表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

835/951

第833話 王都進行に向け

 俺達がウルブス領に到着した時、騎士隊長のコスタにやたらと感謝された。やはり自分の所の領主が、分けの分からない俺達と一緒に出掛けたらそりゃ心配になる。そしてアリストからの報告を聞いて、アリストの判断が間違いじゃなかった事も知る。


「やはりそうでしたか。シュラスコが襲撃を受けたと…」


「まあ直接的な攻撃を受ける前に、未然に防いだという事だ」


 そしてコスタは俺を見て言う。


「ラウル様。我が主を無事に連れ戻ってきていただいてありがとうございます。また、あなたを疑っている部分もありましたが、これで確証が取れました」


「いえ。突然来た、訳の分からない奴を信じろと言っても無理があります。俺の方こそ強引なやり方をして申し訳なかったと思っていますよ」


「まあ正直驚きましたけどね」


 俺が手を差し伸べると、コスタが俺の手を取って頭を下げる。


 次にコスタがサーヘルをチラリと見る。そしてサーヘルが話し出した。


「我々も王都から潜り込んで来た騎士達に尋問して発覚しました。そしてそれらをたぶらかしていた者も、ラウル様のお力により仕留めたと言う事です。コスタ殿、我々もラウル様を疑っていました。同じ穴の貉です」


「そうでしたか」


 騎士は騎士の仕事をしているのだから仕方がない。もちろん騎士としての矜持もあるだろうし、そこを俺達は強行突破したのだ。コスタがアリストに言う。


「それではアリスト様。兵をあげるのですか?」


「いや。コスタ、我々は領の防衛に努める」


「しかし、王都が訳の分からない敵に侵略されてしまったままでは」


 するとアリストがコスタの肩に手をかけて言う。


「あの時、ラウル様のお力を見たであろう?」


「はい」


「なんと、あれで死なぬ相手なのだ」


「えっ!」


「我々のウルブス領など、敵が本気になれば一瞬で焼けてしまう」


「そんな…」


「事実だ。我はこの目で見たのだ」


「にわかには信じられませんが、そんなものが攻めてきたら…」


「だからラウル様がいらっしゃるのだ。我々のやるべき事は民を守る事。敵が攻めてきたら出来るだけ民を逃がし命を繋ぐ事だ」


「そうですか…わかりました。信じましょう」


「うむ」


 そしてコスタの隣りに立っている、副長のタキトゥースが言う。


「あの、ラウル様達の歓迎の用意がまだ出来ておりません」


「仕方がないタキトゥース、突然だったからな」


 そうタキトゥースに告げるアリストの隣りに、シュリエルが立ってうんうんと頷いていた。それを見たコスタがシュリエルに声をかけた。


「シュリエル様。お久しゅうございます。覚えてはいないと思いますが、幼少の頃にお見かけしているのです」


「そうなんですね! 私が不甲斐ないばかりに、王都で起きている異変に気が付く事が出来ませんでした」


「仕方ありますまい。我々とて、何かを出来たとは思えません」


 俺が皆の話に割って入る。


「それでは我々は前線に戻ります」


 タキトゥースが意外そうな顔で言った。


「えっ? せっかくシュリエル様もいらっしゃったというのに?」


 するとアリストがタキトゥースに言う。


「タキトゥースよ、事は一刻を争うのだ。既にシュラスコ領で食事はいただいている」


「わかりました。残念ですが次の機会に」


 それに俺が答えた。


「タキトゥースさん。俺達が終わらせたら立ち寄らせてもらいますよ。それまではウルブス領を守っててください」


「は! 誓います!」


 するとコスタとタキトゥース、騎士達が膝をついて俺に頭を下げた。


「じゃ、辺境伯。俺は行くよ」


「お気をつけて」


 俺が踵を返すと俺の配下達も回れ右をして俺について来る。シュリエルは何故か楽しそうにしていた。どうやらモーリス先生同様にヘリコプターが気に入ったらしい。ヘリの後部ハッチから乗り込んでいくと、騎士達がまだこちらを見て手を振っていた。皆が乗るのを見計ってハッチを開いたままヘリが浮上していく。そして徐々にハッチが閉まり始め、騎士達の姿が見えなくなった。


