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第858話 遭難事故の知らせ

 冒険者となった俺達サバゲチームは、たぶん世界初の人間外冒険者パーティーかもしれない。唯一マッドサイエンティストのミーシャだけが人間で、半魔人とオリジナルバンパイアとハイグールの組み合わせは普通に考えたらあり得ない。なぜならば、俺達の方が人間社会では討伐対象になり得る存在だからだ。


 昔は討伐対象だった魔人は北大陸で見る事もなくなり、討伐対象と言えばもっぱら魔獣の事を指す。だが南方のモエニタ王国の事情はよく分かっておらず、このあたりに人間以外の種族がいるのを知らない。つい最近、豊穣神の信者であるオウルベアという種族を知ったばかりだ。


 そんな事を考えながらも、ギルドに冒険者パーティー『サバゲチーム』の登録を済ませた。


「はい! これで登録終了です。皆様は全員が鉄等級ですので、薬草採取やペット探しなどの仕事が多くなると思います」


 声高らかにギルド嬢から告げられるが、選択の余地など無く薬草採取をしようと思う。もちろん根回しをして、デイジーから薬草採取の依頼をだしてもらい俺達がそれを受ける形にするつもりだ。自分で金を出して自分で採取するようになるが、それによってギルド内でどう評価されるのか見ものだ。


 エントランスに居る冒険者達から白い目で見られながらも、これをどう利用してやろうかとニンマリしていた。


「ミーシャ、掲示板とか見てみようよ」


「はい」


 俺達が掲示板を眺めると、やはり簡単な依頼は無かった。冒険者のすそ野は広く、鉄等級の冒険者がいっぱいいるので朝から来ないと依頼は無いのだ。


 俺はギルド嬢の所に行って、一応聞いてみる事にする。


「あのー、これから依頼が出る事ってあります?」


「あまりないですね。やはり簡単な依頼は早朝かと」


 じゃあデイジーが依頼を出した後、すぐに他の冒険者に取られるかもしれないな。どうしたもんかな? 依頼者と一緒に来て、すぐに依頼をもらうとか出来るのかな? 


