第854話 最終拠点の増援部隊
俺達がいる最前線の街に、ようやく魔人軍増援部隊が到着した。これでいよいよ、この都市の近くに魔人軍基地が建設される事になる。それに伴い後方からドワーフのバルムスと部下達、タピ、マカ、クレ、ナタの残りの進化ゴブリンたちも合流した。これで俺の直属は南方の大陸に勢揃いした。
早速モーリス先生やデイジーとミーシャも基地建設に行き、ティラもタピたちと一緒にモーリス先生の護衛として出て行く。土魔法が使えるキリヤも手伝いに行くというので、ハルトがそれについて行った。さらに俺も基地予定地に到着し、いま魔人達に労いの言葉をかけているところだ。
「みんな! よく来てくれた! ようやくこれで兵站線が確保されるよ」
「「「「「「「「は!」」」」」」」」
魔人達は一斉に返事をした。
「とにかく本丸を攻めるにしても、兵站が切れれば部隊は孤立するからな。みんなの働きのおかげで、俺達の戦いももうすぐ終わるだろう!」
もちろん俺は増援を待たず、敵地への空爆を継続してやってきた。だが敵もさるもの引っ搔くもので、こちらの分かりきった陽動には乗ってこない。言わば我慢比べのような状態が続いている。俺達もこのまま長期戦になれば不利になるので、魔人達を呼んで基地の建設を急ピッチで行う。
「北大陸の防衛ラインは完璧と言っていいけど、この南ではそれが確立されていない。そこでみんなの働きが凄く重要になってくるわけだ。恐らくここからの敵は、今までとは比べ物にならない力を持っていると想定されるからね」
「「「「「「「「は!」」」」」」」」
「より堅牢な基地の建設を期待する! 安全第一に急ピッチで作業を進めてくれ!」
「「「「「「「「は!」」」」」」」」
俺の演説が終わると、ドワーフと魔人軍たちは一斉に作業に戻って行った。そして俺はその近くににテント村を作り、ひときわ大きな天幕には陸上自衛隊の野外炊具一号を二台呼び出している。発電機や調理器具の大型鍋と鉄板も用意し、大型のスライサーも完備した。
俺は野外炊具一号の周りに集まって、料理の準備をしているティラ、タピ、マカ、クレ、ナタに声をかける。
「ご苦労さんだね。お前達がいるから本当に助かるよ」
するとティラがニッコリ笑って言った。
「マリアに教えてもらった料理をふるまいます!」
「そうかそうか」
マカが楽しそうに言う。
「ルタン料理を大量に作りますよ! ラウル様も楽しみにしててください!」
「おお、楽しみだ」
今度はナタが言った。
「ラウル様! うどんも食べたくないですか!」
「ああ、ナタが作るコシのあるうどん! 食いたい!」
「はい!」
そしてタピが言う。
「シン国の料理も食べたいですよね! ラウル様!」
「覚えたのか?」
「はい!」
「いいね!」
そして最後にクレが言う。
「ラシュタルのシチューも食べたいんじゃないですか?」
「ああ、いいね…久しぶりだよ! もうどれかなんて選べないよ、全部食いたい!」
「はい!」
みんながやる気になっている。調味料や食材は虹蛇グレースの保管庫から取り出しており、今日は盛大に宴を開くつもりだった。それを伝えたら進化ゴブリンたちが滅茶苦茶やる気を出したのだ。更に俺はその食事会場の隣りに、陸上自衛隊の野外入浴セット二型も二つ召喚している。食事の後は、魔人達に温かいお風呂に入ってもらおうと思う。
俺はゴブリンたちの元を離れて、久しぶりにバルムスの所に行った。するとバルムスがにんまりとして俺に近づいて来る。
「ラウル様!」
「本当にご苦労様だね」
「いえいえ。それよりも、ここに恩師様が転移魔法陣を設置して下さるのが楽しみです」
「ん? なんかあった?」
「はい! 実はラウル様から下賜いただいていたヘリコプターに使う、新型魔導エンジンが出来上がったのです!」
「凄いな」
「なかなか機体までとなると、完成には程遠いのですがヘリ召喚後に組み込むことが可能です」
こいつはどこまで行くつもりなんだろう。間違いなく、いつかは俺の兵器を上回るものを作るだろう。魔力を動力源としたら無限に動き続けられる。
「楽しみだ」
「とにかく転移魔法陣が完成せねば、運び出すのが難しかったのです。今は砂漠南の地下基地に保管しております」
「分かった」
「もう一つあります」
「なんだっけ?」
「ラウル様から、かねてより聞かされておりました人工衛星の試作品も建造中でして、それらも運び込めると思います」
「おお! 凄い!」
まあ人工衛星の形だけ出来ても、ロケットが無いと打ち上げられないけど。でも軍事衛星が上がるだけで、俺の兵器のレベルは格段に上がる。だからバルムスには構想と大まかな絵を描いて、作れるかどうかを伝えていたのだった。もちろん宇宙と言う存在を知らないのだから、百パーセントそれに使えるものを作れるとは思っていない。まず電子機器が作れていないのだから。だが何も手を付けなければ、いつまでたっても出来上がらないのだ。
「まずは急ピッチで基地を作ります!」
「よろしく頼む」
俺はバルムスの元を離れる。既に皆が作業に取り掛かり、森から切り出して来た木々や土砂などを積み上げていた。魔人達の力はすさまじく、ここから数日である程度の形が見えてくるだろう。
