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第819話 神の力をお見せしましょう

ティブロンがけしかけ、モエニタ国の兵士達は今にも飛びかかりそうになっている。いざという時の為に俺は、俺の周りにシャーミリア達を呼び寄せ、洗脳兵も後ろにスタンバらせていた。


 まあ聞き分けの悪い子は仕方がない。あの世で反省してもらおう。


 あまりにも面倒だったので、俺が目の前の軍隊を消滅させようかと思っていた矢先だった。


 ピョーーンっとアリストが、俺の前にジャンピング土下座をかました。あまりにもの姿に敵の騎士達はおろか、モアレムと仲間の騎士までも目をひん剥いている。そして開口一番アリストが大声で叫んだ。


「ラウル様! 申し訳ございません! 彼らは事情を知らんのでしょう! ここはひとつ、なんとか事を荒立てぬようにする訳にはまいりますまいか!」


 アリストのあまりにも立派な土下座に、俺は少したじろいでしまう。それは相手の騎士達も同じで、自分の国のお偉いさんが、どっかの国の王子に土下座をしているのを見るのはショックらしい。


「な、ちょっとまて! なんで辺境伯が土下座なんかしてやがるんだ?」


 トゥエンティに殴られてほっぺたを腫らせた、ティブロンまでがその光景に驚いていた。するとアリストがティブロンに向かってキレる。


「貴様は黙っとれ! そして騎士達よ! 死にたく無くば、剣を収めよ! 王都に妻を残して来てはいまいか? 娘を残して来てはいまいか? 結婚を予定している者はおらんか?」


 すると馬鹿ティブロンが分けも分からずにほざく。


「あーははははは! とち狂ったか! 俺達がお前らを殺そうとしているのに、なんでお前がそいつに土下座なんかしてるんだよ!」


「馬鹿モン!!!!」


 うわっ。日曜日夕方の国民的な怒り方をしたぞ。


「バ、バカモン?」


「そうだ!  大馬鹿者だ! 剣を収めよ!」


 すると今度はモアレムがアリストに聞いて来る。


「あの…、バルギウスの騎士様がお強いのは分かりました。ですが…皆殺しと言うのはいささか表現が」


「お前も黙っとれ!」


 アリストは身内にもキレだした。確かにアリストは俺の力を知っている。もし俺達が本気を出せば、八百人は一瞬で死ぬ。こちらに寝返ったとは言え、国の騎士が無慈悲に殺されるのは阻止したいらしい。


「は、はい。ですが…」


「いいから!」


 すると敵の騎士の、はねっかえりな奴が言う。


「かまわねえ! ティブロン様の言う通り皆殺しにしてしまおう!」


 すると血気盛んな騎士達が、一斉に飛びかかって来たのだった。


 タタタタタタタタタタタン!