「あのー、依頼者から冒険者を指定する事ってあるんですか?」


「依頼者からと言うより、ギルドからの指名依頼と言う形になります」


 なるほどなるほど。


「依頼する時に、依頼者が冒険者を指名した場合は?」


「その場合は要相談ですね。大抵は護衛などの仕事になりますが」


 なるほどね。毎回同じ冒険者に護衛してほしいっていう、商人や旅人がいるって事だな。


「人気のない依頼ってどんなものです?」


「内容よりも報酬がかなり低いものですね、やはりお金がモチベーションですから」


 おっ! なるほどね。それならデイジーに、かなり悪い条件を付けてもらえばいいか。


「わかりました」


 俺とミーシャが顔を合わせてウンウンと頷いている時だった。


 バンッ! とギルドのドアが勢いよく開かれた。


「大変だ!」


 冒険者が血相を変えて叫びながら飛び込んで来た。ギルド嬢が慌ててカウンターから飛び出して、冒険者のもとへ走る。


「どうしました?」


「ア! アークライトのやつらがダンジョンの罠にかかった! ゼルニクスが救出に向かったんだが帰って来てねえんだ」


「ゼルニクスさんが?」


 するとギルド内がざわざわとざわつき始めた。


「ゼルニクスが帰って来ねえ?」

「マジかよ。いったいどのくらい潜ったんだ?」

「つーか、白金等級が戻らねえっつったら誰も助けらんねえだろ」

「アークライトだって、金と銀の混合パーティーだぞ」


 皆はかなり焦っているようだった。ギルド嬢がカウンターに大声で叫ぶ。


「アークライトはどこに潜ってるのです?」


「えーと、数日前から万雷の回廊に行ってますね」


「万雷の回廊ですって!」


 そしてギルド嬢が冒険者に尋ねた。


「アークライトは何階層で立ち往生したのです?」


「二十六と聞いている」


「万雷の回廊でそんなに深くまで潜った? 金等級だけのパーティーでも厳しいわ」


 それを他で聞いていた冒険者が、ギルド嬢に言う。


「だけど、ゼルニクスが行ったんなら何とかなるだろ」


 だがそれを聞いて報告して来た冒険者が言った。


「それが…アークライトは罠にかかったらしいんだ」


「罠?」


「落とし穴だ。更に深い階層に落ちたんだ」


「マジかよ。ゼルニクスはソロでそれを救助に行ったのか?」


「時間が経てば生存確率はどんどん下がっていくからな、ゼルニクスは俺に言ったんだ。俺が先に行くからギルドで応援を呼んで来いってな」


「応援つったってなあ…」


 するとギルド嬢が大きい声で言う。


「緊急事態発令です! ギルマスに報告を」


「はい!」


 中のギルド嬢が慌てて上の階に登っていく。するとすぐにギルドマスターがやってきて、テキパキと指示を出し始めた。


「銀等級以上の冒険者に緊急招集をかけろ! すぐ集められる奴らと、呼び戻せる奴らを出来るだけ戻してくれ!」


「「「「「「はい!」」」」」」


 冒険者達が一気にギルドを飛び出して行った。俺達はぽつりとギルドに取り残され、カウンターに行ってギルド嬢に聞いてみる事にする。


「あのー。アークライトってパーティーは強いんですか?」


「そうです。金と銀の混合ですから」


「でも、危険だと?」


「万雷の回廊に潜ったそうです。白金のフルパーティーの記録でも三十一階層が最高記録なのです。金と銀の混合パーティーが二十六階層で落とし穴にはまったという事は、それ以下の階層に落ちてしまったという事です」


「えっと、じゃあ二十七階層にいるんじゃない?」


「そうとは限らないのです。罠は複雑に作られており、スロープ式になって何階層も下に落ちる事があるのです」


「そりゃ大変だ」


「はい」


「それで緊急招集をしたと?」


「いまギルドに居たのは、ほとんどが鉄等級で今日の仕事にあぶれたひとでした。銀も居ましたが数が足りないので、招集をかけた所です」


 するとシャーミリアが俺に言う。


「人間は不便でございますね。そのダンジョンがどれほどのものか分かりませんが、総動員をかけなければならないとは」


「まあ俺達も北大陸でアグラニ迷宮の攻略やったけど、人間には厳しいんじゃない? モーリス先生クラスのパーティーじゃないと無理じゃないの? まあアグラニ迷宮と万雷の回廊の難易度は違うかもしれないけど」


「あの時のアグラニ迷宮は魔獣が爆発的に増えておりましたから」


「だったね」


 するとミーシャが俺に聞いて来る。


「それで、ラウル様はどうするのです?」


「まあ、この町の人の問題だし、俺達は鉄等級だから何も出来ないよ」


「まあ…そうですね」


 俺はギルド嬢に挨拶をする。


「じゃ、頑張って下さい」


「え、ええ」


 俺達はギルドの玄関に向かって歩いて行く。すると招集がかけられた冒険者らしき人達がぞろぞろと入ってきた。邪魔にならないように脇にどけると、冒険者がギルド嬢につかみかかるように聞いた。


「アークライトのやつらが万雷の回廊に引っかかったんだって?」


「はい」


「だからやめとけって言ったんだ! 最近、冒険者がいっぱい抜けたし、変な奴らが来て騎士を入れ替えしただろ? それでアークライトのやつらが、舐められてらんねえとか言ってよ! 万雷の回廊に行って、高位の魔獣を狩って見返してやるとか言ってやがってたんだ! 俺は、やめとけって言ったんだよ!」


 えっ? 俺達のせいじゃん。


 どうやら最近俺達がこの町をめちゃくちゃにしたので、冒険者の名誉挽回の為に難しいダンジョンに潜ってしまったようだ。俺達はどうやら相当恨まれているらしい。


 その話をギルド嬢にしている冒険者の周りのやつらが、ちらちらと俺達に視線をむけてきた。それによって、怒鳴っている冒険者が俺達に気が付いてしまう。面倒なことになる前に出てしまおう。明日の朝、薬草採取の依頼を受けるまではギルドに用はない。


「おい!」


 するとその冒険者は俺に声をかけて来た。


「はい?」


「お前らのせいだぞ! お前らが来てからおかしくなって、アークライトのやつらが無理したんだ」


「いやー、そんな難しいダンジョンに潜ってくれなんて頼んでないけど」


「な、なんだと?」


「別に冒険者の名誉なんて落ちてないと思うし、わざわざ名誉挽回しなくても良かったと思う」


「て、てめえ…」


 冒険者達がじりじりと俺達の周りを囲み始めた。まあやめた方が良いと思うけどね。ファントムは何もしないとしてもシャーミリアが怒ったら君ら一瞬よ? でも俺の脇でミーシャが青い顔をして怖がっているので、一旦話を収めようと思う。


