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第832話 シュリエルとメイド

 俺達はシュラスコ領主邸で、シュリエルやモアレムと一緒に昼食をとっていた。ここに来て、いきなり豪華な料理が食べられるとは思っていなかった。シュリエルがモエニタの名産や、モエニタの郷土料理などを用意してくれていたのだった。


 俺が素直な感想を言う。


「上手いです!」


 するとシュリエルが喜んで言った。


「よかったです! お口に合うかどうか心配でした」


「合うも何も! こんな美味しい物が、お口に合わない人なんているんですか?」


 いやー! ヘリに待たせている仲間には悪いが、こんなに美味い物を食べさせてもらえるなんて本当にラッキーだ。


「そう言っていただけるのはなによりです」


「そちらの方はよろしかったですか?」


 シュリエルが言っているのは魔人たちだった。


「彼女らは俺の護衛ですので、仕事中は食べません」


「そうですか…」


 シュリエルが残念そうなので、念のため俺が付け加える。


「ヘリで仲間が待っていますので、帰りに持ち帰っても?」


「どうぞどうぞ!」


 そしてシュリエルがメイドを呼びつけて、包むように指示を出してくれた。


俺達は一度ヘリでウルブス領に戻り、アリストを送り届けてから先に進むことになった。またモエニタ王都の死罪が確定している騎士は、引き取りに来るまでシュラスコ領で預ってもらう事にする。モアレムは快く引き受けてくれたが、その隣でシュリエルが言った。


「あの!」


「なんです?」


「ということは先に進む前に、もう一度シュラスコ領にお立ち寄りになられるのですよね?」


「死刑囚を引き取りに来ます」


「なら!」


「はい」


「私をヘリとやらに乗せていただけませんか?」


 シュリエルがそう言うと、モアレムが慌てて言った。


「いや! シュリエル様! いけません! あんな空飛ぶ鉄の鳥など!」


「コホン!」


 アリストがモアレムを睨んで咳ばらいをする。


「あ、いえ! 失礼な事を言うつもりはございませんでした!」


 それに俺が言う。


「いやいや。モアレムさんのおっしゃることはごもっとも。あんな得体のしれない物は乗らない方が良いと思いますよ」


 するとシュリエルが喰らいついて来る。


「アウロラちゃんも乗られているのでしょう?」


 するとアウロラが元気に答えた。


「はい!」


「ほら! モアレム! こんな小さな子が乗っているのです! 私が乗れないはずはないでしょう!」


「しかし…」


 それに対してモーリス先生が笑って言う。


「ふぉっふぉっふぉっ! シュリエル様は目の付け所が良い! あれは楽しいですぞ! この世界の風景を空から見下ろせますからな!」


「わぁ…」


 シュリエルが目をキラキラさせている。


 するとアリストが笑って言った。


「モアレム殿。私のようなおじさんが乗っているんだ。シュリエルなら問題ない、もし心配であればサーヘルを付ければいいだろう」


 いきなり名前を出された騎士のサーヘルが慌てている。


「は、何を? 私が? ヘリに?」


「そうだ。よもやシュラスコの騎士ともあろうものが、恐ろしいなどとは言うまい?」


 サーヘルが引きつりながら答える。


「は、は! もちろんです。全く問題ございません!」


「決まりだな」


 サーヘルが汗を拭きながら目を白黒させている。むしろシュリエルのように自分から乗りたいという人は珍しい。俺の記憶では、最初からワクワクしていたのはモーリス先生とサイナス枢機卿くらいだ。それに今回はエミルが同じ隊にいるから、揺れも感じる事はないだろう。


「モアレムさん大丈夫ですよ。アリスト辺境伯を送り届けたら責任をもってお送りします」


「ラウル様…」


 するとイオナが言った。


「あら。カトリーヌも、お話相手が出来て良いわよね?」


「ええ! 私と一緒に、聖女リシェル様の話し相手になってください」


「聖女様?」


「彼女は高いところがとにかく苦手で、ヘリに乗っている時に気をそらさないと具合が悪くなっちゃうんです! だから私が話し相手をしているんですが、いつの間にか話が尽きちゃうんですよね」


 するとシュリエルが、鋭い目と分厚い唇の口角を上げてニッコリ笑う。銀のロンゲがふわりとなびいた。


「お任せください! いろんなお話しましょう!」


「はい」


 食事が終わり、俺達はすぐに出発する事を告げた。するとシュリエルが慌ててメイドを呼んで言う。


「すぐに準備をして!」


「はい!」


 メイド達が慌てて部屋を出て言った。


 最初はとっつきづらい女性なのかと思っていたが、打ち解けてみると幼さの残る天真爛漫な人だった。剣の腕がそこそこあるようなので、カーライルに見てもらっても面白いかもしれない。


 俺達が食堂で待っていると、メイド達がやってきてシュリエルの荷物を持って来た。そしてメイドの一人が緊張気味に言う。


「恐れ入りますがよろしいでしょうか?」


 俺が答えた。


「なに?」


「もし差し支えなければ、私もシュリエル様に同行してもよろしいでしょうか!」


 するとシュリエルが言う。


「こら。アムレット! ご迷惑でしょ!」


 すぐに俺が容認する。


「いや、いいですよ。女の人が多い方が聖女リシェルも助かります」


「ありがとうございます」


 アムレットと呼ばれたメイドが、目をキラキラとさせて言う。どうやらついて行きたいというより、自分も乗ってみたいと思っている口だ。


「それに、シュリエルさんも身の回りをやってくれる人がいた方が良いでしょう?」


「ゆ、許されるのであれば」


「問題ないです」


 そして同行者がもう一人増えたのだった。俺達はシュリエルとサーヘル、そしてアムレットというメイドを引き連れてヘリに戻る事になった。しかもお土産まで持たせてもらっている。


