第800話 冒険者救出
レビン村長から冒険者が魔獣に襲われた地点が記された地図を貰った。それを確認しながら襲撃された地点を目指すと、既に臭いでその場所の方角が分かった。木が焼けた臭いに混ざって、肉が焼けたような臭いが漂って来る。
俺は一度アリストを皆がいる拠点に置いて、俺とシャーミリアとファントムの三人で森に入ったのだった。俺が臭いのする方に近づいて行くと、バラバラになった人間の死体を見つけてしまった。どうやら魔獣はサラマンダーだけではないようだ。
「ご主人様。この先に生きた人間です」
シャーミリアが森の奥に人間の気配を読み取ったらしい。俺からはまだ何も見えないが、既に方角を掌握しているようだ。
「ならそこに行くか」
「は!」
《ハイ!》
そして俺とシャーミリアとファントムは、一気に人間の気配がする方向へと走る。すると俺にも人間の位置を確認する事が出来た。どうやら人間達は地表にいるのではなく木に登っているらしい。魔獣からの襲撃を避けて監視体制をとっているようだ。
ひいふうみい…。まあざっと十五人はいるらしいが、あの魔獣相手には心もとない戦力と言える。皆が持っている武器は剣と弓矢と槍だった。
ファントムは自動でついて来るので、俺はシャーミリアと共に先に木の上の人間の所に飛ぶ。
ザンッ!
「お、うっうわ!」
木の上にいた男が俺達の急な出現に、枝から落ちそうになったのでシャーミリアが片手でグイと持ち上げて枝に乗せた。それでも男が逃げようとするので、シャーミリアがガシっと押さえて離さない。そのまま俺が話す。
「助っ人です」
「す、助っ人?」
「はい。レビン村長、いえアリスト辺境伯の依頼を受けて来ました」
「来ました…て、えっ! いつのまに?」
「今はそんなことはどうでもいい。魔獣の様子はどうですか?」
すると目を白黒させていた男が少し落ち着きを取り戻し、一旦枝に座り直す。俺は反対側の木の枝に座って男の答えを待つ。
「領軍が来たのか?」
いや…俺は魔獣の様子を聞いているんだけどな…。頭が切り替えられないらしい。
「いや、領軍はウルブスにいる。来たのは俺達だけだ」
「え、っとあんたらは?」
「説明は村に戻ったら村長にでも聞いてくれ」
すると、にわかに森の奥から騒がしい気配がする。するとシャーミリアが言った。
「どうやら群れが来たようです」
ピィィィィ、と鏑矢が放たれる音がして、俺の隣りにいる男が言った。
「来た! また来やがった!」
男が青くなり切羽詰まった顔をする。周りを見渡すと、他の木の上に登っている男たちも集中して音が鳴った方に意識向けていた。皆は俺達が来た事に気が付いておらず、ただただ魔獣の襲撃に備えて構えをとっているのだった。すると…
ズンズン! と俺達の木の下をファントムが真っすぐに歩いて行く。その手にはM134ミニガンを携帯しており、バックパックに連結したベルトが揺れている。
「お、おいおい! なんだあの男! 死にてえのか!」
一緒に枝に乗っている男が、ファントムを確認して焦るように叫ぶ。すると他の木に乗っている奴らもファントムに気が付いたようで叫び始めた。
「おーい! あんた! 魔獣が来るぞぉぉ! 早く隠れろ!」
「そっちじゃない! ひとまず逃げるんだ!」
「何をしているー! 聞こえないのか!」
だがファントムは、何も聞こえなかったように先に進んでいくのだった。すると森の奥から魔獣の群れがやってくるのが見える。木々をなぎ倒し何百の魔獣が真っすぐに向かってきているようだ。
「だめだ! 手遅れだ! 援護に行くぞ!」
俺の隣りにいた男が叫ぶので、俺はそれを止めるように言う。
「いや、皆は木の上に居てくれ」
「何を言っている! あいつは仲間じゃないのか?」
「ああ、俺の配下だ」
「見殺しにするのか!?」
「いいや、助けに来て見殺しにするわけないだろ」
