第806話 人類最強が合流
最初七人の小隊だった俺の本隊は、一気に二十人以上の中隊に膨れ上がった。とりあえず俺はこの隊の事をラウル中隊と呼ぼうと提案したところ、名を呼び捨てしたくないと言われ、皆で話し合った結果シャーミリア隊と呼ぶ事になった。
シャーミリア隊がウルブス魔人軍基地に到着すると、既に数棟の建物が建っていた。ここには九百人以上の魔人がいる為、かなりの早さで建設が進められているのだった。ミノスとスラガに出迎えられ、彼らから基地建設の進捗の報告を受け終わったところで、俺とモーリス先生、デイジー、ミーシャが基地の状況を確認していた。
やはり爆弾で森を焼いたのが良かった。伐採の手間が省け地ならしも楽だったようで、爆弾で吹き飛んだ範囲が全て平地になっている。またダークエルフ隊がいる為か、平地の基地周辺の木の上には住居が作られており、その住居が監視台の役割もしているとの事だ。これからその木の上の住居周りに外壁を作っていき、外壁の上から住居に楽に行き来が出来るようにするんだとか。
「いろいろと工夫してるんだな」
「ここまでの南進してくるまでの基地建設で、かなりの事を学びましたから」
ミノスが顎に手を当てながら言う。見た感じは世紀末の拳法家の長男のような迫力だが、これまでの基地建設の役割をこなしていくうちに繊細になったみたいだ。ミノスはただただ戦闘力の高い、筋肉馬鹿だとばかり思っていた。
やっぱりいろいろやらせてみるって大事だな…
「それでミノス、相談なんだがいいか?」
「「は!」」
ミノスとスラガが身を乗り出してくる。
「このままシャーミリア隊にお前達二人を組み入れる。ここは魔人たちに任せても大丈夫かどうかを聞きたい」
「大丈夫です」
即答だった。ミノスもスラガも問題ないと太鼓判を押してくる。
「本当か?」
するとミノスが言った。
「彼らはここまでの経験で十分すぎるほど、基地建設の技術を積んできました。むしろこの人数は多すぎるくらいかもしれませんよ」
「そうなのか?」
するとスラガも言う。
「ミノスの言う通りです。幸いにもこのあたりにはわんさか資材があります。あと数日もしないうちに完成するでしょう」
「まあ、そりゃ見りゃ分かるがね」
するとモーリス先生が俺に聞いて来る。
「ラウルよ。ここにも転移魔法陣を設置するつもりなのじゃろ?」
「もちろんです。ここはアラリリスとつなげようかと思っています」
「わかったのじゃ。じきにアラリリスに魔導エンジンが届くでな、それを入れる施設も検討してほしいのじゃ」
するとミノスが言った。
「既に中央部分に基礎が出来ております。その建物はかなり堅牢になる予定で、三重構造となるでしょう」
なんか初めて聞く言葉だったので、俺はミノスに聞いてみる。
「三重構造ってなんだ?」
「はい。数メートルの厚さの外壁の中に五十センチの外壁が二枚入ります。その壁の間にはデイジーミーシャ製の緩衝材が差し込まれます」
「なにそれ?」
「防音、防弾、防火を兼ね備えておりまして、ラウル様から下賜いただく戦車の徹甲弾でも貫通出来ない強度を持ちます」
「マジ?」
「マジです」
「えっと、それってこれまでの基地でも?」
「いえ。砂漠基地から取り入れさせていただきました。あの高い外気を遮断する為に、何か方法は無いかと思っていたところデイジーより教えていただきまして」
俺がデイジーを見ると、うんうんと頷いている。そして隣にいるミーシャに目配せをすると、ミーシャが話し始めた。
「あれは。海の魔獣の素材と大陸の素材を掛け合わせています。エルフの技術をヒントに作らせていただきました」
「凄いね」
「そんなことは…」
「凄いよ」
「ありがとうございます」
砂漠基地の室内が凄く涼しかったのはそのためだったのか。アラリリス基地も快適だったし、丈夫で涼しくてなんて画期的な工法なんだ。