 門を出て外に行くと、皆が俺達を出迎える。


「おかえりなさいませ」


 ガザムが俺の側で言う。


「ああ。ちょっと客が増えた」


「それは賑やかでよろしいですね」


「出発だ!」


 俺が号令をかけると皆が準備をした。後部のハッチから乗り込んでいくと、シュリエルとアムレットは目をキラキラさせてヘリの中を見ている。魔人達は客人に頭を下げて両脇に寄った。サーヘルだけは真っ青な顔で周りを見ながらビクビクしている。


「これはこれは。領主様」


 聖女リシェルがシュリエルを見つけ立ち上がって礼をすると、カーライルが隣で騎士の挨拶をした。シュリエルが声をかける。


「あなたが聖女様ですか?」


「聖女と呼ばれてはおります」


「これからウルブス領に行くまでよろしくお願いします!」


 ヘリが飛ぶ事を聞いたリシェルが少し青ざめた。だがそのリシェルの手をシュリエルが取って言う。


「私、聖女様と呼ばれる方には初めてお会いしました!」


「え。ええ、そうでしたか」


「北のお国からいらしたんですよね?」


「はい」


「私もいつか北の国に行ってみたいです!」


「はい。ぜひ」


 どうやらシュリエルは本来人見知りをしないようだ。最初の印象とは百八十度違うが、この素直な性格故に悪い奴にそそのかされてしまったのだろう。


 俺達のヘリ部隊が上空に浮かび上がる。エミルの操縦なので全くの揺れが無かった。


 俺がシュリエルに言う。


「もう飛んでますよ」


「えっ!」


 するとモーリス先生が、シュリエルとアムレットにおいでおいでをする。脇のハッチから外を見せる為だ。サーヘルはカチコチに固まって椅子に座ったままだった。


「わぁ! すごい! あれが私の領!」


「左様! シュリエル様は、あの大きな都市をこれから背負って行かれるのですな」


「はは。私に務まるかどうか、今までは王室の援助があったから」


「王室の援助? それはどうでしょうなあ? モアレム殿。あのお方がいたからこそだと、わしは思いますがなあ」


「モアレムが?」


「あの御仁は、貴女を第一にそして領の民を考えていらっしゃった。シュリエル様が仲間や民を思う気持ち、それがあれば何とでもなると思いますのじゃ」


「私の思い?」


「そう。あなたの思いが強ければ強いほど、民はついてきますのじゃ。そして見てみなされ、この世界はとても大きいじゃろ?」


 モーリス先生が窓の先を指さして言う。


「はい。こんな広大な土地に私たちは生きているのですね」


「そう。世界は広い! シュリエル様は何を感じられますかの?」


「…私は小さな世界で、何を悩んでいたんだろうと思います」


「そう! この広い世界で一人の人間の悩みなど、とても小さなものですじゃ。もっと大きな視野を持ってくだされ。人の上に立つ者とはそう言う者じゃて」


「はい!」


 流石は元校長先生。若い生徒の気持ちを捉えて、良い方向へと導くのが上手い。シュリエルは元々素直のようで、先生の話を聞いてやる気に満ちている。そう言われてみると、俺もモーリス先生の指導で前向きにやって来れた気がする。


 そしてモーリス先生はメイドの女の子を見る。


「君は…珍しいのう。ふむ…」


 なぜかモーリス先生がまじまじとメイドを見た。そして少し黙って観察してから口を開いた。


「君は魔法を使った事はあるかの?」


「えっ? 魔法ですか?」


「そうじゃ、魔法じゃ」


「ないです」


「そうかそうか。年はいくつじゃな?」


「十三になります」


「なるほどのう。なら遅くは無いか…」


 するとシュリエルがモーリス先生に聞いた。


「どういうことです? アムレットが何か?」


 モーリス先生はシュリエルを見つめて言う。


「彼女は、シュリエル様の何かの?」


「彼女の小さい頃から一緒に居ます。身の回りの世話をしてくれますが、私の友達のようにも接してくれます」


「そうかそうか」


 シュリエルとアムレットがポカンとしている。何を言われているのか分からないらしい。


「アムレットちゃんよ。シュリエル様をお支えになるのに力は欲しくないじゃろか?」


「力? ほしいです! 私はシュリエル様をお守りしたい」


「いい心がけじゃ」


 だがシュリエルがモーリス先生に言う。


「でもアムレットには力がありません」


「いや、彼女は魔力持ちじゃよ」


「「えっ!」」


 シュリエルとアムレットが同時に声をあげる。どうやらアムレットは、自分が魔力持ちだと言う事を知らなかったらしい。アムレットの目がキラキラし始める。


「どのようにしたら力を?」


「とにかく旅の間、わしが付きっきりでいろいろと見て行こう、集中せねばならん。シュリエル様はどうかカトリーヌと聖女リシェルと共に、なんぞお話でもされるがよろしい」


「わ、わかりました。アムレット、頑張ってね」


「はい」


 そしてモーリス先生とアムレットはヘリの隅で話し合いを始める。どうやらモーリス先生は初めからアムレットに興味を示していたらしい。アムレットはモーリス先生に任せ、俺はシュリエルが包んでくれた料理の小包を開けて皆に言う。


「ゴーグ、来いよ!」


「な、なんです? これ、なんです!?」


 ゴーグが尻尾を振って来た。もちろん人間形態なので尻尾は見えないけど。


「お土産」


「た、食べていいの?」


「もちろんだ」


「カーライルもどうぞ!」


「いいのですか?」


「どうぞどうぞ!」


 そしてヘリの中は遠足のように騒がしくなっていくのだった。

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