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第812話 小休止

 神にもいろいろいるなあ…。


 魔神である俺は、魔人達の信仰を系譜という形で受け取っている。精霊神のエミルはエルフや精霊の信仰を受け、龍神のオージェは龍族の信仰を、虹蛇のグレースは南の民の信仰を、アトム神は北大陸の一部の人間の信仰を得ている。


 だがこの南部のド田舎森の奥深くに潜んでいた豊穣神のデメールは、ドルイドと呼ばれる種族だけに信仰されているらしい。だがドルイドという種族はとても希少で、数が極端に少なくほとんど力を得られていないのだとか。昔はたくさんいたらしいのだが、どんどんその数を減らしてしまったという事だ。言って見れば絶滅危惧種といったところだろう。


 ひとまず俺達は再び来るかもしれないデモンの襲撃を避ける為に、一度後退して森を出たところにテントを張り拠点を作った。そして今、俺がアリスト辺境伯を呼んで話しをしている。モーリス先生も交えてこれからの為に情報を踏まえて検討しているのだった。


「アリスト辺境伯は豊穣神を知っているかい?」


「いえ、申し訳ございませんが」


「モエニタ国でいい伝えにもなっていない?」


「そうですね、聞いた事はございません」


なるほど、地元民が知らないんじゃどうしようもない。もう歴史から抹消されるほどに、デメールが引きこもっていたと言う事だろう。そりゃまあ、あんな風に縮みもするか…。むしろ濃縮還元みたいに能力が凝縮されていると良いんだけど、どうやらそう言うわけでもなさそうだし。


「わかった。ありがとう」


 するとアリストの方から話しを切り出してくる。


「ラウル様、なにやら森で敵の襲撃を受けたとか?」


「そうなんだよ。デモンが束になって、豊穣神を攫おうとしていたみたいなんだ」


「それでどのように対応されたのです?」


「まあ…デモンはあらかた焼いたはずだから、すぐには攻撃してこないだろうけどね。また援軍を送って来ないとは限らないから、一旦森を出て下がって来たってわけさ」


 するとアリストは考え込むようなしぐさをして、俺を見つめ言った。


「実はあの森を抜ければ、そこそこ大きい都市があるのですよ。そこの都市は一体どうなっているのでしょう?」


「マジか…、もしかしたら壊滅している可能性もあるな」


「…そうですか」


アリスト辺境伯は歯切れ悪く言った。


「何かあるの?」


「いえ。寝返ったとはいえ私は同じ国の人間ですから、それは気になります。そこを統治していた者がどんな対策をとったのか、ただデモンに蹂躙されたのか? それとも何らかの方法で切り抜けたのか?」


「そこはモエニタ王国の首都に近いんだろ? 敵に与している可能性もあるさ、火神の指示がどんなものか分からないけどね。あともう一つは豊穣神がこっちの手に落ちたので、二の手三の手としてその都市は手つかずの可能性がある。俺達は今まで何度もそういう戦いを強いられて来たからね」


「確かアラリリスもそうでしたね?」


「ああ」


 今まで敵は人間を盾にしてくる事が多かった。ウルブスからここまでの村々が無事だったからと言って、ここからもそうだとは限らない。再び北大陸と同じような手段を取ってくる可能性は十分にある。


「アリスト辺境伯はどう考える?」


「そこを統治している者なのですが、何があっても私のように寝返る事は無いと思います。民の事よりも、自分のプライドを優先させる人でしたから。民を人質に取られたとしても折れる事は無いでしょう。そして王の寵愛を強く受けていましたし、裏切る事は無いかと思いますね。裏切った私が言うのもなんですが」


「そうか」


するとアリスト辺境伯が、気まずそうに俺に言う。


「ラウル様にお願いしたいのです」


「何?」


「もしデモンにやられる事なく無事だったとして、その都市の者を助けていただく事は出来ないでしょうか?」


「善処してみるさ。どうしようも無い時は諦めてくれ、ここまでの敵の所業は慈悲の欠片も無かったからね」


「あと、お願いをしておいて申し訳ございませんが、それに見合う引き換えに渡せる物が何も無いのです。もちろんウルブスの財政から捻出した資金を提供する事は可能ですが、微々たるものでしょう」


「見返りなんて考えていないよ。戦争が終わったら普通に友好的にしてくれればいい」


「ラウル様の御心の広さに感謝いたします」


 現状、ウルブス領で捻出できる物なんて本当にしょぼいと思う。そんなのを貰ったところで、俺達に大きなメリットはないし将来的に返してもらうとしよう。そして俺はアリストから目を逸らし、黙って聞いていたモーリス先生に聞いた。


