第850話 冒険者登録に挑戦
俺とミーシャとファントムが冒険者ギルドに入って行くと、ロビーに居た冒険者とギルド職員が元気に挨拶をしてくる。しかしそれは全員では無く、俺達を怪しそうな目で見ている冒険者もちらほらいた。もの凄ーく睨んでいるようにも思える。都市を占領した当日に居なかった、遠征組の冒険者達なのだろう。
まあ遠征や討伐から帰ってきたら、都市の騎士がきれいさっぱりいなくなっているだけでも怪しいし。なじみの冒険者達が、いきなり新参者の俺達を崇め奉るようになればそうなるのは当然だった。それは他の都市に出かけていた、一般市民に対しても同じことが言えた。
もっと…アウロラ洗脳作戦を浸透させなくては…。
「一応並ぶか」
雰囲気が悪くなるといけないので、とりあえず冒険者の列の最後尾に並ぶ事にしてみる。するとぞろぞろと俺達に近づいて来る冒険者がいた。目つきからして、俺達の事を面白く思っていない奴らなのだろう。
「おい」
その冒険者は髭面でまあまあのイケメンだが目が鋭かった。そいつが俺を威圧的に睨んでいる。
「なに?」
「お前らは冒険者登録をしているのか?」
「冒険者登録?」
「しるしがないようだが?」
よく見ると冒険者達は、首の周りに鉄板のネックレスのような物を付けていた。すると周りにいた冒険者が、その髭面イケメンと俺の間に割って入る。
「おい、ゼルニクス。その人は良いんだよ」
「なにがだ? 決まりを無視して良いわけないだろう」
「特別な御方なんだ」
するとゼルニクスが大声を出して皆に言う。
「なにが特別なお方だ! おかしいと思うヤツ! いるか!」
すると三分の一くらいの冒険者が手をあげた。結構いっぱい、いたことに俺が驚いてしまった。手をあげた奴らがぞろぞろと俺の周りに集まって来る。一人の男が言う。
「あんたらが来てから、何かおかしいんだよ。正直皆も変わっちまったようだし、なんか変な事したんじゃねえか?」
すると女の冒険者も声を荒げた。
「そうだわ! みんなどうかしてる! この都市の騎士達も居なくなっちゃったし、なんで誰もおかしいと声をあげないのかしら!」
集まった奴らが、そうだそうだとはやし立てる。俺がゼルニクスとやらに謝った。
「悪いね。とにかく今回きっちり冒険者登録するからさ、それで問題ないだろう?」
「は? お前みたいなチビと痩せぎすの嬢ちゃんが冒険者だと? そこのデカいのにおんぶに抱っこで、冒険者気取りでもするつもりか?」
そう言ってゼルニクスは、ファントムを指さした。ファントムはフードを深ーくかぶっているので、正体は誰も見ていない。ミーシャがゼルニクスの迫力に青い顔をしているので、俺がスッとミーシャの前に出る。
「まあ、そうだね。とにかく俺が冒険者の資格を持てば文句はないわけだ」
「試練を超えれるならな」
「わかった」
「どうせインチキでもしようって思ってんだろうがな」
すると慌ててギルド職員がやって来た。ゼルニクスに向かって職員が言う。
「あの! ゼルニクスさん! この方は特別なのです!」
「どこがどう特別ってんだ? ここは身分の良さそうなガキが来るところじゃない」
「それは!」
だが、俺がギルド職員の次の言葉を遮って言う。
「冒険者登録をお願いするよ。それならば問題ないだろ?」
それにはギルド職員が慌てて答えた。
「冒険者登録? ただ依頼をしに、いらっしゃったのではありませんか?」
確かに元々はそうだったけど、実は冒険者登録というものに興味を持ってしまったのだ。それにこのゼルニクスが言ってる事は間違ってもいない。やはり冒険者登録すべきなのだろう。
どうせ毎日爆撃に対して敵の動きが無いのだから、俺はギルドについての仕組みでも学ぼうと思うのだった。
「冒険者登録はどうやったらいい?」
ギルド職員が言う。
「はい。ではこちらに」
するとゼルニクスが不満げに言った。
「おいおい、また特別扱いかよ」
俺はギルド職員の女に言った。
「順番を待つよ」
「か、かしこまりました」
そう言ってギルドの職員が下がって行った。だが不満のある冒険者達は、まだ俺に何か言い足りないようで散らない。だが俺は、それ以上話す事が無いのでミーシャに向かって言う。
