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第788話 先行部隊 ~ギレザム視点~

 我ら三人が先行してモエニタ国へと侵入し、向かう方角の確認をしていた時だった。ラウル様から下賜いただいた装甲車を停めてあたりを見回していると、我らを監視するような気配を感じた。


「何人かいるな」


 我がガザムとゴーグにそう告げるとガザムが答えた。


「デモンの類ではないぞ」


「ああ。恐らくは人間だ」


 するとゴーグがキラキラした眼差しで言う。


「狩っちゃう?」


「まて、ラウル様からは深追いするなと言われている」


「そうなんだー」


 だがそのまま見過ごすわけにもいくまい。


「揺さぶりをかけてみるか」


「そうだな」


 そして俺達が検討した結果、一度ゆっくり撤退する素振りを見せてみようと言う事になった。三人が装甲車に乗り込んで、もと来た道を戻って行く。このあたりは森林地帯になっており、アラリリスから真っすぐに伸びた街道があった。我は後方で監視を続けるゴーグに問う。


「どうだ?」


「ついて来る。馬だよ、臭いがする」


 ゴーグが言った。かなりの距離があるが、ゴーグの鼻ならば正確だろう。


「なら、ガザム。このあたりで森に潜伏してくれ」


「わかった」


 ガザムは装甲車の中から消えた。隠密の力で気配を消し森に潜むだろう。


「ゴーグ、どうだ?」


「一定の距離で近づいて来る」


「ならばガザムが潜伏したあたりに差し掛かったら教えてくれ」


「わかった」


 そうしてほんのわずか走ったところで、ゴーグが合図をくれた。その合図で装甲車を停め、頭を今、戻って来た道に向かうように方向転換する。


「相手も止まったな」


「近づいてくる事は無さそうだね」


《ガザム何か確認できるか?》


《相手は騎兵だ。六騎ほどいる》


《人間の兵か?》


《そうだ》


 そのやり取りをしている時だった。不意にラウル様から念話が入る。


《全部隊に告ぐ。最前線の基地候補を発見した》


 どうやら飛行部隊が目的の前線基地候補地を見つけたらしい。だが今は持ち場を離れる事は出来なかった。


《ラウル様。我々の合流は遅れそうです》


《どうしたギレザム》


《不穏な動きを察知しましたので、ただ今追跡中です》


《深追いはするなよ。行ける範囲でいい、俺が合流するまで待て》


《は!》


 ラウル様が合流して下さることになった。だが作戦は、ある程度進めておいた方が良いだろう。深追いしない程度で、敵の正体を暴く必要がある。


《ガザム、聞いての通りだ。ラウル様がこちらに出向いてくるぞ、それまでに敵の正体を掴みたい》


《ああ。ならば再びこちらに車を走らせるんだ。一定の距離をあけているのなら、恐らく相手は引き返すはずだ。私が追跡する》


《頼む》


 そして我は再びモエニタ国の内部に進むように、装甲車を走らせるのだった。案の定、相手騎馬隊は一定の距離を保ちながら今来た道を戻っている。ガザムが追跡を行っているので、そのまま車を進める事にする。


「ギル、どんな相手かな?」


 ゴーグが興味津々に聞いてくる。


「わからん。だが、敵とも限らん。まずは正体を突き止めよう」


「わかった」


 しばらく走り続けたが、これ以上は罠の可能性もある。一度様子を見た方がいいだろう。二人にそう伝え我は装甲車を停めた。するとガザムから念話が来る。


《やはり、こちらも停まったぞ》


《勘が良い奴が混ざっているな。完全に距離を見計って止まるなど、簡単に出来る芸当ではない》


《私が出来るだけ近づいて、探ってみよう》


《細心の注意を払え》


《了解だ》


 そのままそこに停車し続けているが、一向に敵が動く気配は無さそうだった。一体、騎馬隊の目的は何なのだろう? ガザムからの連絡を待つことにした。


《ギレザム》


《なんだ?》


《どうやら騎馬隊の連中は、装甲車の事を魔獣か何かだと勘違いしているようだ》


《なるほどな。と言う事は我々の事を知らない奴らと言う事か…》


《そうなるな》


 てっきり我々を待ち伏せしている敵軍だと思ったが、どうやら魔獣を警戒している兵隊のようだ。どこから来たのか分からないが、一度車両を隠して我とゴーグも潜伏したほうが良いだろう。