「先生。なぜ敵は豊穣神を誘拐しに来たのでしょう?」


「恐らくじゃが、こちらには神が五人集まっている。敵さんとしては、それではあまり芳しくないのであろうよ。アウロラもそんな事を言うとったし、十大神のシダーシェンとやらの力関係にも関与しているのではないじゃろうか?」


「そうですね。今だアウロラに神託が無いので何とも言えませんが、既に敵側に何人の神がいるのかが気になります」


「ふむ。はっきりしている事は、七人の神の所在が分かっておると言う事じゃな。あと三人の神は一体どこにいるのやら」


「デメールのようにどこか知らない場所に住んでいるのなら、こちらが先に見つけたい所ですね」


「ふむ」


 俺達はこれから火神の棲む場所へと進軍する。だが、もしその時に神々のパワーバランスが崩れた状態だったらどうなるかは分からない。


 俺達が話をしているところに、テントの外から声がかかった。


「ラウル様。お食事のご用意ができました」


 マリアが呼びに来てくれた。俺達がテントから出ると、香ばしい肉の焼ける匂いが漂って来る。途中で狩ってグレースの保管庫に入れて来た魔獣をさばいて焼いているらしい。俺は思わず大きい声を出して言う。


「いい匂い!」


「本当じゃのう!」


「アリスト辺境伯もぜひ!」


「これはたまらんですな。腹の虫がおさまりません」


 既にテーブルと椅子が並べられており、魔人達がせっせと食いもんを並べている所だった。奥の方でエプロンをしたミーシャとミゼッタと…シャーミリアがこちらに手を振っている。バーベキューと言えばシャーミリアの右に出る者はいなくなった。それだけに焼き加減と味付けに関してはこだわっているのだ。俺が初めてシャーミリアが焼いてくれた肉料理を褒めてから極めるようになった。


 そして近くでは、セルマ熊とグリフォンたちが餌をもらい、もぐもぐと喰らっていた。セルマ熊の中身はメイド長のおばさんなのだが、食に関してはレッドベアーそのものなのが不思議だ。グレースが出してくれたであろうグレートボアを、そのままバリバリとグリフォンたちと一緒に喰らっていた。


「お前達もご飯か!」


「ぐるるるるる!」

「ギャースギャース!」

「ぎゃっぎゃっ!」


「そうかそうか。そう言えばこの辺の魔獣を獲ってないもんな! グレートボア以外にも食いたいかい?」


「がるるるるるる!」

「ゲッゲッ!」

「ギュー!」


「うん。そうだね、ゴーグ達に何か獲って来てもらおうか」


「がうがう!」

「ギャンギャー」

「カォカォ」


「オッケー。頼んでみるよ」


 俺がセルマ熊たちと話し終えると、アリスト辺境伯がまたポカンとした顔で言う。


「えっと、ラウル様は適当に言っているわけではないのですよね?」


「もちろんもちろん! ちゃんと意思の疎通は出来ているよ」


「ははは…、まあそうなのでしょうね」


 でっかい魔獣相手に会話をしているのを、不思議がっているアリスト辺境伯だった。そして彼を連れて食卓へと座ると、今度はイオナが話しかけて来る。


「南の国の辺境伯様。魔人達との対話には慣れましたか?」


「い、いえ。まだ慣れません。そしてこのような事を申し上げては何なのですが…」


「はい?」


「魔人国の美女たちは、まるで御伽噺のようでございます」


 イオナが魔人達をぐるりと見渡して、ニッコリ微笑んで言った。


「そうですね。まるで神々の彫刻のような人達ばかりですものね。うちの息子の目があれに慣れてしまわないかと不安ですわ」


 すると隣に座っているアウロラが言った。


「本当に! お兄ちゃんは恵まれすぎていると思う!」


「えっ、そんな! アウロラ! そんな事無いよ! 俺は別に恵まれてるなんて思ってないし、そもそも彼女たちには彼女たちの幸せがあるだろうし」


 俺がそう答えると、数人の女性が持っている食器を落とした。なんか聞き耳を立てているようにも感じるし視線が刺さっている気もする。


「あの、この通り…どんくさい所もあるのです。ぜひ息子とは仲良くしてあげてくださいね」


「はは…恐れ多い」


 するとカトリーヌがやってきてイオナに言った。


「叔母様、ラウル様はこれで良いのでしょう。もちろん私も一人だけ寵愛を受けれるとは思っておりませんし、ほんの少しだけ私達にお気持ちを割いてくれれば嬉しいと思うばかりです」