「いい経験だと思って」
「は、はい」
だがゼルニクスが言う。
「気に入らないな」
「おいおい、話は済んだろ」
「そこの、デカいのがいるから、そんなに余裕で居られるんだよな?」
「ん? そんな事もないけど? 何ならコイツは外で待たせておこうか? あんたがコレを怖いっていうんなら、目に入らないところにやるよ?」
「怖いだと?」
なるほど。腕にはそこそこ自信があるらしい、でっかいファントムを見てもひよっていない。胸にぶら下げている鉄の板は白っぽい金だが、それなりに腕があるのかもしれない。
「すまないが、こっちのギルドの階級とか良く分からないんだ。あんたはどんな階級なんだい?」
突然、俺が聞いて来たので多少面食らったような顔をする。
「そんなもの、ギルドの職員に聞け」
「あ、ギルドで教えてくれるんだ。わかった、聞く事にする」
すると後ろの冒険者が言った。
「ゼルニクスは、白金だ。そのでくの坊でも敵うか分からんぞ」
そそのかすかのように言う。だがゼルニクスはその冒険者に言った。
「お前、これの凄さが分からんのか?」
「は?」
「恐らく人外の強さだ」
おおゼルニクスとやら、ファントムの強さがわかるんだ。人間で言い当てたのは、モーリス先生とルブレスト・キスクとカーライル・ギルバートの三人くらいだったが、どうやらファントムの脅威がわかるらしい。
だが今ので…ルブレストやカーライルほどじゃないのは分かった。人外じゃないところじゃなく、人類では太刀打ちできない存在なんだがね。
「おいおい、白金のお前が言うほどか?」
「やめておけ」
「そ、そうか。お前が言うなら」
そしてゼルニクスが振り向いて言った。
「とにかく冒険者登録は受けろ。ギルドを使いたいなら当然の事だ」
「わかった」
そしてゼルニクスはここから立ち去ってギルドを出て行ってしまった。流石に気分を害してしまったのだろう。とりあえず俺も、ここのルールは知っておく事としよう。
俺たちの順番が回って来ると、ギルド職員はすぐに別室に通して俺達に説明を始めた。
「冒険者とは騎士達がやらない、薬草探しや魔獣討伐、旅人の護衛などが主な仕事です」
「ふむふむ」
「時には、どぶさらいや害獣駆除、逃げた家畜などを捕まえる事もします」
「そう言う事もするんだ」
「はい。受けれる仕事は等級によって変わってきます」
なるほどRPGのような設定になっているらしい。前世でチラリと見たラノベでもこんな感じだった。俺は緊張気味に説明するギルド職員に尋ねる。
「等級ってどんな感じ?」
「はい。鉄、銅、銀、金、白金、ミスリル、オリハルコンと言う等級があります。鉄が一番下、オリハルコンが一番上です」
なるほどね。と言う事は確かに、さっきいたゼルニクスは上位だ。白金等級とは、うっすらファントムの力を知れるだけの能力を持っていると言う事になる。
「ミスリルとかオリハルコンの冒険者っているんですか?」
「オリハルコン等級は、ほとんど伝説のようなものです。記録では千年の歴史の中でも二人とされております」
「ミスリルは?」
「これもかなり稀です。この国に現在いるのは一人か二人だったはずです」
「希少なんだ」
「はい。白金でも都市に一人いるかいないかです」
「さっきのゼルニクスは凄いんだ?」
「はい。大型の魔獣をソロで狩ります」
「大型の魔獣って? 例えば?」
「ワイバーンやキマイラなどです」
「そりゃすごい」
まあ腕に自信があるんだろう。だがファントムには突っかかって行かなかったから、相手を見定める力もあると言う事だ。
「まずは仮の発行証を出します。あとは一通りの体力測定をしてから、最初の依頼をこなしてもらいます。薬草採取とはいえ、野に出る場合モンスターを駆除できる力が無いと死にますので、ギルドの試験官と共に草原に魔獣を狩りに行ってもらいます」
「えっと、パーティーで挑むの?」
「いえ。最初は個人で挑んでもらいます」
「わかりました。武器は何を?」
「それは、それぞれが準備した物を使用していただきます。最初の冒険者さんは鉄の剣とかそんなところです。魔法使いですと魔力の使用をしてください」
