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第857話 冒険者パーティー サバゲチーム

俺とファントムとミーシャがおそろいの冒険者のネックレスをしているのを、羨ましそうな眼差して見つめる人がいた。皆は気づかないようだが、俺にはビシバシとその気が伝わってくる。だがその人は俺に対してはめちゃくちゃ奥ゆかしく、絶対に意見などをしてくるような人じゃない。


 だから、俺から声をかけてあげる事にした。


 可哀想だし。


「シャーミリア」


「は!」


「俺も、いろいろ考えたんだけどさ」


「は!」


「シャーミリアも一緒に冒険者になろうよ」


「えっ! はっ! なっ! よっ! よろしいのですか!」


 めっちゃくちゃ嬉しそう過ぎな表情で、頬を赤くして目にはほんのり涙をためているようにも見える。


「だって冒険していたら万が一があるかもしれないだろ? 秘書のシャーミリアがいないとね」


 シャーミリアは可愛らしいヴァンパイアの牙をあらわに、天国にでも上るような表情になった。イオナはマリアが羨ましがるんじゃないかと言っていたが、もっとそばに羨ましがる人がいた。


「かしこまりました! 命令とあらば私奴も冒険者とやらになります!」


「よろしくたのむ。これからギルド行くけど?」


「かしこまりました!」


 なんとなくシャーミリアの周囲にハートマークが見えなくもないが、まあいつもの事だ。そして俺はシャーミリアを連れてギルドへと来た。


 二人で入ると、またギルド内はシーンとするがアウェイ感が半端ない。まあ今日はゼルニクスが見当たらないようだが。前の時と同じように、俺達から逃げるように冒険者達は散っていった。そのまま受付に行ってギルド員に尋ねる。


「あのー、彼女も冒険者試験を受けるよ」


 ギルド嬢は慌てて答えた。


「えっ! は、はい! それでは! すぐに話を通します!」


「お願いします」


 そして話はとんとん拍子に進み、シャーミリアと二人で冒険者になる注意事項を聞く事になった。それから魔獣狩り試験に移る事になる。


 俺は先に合格した先輩としてシャーミリアに助言をした。


「えっと、力を千分の一くらいに制御してね」


「は!」


 このまえのギルドの試験官が言う。


「ラウル様。今日はこちらの方ですか?」


「よろしくお願いします」


「では、今日は違う試験場所にしましょう」


「なんでですか?」


「あの荒野にツノウサギが居なくなってしまいました。あの時の試験で縄張りから消えたようでして…まあ乱獲した結果と申しましょうか…」


「そうなんだ」


「今日の場所は少し難易度が高いかもしれません」


「どこに行くの?」


「西の森から入って山脈の麓へ」


「俺もついて行っていいかな?」


「試験で生徒の手伝いをしなければ問題ありません」


「しません」


 シャーミリアの手伝いなんて、かえって足手まといだと思うし。


「では」


 俺達はギルド員についてギルドを出て郊外に出た。一時間ほど歩いた場所にある森に入って行く。小さな魔獣はいるものの、シャーミリアが気配を発しているためか近づいて来る気配がない。更に一時間ほど歩いて山脈の麓に行ってウロウロしてみるが、全く魔獣が来ないので試験官が首をひねる。


「魔獣の気配がしませんね」


「そうなんですね?」


 どうやらギルドの試験官には魔獣の気配が分からないようだ。そして試験官は例の魔獣の笛を取り出してピーっと吹いた。ミーシャには聞こえないあの笛だ。


 するとシャーミリアがピクリとして、ギルド員を睨む。


 そういえばシャーミリアってめっちゃくちゃ耳が敏感なんだった。恐らく今の笛の音は、相当不快だったに違いない。それでもなかなか魔獣が出てくる気配がなかった。この前の荒野ではぞろぞろとツノウサギが出て来たのに。


《シャーミリア。どうする?》


《気配を消しましょう》


《そうだねそれが良い》


 すると途端に魔獣の気配がしだす。すると目の前にやたらと大きくて美しいクロヒョウみたいなのが降り立った。それはニカルス大森林で狩りまくったブラックドッグだった。牛くらいの大きさのクロヒョウが一頭、こちらを見て唸っている。


