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第785話 隠し扉

 俺達は砂漠の只中で、ゴーレムの肩に乗って行進している。ゴーレムは上下に揺れるものの、それほど乗り心地は悪くない。だが砂漠の砂で足を取られるのか、ゴーレム歩みはひたすら遅かった。会話をしてしまうと砂漠の巨大ワームに気づかれるかもしれないので、無言で黙々と進む。


《いざとなったらモーリス先生とグレースの救出だぞ。俺は自分で何とかする》


《かしこまりました》

《わかりました》


 万が一何かあった時は、俺は召喚能力でどうにか突破できるだろう。しかし身体能力に劣るモーリス先生とグレースは危険だ。カララがモーリス先生を守り、シャーミリアがグレースを救出する手立てになっている。


 しかし暑い。砂漠地帯に入った途端に日光が、容赦なく俺達を照らしている。風もなく、ただただ灼熱に身を晒していた。砂漠の丘陵の頂上に差し掛かった時、ようやく古代都市が遠くに見えて来た。俺はゼスチャーでモーリス先生とグレースにそれを教える。すると二人はゴーレムの肩の上で、両手で丸を作ってみせた。モーリス先生は水魔法で涼しそうだが、グレースはダレた顔で。


「うっ…」


 次の瞬間、俺はつい声を上げそうになった。モーリス先生とグレースも焦っている表情だ。突然俺達の目の前の、砂の中からワームが出てきたからだ。ゴーレムに乗った俺達を伺うかのように、砂に沈んだり表面に出て来たりしながら俺達の周りを回る。


《かなりデカいな》


《リヴィアサンぐらいあるのではないでしょうか?》


《ありそうだ。攻撃してきたら、二人を連れて一気に離脱しろ》


《《は!》》


 緊張感が走りどっと汗が噴き出て来る。俺の召喚魔法で何とか出来るかもしれないが、そうすれば砂漠がどうなってしまうか分からない。空母落としをした地域のように、瘴気の渦に巻かれるかもしれないのだ。


 しばらくそのままゴーレムに乗って進んで行くが、ワームは俺達の周りを回りつづけるだけで攻撃はしてこなかった。いつ牙をむいて来るか分からないので、警戒は怠らない。モーリス先生も水魔法を使うのをやめて、ワームの攻撃に備えている。


《シャーミリア。ワームは攻撃してこないみたいだな》


《ゴーレム作戦は成功したようです》


《だといいが》


 じりじりと照り付ける太陽が気にならないほど、みんなが集中してワームを警戒していた。嫌な汗が噴き出てくるが、流れる汗をぬぐう素振りもできない。


《あと百メートル、気を抜くな》


《《は!》》


 緊張はマックスに達する。だがワームが攻撃をしてくる事は無かった。そのまま俺達は古代遺跡の柱を通り過ぎ、都市の中へと入るのだった。ワームは古代都市の中には入って来ずに、しばらく俺達を見送るように鎌首を上げていたが、そのまま砂に沈んで行ってしまった。


 グレースがゴーレムたちを寄せ、俺達はグレースの周りに集まった。


「ワームは攻撃してきませんでしたね?」


「じゃな。そして、この古代遺跡の中には入ってこないようじゃ」


 グレースとモーリス先生が言う。出てきた時はかなり焦ったが何事も無かった。唐突に流れる汗が気になったのか、モーリス先生が袖で額の汗をぬぐった。シャーミリアもカララも汗一つかいておらず、涼しい顔で髪をなびかせている。


「風が…」


「ふむ。そうじゃな。道中全く風が吹いていないようじゃったが、ここは風が吹くようじゃ。どういうことじゃろうな?」


「音がします」


 ホーッという音がする。何か空洞から空気が抜けるような音だ。


「モーリス先生。もう降りても大丈夫でしょうかね?」


「どうじゃろう。ゴーレムを降りたとたんにズドン! と言う事もあるやも知れんのじゃ」


「ですよね」


 俺とモーリス先生が首をかしげていると、グレースが言う。


「そこそこ大きな何かを地面に下ろしたらどうなりますかね?」


「車両かなんかを召喚してみるか」


「危険じゃろ」


「はい…」


 俺達が手を出せずにいると、シャーミリアが何かを思いついたようだ。


「ご主人様。私奴が、皆様から離れた場所に降りましょう」


「やってみよう」


「は!」


 そしてシャーミリアが、ゴーレムの肩に立って周りを見渡す。周りには倒れた石の柱や、壊れた岩の住居が散乱している。そしてその中に、広場のような所がありシャーミリアはそこめがけて飛んだ。シュッ!ふわりと地面に足をつく。1、2、3、4、5…。十を数えてもワームが出てくる気配は無かった。シャーミリアが俺に指示を仰ぐように振り向く。