そんな話をしているうちに、ファントムの目前まで魔獣が来た。俺はファントムに指示を出す。
《駆除しろ》
キュィィィィィィィィとミニガンが回り出し、毎分2000発から6000発の7.62x51mm NATO弾を吐き出した。すると迫って来た魔獣が、次々に四散し始め周りの草木も飛び散っていく。
「なっ!?」
男たちはその光景に唖然としていた。ファントムに次々に淘汰されていく魔獣を見て、何が起きているのか理解出来ていないらしい。
「シャーミリア。俺達も行こう」
「は!」
そして瞬時に俺達もファントムの側に立ち、シャーミリアはM240中機関銃を俺はバレットM82セミオート式狙撃銃をぶっ放した。次々に粉砕されていく魔獣の破片が散らばっていく。そして俺はときおりM202A1・4連ロケットランチャーを召喚し、66mmM74焼夷ロケット弾を撃ち込んだ。1,200度で燃え上がる炎に魔獣たちはたちまち黒焦げになって行く。
「撃ち方止め」
俺とシャーミリアとファントムが銃火器を撃つのを止めると、森は一面の焼け野原になってしまっていた。魔獣の残骸があちこちに散らばっており、これ以上は魔獣は襲ってこないようだ。
俺が後ろの木の上にいる男たちに手を振ると、恐る恐る俺達に手を振り返して来た。そして俺達が木の下まで来ると、木の上で待機していた男たちが降りてくる。
「なんてえ魔法だ! あの魔獣たちが一斉に蹴散らされてしまった!」
「どうなってんだ? 弓も槍も受け付けない奴らが…」
「あんたらは一体…」
と唖然とした表情で俺達に声をかけて来た。とにかく説明している時間が惜しいので、俺は彼らに伝える。
「とにかくアリスト辺境伯に頼まれて助けに来た。一度村に戻ってくれ、この人数では無駄死にしてしまう」
「わ、わかった。魔獣は波状攻撃をしてきていたんだが、あんたらが討伐したおかげでしばらくは来ないんじゃないか?」
「それはまだわからない。とにかく村へ」
「わかった」
そして男が他の奴らに声をかけて、村に戻るように言うのだった。森の中を歩く中で男が俺たちに声をかけて来る。
「俺達はもうダメだと思っていたんだ」
「ここが死に場所かって思ってたくらいだ」
「まさか生きて戻れるなんてな」
「かなりの人が被害にあったんですよね?」
「あ、ああ。たくさん死んだ。一体何だってんだ…、あんな魔獣が襲って来るなんて」
「それも含めて説明しましょう」
そして俺達は小一時間ほどかけて村に戻ると、村人達が俺達を迎え入れてくれる。すると村人達が冒険者に集まって、労いの言葉をかけた。
「良く戻ってきてくれた!」
「いや、もうダメだと思ったんだがな、この人達が助けてくれたんだ」
「あ、あなた達は?」
村人からも尋ねられたがスルーして、とにかくレビン村長の所へと足を向ける。そのまま男たちも村人達もついて来るのだった。レビン村長宅につくと、村長が首を長くして俺達の帰りを待っていた。
「戻って来た…」
「とにかく冒険者と自警団を救出してきましたよ」
「こんなに早く…」
すると森にいた冒険者達が、俺達が魔獣を制圧した詳細を村長に説明し始めるのだった。そんな話をよそに、俺はカララに念話を繋げるのだった。
《カララ! アリスト辺境伯を乗せて、ストライカー装甲車で村に乗り入れるようにマリアに伝えろ》
《はい》
そして俺達が集まっている場所にストライカー装甲車が迫ってくるのだった。すると冒険者や村人達が騒ぎだした。
「う、うわぁぁぁぁ!」
「魔獣だ! 魔獣が村に攻め入って来たぁぁぁ」
「にげろおおおお」
「ちょーっとまったぁぁぁぁ!」
俺が大きな声で止めると、皆が逃げるのを止めて留まった。そしてストライカー装甲車が停車し天井ハッチが開く。そこから顔をのぞかせたのはアリスト辺境伯だった。冒険者の一人が口を開いた。
「あ、あの方は?」
「アリスト辺境伯ですよ」
「お、おお!」
おおおおおおおおおおおお!
