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第820話 屯所のガサ入れ

 シャーミリアとファントムには外で敵騎士が捨てた武器を処理させ、ナンバーズたちに敵騎士を見張らせている。その中を抜けて俺達は屯所に入った。中はかなり散らかっており荒れた生活をしていたようだ。

 

 俺がアリストに向かって言う。


「ひどく散らかってるね」


「お恥ずかしい限りです。かなり規律が乱れておるようです」


 するとモアレムが頭を下げた。


「申し訳ございません。私が不甲斐ないばかりに、野放しにしてしまいまして」


「囚われていたのだ。仕方あるまい」


「姫君。…いえ領主のシュリエル様は王に騙されているのです」


「どういうことだ?」


「私の推測ではありますが、今の王は何かおかしい。以前はこのような事は無かった」


「それは私も感じている」


 アリストもモアレムも、この国で起きている異変に気付き始めたようだ。先の森で俺達がデモンの襲撃を受けた事からも分かるように、間違いなくこの国に敵が逃げ込んでいる。アウロラの神託もこちらに向かうように指示しているし。


 すると建屋内を一緒に歩いていたアナミスが俺に言う。


「ラウル様。薬の匂いがします」


 ‥‥まさか。


屡巌香るがんこうか?」


「いえ。それでは私の能力が封印されるでしょう。恐らくそれとは別の物のようです」


「警戒したほうが良さそうだな」


 アナミスにしか気が付かない微かな臭いだが、万が一はすぐに外に出てシャーミリアに救いを求めねばならないかもしれない。俺は周りを警戒しながらも、アリストとモアレムの後をついていく。


 するとアリストが振り向いて言う。


「何かありましたか?」


「何か変な臭いがするって部下がね」


「変な臭い?」


 部屋を更に奥に進んでいくと、その臭いは俺の鼻にも感じるようになってきた。カーライルも俺に目を合わせて異常を感じているのが分かる。


 すると今度はモアレムが言った。


「確かに臭いがしますな。奥の方からです」


 それを確認する為に進むと廊下の入り次に扉がある。モアレムがその扉の取っ手を掴んで開けると、キツイ臭いが充満していた。その奥にはベッドがあり三人の女が裸で横たわっていた。


 モアレムが声を荒げる。


「なっ! 騎士の屯所に女!」


 そしてアリストが領騎士に指示を出した。


「おい! 窓を開けろ!」


 騎士が窓を開けると、充満していた何かが抜けていき新鮮な外気が入って来る。すると女の一人が気が俺達に付いたようで、起き上がって言った。


「あらぁ? また男が入って来たよお」


 すると他の女も起きだした。


「あははははは。なんかすっごく難しい顔してるんですけどぉ」


「本当だぁ、なーんですかぁー?」


 女達の様子がおかしかった。まるで泥酔でもしているようだ。


 モアレムが女達に向かって言う。


「おい! 貴様ら! なぜ騎士団の屯所におるのだ!」


 怒号のような声で言うが、女達は一切動じる事が無かった。


「おっさんがぁ、怒ってるよぉ」

「本当だぁ」

「「「あははははははは」」」


 するとモアレムが真っ赤な顔をして女に詰め寄り、腕を掴んでベッドから立たせようとした。


「いたぁーい。あははははは」


「なっ!」


 すると俺にアナミスが言って来た。


「催淫効果でしょうか、軽く幻覚も見ているようです」


「麻薬だな」


 するとアリストが俺を振り向いて聞いて来た。


「麻薬ですか?」


「だと思う」


 俺とアリストが話している先では、まだモアレムが強く女の手を引いて立たせようとしている。俺はモアレムに対してそれを止めるように言った。


「モアレムさん。その女達は正気じゃない。荒々しい事はやめてあげた方が良い」


「し、しかし。アリスト辺境伯がいらっしゃっておるというのに、このような不埒な事を」


 するとアリストがモアレムに言った。


「正気じゃない女に手をかけてもしかたない、まずは服を着せ教会に連れて行くほかあるまい」


 するとモアレムの表情が曇る。何か嫌な事でも思い出したのだろうか?