「あ、あわわわっわ! なんでこんなところにブラックドッグが! に、逃げましょう! 私が結界を張りますのでその間に!」


 俺は冷静にギルド員に聞く。


「ここらでは見ないんですか?」


「はい! もっと深い森の奥に生息する魔獣です! と、とにかく!」


「えっと、あれをやればシャーミリアは合格できますか?」


「ご、合格って…死んでしまいますよ?」


「合格はどうなんです?」


「もちろんできます! そんなもん飛び級ですよ! もしそんなことが出来るのなら! 銀か金等級認定されるかもしれません!」


「シャーミリア。あれをやればいいみたい」


 ブラックドッグは今にも飛びかかろうとしているが、シャーミリアは冷静にギルド員に言う。


「銀や金は、ラウル様と同じものか?」


「いえ! その上になります!」


「愚か者! もっと下の物にせよ!」


「い、いや。鉄等級が一番下です」


「なら、それにせよ!」


「は、はい! いや! ていうか早く逃げましょう!」


 シャーミリアはブラックドッグを見て言った。


「約束よ。ご主人様と同じものにしなさい」


「は、はい?」


 話がついた時に、ブラックドッグが空中に飛んで俺達の方に飛びかかろうとした。その次の瞬間だった、シャーミリアの体が消えてすぐに現れた。俺にはそう見えたが、ギルド員には動いたようにも見えなかったかもしれない。


「に、にげろおおおおお!」


 ギルド員が叫んで逃げようとした目の前に、黒い体がドサササササー! と落ちて滑り込んで来た。


「ダメだぁぁぁぁ!」


 するとシャーミリアが言う。


「これで同じものが貰えるんだな? 人間」


「へっ?」


 ギルド員は目の前に転がった黒い塊を見る。それはもちろんブラックドッグだが首の先からピュッピュッ! と血を噴き出していた。ギルド員はゆっくりと頭を上げてシャーミリアを見る。するとシャーミリアは、ブラックドッグのたてがみを掴んで生首を持っていた。


「う、うわあぁぁぁぁぁぁ!」


 ブラックドッグの顔を真正面に捕らえて、ギルド員が腰を抜かしてしまう。シャーミリアがもう一度ギルドの試験官に聞いた。


「これではダメなのか? 人間」


「う、あ、うわ。あ、あの! ご合格です! 合格!」


 それを聞いたシャーミリアは生首をポイっと放り投げた。そして俺に跪いて言う。


「ご主人様! 私奴の為にたいっっっへん長らく、お時間をとらせてしまいました! この罰はいかようにも!」


「いや。罰なんてないよ。とにかくよかったな、合格だってよ」


「ありがたき幸せ! ご主人様と同じになりました!」


 シャーミリアは頬を染めて軽く目に涙を溜めながら、ぴょんぴょんとジャンプして喜び始めた。まるで少女のようだが、俺はそれを笑いながら見ていた。よっぽど嬉しかったようだ。


 そして俺がギルド員に言う。


「じゃあ、戻りましょう」


「え、えっと。依頼は受けていないですが、ブラックドッグを討伐したという事で素材を持ち帰りませんと。いくらかの報奨金が出ます」


「何を持って行けばいいですか?」


「も、首を持って行けば分かります」


「シャーミリア。拾って来て」


「は!」


 シャーミリアは、さっきポイって捨てたブラックドッグの首を持って来た。ギルド員は青い顔をしているが、シャーミリアはめっちゃうきうきしている。俺達がギルドに戻りドアを開いて中に入ると、冒険者達が一気に騒めいた。