「ミノス。逆にこの基地から何名くらいの魔人を引き抜ける?」
「そうですね…、四分の一は連れて行っていただいても良いかと」
「なら二百人をこの先にあるカリロ村へと送ってくれ。そこでエミル達が連れて来る援軍と合流させる」
「は!」
俺の指示で、基地建設作業中の魔人を集めてもらう事にする。この基地の重要性について、もう一度全員に徹底して話しておこうと思う。そしてこの基地の隊長を任命して管理をしてもらう予定だ。
精鋭部隊の魔人達が俺の前に整列し、凛々しい顔で真っすぐに立っている。やはり進化魔人達は一般の魔人たちとは違い、その強さや動きの練度共にレベルが違う。
「あーみんな! 仕事中ごめんね」
「「「「「「問題ありません!」」」」」」
やっぱ返事の切れも段違いだ。
「ここから更に先に進むために、君らの力を借りねばならない。この先にカリロ村と言う場所があるが、そこに暫定的な駐屯地を設ける予定だ。俺達シャーミリア隊は既に先行している二つの部隊を追うつもりだが、どうしても戦力不足が否めない。北の大陸とは違って人員が圧倒的に足りていないんだ。そしてこの先はここよりもさらに危険が伴うだろう。そこでだ皆の中から、特に戦闘力の高い物を推薦して二百人を選出してほしい」
「「「「「「は!」」」」」」
そして魔人達が話し合いをしながら、少しずつ部隊の前に出て来る魔人が集まってくる。そのうち二百人くらいになったので俺はそこで人選作業を終わらせた。
「選出された者以外は、すぐに任務に戻れ!」
「「「「「「は!」」」」」」
魔人達は一斉に散っていき、残ったのは精鋭部隊のみとなった。俺はその精鋭部隊に号令をかけた。
「この先はデモンとの接触確率が上がる。もちろん進化のチャンスでもあるが、命の危険性が高い。だが俺はお前達にお願いがある」
「「「「「「は!」」」」」」
「とにかく自分たちが生き残る事を最優先にしてくれ! もしどうしても犠牲にならねばならない時は俺が指示を出す。その時は身を挺して部隊を守ってもらうかもしれん。その指示があるまでは、絶対に勝手な判断で死ぬような事が無いように!」
「「「「「「は!」」」」」」
「俺からは以上だ。それじゃあ、あと三十分で出発だ! 身支度を整えて三十分後に集合!」
そう言うと、一気に二百人の魔人たちが散っていく。結局全員がそろったのは十分後だった。俺が貸与した銃火器と自分の背負子を持ってきて、皆が整列をして俺の前に立っていた。
すばらしい。こんなに統率されている奴らが、何に負けるというのだろう? 俺は彼らの出来栄えに満足しつつ、陸路で移動する用の74式特大型トラックを二十台召喚した。
「俺達は先に行く! これで南を目指してほしい! 途中で敵に遭遇した場合は速やかに迎撃行動をとり、前線の俺に無線を繋げろ」
「「「「「「は!」」」」」」
俺は魔人たちにそう告げると、マリア達が待つチヌークヘリの所へと戻るのだった。既に選ばれなかった他の魔人たちは建設作業に集中しており、俺達が出て行くのを見送っていた。彼らだって人間にしてみたら、一騎当千の力をもつ進化魔人だ。俺は彼らに手を振りながらヘリへと歩く。
そして待機しているヘリの隣りに立ち、俺はスラガに言った。
「じゃあスラガ、もう一機をよろしく頼む」
「わかりました」
俺はチヌークヘリをもう一機召喚して、スラガに任せる。そちらにはセルマ熊と日本人達とマキーナ、カララ、ルピアに乗ってもらった。グリフォンたちはヘリが飛び立てばついて来るだろう。
俺達がウルブス基地を飛び立とうとした時だった。
ガガッ! 「ラウル…」
とぎれとぎれだが無線が入る。それが次第にはっきりして来た。
「ラウル、聞こえるか?」
「おお! エミル! ようやく来たか!」
「ああ、少し遅くなったかな。ちょっと話し合いがあってな」
「話し合い?」
「とにかく合流したら分かる」