《ガザム。馬ならば装甲車の全速力についてくる事は出来ない。一度戻り車両を隠してくる、引き続き追跡を任せた》


《了解だ》


 そして再び車両の方向を変えて、今来た道を全速力で戻る事にする。すると次第に相手との距離は開き、すぐにガザムから念話が入る。


《相手が追うのをやめたぞ、そしてどうやら戻って行くようだ》


《よし。我らもそちらに合流する。ガザムは先行して彼奴等が何処に戻るのかを探ってくれ》


《わかった》


 我らは森へ車両を隠し、車から下ろした銃火器を背負て、全速力で森の中を走り抜けていく。ラウル様から下賜いただいたリュックサックにはいろんな道具が入っていた。今度はおかしな気配を感じる事も無く、順調に進むことが出来た。このあたりは北大陸とは雰囲気が少し違うようだ。見た事の無い動物や魔獣が多く生息しているらしい。


「ギル! いろんな木の実があるみたいだよ」


「そうだなゴーグ。だが今は作戦に集中しろ」


「わかってる」


 我らが更に奥へと侵入していくと、森林地帯が途切れて草原が広がった。街道は草原の中を更に南に進んでいるようだが、既に騎馬隊の姿は見えなかった。


《ギレザム。都市だ。都市に彼らは入って行ったようだ》


《都市か…》


《どうする?》


《潜入はするな。インフェルノや転移魔法陣、デモン召喚魔法陣が仕掛けている可能性もある》


《了解だ。では私は市壁の外から監視を続けよう》


《まもなく合流する》


《東側の草の足が長い、隠れて侵入するならそこを通れ》


《わかった》


 ガザムの指示通りに東へ進むと、足の長い雑草が生えた草原となる。少し足場がぬかるむようだが、我とゴーグにはどうと言う事は無かった。どうやらこのあたりは湿地帯になっているようだ。


「ギル! 面白い魔獣がいるよ!」


「今は放っておけ」


「わかった」


 どうやら湿地帯に潜伏している魔獣がいるようだが、派手に暴れれば俺達を監視している相手に感づかれる可能性がある。今は魔獣を刺激しないように、気配を消して進むべきだろう。しばらく進んでいくと、蔦が生い茂る湿地帯の森へと到着する。そこにガザムが潜んでおり、我ら三人は合流したのだった。


「あそこか」


「ああ」


そう言ってガザムは、ラウル様から下賜いただいた双眼鏡を我に渡してくる。双眼鏡を覗くと、都市は普通に機能しているように見えた。人間も出入りしているようで、門にはきちんと番兵を立てているようだ。我はすぐさまラウル様に念話を繋げた。


《ラウル様》


《ギレザム! どうなった?》


《正体不明の小隊は、ある都市にいた騎兵隊のようです。そこがどういった都市かは分かりませんが、追っていた人間たちはその中に入ったようです》


《了解だ。俺達は今砂漠の拠点候補で、兵器などの補充を行っている。すぐに向かうが、もうしばらく待っていてくれ。くれぐれも都市には手を出すな、敵の罠が設置している可能性がある。モーリス先生とデイジーさんは、魔導エンジンを取りに行ったから魔法陣があっても解除できない》


《は!》


 どうやらラウル様のもとに恩師様がいないらしい。だとすれば、あの都市の人間を犠牲にしてしまう可能性がある。強硬手段をとるわけにはいかないようだった。


「ひとまず都市の監視は必要なさそうだ。それならば、この周辺で目立たずにラウル様達のヘリが着陸できる場所を探すべきだろう」


「わかった」

「はーい」


 我ら三人はここから東へと移動する事にした。ヘリなら都市近隣に着陸すれば目立ってしまう。陸路で移動するかどうかはラウル様の判断になるが、安全にヘリが着陸できる場所は確保せねばなるまい。


