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第798話 サラマンダーも大したことない

 アリストに嘘が無いかアナミスが調べたところ、特に嘘は言っておらず素直にこちらに従っているようだった。だが教会の連中は火神の信者として密偵である可能性があると判断し、魂核をいじって違う人間に作り変えてしまう。 


 また、ウルブス近郊の魔人軍基地建設をミノス、スラガに着工させ、先行調査隊は二つに分けてモエニタ国の奥地へと潜入させた。ギレザム、ガザム、ゴーグ、ティラ、アナミス、ルフラが西の街道を進み、オージェ、トライトン、セイラ、ドランが東の湿地帯から南に進む。


 この先、古代遺跡に魔導エンジンと転移魔法陣を組み込んだら、大量の魔人が送り込まれてくる事となる。それまではモーリス先生とデイジー、そしてグレースと護衛の魔人たちは古代遺跡に足止めとなるだろう。


 そして俺達本体は、ウルブスを出発する事となった。先行部隊からはまだ特に連絡は入っておらず、念話が来ていた所までは危険が無いようなので進むことにしたのだ。俺はアリスト辺境伯とリュウインシオンとヘオジュエに向かって話をしていた。


「未だ先行部隊からは連絡が無いので危険はないでしょう。ですが奥地に進めば何が起こるか分からない、極力魔人から離れぬように気を引き締めてください」


「わかりました」

「足手まといになってすみません」


 アリストとリュウインシオンが答える。マリアが運転するM1126 ストライカー装甲車の中で、俺とアリストとリュウインシオン、そしてヘオジュエが膝を付け合わせているのだ。カララとカトリーヌが隣でその話を聞いていた。


「部下が周囲を護衛しているので、ここは安全だと言っておきましょう」


「はい」


「しかし、凄い物ですな。これは馬もいないのに進むのですな」


 アリストが興奮したように言う。ミサイル巡洋艦は見たものの、動いているところを見せていない。あんなデカい物より、このストライカー装甲車の方が現実味があるのだろう。


「まあそうですね。魔人軍の移動手段としては一般的です」


「鋼鉄の馬車…、これでは何も太刀打ちできませんね」


「人間なら、と行ったところですかね? デモンや火の一族という連中ならそうとも限りません」


「そんなにですか?」


「そうです」


 しばらく走っていると、運転席のマリアから告げられる。


「魔獣です」


「止めろ」


 俺が天井ハッチから顔を出してみると、北では見た事のない魔獣が森からこっちを伺っていた。ちょっと狂暴そうな顔をしたトカゲだが、数匹が頭を上げてこっちを見ていた。俺はハッチから頭を引っ込めて、座っているアリスト辺境伯に言う。


「変なトカゲがいるんですが、アレを知っていますか?」


「失礼する」


 そしてアリスト辺境伯が天井ハッチから顔を出して、森からこっちを見ているトカゲを見る。


「逃げましょう!」


 唐突にハッチから戻って来て、俺に叫んだ。


「マリア、発車しろ」


「はい」


 ストライカー装甲車は急発進した。俺がハッチから頭を出して森を見ると、逃げるように走り出したストライカー装甲車を、サラマンダーが猛スピードで追いかけてきているようだった。


「アリスト辺境伯、あれは何です?」


「サラマンダーです! 火を操ります! 丸焦げにされますよ!」


 なるほど。そりゃ良くない。サラマンダーは飛ぶように走り、見る見るうちにストライカー装甲車に近づいて来た。


「でも、大丈夫ですよ」


 俺が冷静に言う。既にストライカー装甲車の周辺には、シャーミリアとファントムとマキーナが戻って来ていた。シャーミリアとマキーナのM240機関銃と、ファントムのM134ミニガンがサラマンダーに向けられている。


「ご主人様。あれをどうしましょう」


「燃やされたらかなわん。殲滅してくれ」


「「は!」」


《ハイ!》


 走るストライカー装甲車から、後方のサラマンダーの群れに向かって機銃掃射が始まった。次から次にサラマンダーが出て来るものの、圧倒的な火力の前にその数を減らす。ついに追いかけて来るサラマンダーはいなくなってしまった。


「マリア、停めてくれ」


「はい」


 ストライカー装甲車が止まる。そして俺は後部ハッチを開けるのだった。そこにサラマンダーはおらず、静かな森の間に街道が続くだけだった。


「いない…」


「殲滅しました」


「サラマンダーを?」


「そうです」


「先ほどの轟音は、その…魔法でしょうか?」


 アリスト辺境伯が唖然としながら言った。そう言えばあのデイジーカッターの爆弾以降は、彼に俺の武器を見せてはいなかった。俺はアリストとリュウインシオンに車から降りるように言う。


「何をするのですか?」


「まあ見ててくれればわかりますよ」


 そしてシャーミリアとマキーナに目配せをして、森に機関銃を向けさせる。ファントムをそれにならうようにミニガンを同じ方向に向けた。俺はストライカー装甲車の上に乗っている12.7㎜ M2重機関銃を構えた。


「てー!!」


 ズドドドドドドドドドドドドド


 森の木々が倒され、見る見るうちに草木が刈られていく。その圧巻の光景に、アリスト辺境伯もリュウインシオンもヘオジュエも唖然としていた。リュウインシオン達は見た事があるかと思うのだが、それでも恐怖を感じるらしい。


「やめ!」


 俺達が銃の掃射を止めた。そして俺がアリスト辺境伯へと尋ねる。


「これのおかげで、サラマンダーを撃退する事ができました」


「…あ、ああ…。これは、このような暴力が存在するのですか…」


「うちの軍隊に所属している者には全てこのような武器を携帯させており、それらを使いこなす事が出来ています。もちろん剣や槍、格闘でも人間など比較にならないほどの強さを持っている者がごろごろいますが」