村人からも歓声が上がる。ストライカー装甲車なんて見た事ないだろうが、その凄さは分かるようで冒険者も村人達もアリスト辺境伯の参上に喜んでいた。そしてアリスト辺境伯は後部ハッチから外に出て来て村人達に話しかけた。
「皆の者、よく聞いてくれ! 私が乗って来たこの乗り物は、そこにおられるラウル様のお国の兵器である」
「な、なんと!」
「これが、兵器?」
「いや、あの森での戦闘を見たろ! あれは神の領域だぞ」
冒険者が口々に言うと、村人達も俺をただ者では無いと思ったらしく。二・三歩後ずさって様子をうかがうように見た。
「えーっと、俺は北の魔人国からきた。そしてこの村を魔獣の脅威から解き放ってやりたいと思っている。だから俺達の言う事を良く聞いて欲しい」
周りを囲む村人達が、俺が言っている事を黙って聞いている。そして次にストライカー装甲車から降りてきたのは、リュウインシオンやカトリーヌと配下達だ。皆が俺達のもとに来ると、ほうっと歓声のようなため息が漏れる。カトリーヌとリュウインシオンは控えめに見て綺麗だし、カララとマキーナは人外の美しさだ。ため息が漏れるのも無理はない。
「私はアラリリスの新王、リュウインシオンです。アリスト辺境伯と共にこの地に参りました」
するとそれに対抗するように、カトリーヌが自己紹介をする。今まではこんなことは無かったので驚いたが、何か考えがあっての事だろうと思い自由にさせる。
「私は北大陸ユークリットの公爵の娘です。はるばる北の地から罪人を追ってモエニタ国へと参りました」
すると冒険者も村人も騒ぎ始める。何でいきなりそんな偉い人が、集結するんだと思っているのだろう。よく考えてみると俺も凄い事だなと改めて思う。するとアリスト辺境伯が俺を指して紹介し始めた。
「このお方は、北の魔人国の使者だ。今のウルブス領は彼らの庇護下にある」
「えっ!」
「いまなんと?」
「どういう…」
冒険者の村人も、アリストの爆弾発言に戸惑っている。
「我がウルブス領はモエニタ国を離れ、アラリリス王国の領となった。そしていろいろな条件の元、魔人国の軍事力によって領土を守ってもらう運びとなったのだ」
「し、しかし。辺境伯様は王族の血を引かれる御方では無いのですか?」
村人から声が上がる。確かに王族が国を裏切って隣の国に下るというのは考えにくい。だがそれを押して、アリストがはっきりという。
「私は民がより多く生き延びられる方を選んだのだ。そして此度の魔獣襲撃には、王都の何かが関与している可能性がある。私はそれを突き止めるまでは、この立場を甘んじて受けようと思っているのだ。何も言わずアラリリス国の一部となる事を受け入れて欲しい」
とアリストは村人に深々と頭を下げるのだった。
「そ、そんな! 辺境伯様! 頭をお上げください!」
レビン村長が慌てて言うと、村人達もそうだそうだと合わせて言った。
「辺境伯様は、民の命を最優先に考えてくださったのです。自分のプライドよりも、民の命を優先してくださった! そんな方に頭など下げていただく訳に参りません」
すると今度は逆にレビン村長と冒険者達と村人が一斉に頭を下げる。どうやらアリストの話は通ったようだ。そこで俺はそろそろ話を区切ろうと思う。
「えっと、取り込み中悪いんだがいいかな? 恐らく魔獣の襲撃は終わってない、これから俺達はその元凶を取り除く必要がある。村の防御を固めて、村人達を村の外に出ないように通達してほしい」
俺の言葉を受けた村人達が一斉に散って行った。家に待たせている人や近隣に声がけしにいったのだった。これでようやく気兼ねなく周辺で大型兵器を使う事が出来る。周辺に人間がいると巻き込んで死んでしまう為、絶対に村から出ないようにさせるのだった。