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第829話 決着

 俺達が見ている前でビクトールがみるみる巨大化していく。


 俺は周辺に戻って来た配下達を見渡し、目の前の標的に向けて銃を構えるように言った。


「デカくなりきる前に撃て!」


 俺のバレットM82の銃声を皮切りに、M240中機関銃、M134ミニガン、12.7㎜M2重機関銃が一気に火を吐いた。だがその銃弾は再びあの黒い幕に飲みこまれて、ビクトールに命中する事は無かった。


「ベルゼバブの力が、また復活した!」


「先ほどの光魔法によって、一度は消え失せたのですが」


 ギレザムが撃ちながら答える。俺はすぐさまヘリのカララに念話を繋げる。


《カララ! ミゼッタの様子は?》


《魔力切れにより眠ってしまいました》


《そうか》


 ミゼッタは基本的に魔力量が少ない。前より魔法の範囲も威力も上がったが、総量が少ないために一度撃ったら使えなくなるらしい。それだけは以前と変わっていないようだった。


《ラウル様。恩師様がミゼッタには劣るものの、光魔法で中和が出来るとおっしゃっております》


《先生が?》


《ですが、至近距離に近寄らねばならないようです》


《…危険だな。少し待て!》


《は!》


 そんな事を話しているうちに、ビクトールがどんどんデカくなってきた。ベルゼバブが巨大化するビクトールの首から離れ足元に降りる。


「やれ!」


 ウォォォォォォォォ!


 ベルゼバブに命令をされてビクトールが叫んだ。ビクトールの服は破れて裸になっているが、獣のような毛に覆われている。めちゃくちゃデカいが動きはそれほど速くは無い。前世で言うところのキン〇コン〇だ。


「標的がデカい分当てやすいぞ! 撃て!」


 俺達がビクトールに向けて撃ち続けるが、全てベルゼバブの黒い幕に邪魔されてしまう。


「散開しろ!」


 俺達は動き回りながらも撃ち続けた。シャーミリア、マキーナ、アナミスは上空から、ギレザム、ガザム、ゴーグが横から回り込んでいき、俺とラーズとスラガが正面から撃ち続ける。ファントムはじりじりと近づきながら下から撃ち上げている。それでも黒い幕は的確に現れて、ビクトールを捉えることはなかった。


 そこにようやくナンバーズが合流して来て、俺にファーストが言った。


「遅くなりました!」


「全員無事か?」


「は!」


「よし! 戦車を召喚する!」


「「「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」」」


 そして俺が五台のM1エイブラムス戦車を召喚すると、ナンバーズは四人で一台に乗り込んでいった。


 ズドン! ズドン! ズドン! ズドン! ズドン!


 M1エイブラムスの 51口径105mmライフル砲が巨大化したビクトールに放たれ始める。


 まるでゴ〇ラだな。


 巨大怪獣に戦車が撃ちこんでいる映像がそこに現れる。そして上空にはエミルのAH-64Eアパッチ・ガーディアンが飛来し、M230 30mmチェーンガンを掃射し始めた。だがどれも黒い幕に遮られてしまう。


「攻撃が通らない!」


 すると巨大ビクトールのパンチが俺達のもとに落ちて来た。そのパンチの先に黒い幕が張られる。


「回避!」


 俺とラーズとスラガが飛んで避けた。


 今度は周りを飛んでいるシャーミリア達を、ハエを振り払うかの如く振り払った。シャーミリアが受け止められそうだが、俺はシャーミリアに念話で伝える。


《黒い幕が張られる! 避けろ!》


《は!》


 予想通りシャーミリア達にあたる寸前に、ビクトールの手に黒い幕が張られた。少しずつベルゼバブの戦い方が見えて来る。ビクトールの巨大な体で攻撃し、インパクトの瞬間に黒い幕を張って俺達を喰らうつもりだ。


 すると俺のもとにカーライルがやって来る。


「ラウル様。全員でベルゼバブに集中攻撃を仕掛けてください! ビクトールは私が!」


「あんなデカブツ相手にどうやって!」


「とにかくやってみます!」


 俺は無線機を召喚し、M1エイブラムスのナンバーズたちに伝える。


「ベルゼバブに集中砲火!」


 すると戦車の砲門が下がり、一斉にベルゼバブを砲撃し始めた。


「エミル! ベルゼバブを撃て!」


「了解」


 そしてエミルのアパッチガーディアンもベルゼバブを撃ち始める。


 次に俺は全魔人に念話を繋げた。


《ベルゼバブに集中砲火!》


 皆の攻撃が一気にベルゼバブに集中する。するとベルゼバブが全身に黒い幕を張り始めた。俺達の攻撃を蹴散らすようにビクトールが拳を振り下ろす。だが魔人達はそれを避けながらも、ベルゼバブに掃射し続けた。


 その時だった。


「ビクトーーーール!!」


 鬼のような叫び声が、カーライルから上がる。


 あれに聞こえるだろうか? 叫んだところで…


 と俺がビクトールを見てみると、ピタッと動きを止めた。どうやら聞こえているらしい。


「ビクトーーーーール!!」


 ズオオオオっと体を振り向かせて、ビクトールがカーライルを見下ろしている。俺達はかまわずに動き回りながらベルゼバブを撃ち続けていた。


「お前は俺には! 勝てない!!」


 びりびりとカーライルの叫びと共に鬼の気迫がこっちに伝わってくる。


 オォォォォォォォォォォ!