「先生。アリスト辺境伯が戻った事で、騎士達は安心してました」


 待っていたモーリス先生に告げる。


「自分らの親分が無事なら、安堵したことじゃろうて」


「はい」


「自らが率先して戦いたがるのはラウルくらいのもんじゃろうて」


 俺はモーリス先生に言う。


「先生」


「なんじゃ?」


「実を言うとね。僕は自分が王子だという自覚がないんです」


「ふぉっふぉっ! そうじゃな、自由じゃもんなあ」


「だって、こういうの面白いじゃないですか。次から次に訳の分からん敵が出てくるんですよ」


「そんな王子はおらん」


 するとイオナが言った。


「やめなさいラウル。そのうち親の顔が見てみたいとか言われるじゃない」


「いいじゃないですか母さん。そのおかげでこんなにたくさんの仲間が出来た」


 俺がヘリの中にいる配下の面々を見ると、胸に拳を当てて頭を下げている。


「自らが動いたからこそなのでしょう。あなたは、あの人の子だものね」


 そうイオナに言われ、育ての親のグラムを思い出す。正義感があふれ熱血の親父だった。


「はい」


 ヘリはあっという間にシュラスコ領に戻った。


「ただいま戻りました」


 シュリエルがモアレムに告げる。


「おかえりなさいませ」


「まだまだ乗っていたかったわ。すっごく早いのよ」


「シュリエル様!」


「いいじゃない」


 そして俺達はなぜか正門の前で、しばらく待たせられた。とにかく俺はすぐに先に進むために、話に割り込む。


「すみませんがモアレムさん。死刑囚をもらい受けたいと思います。我々はすぐに発たねばなりません」


「はい。分かっております。既に受け渡しの準備は出来ております」


 俺はギレザムに伝える。


「俺とシャーミリアとアナミスで、囚人を連れて来る。ホウジョウマコを連れてきてくれ」


「は!」


 するとホウジョウマコが俺のもとにやって来た。


「出番だ」


「はい!」


 そして俺達が、モアレムと一緒に収容所に向かおうと正門を潜った時だった。そこには市民達が大勢集まっており、大通りの脇にもたくさんの見物人が出て来ていた。


 わぁぁぁぁぁぁ!


 と大歓声が起きる。


「これは?」


「ラウル様は、我が領を救ってくれた英雄様です。皆が歓迎ムードですよ」


 とモアレムが俺に説明をした。凄い大歓声の中を、俺達がモアレムとシュリエルについて行く。


「ラウル様ぁぁぁぁ!」


 えっ! いきなり俺の名前が呼ばれて戸惑う。


「さあ、ラウル様。お手を振ってください」


 モアレムが俺に言うので、俺が沿道にいる人々に手を振った。


「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」


 うそ。俺にめっちゃ黄色い声援が飛んでいる。こんな事生まれて初めてなんだけど! 前世でも体験したことがない。当たり前だけど。ただのサバゲ―マ―だったし。


「たくさんの女達を救ってくれた事で、女達の人気がうなぎのぼりですよ」


 マジ? えっ? ホント?


 俺はまた道端の人達に手を振る。


「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」


 するとシャーミリアがどや顔で言う。


「この都市の人間は見込みがあります。ご主人様の偉大さに気づいたのですから」


「ま、まあシャーミリア。そんなに言うなって」


「出しゃばった事を申し上げました」


「そうでもないけどさ」


 するとモアレムが俺に言った。


「いえ。ラウル様、本当にありがとうございました」


「いやいや」


「こうしてシュリエル様も一緒に歩く事で、市民を救ったという印象を与える事が出来ます」


 あ…、これは仕組まれた事だったのね? シュリエルのイメージ挽回という訳か。なんかおかしいと思ったんだよな。シュリエルに対する声援も聞こえていたし、やはりこのモアレムという男は抜け目がない。


