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第841話 逃げた領主

領主邸に突入した魔人軍部隊は、二班に分かれて邸宅の主を探し始める。護衛の騎士は見つけ次第始末し、使用人やメイドは拘束するように指示を出した。領主が何処に隠れているか不明だが、見つけても殺さず捉える予定だ。使える物は使うのだ。


 メイドや使用人はただ震えるばかりで、俺達の問いかけに命を取らないでくれと言うだけ。仕方が無いので、俺達は一部屋ずつ開けてこの邸宅の主を探していく。俺の班が本館二階を確認し終えた頃に、別館を捜索していたギレザムから連絡が来る。


《ラウル様、こちらにそれらしいものはおりません》


《残るは本館三階だ。階段が数か所にあるから、手分けして上に行こう》


《は!》


 俺達が捕らえた使用人やメイドは、魂核を書き換えた冒険者達が拘束してくれている。人手が足りなかったので、冒険者達を確保できたのは大きい。魔人軍と比べて戦力的には圧倒的に劣るが、人数が必要な時の人間の回収は俺達にとって必要不可欠だ。


 まあアナミスがいるからこそできる芸当ではある。


「上にも人の気配は残っております」


 シャーミリアが俺に告げる。無駄に人を殺さなくてもいいように、最初に魔人達が人間を嗅ぎつけてくれるので助かる。


「ギレザムたちが本館に来るから少し待とう」


「はっ」


 するとマキーナからの念話が入って来た。


《森林部に軍の物と思しき建屋がありましたが、既に空となっており沈黙しております》


《了解。じゃ、マキーナとミノスとラーズもこちらへ来てくれ》


《は!》


 念話を切って俺は周りを見渡す。


「この建物、随分豪華だな」


 シャーミリアが俺に答えた。


「そのようです。こちらの国は物資が豊富なのでございましょうか?」


「そうじゃないか? 食材も豊富だとアリストもシュリエルも言っていたからな。経済的にも潤っているんだろう」


「利用価値がありそうです」


「そうだな」


 とにかく内装が豪華すぎた。複雑な模様がかかれた毛足の長い絨毯に、豪華なシャンデリアがあちこちにぶら下がっている。窓枠の装飾や調度品もめちゃくちゃ凝った作りになっていた。モエニタ王宮が一体どんな感じなのか興味が出て来る。


 ギレザムから念話が来る。


《侵入しました》


《二方向から上がる。北西にある階段を上に行け。立派な調度品を壊したくない、なるべくハンドガンかコンバットナイフで処理をしてくれ。各自の武器も使用許可を出す》


《は!》


 そして俺達は三階に到達した。だが三階には騎士はおらず、いたのは侍女ばかりで震えて部屋の隅に固まっているだけだった。


「なんだ? 領主がいないぞ」


「そのようです」


 俺は侍女の所に行って問いかける。全身鎧の奴が近づいて来たら怖いだろうから、なるべく優しく問いかけるように心がけよう。


「あの、君」


「お、お助けを! お命だけは!」


「いや大丈夫。変な抵抗をしなければ何もしないよ」


 ガタガタガタガタ


 侍女たちはもうガチガチだった。まあ俺達の事を悪魔だと思っているようなので、こんな反応になるのも無理はない。


「じゃあ、質問に答えてくれる?」


 震えたまま、頷いたような気がするので続ける。


「領主や家族はどこに? 屋根裏にでも隠れてるのかな?」


「い、いえ! わかりません…館内に、いなかったですか?」


 俺は振り向いてアナミスに聞いてみる。


「彼女は、本当の事を言っているか?」


「嘘は言っておりません」


「なるほど」


 俺は再び侍女たちに向かって言った。


「いつまで一緒に居たの?」


「一時間ほど前までは一緒に」


「なるほど、だとどこかに隠れているのかな?」


 そんな押し問答をしている時だった。偵察で外周を回っているルピアから念話が繋がる。


《ラウル様》


《どした?》


《人間の集団が南へと走り抜けていきます》


《どんなやつ?》


《男も女も子供もおります。数人の若い女と騎士が付き添っているような感じです》


 いた。どうやら、どうにかしてここを抜け出したらしい。


《何人くらい?》


《十三名ほどおりますが、殺しますか?》


《いや。殺すな、逃がしていい。ルピアはそれ以上追わずに戻ってこい》


《わかりました》


 俺達をおびき寄せる罠にしては、分かりづらい逃げ方をしているから本当に逃げ出しただけなのだろう。どうせ敵に俺達が来た事はバレてるだろうから、逆に俺達が来た事を伝えてもらう事にしよう。


 俺は全軍に通達を出す。


《都市の領主は逃げた。都市に残った残党を狩りつつ鏡面薬を使用して転移魔法陣を探せ》


《《《《《は!》》》》》


 南に来てからは、都市にインフェルノや転移魔法が仕掛けられていた事は無かった。それもそのはず、自分の信者を殺して力を弱めるなどという事はしないだろう。デメテルのように、しわくちゃの力のない老人になってしまうだろうからな。