 三十人くらいが一斉に血を吹き出し倒れ動かなくなる。他の騎士達は何が起きたのか分からないようだった。だがその攻撃を見ていたアリストが言った。


「だから言ったのだ! 無駄な抵抗はするなと!」


 三十人くらいの騎士を殺したのは、洗脳兵に俺が召喚した自動小銃だった。彼らは続けて殺すことはせずに、立ち向かって来た者だけを撃ち殺す芸当を見せた。


「あ、あああああ」


 ティブロンが青い顔をしてそれを見ている。


「な、なんと」


 モアレムとシュラスコ領の騎士も唖然としてそれを見ていた。そしてアリストが続けて言う。


「ラウル様! 申し訳ございませんでした! 彼らは知らぬのです! 本当の力を!」


「悪いねアリスト。聞き分けないなら、こうするしかないんだ」


「当然でございます! ですから残りの物は!」


 とアリストがせっかくそう言っているのに、ティブロンが大笑いして言う。


「あーはははははは! なんだ! アリスト辺境伯さんよお! お前、寝返ったのか? その力に恐れをなして寝返ったんじゃねえか?」


 するとアリストはそれに返す。


「だまれ! 国を守りたいのなら口を閉じていろ!」


「国? こんな、たかが数人で? 国を亡ぼすとでも言うのか?」


「そうだ!」


「そりゃまた滑稽だな。たかが三十人くらい殺して良い気になるなよ」


「お前は、本当の馬鹿なのか?」


 アリストが言うと、今度はモアレムが口を挟んで来る。


「恐れ入ります! アリスト様! これは一体どういう事なのです?」


 ややっこしくなってきやがった。


「悪いがモアレム。国民を守りたいのなら、お前も黙ってくれるか。彼らは神なのだ。神の力を持ってこの国の悪を滅ぼしに来てくださったのだ」


 うーん。今のアリストの言葉は、ほとんど間違っていないのだけれど、聞く人が聞くとめっちゃ誤解を生みそうな気がする。俺は別にアリストを洗脳していないし、宗教に勧誘した覚えもない。


「なんだ? 辺境伯様よう! おかしくなったか?」


 ティブロンが食い下がる。こいつ本当に邪魔かも。だがモアレムまでが食い下がって来た。


「アリスト様は他国の力で、我が国をどうにかしようとなさっているのではありませんか?」


「ち、違う! 私はそのような事思っていない」


「では、これは一体どういうことなのです?」


「彼らの本当の力を見れば分かるのだ!」


「本当の力?」


 するとアリストが観念したように俺を見る。


 えっ、でもこんな都市の中で爆弾なんか爆発させたら、死人は騎士達だけでは済まないぞ。


 と考えていると俺に名案が浮かんだ。俺はすぐにカララに念話を繋げる。


《カララ》


《はい》


《カナデは?》


《おります》


《なら、透明ドラゴンに乗って西側の砦に来るように伝えてくれ》


《は!》


《あと、イショウキリヤ、ナガセハルトにはセルマをトラックに乗せて西に来るようにと》


《かしこまりました》


《あと無線で、エミルに西側砦に来てくれと伝えて欲しい》


《かしこまりました》


 よし! 準備はオッケーだ。とりあえずごちゃごちゃになっている話を少し修正しよう。


「アリスト辺境伯、頭を上げてほしい。俺はあなたとは友好関係で居たいんだ」


「しかし!」


「とにかく立ってください。あなたに土下座は似合わない」


「はい」


 アリストが立ち上がる。そして俺はティブロンを見て言った。


「さっき。アリスト辺境伯が言った神の力、お前は見たいのか?」


「はん! そんなものがあるならぜひ拝んでみたいものだな!」


「さっき瞬く間に三十人が死んだぞ」


「どうせ魔法だろう。不意打ちとは汚い真似をする」


「お前らは多勢に無勢で俺達を殺そうとしたのにか? どっちが汚いんだ?」


「しらねえよ」


 どうしようも無い奴だ。とりあえず俺は神の片鱗をお見せするとしよう。


「あれを見ろ」


 西の方から大型トラックがこっちに向かって走って来る。それを見たモアレムや騎士達がざわついた。


「ま、魔獣じゃないのか?」

「いや、車がついているみたいだが」

「いずれにせよ見たことがないぞ」


 すると騎士の一人が言った。


「魔獣だ! 皆構えろ! 弓を持て!」


 すると騎士達の後ろから弓隊が出て来て、トラックに向かって構えた。そして一斉に弓が撃ち放たれる。だがトラックに矢が刺さるはずも無く全て地面に落ちた。トラックが急ブレーキをかけると、その二台から思いっきり大きな影がびょーんと飛び出してくる。


「な、なんだ!」


「く、熊じゃないのか?」


「いや。熊にしては…大きすぎる」


 セルマがドドドドドドと俺のところに来て、俺をギュっとしてきた。


「あの、セルマ。今ちょっと取り込み中なんだよ」


「ぐるるるるるぅ」


「いや。ホントに」


 するとセルマ熊は、バッと立ち上がって騎士達を睨みつける。二十メートル近い巨体に見下ろされた騎士達が怯むが、弓隊はかろうじて第二射を放つことが出来た。だがその弓矢は一本もセルマ熊の毛皮を貫通する事は無かった。


「がぁぁぁぁぁおおおおお!」


 セルマ熊が吠えると、敵の騎士達がビクゥ! として二、三歩下がる。


 するとティブロンが叫ぶ。


「お、おい! クマごときに怯むな!」

 