「問題ないかと思われます」


「なら下りるか」


 グレースの指示でゴーレムがしゃがみ込んで、俺達はゴーレムの肩から砂の地面に降りた。全員が下りてもワームが出現する事は無かった。少しの間、警戒して俺達は動き出す。


「よし。では探索してみるのじゃ」


 モーリス先生が言って、俺達が頷いた。そして俺達は遺跡の中を歩きだす。先頭をカララが歩きその後ろにモーリス先生が並ぶ。俺とグレースがモーリス先生の左右を挟み、後方をシャーミリアが警戒した。


「音はこちらからです」


 カララが誘導するように、俺達を音の方に連れて行く。すると倒壊した柱の後ろに、建物が見えて来た。どうやら音はその建物から鳴り響いているらしい。早速それに近づいて俺達は周りを調べる。


「ふむ。どうやらこれは何かの入り口のようじゃな。じゃが、入り口の前に倒れとる、この巨大な柱が塞いでおるようじゃ」


「シャーミリア」


「は!」


 シャーミリアがその十トンはあろうかという柱を、グイっと手で持ち上げて横にそっと降ろす。するとそこにバス停くらいの大きさの、岩で出来た小屋が現れた。その入り口から中を覗くと、中にも瓦礫が重なるように置いてある。


「風が吹いてますね」


 グレースに言われ俺達が頷いた。


「建物の中に何かあるのかな?」


「ふむ。瓦礫は奥までは入っていないようじゃがの」


 風の吹いて来る場所を探して、俺は瓦礫に登りあちこち探してみる。すると岩と岩の隙間から冷たい風が噴き出ているところを見つけた。


「ここ! 風が噴き出ています!」


「なるほどのう。どれ」


 モーリス先生の手を握って、俺が乗る瓦礫の上に引っ張り上げた。先生が穴に杖をかざし光の球を浮かばせて、その隙間から入れてやった。少し進んだところで光玉を止める。どうやら通路が奥まで続いているように見える。


「通路ですね」


「そのようじゃ」


「この一角を崩せば入れそうですね」


「岩をどかしてもらえるかのう?」


「カララ! この建屋が崩れないように糸で支えてくれ! それができ次第シャーミリアがこの一角を崩してくれるか?」


「「は!」」


 カララが糸を飛ばして、建物を固定していく。もちろんカララの糸は、タングステンワイヤーよりも強度があるので問題はない。それを確認したシャーミリアが瓦礫の一角の岩をどかしていく。人が通れるほどの穴が空いて、建物も崩れる気配は無かった。


「ではご主人様、私奴が先に侵入して安全を確認してまいります」


「わかった。警戒を怠るな」


「は!」


 そして、シャーミリアはその穴から中に入って行った。


「なんで風が吹いてるんだろう?」


「なんでじゃろうな?」


「カララは危険な気配とかは感じるか?」


「感じません」


 しばらくするとシャーミリアが戻って来た。


「ただいま戻りました」


 シャーミリアが涼しい顔を穴から覗かせて言う。


「どんな感じだ?」


「通路が続いておりますが、先には祭壇があり行き止まりになっておりました」


「行き止まり?」


「はい」


 皆で顔を見合わせ首をかしげる。風が吹いているのに、先は行き止まりだという。とりあえず侵入する事にしたが、警戒は解かない方がいいだろう。瓦礫を乗り越えて、その穴から通路に入り込んだ。シャーミリアが先行し、俺達に危険が及ばないようにしてくれていた。モーリス先生の光の球が、俺達の足元を照らしてくれている。