 従者のおばさまが聞いて来る。


「あ、あの騎士様…私達はどうなるのでしょう?」


 その声にみんなを見渡すと、老若とりそろった侍女たちが怯えるような目で俺を見ている。


 まあ寝返って俺達のめんどうをみろって言いたいところだけど、そんな簡単に寝返るわけは無い。だがこの都市を王都攻略の拠点にするには、ここで働く人たちは貴重だ。


「もちろん殺したりはしない。君らは兵士じゃないからな、とりあえず二階の食堂に集まってくれ」


「は、はい!」


 俺は傍らのシャーミリアとアナミスに言う。


「館内の人全員に、二階の食堂に集まるように伝え回ってきてくれ」


「「かしこまりました」」


 二人は速やかに部屋を出て行った。俺とカララとファントムが、侍女たちを連れて部屋を出て二階の食堂に向かう。二階の食堂はとても広く、大人数で食事が出来るようなスペースだった。真っ白な長細いテーブルの周りを、ビロードの椅子が取り囲んでいる。テーブルの上には見事な花が飾られていた。


「今朝の今朝まで、平穏な生活を送っていたんだろうなあ」


「そのようです」


 俺は侍女たちに振り向いて言う。


「みんなが集まってくるまで自由にしてていいよ。ただし部屋からは出ないように」


「「「「「はい!」」」」」


 侍女たちは一か所に固まって怯えたように俺を見ていた。しばらくすると、屋敷中から使用人やメイドが集まって来た。魂核を書き換えた冒険者達もぞろぞろとやってくる。


「皆を連れて来ました!」


「あー、冒険者諸君は廊下で待っててくれたまえ」


 元気に挨拶をして冒険者が外に出て行った。そして座る侍女や使用人、メイド達に向かって俺が言う。


「私は、北のある国から来た王子です。皆さんが知らないような北の果てですが、皆さんが平和に暮らしている間に私たちの北大陸は蹂躙されました」


 ざわざわと使用人たちが騒めいた。


「ご主人様はお話をしておられる! 静かに!」


 シャーミリアがきりりと言うと使用人たちは静かになった。


「まあ信じられないとは思うが、この国の上層部が送ってきた悪ーい奴らによってひどい目にあいました。その為、我々はその者を追ってこの国まで来た次第です」


 すると執事のようなグレーの髪のおじさんが言った。


「そ、その様な事は、聞いた事が御座いません! 何かの間違いではないでしょうか?」


「なにかの間違いなら良かったんですけどね、その人らは北のウルブス領やシュラスコ領も危険にさらし、更にアラリリス国も侵害していました」


 ざわつこうとするが、シャーミリアが手をパン! と鳴らしたので静かになる。


「いきなり来てそんなことを言われても信じられないでしょう。ですが我々はあなた達に手を出そうとは思っていない、ただ静かに我々がする事を見ているだけでいい」


 だが簡単に納得するわけはなかった。執事がまた俺に言う。


「私たちは領主様に忠誠を誓っております! とても良い領主様で、我々や領民の事を考えてくださる方でした」


「なるほど。で、どうします?」


「わ、私は殺されてもいい。ここに居る人らを逃がしてはくださりませんか? 彼女らの中には良家のお嬢様もいる。逃がしていただけるのでしたら、この事を家の者に伝える事でしょう。さすれば、あなた様がたの評判も上がろうというもの! 誤解だと分かれば皆も協力するやもしれません」


 なるほど、もっともらしい事を言っているが、俺は後ろを振り向いてアナミスに聞く。


「どう?」


「半分本心、半分嘘と言ったところです」


《ヴァルキリー、脱着》


 ガパン! 背中が開いて、俺はヴァルキリーから出て顔を晒した。


「初めまして。私は魔人国の王子でラウルと言います」


「は、はは!」


「皆さん。もちろん私が憎いですよね? いきなり来て蹂躙して、こんなことを言っても信じられるわけが無い」


「そ、そんな事はございません!」


「はい。そうだと思います。ですので、これから信じていただけるようにします」


 すると執事や使用人たちが真っ青な顔をした。そして皆が頭を床につけて土下座の姿勢をする。恐らく拷問とか酷い事をされると思ったのだろう。


「言っておきますが、拷問とかしません。平和的に解決をします」


 執事が頭を上げて言った。


「それは、どのように…」


「あなた方はそこに座っているだけ。私と配下が皆さん一人一人の所を回って加護を与えるだけです」


「か、加護?」


「こう見えても私は神なんです」


 流石にざわついた。目の前の少年が神だなんて言い出したら、気がおかしいと思うだろう。だが俺はそのまま話をする。


「じゃあ、皆さんはその場でリラックスしてー、そう! リラ―ックス」


 アナミスから赤紫の靄が出て来て、みんながとローンとした顔になる。俺はアナミスに向かって言う。


「よーし! じゃあやるかあ…。これを一日で連発するのはキッツイんだよなあ」


「無理をなさらずに」


「だけどさ、俺達に協力してもらうには手っ取り早いじゃん」


「左様でございますが…」


「じゃ、ぱっぱとやろ!」


「はい」


 そして俺とアナミスは、一人一人魂核を書き換えて真人間にしていくのだった。人数が多いので、俺がだんだんと疲弊してくる。だが全員やっておかないと、後で大変なことになるから今やるしかない。


「大丈夫ですか? ラウル様」


 アナミスが気を使ってくれるが俺は首を振る。


「大変な事は先にやっておくと、後で何かと楽なんだよ」


 魂核に触る行為は、めちゃめちゃ精神が削られていく。だがこの都市を拠点とするためには、この人達の協力がめっちゃ必要だ。ヘリコプターに控えている、先生やイオナ母さんのためにも俺は頑張るのだった。

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