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第787話 遺跡の拠点化に向け

「すんげえ怖いっす」


グレースが俺に振り向いて、そう言った。


 グレースは古代遺跡の端っこの、砂漠との境界線でビビりたおしている。虹蛇のホログラムで見た、ワームに触れろという指示を実行しようとしているのだ。あんな巨大なワームに襲われたら、グレースは一瞬で終わるだろう。だがどうやらバラバラになった八体の体を集めないと、虹蛇本体は再生しないらしい。目の前に広がる砂漠は静かで特に何もないが、恐らく魔獣の類が居ないのはあのワームのおかげだ。


「グレースが受体した時、本体はどっかに飛んで行ったもんな。どっかで見た光景だと思ったけど、まさかこんな事になっているとはね」


 俺とグレースだけが分かる、国民的アニメの話をしている。俺がそう言うと、グレースが苦笑いをしながら返してくる。


「飛び散ったのがボールだったら良かったんですけどね。なんでよりによってあんな化物…」


「実際の所、グレースの体の一部だぞ」


「…まあ…、虹蛇の巣で見たホログラムが言うにはそうですよね。もともとラウルさんに虹蛇本体の事を聞いていましたからね。なんとなくそんな感じかも、とか頭の中で考えてはいました。でもおっかな過ぎます」


「じゃ、やめたら? 別に必要ないんじゃない?」


「なんとなくですが…、そういう訳にはいかない気がするんですよ」


「…確かに俺もそんな気はしてる」


「行きます…」


 俺との話し合いの後、グレースが意を決したように砂漠を向いた。モーリス先生が心配そうにしている。するとシャーミリアとカララが応援コメントを出してくれる。


「グレース様。いざという時は私奴が救出いたします」

「糸を巻かせていただいてもよろしいですか?」


「た、頼みます!」


 グレースが藁をもすがる思いで言った。そんなこんなでようやく準備が出来たので、あとは頑張ってもらうしかない。バンジージャンプを飛びおりるかのような雰囲気で、グレースが古代遺跡の縁に立つ。


「あ、ちょっとまってください」


 グレースが決死の形相で振り向いた。


「どうした?」


「もし僕がどうにかなったら、リュウインシオンさんに伝えてもらえますか?」


「なにをだ?」


「…いや、やっぱりいいです」


「グレースは、それで後悔しないか?」


「えっと、大丈夫です」


 納得したように言う。そうしてグレースはまた砂漠の方を向いた。いよいよワームタッチ作戦に突入するらしい。と思ったら、またこちらの方を振り向く。


「やっぱり、伝えてください」


「わかった。何を伝える?」


「はい。第一印象から決めてました! とだけ」


「…」


 なにそれ。もっと良い感じの伝え方あるだろ? 下手くそか? まあ俺も好きな人に告白なんてした事無いから、どう言えば良いかわからないけど。とにかく違うような気はする。


「それでいいのか?」


「もちろんです」


「ファイナルア…」


「いいです! 行きます!」


 俺が言う、古のクイズ番組の決め台詞をかき消すように叫び、グレースが古代遺跡の縁から一歩前に踏み出した。カララの糸がついているから、本当にバンジージャンプのような感じになってる。


 だが…何も起きなかった。


「あれ? ワーム出てこないですね?」


「もっと先じゃないか? そこはまだ遺跡の中かもしれないぞ」


「なるほど」


「いけいけ」


 グレースが、じりじりと一歩ずつ砂漠へと歩きだしていく。そうして三十歩ほど歩いた時だった。ズズズズズと砂が盛り上がり、あの巨大ワームが出て来て鎌首を持ち上げた。よく見たらぶつ切れの虹蛇の胴体に見える。ただ虹蛇だとしたらサイズ感が小さすぎるようだ。