「し、しかし…」


 ティブロンがけしかけても、騎士達は身動きを取れずにいた。そして次の瞬間。


 ドシーン! と音がして大地が揺れた。


「な、なんだ? なんだ?」


 騎士達がうろたえ始め周りをきょろきょろと見る。そこで俺はこれ見よがしに大きな声で言った。


「いでよ! 我がシモベのドラゴンよ!」


 するとカナデが透明化を解いて、ドラゴンの巨体を現した。ファートリア戦で敵が乗って来たワイバーンよりはるかにデカかった。俺もちょっとびっくりする。


「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ど、ドラゴンだあぁぁぁぁ!」

「に、にげろぉおおおおおお!」

「魔導士はどうした!」


 騎士達は右往左往しているが、元より逃げ場はない。後ろは城壁だし、逃げるならこちら側に来るしかないのだ。すると今度はどこからともなく、不思議な音が聞こえて来た。


 パラパラパラパラパラ


「なんだあれは!」


 騎士が空を指さす。そこには超カッコイイ、エミルが操縦する戦闘ヘリAH-64Eアパッチガーディアンが居た。華麗にホバリングを決めて、騎士達を睨みつけるようにしている。


 俺が手を上げて、その手を降ろすとエミルはAGM-114Lヘルファイアミサイルを一発城壁に撃ち込んだ。


 ドッガーン! と言う派手な音と共に、壁に大穴が開く。


「あー、どうかな? 俺の力分かってくれたかな?」


 シーン


 騎士達は黙り込んでピクリとも動かない。無理もない二十メートルのレッドベアーに、その三倍もありそうなドラゴン、極めつけは空の要塞AH-64Eアパッチガーディアンだ。これで諦めないお馬鹿さんはいないようだ。


 いや。一人馬鹿が居た。


「な、くそ! やれ! かかれ! ほら! いけよ!」


 ティブロンだけが、騎士達をけしかけている。こいつにはこれが見えていないのだろうか?


「ファントム! ティブロンの相手をしてやれ」


《ハイ》


 ファントムが俺達の前に出て、ついに…その深々と被ったフードを脱ぎ去った。


 ガチガチガチガチガチガチガチガチ

 ガチガチガチガチガチガチガチガチ

 ガチガチガチガチガチガチガチガチ


 八百の鎧が鳴る。どうやら全ての騎士が震えあがっているようだ。無理もない、こんなこの世の終わりのような姿を見たら誰だってこうなる。というかアリストもモアレムもモアレムの部下も皆震えている。


 ズンズンとファントムがティブロンに向かって突き進んでいき、その顔を思いっきりティブロンに近づけた。


 だが気丈にもティブロンはそこに仁王立ちしていた。すっごく顔面を近づけられているのに、立っているなんてそこそこ肝っ玉のある奴なのかもしれない。


 ぴちょぴちょぴちょ。だがティブロンのズボンからは思いっきり汁があふれ出していた。


「ファントム! 戻れ!」


《ハイ》


 ファントムはフードをかぶり俺の側へと戻って来た。


 そしてよく見ると、ティブロンは立ったまま失禁して気を失っていたのだった。あまりにもの恐怖に倒れるのも忘れて、立ったまま失神してしまったらしい。


 可愛そうに。


「まだ戦う意思のある者は剣を取れ! それ以外の物は剣を置き両手をあげろ!」


 すると八百の騎士が一斉に剣を置いた。というかモアレムとモアレムの部下も剣を置いている。


 あんたらは置かなくていいんだよ。


「さあ。アリスト辺境伯! 屯所を改めさせてもらいましょうか?」


「は、はい」


「シャーミリア! 全員の剣を没収だ。あつめてファントムに飲みこませろ!」


「かしこまりましたご主人様。急ぎ対応いたします!」


 そしてシャーミリアがファントムの所に行って指示を出す。


「さあウスノロ! 少しはご主人様のお役に立ちなさい」


 そんないつもの光景をみながら、俺とアリストとカーライルが屯所へと入って行こうとする。俺は忘れてはいけない人を呼んだ。


「モアレムさん! どうぞ一緒に!」


 しばらく呆然としていたモアレムが自分を取り戻し、俺達の元へと走り込んでくるのだった。

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