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第831話 後処理

 やはりベルゼバブが俺達の念話の阻害していたらしい。ベルゼバブを討伐したおかげで、東部を調査していたオージェ部隊と連絡がとれたのだった。念話の相手はドラン。


《念話を阻害していたデモンがいた。それもかなり危険な奴がな》


《わかりました。デモンはどうされました?》


《総力戦で潰した》


《それほどの…》


《本陣に近いからな、もっと強い奴がいると見た方が良いだろう。そっちの隊はあくまでも調査だからな、敵に遭遇したらすぐに知らせてくれ。不用意に手出しはしない方が良い》


《わかりました。オージェ様に伝えます》


《これまでの道すがら何かあったか?》


《村は数か所ありましたが、何処にもデモンの影はありませんでした。魔法陣の類も発見できずです》


《ここの神は自分の信者には手を出さないようだ》


《なるほど》


《俺達はまもなく王都に侵攻する。今は王都に、ほど近いシュラスコという領にいる。ドラン達はどのあたりだ?》


《私達の丘陵から見下ろした場所に、大きな都市が見えます。あそこが何という都市なのかはわかりませんが、オージェ様は潜入してみようとおっしゃっております》


《トライトンがいたらバレるんじゃないかな?》


《美味くカモフラージュしておりますが》


《十分注意してくれ。それにドランは人相が悪い》


《なるべく微笑むようにいたしましょう》


《何か動きがあったら教えてくれ》


《は!》


 エミルが操縦するチヌークヘリの後部に俺は念話で話していた。一度シュラスコ領に戻り全てをモアレムに伝える予定だ。操縦席からエミルが言う。


「ラウル。都市が見えて来たぞ」


「正面に下ろしてくれ」


「了解」


 チヌークヘリは二機飛んでいて、その周りをシャーミリアとマキーナが護衛で飛んでいる。今の所はデモンの気配は無いようだった。チヌークヘリが着陸し後部ハッチが開くと、都市の門の前にはモアレム率いる騎士団が俺達を待っていた。


「アリスト様!」


 モアレムがサーヘルと騎士団を引き連れて、アリストの元へと走り寄って来た。


「モアレム殿。都市はどうなっている?」


「王都の腑抜けた騎士どもを全て捕らえ、一か所にまとめております」


「そうか、ちょっと見てもらいたいものがあるんだ」


「なんです?」


 アリストが四十センチ四方の木箱をモアレムに差し出す。


「これは?」


「恐らくは王都の兵をたぶらかした張本人だ」


 サーヘルがモアレムに頭を下げて、その箱の側に跪いて開ける。


「これは…」


 箱の中身を見てサーヘルが驚愕の表情を浮かべた。その後ろからモアレムが声をかける。


「どうしたサーヘル」


「これを」


 モアレムが箱の中を見て声をあげる。


「な、なんで…」


 アリストがそれに答えた。


「コイツが化物と手を組んで、シュラスコ領を陥れようとしていたんだ」


「ケルビン団長…」


 すると俺の後ろからカーライルが前に出て言う。


「そいつの本当の名は、エフォドス・ビクトール。ファートリア神聖国を裏切った騎士です」


「なんですと?」


「私が始末しました」


 サーヘルと騎士団の気配がピリピリしだす。もちろん自分たちの団長を殺されたのだから、カーライルに対して敵意を抱くのはおかしな事でなない。だがアリストがそれを制する。


「すまないが事実だ。その者はデモンと手を組み、いろいろと策を練っていたようだ。王都から騎士を招き入れて麻薬で腐らせたのもそいつだ」


「ケルビン団長がそのような!」


「よせ!」


 モアレムがサーヘルを制した。そしてアリスト辺境伯に頭を下げる。


「そのような不穏分子を招き入れてしまっていた事を深くお詫び申し上げます。そしてこの状況を見れば、アリスト辺境伯様が言っている事は真実だと分かります。我々が内部に虫を引き入れなければ、このような事にはならなかった」