 俺とモーリス先生の額に汗が流れる。シャーミリアとカララはいつどうなっても良いように、救出のスタンバイをしていた。


「では触れてみます」


 そう言ってグレースが一歩前に出た時だった。


「糸が切れました!」


 カララから驚愕の報告を受ける。タングステンワイヤーよりもはるかに強靭な、カララの糸が音もなく切れてしまったらしい。


「ご主人様。助けに行きます!」


「まてシャーミリア。まだ攻撃されたわけではない」


「かしこまりました」


 俺達がその状況を見守っていると、グレースがまた一歩ワームに近づいて行く。だが次の瞬間だった。鎌首をもたげていたワームが一気にグレースに飛びかかって来たのだ。


「ミリア!」


 俺が言うか言わないかのうちに、既にシャーミリアはグレースの脇に出現していた。シャーミリアがグレースを救出しようかとした瞬間、ワームがグレースたちの頭上に来た時にスッと消えてしまった。


「あっ!」

「おお!」


 俺とモーリス先生がビクッとして叫んだのを最後に、砂漠に静寂が訪れた。俺達が見ている先でグレースが、シャーミリアの腕からずり落ちてペタンと座り込んでしまった。よほど怖かったらしく、自分で自分の体を抱きしめている。俺が隣にいるモーリス先生に話しかける。


「どうなりましたかね?」


「あそこにシャーミリア嬢がおるであろう。虹蛇関係者では無い彼女がおるのに、あのワームが出てこないという事は、既にグレースが取り込んだと思って間違いないのじゃ」


「あんな集め方をあと七回も…寿命が縮みますね」


「虹蛇に寿命などなかろう?」


「あ、そうでした」


 しばらくグレースの様子をうかがっていた俺達は、砂漠に足を踏み入れてみる。だがワームが出てくる事は無いようで、無事にグレースの元まで歩いて来れた。


「グレース大丈夫か」


「ぐっ、えっぐひっく。ううう、怖がった」


「よくやったよ」


「はい」


「これで帰りは車両で行ける」


「はい」


「ゴーレムを回収して一旦皆のもとへ戻ろう」


「わかりました」


 そしてグレースが立ち上がり、古代遺跡の中に立っている五体のゴーレムを回収した。俺がすぐに96式装輪装甲車を召喚して全員で乗り込んだ。そのまま俺が操縦して96式装輪装甲車は砂漠を進みだすのだった。運転しながら、すぐさま魔人軍全部隊に念話を繋げる。


《全部隊に告ぐ。最前線の基地候補を発見した》


《《《《《《は!》》》》》》


 進軍中の魔人たちから一斉に返答が来るが、先行部隊のギレザムからは違う返事が来る。


《ラウル様。我々の合流は遅れそうです》


《どうしたギレザム》


《不穏な動きを察知しましたので、ただ今追跡中です》


《深追いはするなよ。行ける範囲でいい、俺が合流するまで待て》


《は!》


 先行部隊のギレザムたちが何かを発見したらしい。後続のオージェの部隊がここに到着するまでは、まだしばらくかかるだろう。また、この地を敵が見つける前に前線基地の構築をし始めたい。その為には、部隊を二分する必要がありそうだな。


 俺達が待っていた皆のもとに戻ると、マリアやエミルが声をかけて来る。魔人たちには既に念話で共有されているが、俺達が戻るまで話をしないでいたらしい。さっそく砂漠で起きた出来事を、みんなに共有してこれからの事を協議し合う事にした。一番にデイジーが口を開く。