「いやいや。すみませんね、もともと冒険者は凄い仕事をしているのだから、無理をして名誉挽回しなくてもって意味なんだけどね」


 俺の言葉に、さらに冒険者達の眉間にはピキピキと血管が浮き始めた。


 こんなところで無駄に喧嘩している場合じゃないと思うけどなあ…。


 仕方ないからシャーミリアを抑える準備をしている時だった。


「ちょ、ちょっとすみません!」


 俺達の冒険者登録の試験をしてくれた試験官が来た。その後ろにはギルマスが立っている。


「なんです?」


 すると試験官は俺を無視して、シャーミリアに深々と頭を下げた。


「ブラックドッグを討伐した力を見込んでお願いいたします! どうか! どうか仲間をお助けいただけませんでしょうか?」


 だがシャーミリアはこれ以上ないような冷たい眼差しで言い放つ。


「ご主人様を無視して私奴に声をかけるとは何事だ。お前は死」


「ちょーーーーとまったぁぁぁぁあ!」


 試験官は喧嘩を吹っかけてるわけじゃないのに殺したら、ここに居るギルド員の魂核を全部書き換えなければならなくなる。無駄な仕事を増やさないように俺はシャーミリアを抑え、ギルド試験官に尋ねる。


「えっと、我々は鉄等級ですが、救出の仕事を受けられるのですか?」


 俺がそう言うと、後ろに立っていたギルドマスターが言った。


「失礼しますね。ラウル様、緊急事態の場合はギルドからの依頼となりますので等級は関係ありません」


「そうなんだ? 助けたら報酬とかあるの?」


「救出の道すがら討伐した魔獣の素材は買い取らさせていただきますし、怪我をしたり死亡した場合はお金が出ます。特に死亡した場合は、家族に多額の保険金がおります」


「あ、ギルドってそう言うのがあるんだ」


「登録時にお支払いいただいたお金や更新費、日々の運営で出た余剰金があてられますので」


 なるほどなるほど。互助会みたいな奴があるわけね、勉強になるわあ。


「ちょっと相談してきても良いですか?」


「はい」


 だが冒険者がギルマスに言う。


「鉄等級のこんな奴らに助けられるわけがねえ。つーかこいつらになんか助けられたくねえよ」


 するとギルマスが冒険者達に言った。


「我がギルドの憧れである白金等級の冒険者を見殺しにするのか?」


「そ、そんなことは言ってねえ。俺達で何とかするって言ってるんだ」


「二十六階層以下に潜れるのか?」


「それは…みんなで行くしかねえだろ」


「これ以上ギルド員が減ったら、ギルドが成り立たないぞ」


「……」


 喧嘩をしているが、まあいいや。俺はミーシャとシャーミリアとファントムを連れて端に行く。


「この際だしさ、ダンジョン潜ってみる? 変わった素材があるかもしれないし」


 俺がそう言った時だった。ミーシャの不自然にデカい目がこれ以上ないくらいに開いて光る。


 キラーン!


「変わった素材? もしかしたら、北のアグラニで手に入れた以上の素材があるかもしれませんよね?」


「否定は出来ないね」


「行きます!」


 俺が否定はでき…まで行ったら、かぶせてミーシャが返事をしてきた。たぶんミーシャは俺の隣りで、ダンジョンに行きたいって思ってるだろうなあと思っていた。案の定ウズウズしていたらしい。


「シャーミリア。ミーシャを徹底的に守ってくれよ」


「命に代えても、ご主人様の大切な人をお守りします」


 いやシャーミリア死なねえじゃん。


 そして俺はギルドマスターと冒険者が揉めている所に戻って言う。


「素材は持ち帰っていいんだよね? 討伐したら権利は俺らに?」


「もちろんです」


「受けましょう」


 そう言って俺はギルドマスターに手を差し伸べた。するとギルマスは俺の手を両手で握ってお礼を言って来る。冒険者達はめちゃくちゃ不服そうな顔をしているが、ギルド試験官はどこかホッとしたような表情をするのだった。

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