 巨大ビクトールがカーライルに標的を定めて思いっきり拳を振り下ろす。だが、その拳の先には黒い幕は現れなかった。どうやら俺達がベルゼバブを集中砲火しているので、ビクトールに黒い幕を貼る余裕が無いようだ。カーライルはその拳を避けて、ビクトールを中心に回り込むように走る。


《よし! 聖騎士カーライルがあいつを倒す! ベルゼバブに黒い幕を張らせるな! 弾が切れそうになったら俺の所へ来い!》


《《《《《《は!》》》》》》


 俺達はとにかく弾を切らさぬように、ベルゼバブに対し掃射を続けるのだった。


 カーライルはつかず離れずに、ビクトールに対して攪乱し続けている。だが攻撃はどうするのだろう? と思っていたら、噴射機で一気に空中に飛びあがった。巨大ビクトールは飛びあがったカーライルを捕まえようとするが、すぐに軌道を変えたカーライルを捕まえる事は出来なかった。


 空中を直角に曲がって飛びながら、一気にビクトールの腹に突撃していく。


 バシュッとカーライルの気合の剣撃がビクトールの腹を捕える。ドバっと切れて血が噴き出すが、そんな事はお構いなしにビクトールがカーライルに拳を振り下ろした。噴射装置で一気に軌道を変えて、その場所から離脱する。


「すげえ…」


 俺はカーライルの戦い方を見て鳥肌を立ていた。あれは魔人ではなく人間なのだ。人間があの動きに耐える事が出来るのが不思議だった。


《気、でございます。ご主人様》


 シャーミリアが教えてくれる。


《気か…》


《あの馬鹿者の冴えは、人間の域を超えているかと》


《修練の賜物か…》


《それこそ人間を捨てるほどの》


 シャーミリアが人間相手にこんなことを言うのも珍しかった。昔はカーライルの事をぼろくそ言っていたが、どうやら彼の戦いぶりを見て認めているらしい。


《とにかく、カーライルの戦いの邪魔をさせるな! ベルゼバブに撃って撃って撃ちまくれ!》


《は!》


 俺達がベルゼバブを止めている間にも、カーライルはデカくなったビクトールに対して攻撃の手を緩めない。騎士と騎士の一対一の最後の戦いだった。とにかく俺はあの戦いに水を差すわけにはいかない。


 カーライルが地面に降りたところを狙って、ビクトールのパンチが下りて来た。


 ズッズゥゥゥン! デカいクレーターが出来るほどの衝撃が走る。だがその土煙からカーライルが出て来て、巨大ビクトールの腕の上を走っていた。もう一つの手でビクトールが振り払おうとするが、また噴射機で空中に飛び出る。


 カーライルはビクトールの顔の前に出て、一気に顔面に向かって突撃した。だがビクトールは口を大きく開けて、カーライルに噛みつこうとした。その寸前にカーライルが直角に曲がる。


 ガチン! と音をさせて顎を閉じたビクトールの肩に周り、カーライルは肩を思いっきり切り裂いた。


 がぁぁぁぁぁぁ!


 ビクトールは肩を大きく振ってカーライルを振り払うが、もうそこにカーライルは居なかった。カーライルは既にビクトールの背中を斬りつけていたのだった。大きく鮮血が飛び散り、ビクトールが叫んだ。それでもカーライルの攻撃が止むことはなく、ビクトールを切り刻んでいった。そのたびに呪いの籠ったようなビクトールの叫び声が上がる。


 その時だった。


「ラウルよ」


「先生!」


 突然、俺の側にモーリス先生が現れた。


「ルフラちゃんをまとっておるのじゃ」


「ですが危険です!」


「大丈夫じゃ、ルフラちゃんを着とれば攻撃は通らないと、カトリーヌが言っておった」


「万能ではありません!」


「分かっておる。とにかく邪魔なのは、あの黒いのじゃな?」


「はい」


「近寄りたいがのう、皆が撃っていては近寄れん」


「カーライルがあいつを倒します! それまで待ってください!」


「分かったのじゃ、騎士と騎士の一騎打ちじゃな」


「はい!」


 俺はすぐさまファントムとラーズを呼んだ。


「ファントム! ラーズ! モーリス先生を守れ!」


「は!」

《ハイ》


 俺は二人に先生を任せて、ベルゼバブの様子を見る。相変わらず全身に黒い幕をまとい、反撃の様子を伺っているようだった。


 ズッズゥゥン! と巨大ビクトールが膝をついた。カーライルが斬りまくって、どうやら勝敗が決したらしい。膝をついたビクトールの腕を斬りながら走るカーライルが、首に到達し喉笛を掻っ切ったのだった。