「恐らくはモアレム殿を捕らえ監禁したのは、この者の仕業だろう」


「実を言えば、不穏な動きだとは思っておりました。今回の遠征も何の目的か告げずに出て行きましたし、実際に何を行っていたのか分からずにおりました」


 そこにカーライルが口をはさんだ。


「ビクトールはとても人の心に入り込むのが上手い男だった。以前、私が左遷されビクトールがファートリアの首都に残った。それも全てビクトールの手引きによるもの…いや、その上で糸を引く者がおったのです。この度、討伐した敵はそれでは無かったようですが、この先に必ずいると確信しています」


「裏切りですか」


「そうです。そしてビクトールはここでも裏切った。いや裏切るのではなく、初めから仲間では無かったのでしょう。恐らく王都からの騎士達は捨て駒です」


「‥‥‥」

「‥‥‥」


 モアレムもサーヘルも黙ってしまった。一人の男に翻弄されたと知って愕然としているらしい。


 そして俺が口を開いた。


「王都からの騎士達、八百人の処遇はどのように?」


 するとモアレムが言う。


「もちろん処罰いたします。いくらそそのかされていたとはいえ、やってしまった犯罪は帳消しにはなりません」


「どんな罰を?」


「少なくとも兵士長のティブロンは死罪。それに準ずる者どもも死罪です」


「そうですか」


「だが上官の命令でやっていた者や、女に手を出さなかった者もおります。その者達は数ヵ月から数年の監禁労働の末に釈放かと」


 それを聞いた俺は隣に立っているアリストに耳打ちする。


「はい、えっ! ええ…わかりました。大丈夫なのですか? はい」


 アリストが相槌をうちながら答える。


「わかりました」


 そしてモアレムに向き直ってアリストが言う。


「この度、死罪に該当する者をラウル殿下に引き渡すわけにはいかないだろうか?」


「は? それはラウル様が手を下されると言う事でございますか?」


「いや。実は私はこのまま、ウルブスに帰る事になっているんだが、危険な前線の道案内役として利用されるようだ」


「…あのような者、いつ裏切るやも分かりませんぞ?」


 そこで俺が言う。


「大丈夫です。我々の監視のもとで、裏切る事など出来ません」


 だって、魂核を書き換えちゃうもん。


「しかし…」


「モアレム殿。ラウル様に任せてしまおう、ただでさえ八百人からの王都の騎士を管理するのは大変だろう? 我がウルブス領でも半数を受け入れようと思う。八百人すべてを管理するのは、シュラスコ領だけでは無理がある」


「そのように言っていただけますと助かります。あとはシュリエル様にもお話を通していただけますでしょうか?」


「わかった」


 そして俺達は一旦、シュラスコ領主邸に向かう事になった。ヘリ周辺にはラーズ、ミノス、スラガ、マキーナ、ルピア、ルフラを護衛に残す。領主邸に向かうのはアリストの他に、俺とモーリス先生、シャーミリア、ファントム、ギレザム、カララ、アナミス、イオナ、マリア、カトリーヌ、アウロラの十一人だ。


