第784話 砂漠の巨大ワーム調査
俺は古代都市に出現した化物の調査をする為、機動性重視のヘリを召喚するのだった。陸上自衛隊の川崎重工業製OH-1観測ヘリコプターである。観測中に空中に制止する為の、高性能姿勢制御装置を搭載しており、なんとパイロットが手を離しても自動でホバリングする優れものだ。ローターハブがヒンジレス(無間接型)になっており、ヘリコプターらしからぬ機動性を発揮する。
エミルが操縦しマリアが観測隊員として乗り込む。マキーナとシャーミリアがそれを護衛する為に空に舞い上がった。そしてティラと俺も、同機に登場してそこより遠い場所から望遠観測する事にした。
「まずは砂漠上空に入らないようにして、観測を始めよう」
「了解だ」
無線でエミルに伝え、ティラが操縦する俺達の機体も続いて空に上がる。
砂漠の古代都市は、先ほどとは打って変わって静かになっていた。何も無かったように静かで、さっきのでっかいワームはどこにも見当たらない。
「よし、グレース。ドローンを飛ばしてくれるか」
「了解です」
無線で伝えると、グレースと魔人達が協力してMQ-9 リーパードローンを空に飛ばした。さっきと同じように、砂漠の古代都市めがけて飛び去っていく。砂漠地帯に突入していくMQ-9 リーパーが、真っすぐに古代都市の上空に到着した。
「出たぞ!」
するとすぐさまワームのバケモノが出て来て。MQ-9 リーパーを撃ち落としてしまった。
「警戒せよ!」
「了解」
俺がエミルに無線で警戒するように促す。だがそのワームはMQ-9 リーパーを撃ち落としてすぐに、再び砂の中に潜って行ってしまった。草原の上を飛ぶ俺達には目もくれない。
「どうだったマリア?」
「はい。スコープで確認したところ、目のような物がありませんでした。恐らくは何らかの方法で感知しているのだと思われます。あの頭の部分から推測するに、かなりの巨体だと思われますね」
「他には?」
「あの光玉を打ち出す前に、体に線が走るように光りました。あれが恐らく光玉を打ち出す兆候かと思われます」
「なるほどな。あとすぐに潜っちまったから良く分からなかったな」
「はい」
俺達がじっと砂漠を見るが、その後は一向に動く気配は無かった。すると今度はエミルから通信してくる。
「ラウル。あれはあの都市を守ってるんじゃないのか?」
「どうしてそう思う?」
「あの古代都市から離れる気配が無い。そして恐らくあの光玉には有効射程距離があると思わないか?」
「確かに…、さっきヘリで追われたときに、途中であの光玉は届かなくなってたもんな」
「ああ。と言う事は、あの古代都市に近づいて欲しくないだけだと思うんだ」
「そうか。何かを守っている? って事かな?」
「その可能性が高い」
どうやら、人に近づいて欲しくない何かがあるんだろう。となると…
「グレース。あれは十中八九、虹蛇関連の何かだと思うんだが」
「と言われても、全く記憶がありませんよ」
「だよなあ。でも砂漠北部のメガロドンといい、このワームといい…自然な感じがしないんだよね。なんつーか、虹蛇本体に似ている感じもある」
「そうなんですね?」
「ああ」
ほぼそうだとは思うが、確証は取れなかった。このままここをスルーしても良いものか、それとも何らかの措置を施した方がいいのか…。砂漠中央が空母落としで出来た瘴気でやられているから、このワームが北へ向かう事は無いと思うが、あれが万が一敵のものだったら俺達は後ろからあれに襲われる。
「どうするんだ?」
エミルが聞いて来た。
「えっと…あれを攻撃しちゃまずいかな?」
「…どう…ですかね」
「どうかな…」
グレースもエミルも、返答に困っている。俺自身もどうしたらいいものか判断がつかない。
《ご主人様。私は攻撃に賛成でございます。ご主人様のお力をもってすれば、あのようなものは造作もないかと》
《だが、俺にはあれを破壊する意図はないんだがな。ただ攻撃したらどう出るか知りたいだけだ》
《それもまたよろしいかと》
