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第840話 領主邸へ

ギルドの一階では、冒険者やギルドの職員が糸で固まったままだった。カララの糸から逃れられるものはいないらしい。だがピストルを防いだ奴がいるはずなので、俺はそれを聞いてみることにした。


「あー、ギルマス。ちょっといいかな?」


「はい!」


「ここに俺達の攻撃を防いだ人がいるみたいなんだけど、誰だか分かる?」


「それでしたら! 恐らくアミナかと思われます!」


 ギルドマスターがおもいっきりハツラツと答えると、冒険者達から怒声が上がる。


「おい! どうしたんだよギルマス! あんたがいきなり仲間を売るなんて!」


 するとギルドマスターは、くるりと冒険者に振り向いて言った。


「何を言っているんだ? 仲間を売るなんてことはしていない、私はこちらにあらせられる素晴らしき御方にアミナの紹介をしただけだが?」


 ギルドマスターが、変な事を言うなあ? みたいな顔をしている。


「み、魅了か!」


 だがギルドマスターはそれにも首を振った。


「魅了などされていない。私は自分の意志でここにいるのだ」


「そんなわけが無い…」


 えーっと。


「アミナさんはどの人?」


「はい!」


 そしてギルドマスターはスタスタと冒険者の間をすり抜けて、ある女の人の隣りに立って言う。


「この人です」


「おいおい!」

「なんだってんだ!」

「こんな事あっていいのか!」


 アミナという人は可愛い女性だった。魔導士のマントを来てシルバーの髪をした、童顔ではあるが可愛らしい女性だ。


「こんにちは」


 俺がアミナに挨拶をすると、青い顔をして引きつり口を閉ざした。すると他の冒険者達の怒声が飛ぶ。


「おい! 手を触れるなよ!」

「この、アミナに何かしたら殺すぞ!」

「た、頼むよ。ギルマス! 何とかしてくれ!」


 ひどい話だ。俺は彼女を殺そうとも酷い事をしようともしていない。


「えーっと。俺を悪役みたいに思ってるかもしれないけど、君らを悪い奴が支配する国から連れ出そうとしているんだよ」


「馬鹿を言え!」

「こんな真似をして、そんな訳がないだろう!」

「くそが!」


 だんだんと心が痛くなってきた。別に痛めつけようとか思っている訳じゃない、良い人間になって北で平和に復興の手伝いをしてもらおうと思っているだけだ。


《アナミス》


《はい》


《こっちに来て》


 俺の側にアナミスが来た。


「じゃあ、この人からやっていこう」


「はい」


 アナミスがアミナの額に手をかざすと、アミナは絶望的な表情を浮かべた。そして手が光ると目をつむり覚悟をした表情になる。だが別に殺すわけじゃない。


「終わりました」


 アミナは目を開けて周りを見る。


《カララ、彼女を自由に》


《かしこまりました》


 カララの糸から、フッと自由になったアミナはきょろきょろと冒険者達を見る。そして笑いながら言った。


「うふふ! 軽くなったー。なんだか気分が良いわ!」


「アミナさん。これからよろしくお願いしますね」


 俺が手を差し伸べると、アミナは俺の手を握ってニッコリ微笑みながら答えた。


「ええ! こちらこそ!」


「アミナさんのパーティーは誰?」


「はい!」


 そしてアミナは次々に体に触れて行き、自分のパーティーの人間を教えてくれた。


「あ、アミナ! お前…」


「みんなさあ! あまり考え込まない方が良いよ!」


 天真爛漫になってニコニコ笑っている。俺がアミナに言った。