 ドォゥウゥン! ビクトールが横たわる。


《シャーミリア! 来い!》


 俺の側にシャーミリアが現れた。


「先生が光魔法を行使する。俺が攻撃を止めたタイミングで、先生をベルゼバブの所に連れていけ!」


「は!」


 そして俺は無線を取り、全魔人とナンバーズに念話を繋げた。


「《全員攻撃を止めるぞ、3,2,1!》」


 そして全員が掃射を止めた。その隙を見てシャーミリアがルフラにくるまれたモーリス先生を、ベルゼバブの黒い幕の所に連れて飛んだ。先生とシャーミリアがベルゼバブの所についたとたんに、眩しく光り輝いてベルゼバブの黒い幕が引いて行く。


「《いまだ! 全員撃て!》」


 黒い幕が消え、ベルゼバブが現れて周りをきょろきょろしている。


「な、なんだ! わらわの! わらわの力が!」


 ズドドドドドドド! ベルゼバブに俺達の射撃が通った。体のあちこちを吹き飛ばしながらもなんとか立っている。顔は半壊、右半身は無くなり左足も吹き飛んだ。それでようやくベルゼバブが倒れる。


「ぐ、ぐぎぎぎぎぎぎぎ」


 既にベルゼバブは言葉を発する事も出来なかった。俺は一気にベルゼバブに距離を詰めて、M202A1四連ミサイルポッドを召喚し至近距離から狙う。


「連結LV4」


 俺は大量の魔力を注ぎ、一気にベルゼバブに向かってミサイルを撃ち込んだ。


《全員退避!》


 俺のもとにシャーミリアがやってきて、俺を掴んで瞬時に飛ぶ。俺の魔力をたらふく含んだミサイルが炸裂すると、恐ろしいほどの爆発が起き巨大なキノコ雲が上がった。破片や岩がM1エイブラムス戦車にあたるが、それぐらいではびくともしない。どうにかナンバーズも無事のようだ。


「カーライル!」


 俺はカーライルを探す。魔人は何とかなるにしても、カーライルはあの爆風に耐えられるとは思えない。だがどこにもカーライルは居ない。


「カーライル!」


 俺がもう一度叫ぶと、もぞもぞとビクトールの体の一部が盛り上がってその下からカーライルがはい出して来た。


「生きていたか!」


「殺さないでください。なぜか、アイツが俺を庇ってくれました」


「ビクトールが?」


「はい」


 そして俺はシャーミリアに聞く。


「シャーミリア! ベルゼバブは?」


「気配は消滅いたしました」


「そうか」


 すると俺は次の瞬間、ぐらりと体が揺れて尻餅をついた。高位のデモンを殺したことで、俺達に力が大量に流れ込んできているらしい。急激に眠くなるが、辛うじて眠らずにいられた。


「ビクトールはどうだ?」


 と俺達が巨大ビクトールを見ると、シュワシュワと小さく縮んでいき、腹ばいに倒れた裸の男が現れる。


 ビクトールにはまだ息があった。


「やっぱり勝てないか…」


 ビクトールが呟くように言う。するとそれにカーライルが答える。


「修練が足らんのだ」


「はは、そうだな。お前には勝てねえよな」


「なぜ俺を守った」


「なんでだろうな? なんていうか、お前は爆発に巻き込まれて死ぬなんて似合わねえなって思っただけだ」


「そうか」


「頼みがあるんだ」


 ビクトールがカーライルを見上げて言う。


「俺はあの銃とやらでは死にたくない。どうか…」


「なんだ?」


「お前の剣で死にたい」


「‥‥‥」


 ビクトールに騎士としての矜持がまだ残っていたのだろうか? カーライルに最後を託している。


「わかった」


「よかった。お前はそういうヤツだよ」


「そうか」


 カーライルはずっと冷たく応じている。


「あの頃は楽しかったんだがな」


「そうだな」


「研修時代から、お前は頭三つくらい抜き出ていた」


「ああ」


「お前は聖女と仲良くてな。あれは悔しかった」


「仲が良いというなどと言う事はない、聖女様とは身分が違う」


「まあ、聖女様が一方的にお前にかまってた感じだったか」


「どうだったかな」


 だんだんとビクトールから力が抜けていくのが感じられた。血が抜けて意識が朦朧としてきたのだろう。


「ごめんなカーライル」


「‥‥‥」


「俺が弱いばかりによ」


「一緒に修練を続けたかった」


 カーライルには珍しく感情のこもった声で言った。そしてしゃがみ込みビクトールの肩に手を置く。そしてカーライルが言った。


「お前は馬鹿だが、敵が来なければこんなことにはならなかった。お前は弱かったのだろう。だが心配するな、最後は俺の剣で送ってやる」


 ビクトールがコクリと頷いた。そしてカーライルが立ち上がり剣を構える。


「ありがとう。カーライル」


 シュバッ! カーライルが剣を降ろすと、ビクトールの首が体から離れた。物凄い早さだったので痛みも感じなかっただろう。静かにビクトールの遺体を見つめるカーライルを、俺達は静かに見守っていたのだった。

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