なんだか、シャーミリアと話しているうちに…攻撃はしない方が良いような気がしてきた。だがそれでは手は一気に無くなってしまう。ヘリで近づけば堕とされるだろうし、観測ドローンも近づけない。するとグレースが提案してくる。
「あのー、僕に考えがあります」
「お、何だい?」
「もし虹蛇関連の何かだとしたらですが、僕のゴーレムを使えばいいんじゃないかと思うんです」
「なるほど! もしそれで攻撃してこないなら、あれは虹蛇に関連した何かだというのが濃厚になるか。もし攻撃されるようなら、俺達はアレを排除する為に攻撃しないといけないかもしれない。ただ、砂漠で派手にやってしまうと、空母落としの二の舞にならないか心配なんだよね」
「ひとまず、ゴーレムを差し向けて様子を見ましょう」
「了解だ」
「了解」
俺とエミルが合意した。
「エミルとマリアはここで観測を続けてくれ」
「了解だ」
「はい」
《シャーミリアとマキーナは引き続きエミル達の警護を頼む》
《《は!》》
そして俺はティラと共に、グレースたちが待機している所に降りる。すぐさまグレースの所に行って、その方法を模索する。そしてあれこれ話した結果、何をするのか決まった。
「じゃあその方法でやりましょう」
「じゃあ車両を用意する」
AAV7装甲兵員輸送車を召喚した。
「モーリス先生もデイジーさんも乗ってください。ファントムとカララは車両上部に乗って辺りを警戒してくれ! 残りの全員も乗り込め!」
AAV7兵員輸送車に全員を乗り込ませて走らせる。上空にエミル達がいるので、向かうべき位置は分かっている。そしてAAV7が砂漠の入り口付近にたどり着いたので、俺とグレースが車両から降り立った。
「ティラ! 万が一何かあったら、一目散に車両をさっきの位置まで後退させてくれ」
「はい!」
「ラウルよ! 気を付けるのじゃ! あれは一筋縄ではいかんぞ!」
「心得ています」
そして俺とグレースが砂漠に向かって立つ。
「ファントム! 来い!」
シュッ!と俺の隣りにファントムが立った。それを確認したグレースがすぐさま、自分の保管庫から能力を使ってゴーレムを一体取り出した。俺の召喚のように、何も無い所から出てくるので召喚しているように見える。だが、これは虹蛇本体の保管庫に通じているのだった。
ゴーレムはただ立っていたが、グレースが息を吹きかけるとすぐに動き出すのだった。グレースに対して跪くように座る。
「よし。じゃあラウルさん! お願いします」
「オッケー」
そして俺はファントムをゴーレムの側に連れて行って言う。
「ファントム! このゴーレムをあの古代都市まで投げこめ!」
簡単に言っているが、古代都市までは数キロほどの距離がある。だが超進化したファントムならば問題ないはずだった。ファントムは俺の指示を受けて、数トンもある石の塊を持ち上げた。そしてそのまま百メートルほど後ずさっていく。
「大丈夫ですかね?」
グレースが心配そうに言うが、全く問題ない。
「行け! ファントム!」
百メートル先から数トンのゴーレムを抱え、一気に俺達のもとへとダッシュして来た。ゴーレムはまるで高速カタパルトから射出されるように、砂漠の空へと飛んで行ってしまった。
「すげ…」
むしろ命令をした俺が驚いている。俺とグレースは召喚した双眼鏡で先を見るが、かなりの距離があるので良く分からなかった。すぐさまAAV7に戻り、上空を飛んでいるエミルとマリアに無線を繋いだ。
「どうなった?」
俺の問いにエミルが答える。
「ゴーレムは、古代都市に落ちたぞ」
「ワームは出て来たか?」
すると監視していたマリアが答えた。
「いえ、出てきませんでした」
「わかった」
俺とグレースは目を見合わせて、納得したようにうなずいた。
「あれは、きっと虹蛇関連のものだ」
「ですね」
「やりようが出て来たな」
「そのようです」
そしてそれを確認できた俺はエミルとマリア、そして護衛に飛んでいたシャーミリアとマキーナを下に降ろす。これからどうするかを話し合う為だった。