 そしてシャーミリアが言った通り、その先は行き止まりで祭壇のような物があった。


「行き止まりだ」


「この祭壇はなんじゃろな?」


 俺とモーリス先生が祭壇をあれこれ見ていた時だった。カララが何やら声を上げた。


「グレース様!?」


「ん? なになに?」


 その声に俺とモーリス先生が振り向く。すると…


 なんとグレースの七色の髪の毛が…七色に輝いていたのだった。グレース本人は気が付いていないが、まるで前世の映像で見たことのある七色に輝くクラゲのようだ。


「綺麗なものじゃのう!」


「えっ? 僕なんか変ですか?」


「えっと、なんかさ。ネオンみたいだよ」


「マジですか?」


「ちょっと待つのじゃ」


 先生が光球を消すと、暗がりの中でグレースの頭が七色に輝いているのがはっきりした。グレース自身も気が付いたようで、幻想的な自分の頭を触ったりしている。


「触った感じはどうだ?」


「普通です。普通の髪ですね」


「なんだろうな?」


「分かりませんよ」


 しばらくグレースの髪に見とれていたが、俺達はやる事を思い出した。どこから風が吹いているのか? それを調べる必要がある。


「カララ、探れるか?」


「はい」


 そしてカララがまた糸を巡らせて、風が吹き出しているところを突き止めた。祭壇の上部に、ほんのわずかな隙間がありそこから風が吹いているようだ。


「どうやらこの祭壇の向こうが空洞になっているようです」


「この裏か。確認する必要があるが、どうにかならないかな?」


「どかしてみます」


 カララがあれこれやってみるが、特に変化はなかった。


「すみません動きません」


「シャーミリアなら何とかなるか?」


「かしこまりました」


 シャーミリアが壁に肩をついて、奥に押してみるがびくともしない。すると今度は、思いっきり拳を握って壁を殴りつけた。だが、うんともすんとも言わない。俺が後ろを振り向くと、この通路は幅三メートル縦三メートルの正方形になっている。


「車が召喚できそうだ」


「そのようですね」


「じゃあ、車両で引っ張ってみるか。カララは車に乗ってくれ」


「はい」


 俺はすぐさま軽装甲機動車を召喚した。カララが祭壇の壁に糸を絡ませて車に乗り込み、俺が運転して壁を引っ張ってみる。


 ブオオオオオオオオ! とエンジンが唸りをあげるが、壁はびくともしなかった。するとシャーミリアが、車体を掴んで思いっきり引っ張った。エンジンはかなりの高回転域に達しているが、それでも何も起きなかった。


 バリバリリイ!!


「うお!」


「も、申し訳ございません!」


 シャーミリアが掴んでいた軽装甲機動車の屋根が剥がれてしまった。それだけの強さで引っ張ったにも関わらず、壁はびくともしない。


「それはどうでも良いんだ。でも壁はどうにもならないな」


「ラウルさん。爆弾で壊したらどうですかね?」


「祭壇を壊すのはなあ…」


「確かに…そうですね」


 俺達はまた祭壇の前に集まって、話し合いをしている。見た感じはただの岩のように見えるが、軽装甲機動車とシャーミリアの力が合わさっても壊れない。ただの岩じゃなさそうだった。


「ん? ラウルよ! これを見てみい!」


 モーリス先生に言われて、祭壇の真ん中上部辺りを見る。すると何やら手形のような模様がついていた。というよりも、これは手を付ける場所で良いのだと思う


「ちょっと魔力を注いでみます」


 俺が背伸びをして、そこに手を触れ思いっきり魔力を注いでいく。だが俺が全力で魔力を注いでも、何も反応する事は無かった。


「あっ? それひょっとして僕じゃないですか?」


 虹色に髪を輝やかせているグレースの言葉に、俺達全員が顔を見合わせて大きくうなずいた。それを受けてグレースが祭壇に乗って手をかざそうとするが、どうやら届かないほどの高さにあるようだ。カララが糸でグレースを浮かせて、祭壇の位置まで連れて行く。


「じゃ、いきます」


 グレースがその手形に手をついた時。祭壇全体が七色に輝くのだった。まるで、ダンスクラブのミラーボールのように暗い部屋がキラキラと光り出した。ゴゴゴゴゴゴゴ!と祭壇が壁ごと左右に割れ始め、俺達の前に通路が出現したのだった。


「やりました!」


「すげえ!」


「なるほどのう」


 これで間違いなく、この環境は虹蛇に所縁のあるものだと判明したのだった。俺達はその暗い通路の先を見ている。明らかにそこからは空気感が違っており、風はその奥から吹いているのだった。

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