「ブ、ブラックドッグ!」

「うそだろ!」

「冒険者試験でブラックドッグ?」

「いったいどういうこった?」

「飛び級だろ!」


 一気に噂になってしまった。だがそれを無視して、俺とシャーミリアが素材部へとそれを置いて来る。そしてギルド嬢に言った。


「えっと、ネックレスはいつ出来ます?」


「この前と同じくらい待っていただければ、本当に銀や金じゃなくていいのですか? ギルドマスターから認定されると思いますが」


 するとシャーミリアがぎろりとギルド嬢を睨んだ。


「なんども言わせるな人間。ご主人様と同じものを用意しろ」


「は、はい!」


 そしてめでたくシャーミリアの冒険者試験は終わるのだった。


「じゃ、帰ろうか」


「はい!」


 シャーミリアは機嫌がよくなり、冒険者ギルドを出ても軽やかにスキップを踏みそうだ。だが俺の手前、冷静さを保ち楚々と歩いている。


「よかったな」


「はいぃ!!」


「同じネックレスが貰えるぞ」


「この上なく幸せにございます。ですが…ご主人様と同じネックレスをするなど…不敬にはあたりませんか?」


「冒険者の世界は平等なんだ。同じ等級同士頑張ろう」


「精一杯、奉仕させていただきます!」


 それから数日のシャーミリアの機嫌はそれはそれは良かった。オリジナルヴァンパイアらしからぬ、さわやかな笑顔で日々業務に励む。そしてとうとう、シャーミリアのネックレスが出来上がる日が訪れたのである。


 朝になり俺は、ミーシャとシャーミリアとファントムと共にギルドへと出かけた。


 隣を歩くミーシャに俺が言う。


「今日はシャーミリアの冒険者証をもらいに行く日だ。そしてパーティーの事を聞こうと思っているんだ」


 するとミーシャが聞いて来る。


「パーティーでございますか?」


「ああ。俺達四人で冒険者パーティーを組むんだよ!」


「なるほどです」


「それに対して決まりとかあんのかなと思ってさ」


「どうなんでしょう?」


 俺達がギルドに入って行くと、いつもと雰囲気が違っていた。どう考えてもシャーミリアが羨望の眼差しで見られている。ブラックドッグをソロで狩ったのが噂になって、冒険者達が色めき立っているらしい。


 すると一人の厳つい冒険者が俺達に近づいて聞いた。


「も、もしかしたら金等級からですかい?」


 だが人間が馴れ馴れしく話しかけるのを、シャーミリアが良しとする訳はなかった。


「気軽に話しかけるな羽虫が」


「は、羽虫…」


「さあ! ご主人様まいりましょう!」


 いきなり虫と言われた男はそこに固まり、シャーミリアはウキウキと奥へ進む。そして奥のギルドの部屋では早速、女性職員が鉄のネックレスを持って来てシャーミリアに渡してくれた。


「おめでとうございます! 本当に鉄等級でよろしかったですか?」


「ご主人様と同じものを頂いたのに、お前はなんと心得る?」


 シャーミリアの鬼気迫る表情に、女ギルド嬢はすすすと引っ込んでいった。シャーミリアは俺達と同じ、鉄のネックレスをつけてニッコニコしている。


「似合うじゃないか! なあミーシャ!」


「ほんと! シャーミリアさんにぴったり!」


「ほ、ホント?」


 シャーミリアは少女のようにポッと頬を赤めている。とりあえず部屋を出てギルドの人に声をかけた。


「あのー。パーティーについて聞きたいんだけど」


「あ、わかりました」


 本当は窓口で説明するんだろうが、俺達四人はまた別室へと通された。そしてギルド嬢が俺達に説明を始める。


「パーティーは登録制となります」


「基準はあるの?」


「特にございません。皆さんそれぞれです」


「階級とかそう言うのは?」


「パーティーによってバラバラですね。年齢も性別も関係ありません」


「なるほどなるほど。名前とか決まりは?」


「ありません。登録時に皆さんが自由につけたものを登録していただきます。パーティーの報酬はある程度自由に決められますが、分配に関しては最低限のルールを守ってください」


「というのは?」


「独り占めとかではなく、最低でも一割は権限があります。あとは働きによって内部で調整してください」


「わかった」


「そしてそのパーティーで一番等級が高い人までの依頼が受けられます」


 うわあ…そうだった。シャーミリアに金等級を受け取らせればよかった…だがシャーミリアは嫌がるだろうから、とりあえずここは仕方がない。


「わかりました」


 それから俺達四人は、冒険者パーティーの名前について考える事にするのだった。


「私奴は、ご主人様がお決めになったものでよろしいかと存じます」


「ミーシャは何かある?」


「私もラウル様がお決めになったのでいいと思います」


「うーん。どうしようかな…」


 もちろんファントムに意見などあるはずがない。


 実はすでに決まっている名前があった。


「サバゲチームって言うのはどうかな?」


「素晴らしいお名前でございます! なんと高尚なお名前でございましょう!」


 とシャーミリアがゼロコンマ二秒で賛成した。ミーシャを見るとミーシャも良いという。


 そしてここに、冒険者パーティーサバゲチームが誕生したのだった。

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