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第823話 洗脳兵の力

 デモンが逃げ込んだ森に入ってすぐ、俺はギレザムに念話を繋げた。俺が想定していたある事をするためだ。


《ギレザム》


《は!》


《敵は?》


《森の中に立ち止まって話をしております》


《悠長に話なんかしてんのか?》


《そのようです》


《ギレザムたち五人は見つかってないんだな?》


《気づいては居ないようです》


《オッケー》


 どうやら魔人達の実力の方が上らしい。それならばこの機会を逃す手はない。


《ギレザム! これからモエニタ国の深部に進むために、ファートリアから連れて来た洗脳兵を実戦で使えるようにしておきたいんだ。今回のデモンはその格好の標的になりそうだからさ、ギレザムたちが見守る中で洗脳兵の実戦形式の訓練を行おうと思うけどいいか?》


《それはいいですね》


《だと魔人達を削らなくても済みそうだろ?》


《そうですね》


《ギレザムたちは、デモンに手を出さないでいてくれるか? 万が一、洗脳兵が死んでしまいそうなときは守ってくれ》


《わかりました。上手く育ってくれるといいですね》


《ああ》


 ギレザムに念話で詳細を伝え、ナンバーズに号令をかけて並ばせた。そして俺が注意事項を伝えていく。


「あー、コホン。人間を使ってのデモン討伐作戦は今回が初めてである。今日の君たちの活躍如何で、今後の魔人国の軍事力の増強が期待できる。この薬は人間を魔人の高みに登らせる貴重な薬だ。赤の錠剤が疑似的にライカンになる狼化薬、青の錠剤が疑似的に竜人になる竜人化薬。研究者の女やゴブリンで治験をしたが、体に問題はなく普通に生活をしているようだ。だが、くれぐれも併用はしないように。危機的な状況になったら薬を選んで飲め。敵はデモンだが数は多くはない、情報を聞きだすために敵を確保するか最悪は足止めして俺達がとどめを刺す。五人一組の四個小隊にして俺達が補佐としてつく。君たちの力を見せてくれ」


「「「「「「「「「「は」」」」」」」」」」


 俺がファントムから放出させた竜人化薬と狼化薬を、ナンバーズに二錠ずつ渡していく。


「全員装備を確認!」


 ジャッ


 皆が装備を確認していく。


 基本装備としてM4A1アサルトライフル、Glock19ハンドガン、M26手榴弾二個、装備させた。小隊に一つずつMK48 Mod 0 軽機関銃とAT4ロケットランチャーを携帯させる。防弾チョッキを装備させてヘルメットと暗視ゴーグルを装着。双眼鏡を持ち足元は軍用のブーツを履いていた。あとは騎士の格好のまま。


 俺は小声で皆に伝える。


「緊急時以外は、シャーミリアも気配感知を使わずに」


「は!」


「それじゃあ各小隊の補佐を言う。シックスティーン小隊の補佐はシャーミリア」


「は!」


「イレブン小隊の補佐は俺」


「は!」


「シックス小隊の補佐はアナミス」


「はい」


「ファースト小隊の補佐はカーライルだ」


「おもしろいですね。お任せください」


「ファントムは万が一に備え、遊撃隊として各部隊をカバーしろ!」


《ハイ》


「ではまず、敵に逃げられないようにシャーミリア隊が森の奥に回れ」


「は」


「アナミスの隊は十時の方向から、カーライルの隊は二時の方向から追い詰める。俺達は正面から行こう。あとの指示はナンバーズに任せるぞ」


「「「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」」」


 皆が俺の指示を聞いて、すぐに動ける体制になった。俺が気合を入れる為に大きな声で言う。


「行け」


 ザッ! 各小隊が、森の奥に潜むデモンに向けて動こうとした時だった。


 ギレザムから念話が入る。


《敵が動き出しました》


《感づかれたか?》


《分かりませんが、方角からすると山脈に向かっているのかもしれません》


《山脈方面? 何かあるのかね?》


《どうでしょう? このあたりの生態系がわかりません》


 ま、そりゃそうだ。初めてこの地に来たんだから、ギレザムに聞いたって分かるわけが無い。


《シャーミリア、アナミス聞いた通りだ。ギレザム達には手を出させずナンバーズに追跡させる》


《は!》

《はい》


 そして俺は無線機を取り出してカーライルにつなげる。


 ガガッ


「カーライル」


「なんでしょう?」


「敵が更に西に向かった。この四個小隊で追跡する、そのまま西へ向かってくれ」


「わかりました」


 俺達、四個小隊が西へと走り出した。走って分かったのがナンバーズは足が速いということ、というか普通に人間の全速力を超えている。クレ達はこいつらを随分鍛えてくれたようだ。更にあまり足音がしない走り方をする。草が生えているのにも関わらず、擦れた音などをさせないで走れるようだ。


 てか、訓練でこんなことが出来るようになるもんなの? 魔人達の魔力を浴び続けているせいで、魔力も保有してきているようだしな。人間も進化してきているようだ。


 敵はどうやら森を抜けて山岳地帯に入り込んだらしい。既にその姿は見えず、俺は一旦全部隊を森の端に止めた。


 シャーミリアとアナミスに念話を繋げた。


《デカい岩がゴロゴロしている。敵からの攻撃も予想されるから万が一はナンバーズを守るぞ》


《は!》

《はい!》

 

 そしてカーライルには無線で告げる。


「カーライル。敵は山岳地帯に逃げ込んだようだ。このまま追跡するが、敵はこちらをみているかもしれん。遮蔽物を利用しながら進むぞ」


「わかりました」


 各小隊が遮蔽物に隠れながら前進し始めた。ナンバーズは人間とは思えない身のこなしで、何とか魔人達についていけているレベルだった。シャーミリアや魔人達のチート能力を封印して、ナンバーズたちがどこまでやれるか見ものだ。


