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第789話 最初の町を攻略する前に

俺がギレザム達に合流できたのは深夜一時頃だった。攻略する目的の都市からはかなり東に逸れていたが、問題なくヘリが着陸できる場所を確保した結果だという。夜間の方が確認しづらいだろうとの事だったので、俺達にとっては都合が良かった。


「随分食ったな?」


「はい! ラウル様! このあたりの魔獣はかなり美味いです!」


 俺が尋ねるとゴーグが元気よく答えた。ゴーグが獲って来た大型の鰐の魔獣の首を、ギレザムが斬ってぶら下げたところ、血が小川に流れ込んで気がついたら湖にバシャバシャと魚が湧いたのだと言う。そこら中に焼き魚の骨が落ちていた。すると元気よく答えるゴーグにギレザムが口を挟む。


「こら。今は作戦行動中だぞ。お前は食いすぎなんだ」


 ゴーグが少しシュンとした。可愛そうなので俺がフォローを入れる。


「いいじゃないかギレザム。そんなにうまいのかその魚?」


「はい! 歯の部分が硬くて食べられないけど、身がとてもうまいです!」


 ゴーグが目をキラキラさせていう。


「せっかくだから、俺達にも食わせてくれ」


 俺が言うと、オーガ三人衆は急にやる気を出して返事をした。


「今、焼きます!」

「はい!」

「ギレザム! 私に串をくれ!」


 そう言ってギレザムがずるずると引きずってきた魚は、想像した物よりかなりデカかった。


「えっ! そんなにデカいの?」


「ははっ。これはラウル様達が来た時の為に取っておこうと、ゴーグがしまっておいたのですよ」


「ありがとなゴーグ」


「はい!」


 そしてギレザムが、その魚をものの見事に大剣で解体してしまった。そしてさらに細かくガザムが短剣で切っていく。その鮮やかな短剣さばきに俺達が魅入る。するとリュウインシオンが二人の技術を褒めだした。


「素晴らしいです! その昔、シン国から流れて来た…板前という職業の人のようですね」


「見たことあるのかい?」


「ええ。それは鮮やかな包丁捌きでしたよ」


「それと同等と言う事?」


「はい」


「なるほど、じゃあ戦争が終わったらギレザムとガザムは板前でもやるか?」


「ご冗談を。我が大剣を振るうのはラウル様の為だけですよ」

「私もです。この短剣は、ラウル様に仇なす者を切る為の物」


 それにしては、随分手際よく魚を捌いていたような気がする。海の新鮮な魚だったら、活け造りとかも出来そうな手際だった。グラドラムに帰ったらぜひやってもらおう。


 そして木の枝に刺した、切り身を焚火の脇に立て始める。


「私も手伝います」


 マリアが言うと、ギレザムが手で制した。


「マリアはいつもやっている。ここは俺達がやるから問題ない」


「ありがとう、ギレザム」


「遠慮なく食ってくれ」


 そして焼けた串を俺に一番最初にくれた。そしてギレザムが行軍用のリュックから小瓶を取り出した。それはミーシャが皆に携帯させた、特製の香辛料だった。俺達の間では魔法の香辛料と呼ばれ、何にかけても美味くなる魔法の粉だ。するとゴーグがにっこにこしながら言う。


「ラウル様。焼いた後にかけると美味かったです」


「わかった」


 そして串に刺さった身を見ると、美味そうな白身の魚だった。それにミーシャ特製の香辛料をかけて、一口かぶりついてみる。口の中にとろりとした魚の脂と、香ばしい焦げ目の匂いが広がる。そしてミーシャの魔法の香辛料がその美味さをピリリと引き立てていた。


「うまっ!」


「よかったです!」


 そしてカトリーヌやマリア、リュウインシオンやヘオジュエにも手渡しで渡していく。皆が魚に魔法の香辛料をかけて、一口かぶりつくと…ぶわっ! と幸せなオーラがふきあがってくるのが見えた。


 分かるなあ…。これ相当美味いぞ。グラドラムの海の魚ももちろん美味いが、淡泊ながらもまた違った甘みがあって美味い。この湖で漁をしていた舟があったと聞いたが、もしかしたらここらの名物なのかもしれない。