ここに転移魔法陣を作って稼働させられれば、俺達の勝利は確実となるはずだ。あとオウルベア達に統治を任せて後はよろしくと言うわけにもいかず、今後は魔人軍基地がオウルベアの都市を守らなければならなくなる。
最後に俺はモーリス先生たちの元を訪れた。
「先生!」
「うむ」
「忙しくなりますがよろしくお願いいたします!」
「問題ないのじゃ。もう何度も作って来てるからのう」
「ここが完成すれば、勝利も見えてくるのですが」
「期待に沿えるように頑張るのじゃ」
「はい」
するとデイジーが俺に声をかけて来た。
「ラウルや。もし魔法陣が完成したら、北大陸から薬草を取り寄せてはくれぬか」
「もちろん」
「こちらでは手に入らない物が多いのじゃ。そのおかげであたしとミーシャの研究も滞っておる。もっぱらミーシャはグレースと一緒に魔導鎧にご執心のようじゃがな」
「そうだね。俺からも、デイジーさんにお願いもあるんだ」
「なんじゃな?」
「魔力回復薬は作れない?」
「ふむ。それは容易いが、魔法使いなど数えるくらいしかおらんじゃろう?」
「魔人たちの為にお願いしたいんだ」
「ん? 魔人は魔法を放出せぬではないか?」
「デモン対策だよ。俺達は前から、強大なデモンを討伐するたびに寝てしまう。最近ではようやく眠らなくなったけど、それでもかなり身体能力が落ちるのを経験しているんだ」
「それと魔法回復薬が何か関係があるのかい?」
「俺は幼少の頃を思い出したんだ。あの眠りは魔力切れに似ているって。なんで今まで気が付かなかったのか分からないけど、強大なデモンを討伐すると魔人は魔力に変化を起こす。その後に皆が強くなっていくんだけど、おそらく魔力に対して魔力だまりが大きく膨らむのが原因じゃないかと思うんだ。だから魔力だまりが膨らんだ時に、一気に魔力を増やす薬が欲しいんだ」
「ふむふむ。なるほどなるほど」
そしてデイジーはじっと考えるような仕草をする。そして何かを閃いたようだ。
「それなら、普通の魔力回復薬ではダメだろうねえ。あたしに二、三、心当たりがあるからやってみようじゃないか」
「お願い!」
「かわいい孫の頼みなら仕方ないねえ」
するとモーリス先生がくるりとこちらを振り向いた。そして不満そうな顔でデイジーに言う。
「おい! デイジーや! いつからラウルがお主の孫になった!」
「なんだい! ラウルはわたしの可愛い孫だよ!」
「ラウルは、わしの孫じゃ!」
「何を言ってんだい! あんただって血が繋がっておらんじゃろ!」
「婆さんも繋がっておらん!」
「まったくなんて心根の小さい、クソジジイだろうね!」
「クソジジイじゃと!」
「そうじゃ!」
「取り消せ!」
「クソジジイにクソジジイと言って何が悪い!」
「クソババア!」
「なんだって!」
そこにミーシャが割って入る。何かミーシャはちっとも焦った素振りが無い。
「はいはい。おじいちゃんもおばあちゃんもそこまでにして! 忙しいんだから言い争いなんてしてる暇はないの!」
「「す、すみません」」
なぜか二人はミーシャに弱いようだ。いきなりシュンとして下を向く。そして俺はモーリス先生とデイジーに向かって言った。
「僕は二人の孫ですよ! 誰が何といっても孫! だから喧嘩しないでもらえたらいいな」
「わかったのじゃ」
「そうだった、大人げない」
「とにかくよろしくお願いします! ミーシャもね!」
「任せてください!」
この時ばかりはミーシャが頼もしく見える。二人の仲をうまくコントロールして、上手にやらせているような気もしてきた。モーリス先生もデイジーもいつも通りなので順調ってことで、あとはミーシャに任せておけば大丈夫だろう。
俺はシャーミリアの元に行って言う。
「じゃあ都市に帰るよ」
「かしこまりましたご主人様」
ファントムとちびファントムたちも集まって来て、まるでカルガモ親子のように繋がって建設予定地の外にでた。そこにエミルとケイナが操るブラックホークが待機している。中にはグレースも乗っていてエミルと話をしていた。
「エミル。お待たせ」
「いよいよだな」
「ああ」
「グレースもゴーレムをありがとう」
「ああ、使ってください。いろいろ作業をやると器用になっていくんですよ、今まで気が付かなかったのですが、ゴーレムって一度やった事は忘れないみたいで、どんどん器用になっていくんです」
「へー、そうなんだ」
「だからやれることがあれば、何でもやらせてもらえると良いと思いますよ」
「わかった」
俺達が乗るブラックホークは空に舞い上がる。上空から見ると基地設営地は既にかなりの広さで進んでいるのが分かった。
「ここが安定すれば、次はオージェ達の元に増援を送るつもりだ」
「そうだね。あっちも貴族と兵士たちが逃げたらしいしね」
「まあ…放っておけばシュラーデンのようになるんじゃないかな?」
「あ、軍隊教育…」
「下手をしたらまた誰かを、そこの領主にしなければならなくなりそうだ」
「間違いなくなるでしょうねえ…」
俺達の頭の中ではナンバーズの面々の顔が思い浮かべられていた。おそらくオージェ達の居る町では、そのうち道場が開かれ筋肉信者が集まるのだ。そして筋肉信者たちはオージェに心酔し、心根が綺麗になって良い事をし始める。
だがそれを想像すると、俺達はそれが自分じゃなくてよかったと胸をなでおろすのだった。