「わかった。俺達はウルブス基地から南に進んだところにある、カリロ村というところに先に行ってる。追いかけてきてほしい」
「了解」
ようやく来たか。これで人員不足は多少解消されるだろう。心置きなく…とまではいかないが、俺達は先行してギレザム隊を追いかける事が出来る。
「じゃあ一度ウルブスの都市に寄って、アリストを拾っていくとしよう」
「はい」
道案内役を買って出てくれていたアリスト辺境伯を、一旦ウルブスに届けていた。こちらの準備が終わるまで、自分の都市の状況を見たいというので送り届けていたのだった。俺達がウルブスの都市近郊に降りていくと、既に騎士団と共にアリスト辺境伯が待っていた。
ヘリから俺とシャーミリアだけが降りて、集まった騎士団の所に歩いて行く。
「お待ちしておりました!」
「そちらは問題なかった?」
「ええ。私が不在中は騎士団が統治します」
するとコスタ騎士団長が前に出て来て俺に跪いて言う。
「ラウル様。何卒、我が領主をよろしくお願いいたします!」
「無事に帰すさ」
俺がそう言うと、アリスト辺境伯が重ねて言う。
「ラウル様。この国の為に死ぬ覚悟は出来ております。国民を救う為なら、この命などいくらでも捧げましょう」
「分かった。命は俺が預る」
するとコスタ騎士団長が深く頭を下げて言った。
「よろしくお願いいたします」
もちろん、この領地にとってはアリストは絶対に必要な人物だ。死なせることの無いように最善を尽くすとしよう。
「じゃ」
そして俺達は再びヘリに乗り込んで南へと向かうのだった。コスタ村に飛んでいる途中で、エミルの操縦するヘリが追い付いて来た。三機のヘリがコスタ村付近に到着するまでニ十分もかからなかった。
そして俺はチヌークヘリを降り、エミル達のヘリの方に走る。
すると…
「これは! ラウル様!」
とあっちのヘリから爽やかな笑顔で走って来る、めっちゃイケメンの騎士がいた。
「えっ?」
「人手不足と聞いておりましたので!」
「…よくサイナス枢機卿が許したね」
「むしろサイナス枢機卿に薦められたのですよ」
そう言って俺の前に現れたのは、カーライル・ギルバートだった。なぜかファートリアの聖騎士が俺の前に立って、めっちゃ眩しい笑顔で笑っている。
するとカーライルの後ろから死にそうな声が聞こえてくる。
「あの…よろしくお願いします…」
その後ろの人を見ると真っ青になっている聖女リシェルだった。高所恐怖症なのに、よく長時間ヘリに乗って来たもんだ。
「えっ! 聖女様まで?」
「リシェルとお呼び下さい」
「よく、ヘリに乗って来られましたね!」
「死ぬ思いでしたが何とか…」
まさかの聖女リシェルの登場に俺は驚いてしまった。そしてまたまたその後ろから声が聞こえた。
「あの…」
えっ? まさか?
リシェルの後には、なんと…ケイシー神父が居たのだった。
「ケイシー! 前線は危ないんだぞ! 何しに来た!」
「そんな…、何しに来たはないでしょう。僕も役に立つかと思ってついて来たのですよ」
「…そうか。死ぬかもしれないけどよろしくな!」
「いや! 死なないように頑張ります!」
なぜかファートリア神聖国から、カーライル、リシェル、ケイシーが駆けつけてきたのだった。俺がエミルに依頼していたのは、ファートリア神聖国に貸してたナタとクレとマカを連れてきてくれという事。そしてファートリアで働いている、ルタン洗脳兵の精鋭部隊を連れて来れるだけ連れてきてくれという事だった。
それなのになぜか、ファートリア神聖国の中枢人物がそろっている。
後ろからエミルが来て俺に申し訳なさそうに言った。
「なんかさ。どうしても来たいって言うもんだから…俺は断ったんだぜ」
「エミル。ありがとう、今は猫の手も借りたいんだ。最高の戦力を連れてきてくれたよ」
「そう言ってもらえるならいいけど」
そして俺はカーライルと固い握手を交わすのだった。