「恐れながらアリスト様! 私は教会もおかしいと思っておるのです」


「…どういうことだ?」


「数年前から教会の神父の入れ替えが進み、それから少しずつおかしくなっていった気がするのです」


 俺とアリストが顔を見合わせる。アリスト領地であるウルブス領でも、俺は教会に異常を感じてアナミスと一緒に神父たちの魂核を変えまくった。彼らは、今では敬虔なアトム神教徒になっている。少しでもアウロラの力を高める為に信者増やしをしているのだ。ってのは内緒だ。


 アリストが言う。


「だが、彼女らを診せねばならん」


 そこで俺が手をあげた。


「あー、ちょっといいですか?」


「なんでしょう?」


「うちの軍に聖女が居ます。彼女に見てもらいましょう」


 アリストとモアレムが顔を見合わせてから、モアレムが俺を見て言った。


「行軍するのに聖女を連れているのですか?」


 いや。聖女リシェルが勝手に来たんだけどね。


「そう、この聖騎士と同じ国から来た聖女様ですよ」


「それは素晴らしい」


「都市の外に待機しているので、彼女らはうちで預かりましょう」


「よろしくお願いいたします」


 そしてモアレムは女の腕を放した。俺は部屋の中を見渡してテーブルの上に目を止める。


「そして、たぶんそれが原因ですよ」


 俺はテーブルの上に無造作に載っている、キセルと黒い塊を指さした。恐らく火であぶって吸い込むタイプの麻薬だが、アンモニアか何かの匂いに似ている気がする。両腕を担がれて立つ女達は瘦せており、まともに食事をとっていないような雰囲気だった。騎士は毛布を取って女達にかけてやっている。


 モアレムが領騎士に指示を出した。


「手分けして館内を捜索しろ! 他にもいるやもしれん!」


「「「「「「は!」」」」」」


 サーヘルと筆頭に領騎士達が一斉に部屋を出て行った。部屋にいるのは俺とアナミス、カーライル、アリスト、モアレムだ。


 モアレムがアリストに対して頭を下げて謝罪する。


「このような事になっていようとは、謝罪のしようもございません」


「仕方ないだろう。それよりもこれだ」


 アリストがテーブルに近づいて、黒い塊とキセルを持ち上げた。


「まさか、麻薬が入り込んでいたとはな」


「申し訳ございません」


「きっと王国の兵団が、ここにモアレム殿を近づけなかったのはこのためだ。そして恐らく兵士たちも正常な判断をしていない可能性がある」


「は!」


 結局のところ、他の部屋でも同じような事が行われていた。女達が裸で寝ていたり、外で騒動が起きているというのにラリっている騎士がいっぱいいたのだ。それらが次々と領騎士達に担がれて外に出ていく。人手が足りなくなってきたので、ナンバーズを呼びに外に出ようとしたらシャーミリアとファントムが来た。


「ご主人様。全て終了いたしました」


「ありがとうシャーミリア、お前は相変わらず仕事が早い。偉いぞ」


「そ、んな事は、ああ…」


 やべ! 間違って褒めちゃった。シャーミリアがメロメロとしゃがみこみ変な息遣いになっちゃった!