「なるほどな。と言う事は、魔導エンジンを取りに行くのじゃな?」


「そうなります。恐らくはもう数基が出来上がった頃だと思いますので、この隊を二つに分けてグラドラムから魔導エンジンを取り寄せようと思います」


「ラウル。それなら俺が飛ぶしかないだろう」


「ああ、そうしてくれると助かるよエミル」


「なら私が支援しなきゃね」


 ケイナがエミルの腕を組んで楽しそうに言った。エルフはエルフ同士、仲が良いことだ。最近エミルは露骨に嫌がる事はしなくなり、人前でも仲良くしているようだ。


 もしかして…エミル…、俺の知らない間に大人に…。


 俺が邪念を振り払うよう首を振っていると、モーリス先生とデイジーが話して来た。


「ならば転移魔法陣の件もあるし、わしも行かんとな」

「魔導エンジンを持ってくるならあたしも行くよ」


「ありがとうございます」


 魔導エンジンを設置するなら、モーリス先生とデイジーはマストで必要となる。急いで飛ぶならエミルが最適だ。そして次にグレースが話す。


「僕はここに必要でしょうね。あの地下空洞を開く鍵らしいですから」


「そうだな。あそこの開閉はグレースしか出来ないし、いざという時はあそこに皆が逃げ込めるだろうからな。とにかく敵がここに来たら守りに入った方がいいだろう」


「なら当然、我もグレース様についてまいります」


「そうだね。オンジさんもグレースの側に居てください」


「はい」


 するとカララが、ヴァイオレットの長い髪を揺らしニッコリ笑って告げる。


「この方達の護衛なら私が残ります。あの地下空洞に降りるなら私が必要ですし」


「そうだな。虹蛇の巣に出入りするには、カララの蜘蛛の糸が必要となるな」


 すると今度はアナミスが話す。


「ラウル様がギレザムの支援に向かうのであれば、シャーミリアはラウル様のおそばに絶対に必要です。虹蛇様の巣の底から出る時に、飛べる者が必要かと思われますので私が残ります」


「すまんアナミス。そうしてくれると助かる」


「ラウル様」


「なんだいティラ」


「念のため、ヘリの操縦者が必要となりそうなので私も残ります」


「そうだな。緊急退避の時にはティラが必要だな」


 次の作戦に移るための布陣が、皆からの提案で次々と決まっていく。以前はほとんど全てを俺が采配していたので、魔人達の成長が凄くありがたかった。また、俺がどう動くかも良く分かった上で決めてくれているらしい。すると今度はリュウインシオンが提言してくる。


「私達はこのまま道案内として必要でございましょう。ラウル様に同行させていただきます」


「すまんね」


「なに、アラリリス国の為でございます。いずれにせよこの戦いが終わらねば、アラリリスに安寧は訪れません」


「まあ…そうだな」


 リュウインシオンがそう言うと、ヘオジュエも俺の目を見てコクリと頷いた。


「よし、それじゃあマリアは北へ飛ぶヘリの操縦を頼む」


「はい」


 ギレザムに合流するのは、俺、マリア、カトリーヌ&ルフラ、シャーミリア、マキーナ、ファントム、及びヘオジュエ、リュウインシオンとなる。


「それじゃあ、必要な兵器を召喚する」


 魔導エンジンを取りに行く隊にはスピードを重視する為に、V-22オスプレイを召喚した。


「エミル。俺達は一度遺跡に向かい、その足でギレザム達に合流する。ここでいったんお別れだ」


「わかった」


 するとモーリス先生が心配そうに俺に言う。


「ラウルよ。ここから先は何が起きるか分からんのじゃ。くれぐれも気を付けるのじゃぞ」


「もちろんです。マリアとカトリーヌを守らねばなりませんし、アラリリスの要人も連れて行くのです。無理はしませんよ」


「うむ」


「ジジイの事はあたしに任せるのじゃ、ちゃんと仕事するように見張っておくでの」


「この! わしゃ一生懸命やるのじゃ!」


「わかったわかった」


 モーリス先生とデイジーがイチャイチャしだす。だがこの二人の間には、子供の喧嘩のような雰囲気しか感じない。


「じゃあエミル。すぐにアラリリス基地へと飛んでくれ」


「了解」


 エミルが操縦するオスプレイは、ケイナとモーリス先生とデイジーを乗せて北へと飛んで行ってしまった。


「とりあえず、このヘリ二機と装甲車を遺跡に移そう。俺の召喚武器から位置がバレるかもしれない」


「「「「「「はい!」」」」」」


俺達はここまで乗って来たCH-53Kキングスタリオン二機と、96式装輪装甲車を砂漠の遺跡へと移す作業に移るのだった。ワームのいなくなった砂漠は静かに俺達の作業を見守っていた。


 

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