「モアレムさんは優秀ですね」


「いやいや。すみませんな…多少利用させていただきました」


 正直に言うもんだ。


「いえ。問題ないですよ、こんなことぐらいだったらいくらでもします」


「ありがとうございます」


 シュリエルは王都の騎士達の不正に目を伏せていた。その風評をこれで一気に飛ばしてしまおうとういう計画らしい。


「勉強になりますよ」


「ですが、感謝の気持ちは本物でございます」


「素直に受け取っておくよ」


 急遽パレードような形になって市民達の間をすすんだ。そして俺達は収容所の門を潜る。収容所にはシュラスコ領の兵達が大勢いて、反乱などが起きないように見張っていた。王都の騎士も八百人いるので、その管理はそれなりに大変だろうと思う。


 モアレムが俺に告げる。


「それでは主犯格の者達を連れてまいります」


「はい」


 俺達がそこで待っていると、足枷の鎖の先に鉄の玉を付けられた男達が五人連れてこられた。かなり痛めつけられたようで、体中に傷を作っていた。手は木で出来た枷を付けられており、暴れる事は出来ないだろう。


「あのー、モアレムさん。このまま今の道を連れて帰って、この人達は殺されたりしないだろうか?」


「もちろん騎士が周りを護衛します。ですが何かを投げつけられたりはするでしょうな」


 市中引き回しって事ね。まあそれなりの事をしたから仕方ないか。


「わかりました」


 俺はシュリエルとメイドのアムレットに目配せをして、モアレムに向かって言う。


「あの、このアムレットさんなんですけど」


「は、はい。アムレットが何かしましたか?」


 俺がシュリエルに目配せをすると、シュリエルがモアレムに言う。


「アムレットを私の護衛に置きます」


「は? それはどういう?」


「言った通りです」


「いや。メイドですぞ。護衛など…」


 するとシュリエルがアムレットに言う。


「アムレット。モアレムに見せてあげて」


「はい」


 アムレットが周りを見渡し、そこそこの太さの木を見る。そしてシュリエルに目を向けた。


「いいわよ。倒して」


「はい」


 そしてアムレットが魔法の詠唱を始める。その手にはモーリス先生からもらった魔法の杖が握られていた。


「焼き尽くせ! ファイアボール!」


 詠唱が唱え終わると、ボゥ! と杖の先から火の玉が飛んでいき、そこそこの太さがある木に命中し幹を折ってしまったのだった。


「おお!」


 騎士達が目を見張り、アムレットを見て口々に言う。


「凄いぞ! アムレット!」

「そんな力を隠し持っていたのか!」

「知らなかった!」


 するとシュリエルが代わりに言った。


「北の大地から来た大賢者様に見出していただいたのです。どうです? 私の護衛に相応しいと思いませんか?」


 騎士達はパチパチと拍手をしていった。


「素晴らしい! もちろん意義などありません!」


 そしてシュリエルは、それを遮ってもう一人を前に出す。それはサーヘルだった。


「今後は、このサーヘルが騎士団長となります。この度のウルブス領の護衛を見事にやりきりました! 意義のある方はいますか?」


「いえ! 元よりサーヘル副団長は力のある人でした。意義などございません!」


 よかったよかった。これでシュラスコ領の領主が誰なのかも示せた。俺がモアレムに目配せをするとモアレムが頷いた。


「さあ。ラウル様はこれより我々の代わりに、前線へと向かう事になっている」


 その言葉をきっかけにして、騎士の一人が囚人のティブロンを棒で小突いた。


「歩け!」


「貴様! 王都の騎士に対して!」


 ティブロンが何かを叫ぼうとしたが、シュラスコの騎士に棒で打ち伏せられてしまう。


「だまれ! 反逆者!」


「くそ! 見てろよ! 王都についたらこの事は王に伝えてやる!」


 それをいわれ少し騎士が怯んだ。やはりもともとは王直属の騎士なので、そうなるのも無理はない。だがそこで俺が言う。


「お前。王に謁見できると思ってんの? この後に及んで?」


「うるせえガキ!」


「ま、いいや。とにかく行こうか」


 囚人たちは縄に繋がれて進んでいく。縄を引いているのは馬だった。囚人たちは渋々と馬に惹かれて歩きだすのだった。


 最初、俺は催眠をかけてしまおうと思っていたがやめた。こいつらは市民の罵声を浴びて打ちひしがれた方が良い。俺達は進む囚人の後ろから距離を取って歩きだすのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