「お、おいしい!」

「本当ですね!」


 カトリーヌとマリアも絶賛している。すると隣で食べていたリュウインシオンも言った。


「すばらしいです! こんなルィーバは初めて食べました!」


 聞きなれない名前に、俺が聞き返した。


「この魚はルィーバというのかい?」


「そうです。アラリリスから最も近い都市、モエニタ国の北部都市ウルブスの高級食材です」


「食べた事はあるんだね」


「そうですね。ですがアラリリスに来る時は燻製になってきます」


「なるほどね。鮮度が保てないから当たり前か」


「はい」


 どうやらリュウインシオンとヘオジュエは、その都市の事を知っているらしい。そりゃそうか、あんなドゥムヤ人形に汚染されるまでは、普通に交流していたんだもんな。リュウインシオンとヘオジュエが、何か感慨深いような顔でその魚をかじっている。


「魚だけだとあれだな」


 そして俺は戦闘糧食の赤飯缶を人数分召喚した。


「シャーミリア、マキーナ。蓋を開けて配ってくれ」


「「かしこまりました」」


 するとリュウインシオンがその光景をじっと見つめている。


「まるで…神の力です。いったいどこから出て来たと言うのか…」


 いや、何度か見ていると思うが、やはりそう言っちゃうか。軍用車両やヘリコプターに比べたらそんなに驚くような事も無いと思うけどなぁ。


「そのうち見慣れてくるよ」


「え、ええ…」


 すると今度はヘオジュエが話す。


「ラウル様がいらっしゃれば、兵糧攻めなどの手段は使えないと言う事ですな。何年でも籠城し続けられるとしたら脅威です。そして進軍するにおいても、兵站線の確保がいらない。魔人軍が最強の軍隊とされるのは、ラウル様があってこそという事なのでしょう」


 まあ、だいぶ正解に近い。俺がどうにかなれば、この世界に広く伸び切った戦線を維持する事は困難だ。そしてこんな無茶な行軍も、いずれ出来なくなってしまう。グレースの保管庫にため込んでいる兵器が使い終われば、この世から現代兵器は消え失せるだろう。


 そういった事を一発で見抜けるヘオジュエは只者ではない。現代兵器の事を良く知らないのに、その影響力をほぼ正確にとらえているようだ。俺は素直にヘオジュエを褒める。


「ヘオジュエは鋭いね」


「いえいえ。私などラウル様の軍においては、全く役に立つことは無いでしょうな」


 そんなことは無い。いくら身体能力が高くて強い兵器をたくさん使えるからといっても、戦術が不味ければ負ける可能性もある。そういった事を俯瞰して見れる能力はとても重要だ。俺はそれを見込んで、ヘオジュエにある事をお願いしてみる。


「そんなことは無いよ。このあたりの地図を書けるかい?」


「はい。おおよその物でよろしければ」


「ファントム!」


 俺はファントムを呼びつけ、体内にため込んでいる羊皮紙とペンを吐き出させる。もちろんリュウインシオンとヘオジュエが見えないところでだ。見えるところでやっちゃうと、卒倒してしまう可能性がある。するとヘオジュエがそれに気が付いて言う。