 するとアリストが駆け寄った。


「シャーミリア様! いかがなされました!」


 アリストが手を差し伸べようとした時、シャーミリアからペシン! と手をはたく。


「人間ごときが触れるな、私奴に気軽に触れて良いのはご主人様だけだ」


「も、申し訳ございません!」


 俺がシャーミリアに言う。


「まあそう言うな。心配してくれたんだから」


「は、はい! かしこまりました」


「ナンバーズを呼べ」


「は!」


 そしてシャーミリアがナンバーズを呼びに行った。すぐさまナンバーズたちが屯所に入ってきて俺の前に整列する。よく仕込まれた良い兵士だった。


「この館内に麻薬にやられた人らがいるんだ。それを連れ出してくれるか?」


「「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」」


 そしてナンバーズも建屋の中に走っていく。そしてモアレムが騎士の一人に言った。


「我が領の騎士団も連れて来い。この館を全て洗い出して、綺麗にする必要がある!」


「は!」


 騎士が急いで都市の方へと駆け出していく。


 事の次第を見ていたモエニタ国家騎士の連中がざわついており、ばらばらと動きだした。


「あー、モアレムさん。王都の騎士達が逃げますよ」


 するとモアレムが大声でそいつらに聞こえるように叫んだ。


「止まれ! 逃げればさらに罪は重くなる!」


 だが少しラリっているのとパニックで、聞こえないかのようにワーッと走り出した。


 俺が大声を出す。


「セルマ! キリヤ! ハルト! そいつらを一人も逃がすな!」


「ぐもぉーん!」


「「はい!」」


 セルマが全速力で駆けると時速百キロくらい出るので、あっという間に逃げる騎士の先頭にたどり着いた。そして両手を広げて通せんぼする。そしてそこから四方にちりだした奴をハルトが剣術で抑え、その間にキリヤが土魔法で壁を作って騎士達を囲った。鮮やかな手際で一人も逃す事は無かった。


 それを見ていたアリストとモアレムが唖然としている。


「凄い…」

「なんと…」


 そうなんだよね。転移日本人ってチートなんだよね。俺達転生した神の力がチートすぎるから、彼らの力が埋もれているけど本当は凄いんだよ。これがラノベだったら、彼らは完全に主人公なんだよ。まあ俺達の中では下っ端だけど。


 俺はアリストとモアレムに教えてやる。


「彼らのように末端の兵士も、そこそこ使えるんですよ?」


 するとモアレムがボソッと言った。


「そこそこ…って」


「いや、だってあれに比べたら」


 俺は空を飛ぶ戦闘ヘリ、AH-64Eアパッチガーディアンを指さした。


「は、はは…そうですな…。なんです? あれ?」


「ヘリ」


「へりでございますか?」


「そう。俺達の兵器だよ」


 するとモアレムがアリストに向き直って言った。


「アリスト様。先ほどは失言でございました。彼らの力は誠に神の如き力、あれに歯向かう事など出来るはずもございません」


それにアリストが答える。


「モアレム殿。あれはラウル様のお力の一端でしかない。私は神の雷かと見まごうほどの力をみたのだ。このシュラスコ領など一瞬で灰と化す力をな。それをもってして我々に服従を強要するわけでもなく、友好関係を結ぼうと言ってくださったのだよ」


 俺の誤解が解けた? とりあえずモアレムは俺に向き直って言う。


「私は誤解しておりました。ラウル殿下の事を暴虐の王のように考えていたのです」


「ああ、俺はなるべく平和に過ごしたいだけなんだ。だけど北の大陸をめちゃくちゃにしたやつが、どうやらこのモエニタに逃げ込んだらしいんだよね。そして、そいつらがいる限りアリスト辺境伯のウルブス領も、このシュラスコ領にも本当の平和は無いと思った方が良い」


「やはり、王都で何かが起きていると言う事でしょうか?」


「まあ、その可能性は大きいと思う」


「みしらぬ麻薬まで持ち込んで、一体何をしようというのでしょうか?」


「それがまだわからないんだ」


「そうですか」


 俺達が立ち話をしている向こうの方から、罵声が聞こえて来た。


「放せ! 糞野郎! 俺を誰だと思ってんだ!」


 騎士のティブロンだ。それをみたカーライルが呆れたように言う。


「騎士の風上にも置けぬやつですね。私が懲らしめてやりたいくらいです。あのような真似を許してはおけない」


 あ、カーライルキレてる。女の子たちに麻薬をやってふしだらな事をしていたからな…そりゃキレる。カーライルが先にきれてたらアイツは死んでた。


 するとモアレムが言った。


「お怒りはごもっともでございますので、もちろん厳罰に処します、北の騎士様に御見苦しい所をお見せしてしまい、お恥ずかしい限りです」


「彼には重い罪を。そしてそれに賛同していた騎士にも」


「かしこまりました」


 これでモエニタ国の騎士達が巣くっていた砦は解放される。敵の意図がまだ分からんが、俺は敵の本筋に近づいて来ている事を実感するのだった。


 だが唐突にシャーミリアが言った。


「ご主人様。南西にデモンの反応です」


「なに!」


 敵に近づいているどころか、敵の方からやってきたようだ。俺達が騎士の屯所のガサ入れを終えたタイミングでデモンが来やがった。俺はすぐに全魔人に念話を繋げて、緊急事態の通告を出すのだった。

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