第813話 新たな接触
デモンは既に森から逃げた後で襲撃してくる様子も無かった。
俺達が乗るチヌークヘリの周囲には、シャーミリアとマキーナ、ルピア、アナミスがM240中機関銃を装備して飛んでおり、それにプラスしてギレザム、ガザム、ゴーグ、ラーズ、スラガがグリフォンの達に乗って12.7㎜M2重機関銃を構えている。さらにエミルが操縦する戦闘ヘリAH-64Eアパッチガーディアンが飛び、30㎜機関砲、AGM-114Lヘルファイアミサイル、AIM-92スティンガー、ハイドラ70ロケットポッドを装備して魔人達を護衛するように飛んでいた。
俺がデモン達と接触した結果、恐らく過剰戦力気味になるだろうとは思ったが、念には念を入れて重装備で進む事にしたのだ。更に俺がデイジーカッター爆弾で破壊しまくった森を見て、デメールとアンジュが泣いている。慣れ親しんだ故郷を焼き尽くされたらそれは悲しいと思う。
可哀想に。
「うううう、ウチの家が…どこにも見当たらない。森の木々が無くなってしまった…」
「デメール様ぁ…こんな、こんなことがあって良いものですか?」
「なんでこんな事に」
二人は俺達の戦闘現場を見ていないから、何でこんな事になっているのかを知らなかった。二人が泣いているのを見て、モーリス先生とアリスト辺境伯がチラリと俺を見て来る。
なるほど…ここは俺が慰めなくちゃいけないところなのか…
「あのー、酷いですよねデモンって。こんなめちゃくちゃにして、今度出会ったら絶対に逃さないので安心してください」
すると二人は捨てられそうな子犬のような目で俺を見て言った。
「絶対そうしてね! ウチに、こんなに酷い事したやつらを許してはいけない」
「デメール様が言ってるんだから、絶対やって!」
「分かりました分かりました! 次は逃しません」
そう言って俺はチラリと、モーリス先生及びアリスト辺境伯を見る。モーリス先生は上出来だ! それでいいのじゃ! と声に出さず表情で語っている。その隣でアリスト辺境伯が、えっ? それでいいの? 本当はあんたがやったんじゃない? という疑念の眼差しで見て来る。
「なので、俺達の仲間になってください。そしたら叶います」
俺はこの機会に、豊穣神を俺達の側に着けようと画策するのだった。こんな都合のいいチャンスがやって来るとは! 森林破壊しておいて良かったとつくづく思う。
「うむ…、ウチは誰の側にもつかんと思うとったが、ウチの森を焼いたやつを倒すまでは共同戦線だな」
バレたら敵になりそうだ。俺は皆を睥睨して絶対に言うなよ! オーラを発した。すると皆が親指を立ててOKのサインをしたり、ニッコリ笑って当然じゃないの! という表情をする。
おっと、魔人たちにも不用意にばれないよう言っておかないと。
《あー! みんな! 俺が森を焼き払った事は豊穣神とアンジュには内緒で》
《《《《《《《《《《は!》》》》》》》》》》》》
よしっと、これで豊穣神は俺達の味方だな。とりあえずこの戦いが終わるまで…、いや、未来永劫内緒にしておこう。
「ラウル様。都市が見えてまいりました」
スコープを覗いていたマリアが言う。ヘリの操縦はティラがやっていた。
「お、着いたか」
するとシャーミリアが指示を求めて来る。
《ご主人様。いかがなさいましょう?》
《うーん、シャーミリア達はそのまま俺達のヘリの周りに居てくれ。ギレザムはグリフォン隊を率いて先行し、都市周辺にデモン及びゼクスペルが居ないか探ってほしい》
《は!》
ヘリの側から、五匹のグリフォンたちが魔人を乗せて飛んで行った。デカいから目立つだろうが、背中に最強の魔人たちを乗せているから問題はない。俺が操縦席に行って前を見ると操縦席からも都市が見えた。
俺は操縦しているティラに話しかけた。
「結構デカいな」
「そうみたいですね」
「人間は無事かな?」
「無事だと良いですね」
そこにギレザムから念話が繋がる。
《周囲にはデモン及びゼクスペルの気配はありません。都市にいるのは人間だけです》