「いやはや…、ラウル様の家臣様も驚いた能力をお持ちだ」


 だがその言葉に待ったをかける者がいた。


「このようなウスノロが家臣? お前の目は節穴か?」


 物凄く冷たい目で、ヘオジュエを見下ろすシャーミリア。ファントムが自分達と同等の家臣などと呼ばれた事が、気に入らなかったらしい。


「ミリア。ファントムも立派な仲間だ」


 俺はシャーミリアが何かを起こす前に、シャーミリアに釘を刺した。


「し、失礼いたしました! ご主人様、罰は何なりとお申し付けください」


「罰も無し!」


 シャーミリアが、そんなぁ…という顔をしているがスルーしておく。だが今の一連の会話に、今度はリュウインシオンもヘオジュエに言った。


「ヘオジュエ。その国々でしきたりや考え方は違うものです。同じ感覚ではない事を知るべきだ」


「失礼しました。シャーミリア様、不用意な発言をした事をお詫びします」


「ご主人様がお認めになっているのだから、その様な謝罪はいらないわ。だがアレ(ファントム)は私奴たちとは同列ではない事を覚えておいてほしい」


「分かり申した」


 まあ、こうやってお互いの価値観をすり合わせしていくのは大事な事だ。俺達にもアラリリスの価値観が分からない事があるだろう。


 まあ…魔人軍で難しい人と言ったら、シャーミリアくらいしか居ないような気もするけど。


「それで、これに地図を記してほしい」


「もちろんです」


 そしてヘオジュエは羊皮紙に、都市ウルブスの位置とユアン湖の大きさと位置。周辺の森の感じまで克明に描いて行くのだった。上空写真とか無いのに、良くここまで地図が書けるもんだ。出来上がった地図を俺に見せて来る。


「このような感じです」


「なるほどね。都市の大きさはアラリリスに比べてどのくらいだ?」


「モエニタのへき地にある都市ですので、それほど大きくはありません。アラリリスの五分の一ほどとなるでしょう」


「湖の大きさは?」


「これはかなり広いです。アラリリスの都市面積の五倍はあるでしょう」


「そんなに大きいのか?」


「はい。そして中心部はかなり深いと聞き及んでおります」


「なるほどね」


 そりゃかなり大きいな。漁業が盛んだという意味が良く分かる。


 皆が一通り飯を食い終わる頃、もう時刻は午前二時となった。そろそろ人間達に休息を与えようと思う。


「カティ、マリア、リュウインシオン、ヘオジュエ。作戦はまだまだ長い、ここで二時間ほど仮眠をとってもらう。みんなでここにテントを張るんだ」


「「「「「は!」」」」」


 魔人達が手際よくテントを設営した。二つに分かれたテントを指さして俺が言う。


「一応、女性と男性用に分けている。リュウインシオンが差し支えなければ、カトリーヌとマリアと共に」


 俺が言うと、リュウインシオンがカトリーヌとマリアに向かって言う。


「私が一緒でよろしいのでしょうか?」


 するとカトリーヌが答えた。


「もちろんです。そしてリュウインシオン様もお気遣いをなさらぬよう」


「分かりました。それではご一緒させていただきます」


 これで少しは打ち解けてくれるといい。寝食を共にすれば連帯感が生まれると思うし、これからの行軍において親しくなってもらう必要がある。


「ガザム、ゴーグはヘオジュエと一緒に休んでくれ」


「私には休みは必要ありません」

「俺もいらないです」


「いや、交代制で休んでおこう。ギレザムはこれから俺と、進路などの確認を行う。マキーナとルフラは、この拠点を護衛するようにしてくれ」


「かしこまりました」

「はい」


「シャーミリア、ギレザム、ファントムは、俺と一緒に作戦立案の為の情報収集にあたる」


「「は!」」

《ハイ!》


 よし! いい返事だ。ファントムが。念話でハイ!しか言わないが、十分だ。


「じゃあ行って来る。警戒を怠るなよ」


「「「「は!」」」」


 ガザム、ゴーグ、ルフラ、マキーナが返事をした。ガザムとゴーグは休むと言っても、何かがあれば瞬時に戦闘態勢に入れる奴らだし、この拠点の防衛はこれで十分だ。


「しかしヘオジュエ。この地図は助かるよ」


「お役に立てるようであれば何よりでございます」


「役立てるのはこれから、そこからは俺達の仕事だ」


「はい」


 ヘオジュエが俺に頭を下げた。本当に優秀な軍人だと思う。あのアラリリスの極限状態でも民を逃がし洞窟都市を作り上げたのは、ほとんどヘオジュエの功績らしい。かなり優秀だと思って良いだろう。


「行くぞ!」


「「は!」」

《ハイ!》


 俺達はテントを離れ、暗闇へと紛れ込んでいくのだった。暗いといっても月の明かりがある。足元はだいぶ悪いようだが、俺達が進むうえでは何も問題は無かった。


 俺達は暗闇をひた走り、都市ウルブスの攻略の糸口を探すのだった。

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