 領主邸につくと使用人たちが慌ただしく俺達を迎えた。俺達は客室に入れられ、しばらく待つとメイドと一緒に領主のシュリエルがやって来た。アリストがシュリエルに尋ねる。


「シュリエル卿、体の具合はどうだ?」


 シュリエルはやつれた表情でアリストに答える。


「ええ。少しは良くなったようです。私は夢でも見ていたのでしょうか?」


「どうだろうな。王都の騎士達の話は聞いたか?」


 するとシュリエルが頭を下げた。


「申し訳ございませんでした。私が王宮から気に入られたいばかりに、目の前で行われている不正に目をつぶっておりました」


 随分としおらしくなっちゃって…


「親を亡くしたシュリエル卿の弱った心に付け込んだのだろう」


「あの!」


「なんだ?」


「シュリエル卿と呼ぶのはおやめください!」


「ではなんと?」


「昔のようにシュリエルと、呼び捨てでかまいません」


「だが今の君は領主だ」


「辺境伯様の方が地位は上なのです。それよりも私は昔の呼び方の方がうれしい」


「そうか。ならそうしよう」


「ありがとうございます」


 俺達がベルゼバブ戦でここを出ている間に何があったというのだろうか? 俺はモアレムを見る。するとモアレムがそれを察して説明して来た。


「あの王都の騎士がやったことを全て見せました。そして兵長のティブロンにも証言をさせて、シュリエル様に全部聞いていただいたのです」


 そう言う事か。でもそれで目が覚めるんだったら、シュリエルは馬鹿じゃないって事だ。


 するとシュリエルが言う。


「私が馬鹿でございました。親が残したこの領を必死で守ろうとするあまりに、何かを見失っていたのでございます。聞けばラウル様は北方の一国の王子であらせられると聞きました。私はとんだ無礼を働いてしまったと気づいたのです」


「無礼とかは無いよ。状況が分からないんだし、こんな正体不明の集団が来たら誰でも警戒する。それよりも俺達は、自国の領主すら惑わす敵の本隊を潰しに行くつもりだ。これまでの敵のやり方から推測するに、既に王はすげ変わったか捕らえられたか、もしくは…いや」


 俺は人の国の王様が死んだのではと、不敬な発言をする前に止めた。するとアリストがそのまま続けるように言う。


「もしかしたら陛下は既に殺されているかも知れない」


 シュリエルが目を見開いて言う。


「まさか! そんな!」


 だがシュリエルの従者であるモアレムがそれを制する。


「シュリエル様。お言葉ではございますが、恐らくはアリスト様とラウル様のおっしゃることが正しいかと」


「モアレム…」


 アリストがシュリエルの目を見て頷いて言う。


「シュリエル。本来は我々が兵を起こして、王都に攻め入らねばならんのだ」


「王都を攻める?」


「それが国の領土を守る領主の使命でもある。陛下の身に何かあったのなら、その家臣である我々が助けなければならない」


 シュリエルは沈黙して目を伏せる。しばらく黙っていたが頭を上げて言った。


「わかりました。私も今はシュラスコ領の領主です。覚悟を決めてウルブスの騎士と共に行きましょう」


 と、シュリエルが話を持って行こうとしたところで俺が止める。


「いや。それはやめておいた方が良い」


 シュリエルが聞いて来る。


「なぜです? 他国の皇太子殿下に任せてはいられません。命を賭けるのであれば、この国の兵でなければなりません」


「それはそうなのですが、今回、相手する敵は人間では無いのですよ」


「どういうことです?」


「恐らく敵は一人で、シュラスコもウルブスも滅ぼせるほどの力を持つ者がいると考えて良いでしょう」


「そんな恐ろしい者が?」


「たぶん一人じゃないです。恐らくシュラスコとウルブスの兵が束になって数刻も持たないでしょう。今回、討伐して来た敵もそんな敵でした」


 シュリエルが信じられないといった目で俺を見て、そしてアリストを見る。だがアリストはただ頷くだけで、今度はモアレムに救いの手を求めるように見る。


「シュリエル様。残念ながらそのようです。我々はラウル様の軍の力をこの目で見ました。その彼らが総力を挙げて倒さねばならぬ敵がいたらしいのです」


「あの鉄の鳥?」


 そう言えばシュリエルは俺達のヘリを見たんだっけ。するとアリストがシュリエルに言った。


「そうです。あれは一瞬にして領土を焼き尽くす力を持った兵器なのです。ですがあれも通じぬほどの敵が存在しているのだとか」


「まさか…」


 だが俺とアリストとモアレムが、シュリエルに大きく頷いて見せる。


「だから、俺達に任せてほしい。人間相手ならば、出しゃばる事はしないが化物の相手は専門家に任せてほしいんだ」


「…それしかないのですね?」


「そうです」


「わかりました」


「ありがとうございます」


 シュリエルの説得が終わった。


 よしよし。


 これでようやくこのシュラスコ領の近くに、魔人軍防衛基地を構築する相談が出来るというものだ。ウルブス領の近くの基地も、そろそろ稼働するだろうから。俺はそこから魔人を引き上げて、ここにも前線基地を作る予定だった。

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