「しかしこのあたりは、足がぬかるむね」


 ゴーグが足元を見て言う。この湿地帯は延々と続いているようだ。更に東へと突き進むと、広い水源地域が広がっていた。かなりの広さの湖に我らは迂回する事を選んだ。


「ん? どうやら湖にも人間がいるようだな」


「ほんとだ」


 人間達は湖に小舟を浮かべ、漁を行っているようだった。我らはそれに見つからぬように、蔦の森に潜みさらに東へと進んでいく。


「あれ、魚獲ってるんだよね?」


「恐らくはそうだろう」


「美味しいのかな?」


 そして我はある気配に気が付いていた。


「どうだろうな。それよりも気が付いているか?」


「ああ」

「そうだね」


「デカいのが水中から追いかけてきている」


「なんだろ? 蛇か竜か、でもノロいよ」


「我らの速度にはついて来れまいが、あれは利用価値があるかもしれん」


「そうかもな」

「じゃあ、カナデの出番かな?」


「残念ながら、今回の作戦には参加していない」


「なら夜中に人間がいなくなったら、狩って食べたらいいんじゃないか?」


 やはりゴーグは食う事しか考えていない。しかし、もし我らの脅威になるのであればそれも良いだろう。恐らくは巨大な魔獣だと思うが、これもラウル様の判断を仰ぐしかない。


 湖を迂回し湿地帯を抜けると草原になった。更に遠くに山脈が見えるが、これ以上はかなり距離が開くため恐らくはこのあたりに潜伏したほうが良いだろう。


「このあたりが良いだろう」


「だな」


「じゃ、森の奥で食うもん獲って来る」


 ゴーグは居ても立っても居られないようだ。


「あまり深入りするなよ」


「わかったー」


 ゴーグが我とガザムのもとを離れ、森林地帯へと走って行ってしまった。恐らく相当腹が減っているのだろう、さっきからずっと魔獣が食いたいと言っている。あんまり腹が減ると、ゴーグがこっそりなんでも食ってしまいそうなので許可を出した。そして我はガザムに語りかける。


「しかし、騎馬隊か…」


「ギレザム。まるで普通の人間の兵士だったぞ」


「だな。まあ魅了されているかどうかは分からんが、シャーミリアが来れば分かるだろう」


「北大陸とは、だいぶ勝手が違うような気がするな」


「そうだな。アラリリスもシン国も人々は普通に生かされていた。まあ、アラリリスは恩師様のお力で魔法陣を解除したからだと思うが、明らかに北とは違うような気がする」


 そのやり口から考えても、こちらを統治している者はむやみに人を殺そうとは思っていない気がした。先ほどの都市では人々が普通に暮らしていたように見えた。魔獣が出ても兵隊が出動して、防衛するくらいのまともな軍がいそうだった。するとガザムが言う。


「デモンの気配は未だないが、アラリリス南部では気配がしたんだがな」


「デモンを追跡したつもりが、普通の人間の兵に会うか…」


「まあ、油断は出来ないということだ」


「そうだな」


 我らが今までの経緯から事の推測をしていると、ゴーグが獲物を持って戻って来た。北では見たことが無い、大きな五メートルくらいあるトカゲのような魔獣だ。口が長く耳のあたりまで牙が生えている。へらべったいその体はごつごつしていて、とてもじゃないが美味そうに見えなかった。


「これはどこで獲って来た?」


「森の湿地帯にいたよ。沼に入りそうだったから手を突っ込んで尻尾を引き抜いた」


「なるほどな。食えるんだろうか?」


「わかんない」


 そして我は腰の大剣を引き抜いて、その魔獣の首を落とした。そして尻尾に縄を括り付けて、木にぶら下げると首から血がぼたぼたと零れ落ちる。


「他の魔獣を釣ろう」


「分かったー、大きいから食べ応えありそうだったんだけどな」


「血の臭いに寄せられて、美味そうなのがくるだろ。それを捕まえればいい」


「はーい」


 そうして俺達はラウル様が来るまでの食料を確保したのだった。

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