「は、はは…。そうですか…、私が軍門に下った判断は間違っていなかったのかもしれない」


「良い判断だったと思いますよ。とにかく、また魔獣が来てしまったら無用な殺生をしなければならない。早くここから立ち去りましょう」


「先行部隊は大丈夫だったのでしょうか?」


 なるほど、そこが疑問だったわけね。


「あの魔獣を脅威だと思っている部下はいないという事です。もしかしたら、捕まえて食っちゃったかもしれませんしね。なんでも食うやつがいるんですよ、うちは大食らいが多いもんで」


「…そうですか…、サラマンダーを食う…ね」


「まあそうです」


 そして俺達は再びストライカー装甲車に乗り込んで先を急ぐ。あえてヘリで飛ばないのは、敵に俺達の進軍を悟られないようにするためだ。とはいえ、敵もどういう能力を持った奴がいるか分からないので、こうして人間を装甲車に入れて輸送している。


「あれが、我が民に降りそそぐ事が無くてよかった」


 アリスト辺境伯がポツリと言うと、リュウインシオンがそれに答えた。


「我々はあれに助けられました。そしてもっと凄い武器をたくさん見せていただきました。もしアラリリスが魔人軍に敵対すれば、恐らく一夜にして平地になってしまうでしょう」


「まあ…それは分かります。我々とて同じこと」


「はい」


 なんとなく化物を見るような目で、二人が俺を見ているような気がしたので訂正させてもらう事にしよう。


「私は道理の通らない人間ではありません。逆に道理が通らなかったり不条理なものに対して怒りを感じたりはしますが、話の分かる人間に刃は向けませんよ。とにかく平和を愛する男です」


「わかりました」

「肝に命じましょう」


 リュウインシオンとアリストが神妙な面持ちで答える。するとシャーミリアから念話が入った。


《ご主人様。村があります》


《その村は危険なしとギレザムから連絡を受けている》


《通過しますか?》


《いや、ひとまず周辺の警戒にあたれ。こちらで確認する》


《は!》


 そして俺はアリストに向かって聞く。


「村が見えるそうです」


「カリロ村ですね。もうこんなところまで来たのですね…早すぎます」


「どうします? 村人は放っておきますか?」


「一度、私が話をいたしましょう。私の言葉なら耳を傾けるでしょうから」


「わかりました」


 そしてアリストと俺は後部ハッチから外に出る。そして中に乗っているカララに伝えた。


「マリアやカティ、リュウインシオン達の護衛を頼む」


「かしこまりました」


 リュウインシオンが俺に何かを言おうとして止める。まあ特には聞かないでおこうと思う。


《マキーナは外部の警戒を頼む》


《は!》


 念話で伝えると、すぐにマキーナが現れストライカー装甲車の上に降りる。


「いやはや…、驚いても驚き足りません」


 アリスト辺境伯がマキーナを見て言った。やはり空を飛んでいると言う事が、受け入れにくいようだ。そんな事は全く意に介さずマキーナは周辺を警戒している。


「うちの軍には、飛ぶのが大量にいます」


「それで…あの武器で地上攻撃されたら」


「人間に抗う術はないでしょう」


「そうですね…」


 アリストは魔人軍の脅威を再確認したようだ。もともと航空戦力などないこの世界で、機銃を持ったヴァンパイアやハルピュイアやサキュバスなど悪夢にしかならない。機銃を持っていなくても、厄災級の力を持っている奴らなのだから。


「我々は極力安全に敵を倒す術を身に着けています。なるべく死亡者を出さないように戦うのが、魔人軍の戦いと言っていいでしょう」


「死亡者を出さないで戦う…、言葉の意味は分かりますが全く想像がつきません」


「戦いになればわかりますよ。それでもここに来るまで数名の一般兵を失いました。怖いのはデモンや火の一族だけではない、強い魔法を使える人間も脅威となります」


「魔法使いですか…、ですがそんな強力な魔法使いなど、伝説の大賢者くらいではないでしょうか?」


 ああ…それ、俺の先生ね。


「まあそんなところです。それでも、魔人軍が大挙して兵器を持って来ればひとたまりもないはず」


「でしょうねぇ」


「ええ」


 そんな話をしながら、アリストと俺は村に向かって歩いて行く。シャーミリアとファントムが俺達を護衛しているので、全く危険は感じなかった。アリストは少し緊張した面持ちで、村に近づいて門を潜る。そこで俺がアリストに尋ねる。


「番兵とかはいないんですね」


「こんな小さな村に番兵はいませんね。自警団のような奴らがいるだけです」


「なるほど」


 そしてアリストはためらうことなく、村の中心へと向かって歩く。村人達が異様な俺達を見て、ひそひそと噂話をしているようだ。シャーミリアは絶世の美女だし、ファントムは只ならぬ雰囲気を持っているからそれは仕方がない。


「あそこです」


 アリストに連れられて行くと、大きめの建物が見えて来る。すると建物から慌てて、年配の男が飛び出てくるのだった。


「ウルス辺境伯様! 突然こんなところに!」


「レビン村長。急な訪問すまないね」


「そんな! 滅相もございません! というよりも報告せねばならない事が…」


 アリストだけを見ていた、村長がシャーミリアやファントムに気が付いた。


「あの、この方達は」


「話せば長くなる。ちょっといいかな」


「は、はい! お入りください!」


 レビン村長が扉を開けると、中から使用人が飛び出して来てアリスト辺境伯に頭を深々と下げた。


「気にしないでほしい。とにかく話を」


 アリストがそう言うと村長宅の奥へと案内される。俺達もそれを追うように村長宅に入って行くのだった。アナミスが既に問題なしと判断した村なので危険はないだろうが、一応シャーミリアに目配せをして警戒させるのだった。

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