 するとイオナが訝しい顔で言う。


「…カティにこんな事を言わせて…」


「へっ? 俺なんかしたっけ?」


 するとマリアが助け舟を出してくれた。


「イオナ様。他国の貴族様もいらっしゃいますし」


「まあ、そうね。ごめんなさいねアリスト卿、こんなお話を聞かせてしまって」


「なんとも…羨ましいと申しますか、こんな事が現実にあるのかと言う思いです」


「それもそうですね」


 なんとか話はまとまって笑いに包まれた。俺はもちろん何をすべきかは分かっているつもりだった。ルゼミアに託されたあの事…俺はそれから目を背けて来た。俺はふと周りを見渡してみる。


 シャーミリア、マキーナ、カララ、ルピア、ティラ、アナミス、ルフラ。めっちゃめちゃ美女集団に囲まれている。よくよく考えたらこれが普通だと思うようになってしまっている。イオナ、マリア、カトリーヌ、ミーシャ、ミゼッタ、聖女リシェルたち異世界の人間だって美しいとは思うが、彼女ら魔人の美しさとはまた違う。今、魔人達と一緒に食事を運んでいる、エドハイラ、キチョウカナデ、ホウジョウマコなど日本に居たら可愛いとされるような人たちが霞むほどだ。


 …めっちゃ重い。それを考えると何故かめっちゃだるくなる。サバゲの延長の感覚でやって来た戦争が癒しに感じてしまうほどだ。だが…いつかは何とかしなければならない。


 俺が考え事をしているとシャーミリアがやってきた。


「さあ! ご主人様! まずはお食事をなさることです! 今は目の前のこの肉をぜひご堪能下さい! 精をつけていただけますよう!」


 そしてカララが側にやってきて、俺の盃に飲み物を注いでくれる。


「さあ! ラウル様! 喉を潤したくださいまし! グレース様が極上のネクターを出してくださいました! 潤いは大切ですからね!」


 ルピアとティラとルフラが来て、俺の目の前にフルーツの盛り合わせを置いた。


「ラウル様! 新鮮な果物です!」

「剥いて差し上げますね!」

「フォークをどうぞ!」


 そしてアナミスとマキーナがやってきて、両サイドから羽の扇子で俺をあおぎ始めた。


「お暑いですわね」

「恐れながらおあおぎさせていただきます」


 な、なんだなんだ! 一体どうしたんだ!


「ささ! カトリーヌ様もこちらへ」


 シャーミリアがささっと、カトリーヌを俺の隣りに座らせた。


 えっ! えっ!


「さあどうぞ。ご一緒にお食事をお楽しみくださいませ」


 いきなり始まった魔人の女達の接待に、俺がどぎまぎしているのを見てイオナやマリアやミーシャがニタニタしている。すると遅れて座ったエミルが言った。


「ラウル、すっごく忙しそうだな!」


「いや、エミル! おまっ」


「本当ですよ、何か僕たちはお邪魔でしたか?」


「そんなことは無い!」


 こいつらは完全に冷やかしに来ている。俺はすっかり裸の王様のように祀り上げられてしまった。それを見たアリスト辺境伯がなんとも言えない顔をしていたが…


「プッ!」


 とうとう吹き出してしまった。


「なっ」


「魔人の将にも弱点はあると言う事ですな!」


「いや…」


 俺が否定しようとすると、モーリス先生が大笑いしていった。


「あーっはっはっはっはっ! ラウルよ! 良いではないか! 明日にはどうなるか分からないのじゃ! 思う存分楽しんだらええ!」


 するとド真面目なカーライルと聖女リシェルまで乗っかって来た。


「ラウル様の将来が楽しみですね! ささやかながら私も応援いたしましょう」


「カールの言う通り本当に楽しみです。ラウル様のお心はラウル様のみが知る。私たちはそれを静観するのみでございますね!」


 珍しくこの二人がちょっと悪ふざけを…


 すると…エドハイラ、キチョウカナデ、ホウジョウマコの日本人グループまでが入って来た。


「何か凄く良い雰囲気ですね」

「なんか凄く楽しそうです!」

「本当に! 今日は何か変!」


 それぞれに楽しそうな顔で俺に言って来る。


 俺は…何か違和感を感じて目線を泳がせた。すると俺の視線に、銀河の騎士のマスターが映る。デメールは目をつむりながら、何か指揮をする様な素振りをしているのだった。


 …犯人はこいつか?

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