「さてと、ゴーレムはあのワームの監視を突破出来たみたいけど、この後どうするかだな」
「結局、自分たちで中に入らないと分からないですよね?」
「古代都市に何があるか…か」
「はい」
虹蛇製のゴーレムを、あのワームは敵だと認識しなかった。と言う事は虹蛇関係の何かだと言う事が分かる。このままスルーしても問題は無さそうだが、それでも完全に確定した訳では無かった。万が一に備えて、確認する必要がある。
「ゴーレムと一緒に古代都市に忍びこもうかと思う」
「マジですか…大丈夫ですかね?」
「それしかない。あとは万が一を想定して、シャーミリアが潜入者を救出するって事で良いかな?」
「かしこまりました。この身に代えても」
いや、シャーミリアは死なないんだから大丈夫だと思うが、それでも死ぬ覚悟ではしてほしくない。なんとなく縁起でもないので、俺はもう一度言い直す。
「全員無事で帰る。一人も欠けないようにな」
「わかりました」
そしてグレースが皆を見渡して言う。
「誰が行くかですね。もちろんゴーレムを出すからには、不測の事態に備え僕が行きます」
「グレースが行くなら俺もそうだ。俺なら兵器を召喚して切り抜けられるからな」
「そうですね」
「なら俺も行くよ」
「いや、エミルは万が一の時、ヘリで脱出してもらわなければならないからな。ここに残ってほしい」
「そうだな、わかった」
「すまんがわしも行った方が良いと思うのじゃ」
いやー、どうかな? モーリス先生には来てほしいけど、万が一があったら大事だ。
「先生はここで」
「ラウルよ。お主たちだけで潜入して何が分かるというのじゃ?」
「…すみません。おっしゃる通りです」
モーリス先生の言うとおりだった。俺達だけで行ったところで、何かがあっても判別つかないだろう。
「なあに、大きい標的には反応したとしても、小さい人間になぞ反応しないかもしれんぞ」
それでも悩む。いくら大魔法使いと言えど、あんな怪物が相手ではひとたまりもない。
「ラウル様。防御でしたら私が最適かと」
カララが申し出て来る。ならばカララにモーリス先生を護衛してもらう事にしよう。
「なら、モーリス先生もお願いします」
「うむ」
「ラウル様! 私も行きます」
するとカトリーヌも名乗りを上げた。確かにルフラアーマーを纏っているから、普通の人間よりも身体能力は高いかもしれないが、あのバケモノ相手でどうなるか分からない。
「うーむ。確かに回復役はありがたいが、カトリーヌはここで待ってくれ」
「しかし」
「命令だ」
「はい」
すると今度は、黙っていたリュウインシオンとヘオジュエが言って来る。
「皆様だけを危険な場所へ送る事は出来ません。私も連れて行ってください」
「姫! いや陛下!陛下に何かあってはアラリリスがどうなりましょう。ここは私にお任せください」
「しかし!」
うーん。この二人も却下だな。
「申し出てくれてありがとう。だが大勢でぞろぞろ行ってしまうと、あのワームを怒らせてしまうかもしれない。ここは、俺とグレースとモーリス先生が、シャーミリアとカララの護衛で潜入する」
これで決まりだな。と思っていたら、今度はオンジが口を開く。
「グレース様が行くのなら私も!」
「ダメだよオンジ。シャーミリアさんとカララさんだけで一気に何人も救えない」
グレースがオンジに言い聞かせた。
「ですが!」
「大丈夫だよ。僕は虹蛇だし、きっと何も起きない」
「わ、わかりました」
「じゃあファントム! ここで、みんなを守れ!」
《ハイ》
ここには、マリア、カトリーヌ&ルフラ、マキーナ、ファントム、デイジー、リュウインシオン、ヘオジュエ、エミル、ケイナ、ティラ、オンジ、アナミスを残して行く。
「じゃあエミル、ここの指揮を頼むよ」
「了解。気をつけてな」
「もちろんだ」
するとマリアとデイジーも、俺のもとにやって来て言う。
「ご無事で」
「危ない真似をするなよ」
「わかった。行って来る」
グレースが五体のゴーレムを呼び出して、それぞれに命を吹き込んでいくのだった。