《そうか! 了解だ。ギレザムたちは警戒を解かず周囲を探索してくれ》
《は!》
俺は再び後部座席に戻り、モーリス先生に今の事を伝えた。
「先生。デモンや火の一族はいないようです。神などの存在も確認できず、いるのは人間のみらしいですね」
「と、言う事は、デイジーよ。わしらの出番じゃ!」
「待ちくたびれたわい! あたしがいる意味が無いと思っていたところだったし、腕が鳴るわ」
「じゃが、あまり出しゃばると若い連中が煙たがるんじゃないかの?」
「は? ジジイだけならいざ知らず、あたしを煙たいなんて思う人はいやしないさ」
「なんじゃと? わしだけ邪魔じゃと言うのか?」
「あら、そう聞こえたならそうかもねぇ」
「むぐぐ」
俺はいつもの二人の会話に割って入る。
「まあまあ、お二人とも我が国の最重要人物ですよ。二人が居なければ、ここまでもっと大勢の人が死んでいましたからね」
「うむ」
「まあ、そうだねぇ」
「ではこのまま都市まで飛んで、城門の前に降りるとしますか」
「ビックリされんじゃろうか?」
「ビックリさせるんです」
「…なるほどの」
そして俺はティラにそのまま飛ぶように言った。俺達のチヌークヘリが都市のそばまで行ってホバリングする。俺は胸に付けた無線を取ってエミルの戦闘ヘリに繋いだ。
「エミル」
「あいよ」
「このままギレザムたちと共に都市周辺の警戒を頼む」
「了解」
エミルのヘリはそのまま都市上空を回るように旋回し始める。
《シャーミリア達は俺達と一緒に行くぞ、モーリス先生とデイジーさんの護衛だ》
《《《《は!》》》》
そして俺は後方に乗っているイオナたちに言った。
「母さん達はヘリ内で待機で! ティラは操縦席で待機! ミノスとカララは母さん達の護衛を頼む。ハイラとマコもここに残留だな、カナデは魔獣を呼び寄せられるか?」
「はい!」
そう、カナデは途中、山脈に行って魔獣を使役して帰って来たのだ。一度、使役すると遠くからでも呼び寄せられるらしいのだ。
「じゃあ頼む。透明化してくれるとなおいい」
「わかりました!」
「キリヤとハルトはセルマと共に、ヘリの外にガントラックを召喚するからそこで待機」
「「はい!」」
「ぐるぅぅぅぅ!」
次に二十名の人間兵に命ずる。
「お前達は俺と来い」
「「「「「「「「「「イエッサー!」」」」」」」」」」
流石、オージェ仕込みの兵隊だ。返事がそろってる。
「ルフラとファントムも俺と同行だ」
「はい!」
《ハイ!》
「グレースはどうする?」
「うーん。ラウルさんがいる事だし、僕はここに待機してた方が良さそうです」
するとそれを聞いたオンジも頷く。
「わかった。カーライル達は?」
「そうですね。それではお供いたしましょう」
そしてカーライルはリシェルとケイシーの方を見て言った。
「リシェル様とケイシーは、イオナ様達と一緒にここに居てください」
「わかりました」
「は、はい!」
そして俺は最後にマリアに指示を出す。
「マリアはここで狙撃の体制に入っててくれ」
「はい」
「ではアリスト辺境伯も同行してもらっていいですか?」
「もちろんです」
皆に指示がいきわたり、俺にファントムとカーライルそして二十人の洗脳兵がついて来た。洗脳兵は人間とはいえ、魔人と共に戦闘をしてきたため普通の人間とは違う。かといってデモン達やゼクスペルが相手では分が悪い。だがここには人間しかいないらしいので、彼らくらいでちょうどいいのだ。とにかく少人数だと舐められるし、アリスト辺境伯のお抱え騎士のように見えるだろう。
「行くぞ」
俺達はモーリス先生とデイジーを連れて都市に向かっていく。すると都市の門がしまっていくのが分かる。城壁の上の方に弓矢を構えた兵士が出て来て、恐らく魔導士っぽいのも出て来た。どうやら俺達の事を敵だと思っているか、警戒しているかしているらしい。
「えっと、まずは話かけてみますか」
「そうじゃのう」
俺はすぐにLRAD長距離音響発生装置を召喚し、傍らに置いてスイッチを入れる。
「ではアリスト辺境伯。お願いします」
「わかりました」