 ナンバーズたちは急いでそこらにある岩の遮蔽物に身を潜めた。敵にスナイパーがいたら、無防備に登っていけば誰かが撃たれるだろう。敵はデモンなのでスナイプショットの恐れはないが、直接攻撃でも一瞬で迫って来るので油断は出来ない。


 すると俺の見ている前で、各隊の隊長格がハンドサインを使い始めた。俺はそれを見守る事にする。すると三個小隊が銃を構え始め、シャーミリアの隊が素早く前進し始めた。どうやら進む隊を三個小隊が援護する方法をとっているようだ。そして進んだ隊が先の岩場にとりつくと、こちらに来るように手招きをした。先に行った隊が、前方に向かって銃を構え警戒をし始める。


 ほー。こりゃオージェ仕込みの動きだな。進化ゴブリンじゃこんなことを教える事は出来ない。


 かわるがわる小隊が護衛について、適切に隠れる場所を見つけてはそこを走った。すると今度は、前方に走った隊が止まるようにハンドサインを送って来る。


 なんだ?


 俺は双眼鏡を使って山岳地帯の上部を見る。すると若干ではあるが、何かが動いたように見えた。


 さて、どうする?


 しばらく動きを止めながら、前方の小隊の一人が潜望鏡を使って岩の上から先を覗いている。


 敵の動きからして既にこちらには気づいているが、何か対応策はあるのかな? 魔人軍たちの戦闘なら、航空部隊が飛びシャーミリアが急襲して攪乱したすきに一気に制圧するところだが。


 すると先頭の岩場に隠れている小隊の一人が、AT4ロケットランチャーを準備し始めた。


 なるほど。


 そしてすぐに、ロケットランチャーを山の上部に向かって発車した。


 シューッ ドゴォーン! 


 と大きな爆発音が鳴って、山の一カ所が砕け散った。するとその隙に、他の三個小隊が走り出す。それについて一気に隠れている小隊の所にたどり着いた。


 さあ、こっからだ。どうやって敵を詰める?


 だがナンバーズは慌てる様子も無く、三人の兵が手榴弾を取り出してピンを抜き、敵の気配のする方角へ遠投した。普通の軍人なら到底飛ぶはずのない距離を飛んで、手榴弾は崖の向こう側に消えて行く。そして爆発音とともに四個小隊のうちの一つが十時の方向に、一つが二時の方向に走った。


「なんだ?」


 崖の上を見ると大きな岩が何個も動いている。するとナンバーズが全員、岩場に隠れ身動きをしないでそれを見守っていた。山の上の大きな岩は動かず、こちらも動かない。だが一人のナンバーズが、Glock19ハンドガンを上空に向けて撃った。


 パン!


 その音につられて、岩が一気に転げ落ちて来る。どうやら巨大な岩で俺達を押しつぶそうって魂胆らしい。だがナンバーズの判断は的確で、その岩が通り過ぎるのをそのまま待つ。岩は山の下へと転げ落ちて行った。そして数秒経過すると、また山の上に岩が並べられた。またナンバーズがGlock19ハンドガンを上空に撃つ。すると再び岩が転がってくる。


 その岩が通り過ぎたと同時に各隊が動いて、一気に山肌を駆け上っていく。そして崖の窪みへと皆が体を隠す。


 すげえ統率力だな…


 俺はナンバーズの動きを惚れ惚れと見ていた。こんなに訓練された軍隊は見たことがない。


 すると一人のナンバーズがAT4ロケットランチャーを構え、山の下の方に向かって売った。下の岩が弾けて爆炎が上がると、再び上から岩が転がってくる。だが次の岩が用意される前に、ナンバーズはとうとう崖を登り切ったのだった。登り切った先にはハエのデモン達が十体くらいいた。


 バババババババババババババ!

 ガガガガガガガガガガガガガ!


 一斉にナンバーズたちの、MK48 Mod 0 軽機関銃が火を噴き、ハエのデモン達はなすすべもなく消えて行く。ハエを全部片づけたと思った次の瞬間だった。


 ガッキィィィィ!


俺は自分のコルトガバメントで刃を受け止めていた。


「こりゃあ…」


 俺はその刃の形状に見覚えがあった。丸い形状で円盤のように飛ぶ刀。それは俺のコルトガバメントに弾かれて、まだどこかに消えて行ったのだった。


「よし! だいたいナンバーズの力は分かった! 全員防御形態をとれ! ファントムはナンバーズの護衛を!」


「「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」

《ハイ》


 流石にバティンの相手はナンバーズには重い。


 しかし俺もだいぶ成長したなあ…。シャーミリアとの死に物狂いの組手の成果が出たぞ。全くの無防備な状態から、あれを防ぐ事が出来たし。我ながらよくやったと自分で自分を褒めてやろう。


《訓練は終了する! 全員警戒し、上位のデモンの攻撃に備えよ。魔人は能力を開放せよ!》


《《《《《《《は!》》》》》》》


 さてと。


 俺はファートリアの地下で殺された一般兵の仇を取らねばならない。あの時は逃げられてしまったが、今度こそ絶対に討ち取ってやる。


 俺とシャーミリアとアナミスが背中をつけて周りを警戒する。カーライルはファントムと共にナンバーズの護衛に入った。


 するとそこにギレザムから念話が入る。


《ラウル様、我々は外からデモンを包囲します》


《ああ、今度こそ仕留めるぞ》


《はい》


 ギレザムたちが包囲網を敷く中で、俺は気を研ぎ澄ませ敵の気配を読み取り始めるのだった。

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