「わかりました」
「登録には銀貨一枚必要です。念のためお伝えしますが、依頼を何度も失敗すれば等級は落ちますし、長い間仕事をしていないと資格がはく奪されます」
なるほどなるほど。やっぱ冒険者登録するって言ってよかった。ギルドの仕組みをいろいろと教えてもらえる。
「あと、ここからは命を守るための知恵なのですが、自分の等級以上の敵に遭遇したら戦わず逃げてください。そもそも、そういう場所に立ち寄らない事が賢明です」
「なるほど」
「依頼は朝に掲示板に張り出されます。皆早起きして掲示板を確認して依頼をこなしに行くのです」
「ふむふむ」
「依頼は等級ごとになっておりますので、後から掲示板を見ればわかります」
「はい」
「それでは、試験はいつにします?」
「今日で」
「は? 今日でございますか! あ、あの! 少々お待ちください」
そう言ってギルド職員は慌てて奥に走って行った。もしかしたら急には出来ない事なのかもしれない。ドタドタとギルド職員と剣士のようなおっさんが戻って来た。慌てて俺に言う。
「本来であれば予約なのですが、ラウル様でしたら今からまいります!」
「わるいね、身体測定は良いの?」
「必要ございません!」
「ああ、悪いね」
「とんでもございません!」
そして俺達はその剣士に連れられて、王都の外へと出て行くのだった。向かった先は荒地で、あちこちに草木が生えており岩場などもあった。ギルド員が俺達に言う。
「ここで、小型の魔獣を仕留めてもらいます。もちろん危険があるといけませんので、その時は私が魔獣を処理します。ですがそこで失格となりますのでご了承ください」
「魔獣はどうやったら探せるのかな?」
「これです」
ギルド員は笛を出した。どうやらそれで魔獣を呼び寄せるらしい。
「ミーシャは銃は大丈夫?」
「もちろんです」
俺はミーシャにAK47アサルトライフルを召喚して渡した。
「ファントムは…いらないね」
《ハイ》
そして俺は自分のコルトガバメントを召喚する。それを見たギルド員が目をしぱしぱとさせた。
「い、いまどこから?」
「ああ、北には便利な魔法があるのです」
「な、なるほど、わかりました。それでは準備は良いですか?」
「はい」
ギルド員が笛を吹く。
「なかなかに、うるさいねミーシャ」
「いえ、聞こえませんでした」
「あ、そう?」
「はい」
だと、これは犬笛みたいなもんなのかな? なぜか俺にはそれが聞こえてしまった。しばらくすると、ぴょこぴょこと地面を跳ねて来る魔獣がいた。サナリア付近にいたファングラビットにも似てるが、耳が垂れていて可愛い。正直あれを殺すのは気がひける。
「はじめ!」
ぴょこぴょこと走って来るウサギをよく見ると、頭に角が生えていた。唐突にびょん! とツノで突撃して来た。俺はすぐにコルトガバメントを撃つ。
パン!
ボト!
すぐ死んだ。これでいいのかな?
すると後から後から、ぞろぞろとツノウサギが出て来た。ぞろぞろ出て来たというより大群に見える。それを見たギルド員が慌てて言う。
「な! なぜこんなに! 試験を中止します! これは想定外です! 急いで戻り冒険者の依頼を」
「いや、大丈夫です」
ミーシャがAK47アサルトライフルで、ツノウサギたちを撃ち始める。ころころと死んでいくツノウサギ。俺もコルトガバメントで次々に打ち殺した。ファントムに至ってはドカドカと踏み潰してく。
しばらく俺達がツノウサギを飼っているとギルド員が唖然とした顔で言う。
「ご、合格です! とにかく数が多い、おかしいです! 避難を!」
そんなことを言った時だった。荒れ地の向こうの方から二人の人影が見えた。それに何かをぞろぞろと引き連れているようだ。どうやらこのツノウサギたちは、それから一斉にこっちに逃げて来たらしい。ツノウサギの群れは俺達を通り越して行ってしまった。
ギルド員が慌てる。
「これはまずい! 何かが襲って来たようです!」
それに俺が答える。
「ああ、大丈夫。あれは俺の仲間だから心配いらない」
荒れ地の向こうから歩いて来たのは、ラーズとキチョウカナデだったのである。