アリストにマイクを渡し、この都市の人間を説得してもらう事にする。音量を上げて声がバッチリ届くようにセッティングした。
「あ、あ、聞こえますか?」
アリストが話し始めると爆音で音が流れていく。
「恐らく聞こえてますよ」
「わかりました」
そしてアリストがマイクを口に当てて都市に向かって話し始めた。
「私はウルブス領のアリストである。この度、王都からの連絡が途絶え、不審に思い王都に向かっている。その際このシュラスコ領に立ち寄った次第である。よろしければエルドロス伯爵に御目通り願いたい!」
アリストが言ったので俺が双眼鏡で城壁の上を見ると、ひとりだけ偉そうな白い甲冑を着ている奴が出てきた。でも…俺の想像とは違った人物像だった。俺は双眼鏡をアリストに渡して確認を願う。
「あれが領主?」
アリストは双眼鏡を目につけて確認をした。
「間違いございません。あれがこのシュラスコの領主、シュリエル・エルム・エルドロス伯爵その人です」
「つかぬことを聞くけど、あれは女?」
「左様でございます」
長くて美しいシルバーの髪をなびかせて、周りに指示を出している人がいる。俺は一瞬カーライルタイプのイケメンなのかと思ったら、正真正銘の女騎士らしい。俺はまたアリストみたいなおっさんが出てくるんだと思っていた。
「さて、どう出るかね?」
するとアリストが答えた。
「いきなり攻撃してくる事もあり得るでしょうな」
「危ない奴だね」
「どちらかと言うと攻撃的な性格をしておりますので」
「そしたら力づくで制圧しちゃうけど、大丈夫な感じ?」
「それはラウル様の思うままになさってよろしいかと。ですが民の被害だけは何卒、少なくしていただけませんでしょうか?」
「ま、相手次第かな。極力努力はするよ」
俺達がそんな話をしていると、城壁の門が薄っすら開いたように見えた。すると馬が数頭こちらに走って来る。どうやらいきなり攻撃しないで俺達を確認する事にしたらしい。
「総員! モーリス先生及びデイジーさん、そしてアリスト辺境伯を護衛をしろ! ルフラはデイジーさんにかぶされ!」
「「「「「は!」」」」」
そして俺はデイジーさんの所に行ってこっそり耳打ちする。
「あのー、ルフラの被さりは、ちょっとだけ違和感があるかと思います。ですが俺もカトリーヌも体験している事ですので…」
「なんじゃろ?」
バッとルフラが広がり一気にデイジーに覆いかぶさった。すぐさま浸透し始める。するとデイジーが恥じらう乙女のように、ふるふると震えている。やっぱり婆さんでもあの感覚は苦手らしい。
「大丈夫ですか?」
「こ、こんな感覚ならそうじゃと最初っから言わんか!」
「すみません。まあそうそう体験するものでは無いもので」
「ま、まあ悪く無いのう」
そうなんだ…。あの穴と言う穴からスライムが浸透してくる感覚。あれだけは俺もなかなか慣れない。でもデイジーさんはまんざらでもないようだ。それならそれでオッケ!
俺達のそばまで馬がやって来たが、シャーミリア達に制されて俺達までは近づけなかった。シャーミリアが凛々しい声で言う。
「止まれ!」
馬は止まり離れた場所から騎士が言った。
「お前達は何者だ!」
するとアリストが腹に力を入れて答えた。
「私がアリスト辺境伯である!」
すると騎士の一人がその顔を確認して、後ろの騎士に間違いないと伝えている。騎士達は馬を降りてアリストの前まで来てお辞儀をした。
「恐れ入ります辺境伯! 前触れが無かったように聞いております!」
「ああ、書簡は出してないよ。突然やってきて申し訳ないが、シュリエル卿に伝えてほしいんだ」
「何をでしょう?」
「一度話がしたいと、そして現状についてお伝えしたいと」
「かしこまりました。それではもう少々お待ちいただけますでしょうか?」
「問題ない」
そして騎馬隊は再び都市へと戻って行くのだった。俺としては武力行使しても良かったのだが、アリスト辺境伯の顔を立ててきちんとした段取りを踏む。さてあの女騎士の返答はどんなものか? 出方次第で血を見る事になってしまうかもしれないが…