むだろうし、俺達の援軍を待たずしてゾンビに助けられるのもありだ。


「斥候部隊! 調べてくれ!」


「わかった。先行しよう」


 ギルドマスターの指示で、斥候部隊がまた先を行く。仕方がないので俺達も斥候部隊について行くことにした。斥候部隊はあちこち調べるが、モンスターの影も形も見つける事が出来ないでいる。全部シャーミリアの支配下にあるんだから、見つけられるわけはない。


 だが斥候の一人が言った。


「危険では?」


「確かにな。こんなところで、スタンピードに遭遇したら全滅の可能性もある」


 そんな馬鹿な。シャーミリアが使役してるだけだから問題ないんだってば!


「ちょ、ちょっと! お仲間がまだ下に居るんだし、進むべきだと思うんだけど」


「素人は黙ってろ!」


 いやいやいやいや、良かれと思ってしたことが裏目にでた。


「も、もう一階層だけ潜ってみてから判断してもいいのでは?」


 俺は同時にシャーミリアに念話を繋げる。


《ちょっとアンデッドを戻そう。一気に下にやったのはまずかった》


《申し訳ございません!》


《シャーミリアは悪くない、俺がこんな慎重だと思わなかっただけだ》


 そんな事は冒険者に伝わらず、俺は頭ごなしに言われてしまう。


「そうやって判断が甘いと冒険者は死ぬんだよ! 今日初めてダンジョンに潜ったような奴が知った口きくんじゃねえ」


「でも! 考えて! ゼルニクス達がまだ下にいる! いったん本隊を待って検討してもいいだろう!」


「うるせえ!」


 なんて口論していたら、後続部隊が追い付いて来た。ギルドマスターが俺達に話しかけて来る。


「どうした?」


 すると斥候の冒険者が言う。


「ギルマス。いよいよ異常だぜ、このまま行けば全滅の可能性があるかもしれねえ」


「うむ…確かにな。スケルトンも屍人もいないというのは…」


 そんな時だった。ダンジョンの奥の方から数体の屍人がやって来た。


 うがあ! ぐふぅ!


 屍人が声を上げたので、俺は皆に聞こえるように言う。


「あ! 来た! 屍人来た! じゃあ普通だ! 普通のダンジョンの状態だ! スタンピードの恐れは無さそうだ! 良かった!」


「う、うむ。どうやら若干モンスターの数が減っていたようだな」


 だが斥候の冒険者が首をひねって言う。


「さっきまで全く気配がなかったのに…」


「きっとゼルニクスが倒したんだ! やっぱ白金はすげえなあ!」


 俺が言うと皆がようやく頷いた。そして冒険者達は適当に動いている屍人たちを討伐する。


《シャーミリア? わざと弱くしてる?》


《冒険者を殺してしまっても?》


《ダメダメ! シャーミリアが使役してるって事は、かなり強化されてんだろ?》


《左様にございます》


《適当に弱くしてて》


《かしこまりました》


 初めての冒険者としてのダンジョン攻略の難しさを、逆の意味で味わう事になるとは思わなかった。恐らく虹蛇のスルベキア迷宮神殿もシャーミリアが居たら楽勝だったろう。まああんときの虹蛇はあの手この手で邪魔したろうけど。


 再び隊が進み始め。三時間ほどで十階層に到達したのだった。だが冒険者は口々に言いだした。


「簡単すぎないか?」


「まだ三時間くらいしかたってねえだろ」


「なのにもう十階だぜ」


 それを聞いたギルマスが言う。


「これならアークライト達が深部まで潜ってしまった理由が分かる」


「確かに。こんなに潜りやすかった事なんてない」


 そりゃそうだ。俺がちらほら屍人やスケルトンを戻させてはいるが、ほとんどは十一階層より下の魔獣を攻撃させているところだ。とにかく進み易いにこしたことはないし、危険は少ない方が良いと思う。


 だが皆が考え込んでしまった。


 いや、潜りやすいならそれでいいんじゃないの?


「一度作戦会議を」


 いらねえって! 作戦会議とかしなくてもいいようにやってんだから!


 俺にとっては別の意味で、更に難易度が高いダンジョン攻略になってしまった。せっかくハイスピードで降りて来たのに、作戦会議なんかしてたら無駄に時間を食う。


《こやつら! ご主人様のご厚意を無に!》


 シャーミリアが今にも皆殺ししそうだったので、俺はシャーミリアを諫める。


《いや、いいよ。シャーミリア、人間達の事は人間達のルールにのっとってやるしかない》


《かしこまりました》


 とりあえず俺達は、冒険者達の作戦会議が終わるのを待つことにするのだった。

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