「アミナさんも元気になったみたいで良かった」


「もちろんです!」


 そしてそれを目の当たりにした、他の冒険者達が顔を引きつらせて固まった。アミナの人柄が変わった事に驚いているのだろう。


 アミナがギルドマスターのもとに行って言う。


「変な事で悩んでたら意味が無いですよね! ギルマス! やはり人間は人間らしく生きて行かないと!」


「そうだろう! アミナも分かったようだな!」


「「あははははははは!」」


 アミナとギルドマスターが屈託なく笑った。


 そして俺とアナミスが、アンナに教えてもらったパーティーメンバーの所に行って額に手をかざすと、男は引きつった顔で言う。


「や、やめてくれ!」


 俺がアナミスに魔力を注入し、アナミスが手から光を出してそいつの魂核も上書きした。魅了や洗脳じゃないので、人間の芯から変わるはずだ。カララは、俺達が魂核を書き換えた奴から次々に自由にしていく。


「ほ、本当だ! 体が軽い! なんで俺は抵抗していたんだ?」

「まったくだ! いろいろ悩んでいたのが馬鹿らしくなってくるな」

「マジだな! みんなも早くやってもらった方が良い!」


 パーティーメンバーも明るい笑顔を浮かべて皆に言う。


「いやだぁぁぁぁ!」

「逃げられなぃぃぃ」

「やめてぇぇぇぇ!」


 一連の流れを見ていた人間達が、カララに巻き取られながらも叫び始めた。もたもたしているとモエニタの兵士がやって来るので、俺とアナミスは作業を急ぐのだった。冒険者全員と事務員の魂核を書き換えたのはそれから十五分後。


 カララが全ての人の糸を解き、全員が自由になってはつらつとした表情になっている。


「それで、アミナ。君が銃を防いだ魔法を見せてくれるかな?」


「はい!」


 聖魔法ならシャーミリアがダメージを喰らうので、俺がシャーミリアに言った。


「シャーミリアは外に出てたら?」


「危険であれば出させていただきます」


「わかった」


 アミナが自分の魔法の杖を取に行き、その杖を前にかざして魔法を詠唱し始める。


「大地の力よ! 何よりも硬く何よりも強い盾で、あらゆる外敵から我らを守り給え! 絶対障壁!」


 するとアミナの体から一気に光が広がり、その建物の壁を突き抜けて行った。


 それ以外、特に変化は無いので俺にはどうなったのか分からなかった。


「シャーミリア。問題ないか?」


「恐らくこれは光魔法でも聖魔法でもないようです。私奴に影響は及びません」


「そうなんだ」


 これは使えそうだ。虹蛇の障壁にも似ている気がする。モーリス先生にも見てもらおう。


 その時シャーミリアが言う。


「敵の騎士がじりじりと包囲を狭めてきているようです」


「死にたがりなのかな?」


「必死なのでございましょう」


 俺は冒険者達を振り向いて大声で言った。


「どうやら、この都市の騎士は悪魔に心を売ったようなんだ。俺達はそれを討伐しようとしているんだけど、君らは騎士達を抑えるのに協力してもらえるかい?」


 するとギルドマスターが両手を広げて、みんなに伝えた。


「皆! 聞いたか? 我々の活躍を見ていただくいい機会をいただいた! 武功をあげてお見せしようじゃないか! 我々の力を!」


「「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」」


 冒険者は皆、自分の武器を手に取りギルドを飛び出していくのだった。ギルドマスターもアミナも全員が出て行って、事務員たちだけがギルドに残った。俺は事務員たちに向かって言う。


「北大陸にも美味しい物もたくさんあるし、おしゃれだって出来る。ぜひ一緒に来て北大陸のギルド復興に協力してくれるかい?」


「「「「「はい!」」」」」


 女の子たちも胸の前に手を組んで、目をキラキラさせて答える。


「じゃ、ここで待ってて」


 俺とシャーミリア、カララ、アナミスもギルドの外に出た。俺は外に立たせていたヴァルキリーを装着する。冒険者達がギレザムたちを囲うように円陣を組んで外を睨んでいた。


 俺が出て行くと、ギルドマスターが大きな声で叫んだ。


「大切なお客様を悪魔から守るのだ!」


「「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」


 いい感じた。だが無駄に冒険者に死んでもらう訳にもいかないので、俺はギルドマスターに伝えた。


「戦闘は俺達に任せてくれ。君らはこの街を俺達に案内してくれるだけでいい」


「は! 聞いたか! 皆様を案内して差し上げろ!」


「「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」


 あんまり大きな声をあげると、ここにいるよってバレると思うんだけど。まあ敵をひきつけるならこのくらいで良いかも。


 俺が言う。


「領主邸に連れて行ってほしい」


「はい」


 そして冒険者達がぞろぞろと歩き始める。俺は魔人たちに冒険者を守るように念話で繋げた。ギレザム達とファントム、シャーミリア、アナミスが冒険者を前後で挟むようにして歩いて行く。


 ヒュン! と数本の矢が飛んでくるが、俺達の周りでカコン! と弾かれて落ちた。それを皮切りに次々に魔法の火の玉や石礫が飛んでくるが、全てが俺達の周りで弾かれて落ちた。


 俺は隣にいるカララに言う。


「あの子の絶対障壁、凄くない?」


「はい。ですが…」


「なに?」


「あの者…ふらふらしています」


 カララに言われアミナを見ると、なんだかフラフラとして今にも倒れそうだ。


「魔力切れじゃん…」


「人間の限界でございましょう」


「この人達の防御はカララに一任するよ」


「かしこまりました」


 俺は一目散にアミナの所に行って耳打ちする。


「魔力を切って良いよ。俺達でも防御は出来るからね」


「は…はいー」


 ふぁさっー


 アミナが倒れてしまった。魂核を書き換えた事で、物凄い頑張り屋さんになってしまったのだ。


 確か、魂核を書き換えた後はリミッターが外れるんだった。イショウキリヤの時もこんなことが起きた。


「あーギルマス! いいかな?」


「はい!」


「魔法使いは魔法を使わないように!」


 すると俺の周りにいる魔法使いが答えた。


「「「「「「わかりました!」」」」」」


「ファントム!」


《ハイ!》


「この子を連れていけ!」


 ファントムにアミナを背負わせて先に進むことにした。するとひときわ大きな建物が見えて来る。周りを高い石の壁で囲われている城だ。


 俺達がそちらに向かおうとすると、大通りにぞろぞろと騎士達が這い出てきた。皆が決死の表情を浮かべていた。


 騎士の一人が大声で言う。


「去れ! 悪魔よ! ここはお前達が入って良い場所ではない!」


 すでに魔人たちは騎士達に銃を構えてスタンバイしている。俺が皆の前に出て言った。


「どけ! どかねば皆死ぬこととなる! 我々は領主に用があるのだ! 無駄に死ぬ必要はない」


 残念ながら騎士の気持ちは変わらなかった。


「通るなら我らを倒してからにしてもらおう」


《撃て》


 キュィィィィィィィ

 ズガガガガガガガガ

 ズドドドドドドドド


 俺達の前に立ちはだかった騎士達は、あっという間に倒れてしまう。一人として立っている奴はいなかった。それを見たギルドマスターと冒険者達が興奮気味に言った。


「素晴らしい!」

「神の如きお力!」

「やはりあなた様は、悪しき者達を倒しに来てくださったのですね!」


「そういうことだ」


 そして俺達は門を破り城へと入って行く。城の中にも騎士が居て、俺達が入って行くと一斉に突撃して来た。だがもちろん俺達に触れる事も出来ずに倒れていく。隠れていた奴が出て来ては、不意打ちで魔法を撃とうとするが、カララの糸によりふせがれ銃弾に倒れていくのだった。


 正面玄関に立ちAT4ロケットランチャーを召喚して撃った。爆発と共に玄関に穴が空いたので左右に玄関を開くと、中から矢が飛んで来る。そのすべてをカララが糸で撃ち落とし、俺達の銃がエントランスにいる兵士に向けられた。


「撃て」


 そして俺達は領主邸の制圧を開始するのだった。

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